おっさんが願うもの

猫の手

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王都編 〜聖女争奪戦〜

おっさん、感激する

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 王城の会議室に関係者が集まる。
 レイブン、サイファー、アラン、ロイ、ディー、グレイ、オスカー。
 それにシドニー他数人の近衞騎士。
 コの字に並べられた重厚な装飾を施された机に囲まれた中央に、這いつくばり床に額を擦り付けている中年の男と、同様にドレスを着た女性が3人。
「も、申し訳ございません…愚息が…大変愚かなことを…」
 中年の男、ルメール伯爵家当主、ゴドウィン・ルメールが声も体も震わせて謝罪する。
「申し訳ございません」
 女性たちもガタガタと震えながら口々に謝罪する。
「ルメール卿」
 サイファーが静かに口を開く。
「は、はい!」
 ゴドウィンは声を裏返して返事をする。
「ご子息が何をしたか理解できていますか?」
 咎めるわけでもなく、いたって冷静に問いかける。
「イ、イライジャは、せ、聖女様に、ひ、一目会いたい、と」
 ダラダラと汗を流しながら、床に向かって答える。
「数日後のお披露目まで待てなかったのかね」
 レイブンが問いかけると、ビクッとわかりやすく体を震わせた。
「先日のパ、パレードで聖女様を見て、ひ、一目惚れを、したと」
「一目惚れねぇ…」
 オスカーが独り言のように呟く。
「愚息は聖女様にお会いするために、必死で…」
「必死で王宮に忍び込んだと」
 ゴドウィンの言葉に被せてシドニーが告げる。
 そして、彼の前にポイッと小指ほどの小さな小瓶を放り投げた。
「それが何かわかりますか?」
 シドニーが問いかける。
「い、いえ…」
「媚薬です」
 ゴドウィンの顔が青を通り越して、真っ白になる。
「そんなものがなくても、あの子は…」
「それがご子息の持ち物だなんて言ってませんよ」
 ディーに言われ、グッと言葉に詰まる。
「まぁ、実際に彼が持っていたことに間違いありませんが…」
 シドニーが小瓶を拾い上げ、サイファーに手渡す。
「愚息は…決してそのような目的ではなく、たまたま持ち合わせていただけで、聖女様にお会いしたい一心で…」
 必死に言い訳を並べるが、自分でも的外れだとわかっているのか、目が泳ぐ。
「真夜中に?」
 シドニーに返され、何も言えなくなる。
「王宮の聖女様の寝所に忍び込み、薬を使って襲おうとした。
 それが事実です」
「違います!それは何かの間違いです!!愚息はただ聖女様に想いを!」
 ゴドウィンがバッと顔をあげて大声で叫ぶ。
「これは誰かが仕組んだ陰謀です。
 イライジャを陥れようと!」
「黙れ」
 サイファーが怒りを伴った魔力を込めて言い放つ。
 その圧でゴドウィンが再び床に平伏し、伴侶たちは小さく悲鳴を上げた。
「伯爵家のお荷物となっている遊び人を陥れることに何の意味があるのだ」
 お荷物と言われ、実際にその通りであるためゴドウィンも何も言い返せない。
「ご子息は事前に贈答品の花束にもこの媚薬を仕込んでいる。
 事情聴取で本人も白状した。
 伯爵が何をしようが、もう言い逃れはできんよ」
 サイファーが冷たく言い放つ。
「あの…、息子は…、イライジャはどうなりますか…?」
 背後に居た女性が震える声で聞く。
 おそらくは、その女性がイライジャの母親だ。
「これから司法局に引き渡す。裁判ののち決定するだろう」
 シドニーが事務的に答えた。

「ルメール伯爵」
 黙っていたレイブンが口を開く。
「は、はい」
 ゴドウィンが今まで一番平伏し、大量の汗を流した。
「息子の教育を間違えたな」
 レイブンが静かに、だが有無を言わさぬ覇気のような圧を込めて一言だけ告げた。

 レイブンが退出した後、サイファーがさらにゴドウィンにとどめを刺す。
「今回のことは内々で処理をせず、公表する。
 成人した息子のしでかしたことで、お前に罪が波及することはないが、影響が出ることは覚悟しておけ」
「そ、それだけは…。どうか、それだけは。私にも立場というものが…」
「息子を甘やかし過ぎた己が招いた結果だ。諦めろ」
 サイファーが言い放ち、ゴドウィンが項垂れた。




 昨夜、深夜0時を過ぎた頃、王宮の庭園にイライジャが現れた。
 周囲をキョロキョロと見渡し、生垣に隠れながら王宮に近付き、使用人控室の窓に近付く。
 そして、窓から中を覗き込み、中にいた執事に合図を送ると、中から執事が窓を開けてイライジャを中へ招き入れた。
「ご苦労」
 イライジャが執事の頭を引き寄せると、唇を重ねる。
 そのまま舌を絡ませ、何度も舌を使って口内を弄ると、執事が頬を紅潮させて、ねだるように舌を突き出してきた。
「可愛い奴だな。ご褒美が欲しいか?」
 そう聞くと、コクコクと頷く執事を離し、ベルトを緩めるとペニスを曝け出す。
「はぁ…」
 執事が跪くと、ペニスを愛おしげに見つめ、うっとりとした表情で口に含んだ。
 甘いものを舐めるように、舌と唇でペニスを扱く。
「ああ…いいぞ」
 口いっぱいに頬張りしゃぶる執事の頭を掴み、腰を動かす。
「出すぞ。飲めよ」
 何度か執事の喉まで届くように腰を揺らし、そして精液を口の中へ放つ。
 その瞬間、執事の喉が動き、放たれた精液を飲み込む。
「時間がないから、こっちはまた今度可愛がってやるからな」
 そう言いつつ、座り込む執事の股間を足でグリグリ弄ると、執事が腰を揺らし、それだけで絶頂に達していた。
「用意は?」
 快感にうつろになっている執事へ聞くと、執事が椅子の背もたれにかけられていた執事服を指差す。
 着替え終わり、執事をそのまま放置して控室を出た後、まっすぐ教えられた聖女の部屋へ向かう。
「後は薬で」
 ポケットに手を入れて、そこに小瓶があることを再度確認し、意気揚々と王宮の中を進む。
 途中で、巡回している近衞とすれ違うが、何も怪しまれることはなく、軽く会釈をしただけですんなりと通過した。


 聖女が王都へ来ると聞いた時は、別に何も思わなかった。
 それよりも、次のパーティーで誰とSEXするかを考えるのに忙しくて、全く眼中になかった。
 だが、父に姿を見ておけとしつこく言われ、仕方なくパレードを仲間の貴族達と見に行った。
「お、来たぞ」
「騎士団第1部隊の護衛付きか。本物の聖女ってことかな」
「レイン様だ、相変わらず綺麗だな。一度でいいから抱いてみたいわ」
「おい、あれロイ様じゃないか?」
「ディーゼル殿下もいる」
 その名前に少し興味が湧き、テラスへ出るとパレードの隊列を見下ろす。
 第1部隊に囲まれて、王家の馬車にロイやディーゼルの姿を見つけ、2人にはさまれて座る黒髪の男が聖女か、と柵に頬杖をついて眺める。
「おい、けっこういいな」
「なかなか可愛いかも」
 口々に色めき立つ仲間の声に、じっと聖女を見つめた。
 そして、聖女がこちらを見上げ、微笑みながら手を振る姿を見て、思わず口元が歪んだ。
「なんだ、けっこうそそるじゃん」
「だよな。聖女っていうから、聖教会の奴みたいなの想像してたけどよ」
「だなー。あれならヤリたいかも」
 仲間達が次々と下品なセリフを言い、笑い合う。
 だが、自分もそう思った。
 あの顔が快楽に歪むのを見たいと思った。

 翌日、父が聖女との謁見を済ませ帰宅すると、
 聖女を落とせ、手に入れろ。
 聖女を当家に迎え入れる。
 聖女がルメール家に入れば、我が家は公爵に、もしかしたら王にだってなれるかもしれない。
 興奮気味で捲し立てていた。
 兄や姉達はそれぞれが聖女へのアピール方法を考えていた。
 だが、いっちゃ悪いが兄姉達には無理だ。はっきり言って見た目も悪いし、こういう駆け引きもまるでなっちゃいない。
 その点自分は見た目は良いし経験豊富で、SEXも上手い。今までにも何人も落としてきたし、俺の虜にして性奴隷のような奴もいる。
 いつもと同じように、薬を使って体から奪えばいい。
 簡単だ。

 次の日、俺の性奴隷の1人である王宮の執事に連絡を入れた。
 ついでに可愛がってやり、計画を伝える。
 薔薇の花束に媚薬を仕込み、それを聖女が触れやすい位置に、わざと置かせた。
 別に花に触れても触れなくても、どっちでもいいが、もし先に触れていれば好都合なだけだ。
 結局は夜這いをかけて無理矢理薬を飲ませれば、後は俺の言いなりになる。
 あの微笑みが快感に歪むのを想像して、ペニスが熱くなった。

 聖女の部屋のドアが見えたところで、背後から声をかけられた。
「どちらへ?」
「…聖女様に呼ばれまして…」
「こんな真夜中に?」
「そうですね、何のご用なんでしょうか」
 若干焦ったが、動揺せずに淡々と答える。
「聖女様はもうお休みになられております」
「しかし、先ほど通信で…」
 すぐに返事をしたが、目の前の近衞が剣に手をかけた。
「な、何を…」
「動くな」
 背後から、声とともに、威圧するような魔力を感じた。
「イライジャ・ルメール、王宮への不法侵入により拘束する」
 背後からシドニーに言われ、瞬時にバレたと気付いて、身体強化魔法をかけ素早く逃げようとした。
 だが、いとも簡単に近衞に首を掴まれて床に叩きつけられる。
「な、何をする!私を誰だと思っている!」
 首の後ろを鷲掴みにされ、床に押し付けられながらも、叫ぶ。
「たかが伯爵家の四男風情が何を言ってる。ここをどこだと思っているんだ」
 シドニーが、足でイライジャの背中を踏みつける。
「っぐっぅ」
 肺が潰れそうになるほど踏まれ、イライジャが蛙を潰したような音を口から出す。
「バカが。
 王城の柵を超えた時点から監視されていたのに気付かない、お前程度の小者が聖女様を襲えると本気で思ったか」
 シドニーの怒りの魔力が足からイライジャに伝わり、全てバレていると悟った。
 この通路まで来れたのも、計画が上手くいっていたのではなく、誘い込まれていただけだと知り、抵抗するのを止めた。
「牢へぶち込め」
 シドニーが部下に言い、近衞が拘束魔法を使って動けなくなったイライジャを担ぎ上げ連行していく。
 それを見送り、シドニーが聖女の部屋の前まで来ると、中の様子を伺う。
 シンと静まり返った部屋と廊下に小さく息を吐くと、再び巡回に戻った。

 イライジャが入れられた牢の隣に、自分を招き入れた執事が入っていることを知って、最初からこの計画が破綻していたと、改めて思い知らされる。

 どこで間違えた?

 しばらくそれを考えていたが、根本的な思考そのものが間違えていることには最後まで思い至らなかった。



「あんな奴、殺しちまえ」
 廊下を歩きながら、ロイがブツブツと物騒なことを独りごちる。
「そうはいきませんよ。
 おそらくは国外追放で決着ですね」
 ディーが小さく欠伸をする。
「ルメールも自分への影響を最小限にするために、さっさと廃嫡にして縁を切るだろうな」
 オスカーが大きな欠伸をしながら言い、腕を上に伸ばす。
「オスカー、お前がいてくれて助かった」
 グレイが、いち早く気付いて指示したオスカーに礼を言う。
「これで、贈り物に何かしてくる奴は減ると思うがな。
 それでもあの数はショーヘーが可哀想だと思うぞ」
 公表することには、翔平へアプローチを仕掛けてくる奴らへの牽制の意味もある。
 出来れば、翔平を誘ってくる敵以外は、区別するためにもなるべく取り除いておきたい。
「ショーヘーはまだ寝てるのか?」
 グレイがディーに確認する。
「ええ。まぁ…かなり疲れたはずですし…」
 昨夜のSEXを思い出し、ディーがニヤける口元を手で隠しながら答え、ロイがその隣でウエヘヘヘと奇妙な笑いを漏らす。
「今日はマーサが夜会について指導するって言ってたが、無理だな」
 ニヤつくロイとディーの表情に呆れながら、翔平に同情した。





 美味しそうな良い匂いが鼻をくすぐり、ゆっくりと目を覚ました。
 天井を見上げ、いつベッドに入ったっけ、と考える。
「お目覚めになられましたか」
 ふわりと先ほどの良い匂いが強くなり、そちらへ頭を動かして視線を向けた。
「誰…?」
 見たことのない執事が、円卓にお茶の用意をしていた。
 兎の耳が頭の上で揺れ、横を向いたお尻に、小さな白い尻尾が見えた。
 兎人族の執事は見覚えがなく、寝惚けた頭で誰だろうと考える。
「失礼します」
 執事がベッドへ近寄ると、優しく静かに俺の体を起こす。
 自分でも力を入れて起きあがろうとしたが、腰や背筋、両脚に鋭い痛みが走った。
「いった!」
 思わず声を上げてしまい、この痛みの原因がわからずに、ただ身悶える。
 執事に抱き起こされる形でベッドに座ると、素早く背中にクッションや枕をはさまれて、楽に座れるようにしてくれた。
「こちらをお飲みください。薬湯ですが、美味しいですよ」
「ありがとうございます…」
 ティーカップを受け取り、口にする。
 その美味しさにも驚いたが、熱くも温くもない、完璧な温度に驚いた。
「美味しい…」
「それは良かった」
 ベッド脇に立った執事がニコリと微笑み、細い目がさらに細くなる。
「昨晩は大変な目に遭われましたね。犯人は捕まりましたのでご安心ください」
 そう言われて、しばし間が開く。

 大変な目…?
 犯人?

 必死に昨日の記憶を手繰り寄せ、だんだんと思い出してきた。
 薔薇の棘に仕込まれた媚薬に侵されたことを思い出し、恥ずかしさで全身を赤くする。
 体が熱くなり、凄まじい性的欲求が全身を襲ったことを思い出した。
 そして、この体の痛み、特に腰と…。少しだけ感じるアナルの違和感。

 まさか…。

「大丈夫ですか?」
 何も言わず、赤面している俺を心配したのか執事が声をかけてくる。
「は、はい…大丈夫…です…」
 尻すぼみの返事になりながら、必死に記憶を呼び覚まそうとする。
 あんな状態の俺を抱いたのは誰なのか。まさかグレイやオスカーなんてことは、とだんだんと冷や汗が止まらなくなってきた。
「ご安心ください。お相手はディーゼル殿下とロイ様ですよ」
「え」
 執事がニコリと告げ、そういえば、グレイが2人を呼びに出て行ったことを思い出した。
 この執事は俺の頭の中を覗いたように答えをくれた。
 それに俺たちの関係を知っている。この人は、もしかして。
 チラリと立っている執事を見る。
 頭の上の耳が、たまにピコンと動くのを見て、思考が中断されてその耳だけに視線を集中させた。

 ウサ耳…、か、可愛い…。

「触ってみますか?」
 また心を読まれて、スッと頭を下げて耳を差し出された。
「い、いーんですか?」
「どうぞ」
 恐る恐る手を挙げると、そっとその耳に触れてみる。
「うわ…ふわふわ…」
 その手触りに感動した。
 白い毛の一本一本はサラサラだが、まとまるとふわっとした感触。撫でるとすべすべとした感触で、ずっと触っていたくなる。
「あ、すみません」
 数十秒モフり続け、ハッと我に返って手を離すと、謝った。
「いいえ。
 おかわり、いかがですか?」
 空になったティーカップを見て聞かれる。
「あ、いただきます」
 カップを受け取り、再び薬湯を淹れに戻っていく執事を目で追い、その立ち居振る舞いが、執事服を着た騎士のようだと思った。
「お待たせしました。どうぞ」
 今度はお盆ごと膝の上に置かれ、お茶と、一口サイズに小さくカットされたスコーンのような物が乗っていた。
 ちょうど起きたばかりで小腹が空いていたと思っていた所に、この対応。
 心の中で、すごい、と感激した。

「あの…もしかして、キースさんですか?」
 ウサ耳に気を取られて中断していた思考が動き出し、質問した。
「はい」
 ニコリと微笑む。
「初めまして、聖女様。キースと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
 一歩下がり、丁寧にお辞儀をする。
 お盆を膝から避け、ベッドの脇に押しやると、痛む腰や足を動かしてベッドの上に正座する。
「ショーヘイ・シマダです。こちらこそよろしくお願いします」
 言いながら頭を下げた。
 キースはそんな俺を見て、一瞬驚いた表情をしたが、すぐに元の表情に戻る。
「ご丁寧にありがとうございます」
 言いながら、俺を元の楽な姿勢に戻そうとしたので、それを止めた。
「大丈夫です。自分で治しますね」
 そう言い、ヒールを使う。
 ふわりと魔力を自分の周囲に解放し、痛みの元の炎症が治るようイメージする。
 白い光と金色の粒が俺を包み、自分自身を癒した。
「素晴らしい…」
 キースが呟き、感嘆のため息を漏らした。
「これで大丈夫です」
 どこにも痛みも違和感もないことを確認し、体を動かす。
「お着替えになりますか?」
「あ、はい」
 ベッドから降りるとフィッティングルームへ促され、彼が出した服へ着替えた。
 部屋に戻り、いつもの円卓に座ろうとすると、すかさずキースが椅子を引いてくれる。
 その動きが素早く完璧で舌を巻いた。 
 キースに色々聞こうと思って彼を見ると、彼の耳がピコンと動く。
「皆様がいらしゃったようです」
 そう言ってドアまで歩いて行くと、ノックされるのを待つ。
 その動くウサ耳を見るとどうしても思考が中断してしまう。
 俺には全く聞こえなかったが、どうやらその耳で足音を聞いたんだと理解した。

「おー、キース。久しぶりー」
 ロイが久しぶりに会ったキースへ気軽に声をかけているが、キースの方は丁寧に頭を下げて、挨拶していた。
 そして、一緒にやってきたディー、グレイ、サイファーへ挨拶する。
「キース、これからショーヘイさんのこと、よろしくお願いします」
 ディーが、真剣な表情でキースに言い、さらに、
「この人は無鉄砲な所もありますし、歩く非常識ですから、目を離さないようにしてください」
「おい」
 酷い言われようだと、ディーへ突っ込む。
「かしこまりました。全力でサポートいたします」
「ショ~ヘ~」
 ロイがハートマークを撒き散らしながら、両腕を広げて俺に近付き、ギュウっと抱きしめる。
「体、大丈夫か?
 昨日はかなり激しかったからなぁ。俺たちはたっぷり堪能させてもらったけど~」
 ニヤニヤしながら言うロイに瞬間的に茹蛸のように赤くなると、やめろ!と大きめな声で抗議する。
「お前ら、いちゃつくのは後にしろ」
 グレイに言われて、俺も含まれた言葉に口を尖らせた。
 ロイに円卓からソファに移動させられ、ロイとディーにはさまれて座らされる。
 ロイはベタベタと俺にくっつき、ディーは俺の手を握って離さなかった。
 そんな俺たちの様子に呆れながら、サイファーが事の顛末を教えてくれた。

「贈答品におかしなものが混ざらないよう、気をつけてはいるんだが…。完璧とはいかなくてな」
 サイファーが苦笑しつつ、薔薇の花に仕込まれた媚薬を見抜けなかったことを謝罪してくる。
「まぁ、今後はキースが目を光らせるから大丈夫だろう」
 そう言われ、今更ながら、部屋に山積みにされていたプレゼントの品々がなくなっていることに気づいた。
「全て整理して片付けました。
 お手紙なども返事は書きましたので、後で署名だけお願いします」
 キースにそう言われ、直筆じゃないと駄目なんじゃ?と聞き返す。
「筆跡を真似ることなど造作もございません」
 笑顔で返され、すごい、と開いた口が塞がらなかった。昨日、1日かけて100通ほどの返事を書いたのに、今日届いた分が数十通だとしても、たった数時間で全部処理した仕事ぶりに驚愕する。
「流石だな…」
 サイファーもその完璧ぶりに苦笑する。

「明日、話していた国民へのお披露目なんだが、大丈夫か?
 1日延期しても構わんぞ」
「いえ、大丈夫です。明日、予定通りに」
「わかった。後で詳細を書いた文書を届けさせるから目を通しておいてくれ」
 サイファーがそう言うと、部屋を出ようとするが、出る前にキースを振り返る。
「キース、アランには会ったのか?」
 その言葉に、キースがピクリと反応する。
「今朝、お会いしました」
「そうか。兄として言うが、あまり待たせんでやってくれ。
 あれが不憫でならん」
 苦笑しつつ部屋を出る。
 誰もそのことには何も言わず、俺もチラッとキースを見るだけにとどめるが、表情を変えないと聞いていた通り、全く表情には出ていない。
 だが、そのウサ耳の毛が薄いピンク色の部分が、少しだけ赤くなっているのに気付いたのは俺だけだったらしく、見なかったことにする。

 サイファーが出てしばらくしてからドアがノックされる。
「ショーヘーちゃあ~ん!ジャニスさんが来たわよぉ~!!」
 じゃじゃーんと両腕を上に広げ、大きな声でオネエ言葉のジャニスが派手に登場した。
「もぉ~聞いたわよぉ。大変だったみたいじゃなぁい」
 きっちりと白い騎士服を着ているということは、翔平を護衛する権利を勝ち取ったのはジャニスなのだろう。
「オスカーとジャニス、他に誰が選ばれたんだ?」
 グレイが確認する。
「うちの隊からは、あとアビーよ。
 昨日、護衛権をかけて勝負したのよ」
「ああ、御前試合かってくらい本気出してたな」
 ロイが面白かったとゲラゲラと笑う。
「あんたも関係ないのに参戦してたじゃない」
「おっさん達と試合出来る機会なんて滅多にないからな」
 グレイが呆れ顔で2人の会話を聞くが、口元が笑っていた。 
 昨日、オスカーが予測していた通りになった。
 第1部隊から、オスカー、ジャニス、アビゲイルが翔平の専属護衛として、交代で任務につく。
 日中、翔平へ張り付き、どこへいくにも一緒に歩くことになる。
 夜は王宮に戻るため、基本は日中だけだが、今後王城から出る時は昼夜問わず護衛に入ることになる。
「あと獣士団からも2人くらい入るらしいわ~」
 ソファに座ったジャニスが、自室のように寛ぐ。
 そのジャニスへキースがお茶を手渡し、ジャニスがキースに声をかけた。
「キースちゃん、アランが泣いてたわよ。いいかげんプロポーズ受けてあげなさいよ」
 ジャニスにそう言われるが、キースは笑顔で返すだけで返事をしなかった。
「んもぉ、素直じゃないんだから」
 プリプリと怒りながら目の前のクッキーを頬張る。
「明日は広場でお披露目があるんでしょぉ?
 聖女教会の親玉も見つかってないし、注意しないとね」
 おちゃらけた感じのジャニスだが、任務に対する意識は高い。
「ショーヘーちゃんのヒール見るの、楽しみだわ」
 ニコリとジャニスが笑った。



 その後、ロイとジャニスを残し、ディーとグレイは士団へ戻った。
 ディーは俺と離れることがかなり不満で不機嫌な表情だったが、部屋を出る時にキスしたことでご機嫌な様子で魔導士団へ戻って行った。
「単純」
 ロイがそう言うが、お前も一緒だよ、と心の中で突っ込む。
「ああ…眠い…」
 ロイがだらしなくソファに横になってすぐに眠ってしまったが、徹夜していることを知っているため、誰にも何も言わなかった。


 簡単な昼食を済ませた後、マーサが部屋へやってくる。
「キースさん、貴方が執事になってくれれば百人力ね。夜会についてショーヘイ様へ教えて差し上げてもらえるかしら」
「心得ました」
 マーサもマーサで忙しい人で、本来なら俺1人にかまっていられる立場ではない。
 メイドたちの指導役として、日々王宮内を歩き回っている。
 
 それから円卓で、キースの夜会講義を受ける。
 黒板はないが、紙に図解付きで説明されつつ、夜会の始まる前の準備から当日の流れ、終わった後まで詳しく教えてもらう。
 一緒に聞いていたジャニスも時折りキースに質問し、警備体制についてブツブツ呟き、メモをとっている姿を見て、本当に見た目と中身が違う人だと笑った。

 ざっと説明が終わる頃には夕食の時間となり、食堂に行くか部屋でとるかと言われ、部屋でと答える。
 
 夕食後に明日の国民へのお披露目の書類が届き、綺麗にまとめられた資料に目を通した。

 イベントに対してスタッフがいて、当日のタイムスケジュールが分刻みで書かれた企画書があって、立ち位置やら、挨拶の言葉やら、全て盛り込まれた書類に、サラリーマン時代を思い出した。
 俺も事務機器の新作発表会で、こういうの作ったな、としみじみと感慨深げに書類を眺めた。

 王城に来て、特にサラリーマン時代のことを思い出す。
 指示を出す上司がいて、事務方がいて、書類を回して、稟議書をあげて決済をもらって…。
 各局を見学したときに、忙しく働く人たちを見て、ここは大企業か、と錯覚を起こしたくらいだ。
 いや、一つの国というのも企業と同じなのかもしれない。
 世襲制という大きな違いはあるが、それでもその下で働く人たちは、元の世界となんら変わらない。

 懐かしいな…。

 たった4ヶ月前まで、俺もその下の人たちの中にいた。
 働いて給料をもらって、生活を営んでいた。
 今は全く予想も出来なかった立場だが、それでも俺が関わるイベントで、多くの人たちが頑張っている。

 俺も頑張ろう。

 書類を見て、一緒に働いているという感覚が蘇り楽しくなってくる。
 このイベントを企画し、成功させようと頑張る人たちのためにも、頑張ろうとそう思った。








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