おっさんが願うもの

猫の手

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王都編 〜パレードから謁見そして再び囮へ〜

おっさん、再会する2

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 清書に没頭しつつ、ロイが後ろから腕を俺の腹に回して抱きしめる。
 肩に顎を乗せて書いているものを覗き込んだり、頬や耳やうなじにチュッチュッと軽いキスをし、グリグリと頭を押し付けて来る。
「まだー?」
「もうちょっと」
 ロイの手がペタペタと俺の体を触るが、書き物に集中する。
「まだー?」
 ついさっき聞いたばかりなのに、再び聞かれて、もうちょっと、と同じ返事をする。
「なぁー」
 ロイの手が胸をさわさわと撫で始め、シャツの上からわざと乳首に触れた。
「おい」
 ペンを動かすのをやめて後ろを振り返る。
「ここにあるのが悪い」
 言いながら形を確かめるように乳首を指でこすりつつ、耳へキスをする。
「ん」
 思わずピクンと反応を返し、耳まで真っ赤になりながら、ムッとした表情でロイに預けていた体を離すと立ち上がった。
「まったりはもう終わり」
「えー」
 丸テーブルの椅子に移動して、あともう少しで清書が終わる、と書き物を再開する。
 チェッと舌打ちしつつロイも立ち上がり、マーサ達が用意していったティーセットに近付きお茶の用意を始める。
 ドアがノックされて、返事を待たずに開けられるとグレイが顔を出した。
「あ、ロイ、俺にもくれ」
 グレイが普段着に着替えて戻り、ロイが2人分のティーカップを用意していることに気付いてせがむと、ブツブツと文句を言いつつ、もう一つ用意して3人分の茶葉をポットに入れる。
 またノックされてすぐにディーが入って来る。
「あ、ロイ、私にもください」
 ディーにも催促されて、顔を顰めながらもう一つカップを用意して、乱暴に茶葉を1人分追加する。
 そしてまたノックされてドアが開けられた。
「何人だ!一度に来いよ!」
 入って来たギルバートに怒りながら言った。
 そんなロイの姿をクスクスと笑いながら、それでもちゃんと手順を踏んでお茶を淹れようとするロイが可愛いと思った。
「2人です」
「2人?」
 聞き返しつつカップを用意する。

 視線をロイからドア付近のギルバートに向け、その後ろにいる人物を見て立ち上がった。

「ロマさん…」

 ジワっと涙が込み上げる。
「ショーヘイ」
 ギルバートの後ろからロマが顔を見せ、微笑んだ。
「ロマさん」
 ロマへ駆け寄ると、抱きついた。
「おやおや、なんだい」
 上から覆い被さるように抱きしめてくる翔平の背中を、子供を宥めるようにポンポンと叩く。
「ロマさん…俺…」
 ロイに助けられて、ロマからこの世界のことを教わった。
 一番最初の恩人。
 時間にすれば、一緒にいたのはたった1日やそこらかもしれないが、翔平のとってはとても大切な人だった。
「ショーヘイ、頑張ったねぇ」
 優しく頭を撫でられて、グスグスと泣く翔平をあやす。
「ロイ、ディーゼル殿下、グレイ」
 翔平の頭を撫でながら、3人を見る。
「ショーヘイを守ってくれてありがとう」
 ロマが笑い、3人は照れながら微笑みを返す。
「ほらほら、ショーヘイ君、ロマばかり抱きしめてないで」
 隣のギルバートが翔平の肩を叩き、私にも、と言わんばかりに手を広げる。
「お前はさっきしただろ」
 ロイの突っ込みが入り、笑いながら涙を拭ってロマから離れた。
「お話したいことがたくさんあります。俺、魔法使えるようになったんですよ」
 一番最初、ロマが王都へ発つ直前、ロイから習っておけと言われた魔法を、今は習得して使いこなすことが出来るようになっている。
 それを一番先に知らせたかった人物に、やっと言えた。
「聞いてるよ。今や聖女様だもんねぇ」
 ロマの手を握り、円卓の椅子へ誘う。
「ほんと驚いたよ。モンスターブレイクを打ち破って、一度のヒールで大勢の人を治療したって」
「無我夢中でやっちゃいました」
「ヒールを習得するには、かなりの修練が必要なのにねぇ…」
 ロマがそっと手を開かせて手の平を見て撫でる。
「ジュノーであるが故なのかねぇ…」

 ヒールを使える魔導士、治癒師は数が少ない。
 街に2、3人いればいい方で、村などには1人もいないというのが現状だ。
 騎士団の中には使える者が多いが、それでも軽傷を治すのに数分はかかる。
 重症になると数十分から数時間かかることもあるし、怪我の程度によっては、大量の魔力が必要になるため、ヒールの修練には魔力の器を大きくする訓練、人体の構造を勉強、さらに実際にヒールを何度も使う必要がある。
 治癒師と呼ばれる存在は圧倒的に数が足りていなかった。
 だからこそ、桁違いのヒールを使う俺が聖女として民衆に受け入れらることになったのだ。
  
「いっぱい聞きたいことがあるんです。魔法のこととか、いろいろ…」
 俺とロマの前にお茶が置かれた。
 すっかりロマだけと話して、一瞬ロイ達の存在を忘れてしまっていた。
 ムスッとしたロイが、お盆に乗せたティーカップを円卓に座ったそれぞれに配る。
「英雄殿にお茶を淹れていただけるとは」
 ギルバートがそのお茶を一口飲み、これはなかなか、と呟く。
「ショーへー、ロマとばっかり話して」
 はっきりと拗ねた様子のロイが円卓の席から漏れて、ソファにドカッと座る。
「あんたは相変わらずガキだね」
 呆れたようにロマが笑い、俺はロマの前だからロイが子供っぽくなると理解し笑う。
「ショーヘイ、あんた、選んだのがこんな男で本当にいいのかい?」
 ロマの言葉に、少しだけ頬を染める。
 彼女は俺とロイ、ディーとの関係をもう知っているのだろう。
 言葉にはせず、コクンと黙って頷く。
 
 ロマと初めて会った時、ロイは嬉しそうにはしゃいでロマに俺のことを話していた。
 その時言葉はわからなかったから、何を話しているかわからなかった。
 だが、今考えると、ロイは運命の人を見つけたと、大喜びしてロマに報告していたんだとわかる。

 生涯をかけて愛する伴侶に出会う。

 ロイが預言者に言われた言葉を信じて、その運命の人を4年間探していた。
 そして見つけたのが、俺。

「ロマ、感動の再会もわかるが」
 ギルバートが釘を刺す。
「ああ、そうだったね」
 スッと俺の手を離すと全員の顔を見る。
「では、話を始めましょうか」
 昼間、ギルバートが言った話の続きを聞く。




「王位を簒奪しようとする輩の存在に気付いたのは、今から7年前のことです」
「7年!?」
「7年前と言えば…戦争が始まった時か」
「そうです。まさに戦争がきっかけだった」
 ギルバートがお茶を飲み、俺たちの顔を見る。
「まずは結論から先に言いましょう。
 今この国に仕掛けられている陰謀は、王位を奪おうとする実行者と、それを操る何者かの手によるものです」
 4人がそれぞれその言葉を飲み込む。
「簒奪者が実行犯?
 その後ろに簒奪させようとする黒幕がいるってことですか?」
 確認のために俺が聞くと、ギルバートが頷く。
「わからねえな。
 王になりたいから簒奪しようとしてるんじゃねぇのか。簒奪者イコール黒幕じゃねえのか」
 グレイが首を傾げる。
「実行犯はあくまでも王になりたい者。黒幕はその実行犯へ協力し、知恵をつける者です」
「それだと、黒幕の目的は何になるんです?」
「目的はわかりません」
 4人が頭の上にクエスチョンマークを浮かべる。
「王になりたいのは、実行犯」
 俺の質問にギルバートが頷く。
「黒幕は実行犯に協力しているだけ」
 さらに頷く。
「もし簒奪が成功したら、黒幕のその後は…?」
「わかりません」
 4人とも顔を顰める。
「わかっているのは、明らかに王位簒奪を狙っている者がいること。
 その簒奪者に協力し、おそらくは計画そのものも黒幕が立案している」
「だけど、黒幕は他人に簒奪させようとしているだけ…」
 ギルバートの続きをディーが言い、口元に手を当てて考え込む。
「わけわかんね」
 ソファでロイが呟き、ゴロリと横になった。
「なぜ簒奪者と黒幕が別だとわかったんだ」
 俺が聞こうと思っていたことを、グレイが先に言ったので、うんうんと頷く。


「戦争がきっかけになったって言ったろ?
 戦争にかこつけて、王位簒奪を狙った者がいたんだ」
 ロマが肘をついて、両手を前で組む。
「え!? そんなこと私は聞いて…」
「言ってないからね」
 ディーが焦って言い、ロマがその言葉に被せるように答える。
「そんな…」
 今更知った内容に、ディーの表情が焦りや怒り、戸惑いが混ざった複雑なものになる。
「7年前、簒奪しようとしたのは誰だったんだ」
 グレイもさっきから眉間に皺を寄せたままで、怒っているような口調だった。


「ロマーノだよ」


 その名前に、開いた口が塞がらない。
 ついこの間、10日ほど前にロマーノ元公爵夫人と娘マチルダに酷い目にあわされたばかりだ。
 俺は7年前の戦争も、5年前のロマーノ没落事件も、ロイやディーに教えてもらっただけで当事者ではない。
 それでもこれだけ驚くのだ。
 当時その一端に関わったロイやディーは、かなり驚くはずだ。
 実際、寝転んでいたロイは起き上がり、ロマとギルバートの話を聞く姿勢になっていた。


 ロマーノ家没落の真実が語られる。
 

 当時三代公爵家の一つであったロマーノ家当主、セドリック・ロマーノは、他の貴族、豪商、諸々を権力と金の力で取り込み、大きな派閥を持っていた。
 政治の中枢にも入り込んでいたセドリックは、戦争勃発というきっかけで、各貴族が身を守るために私有軍を持つことを認可する法案を打ち出し、派閥の力を使って無理矢理押し通し、可決させた。
 この法案が可決されると、ロマーノ傘下の貴族達が、諸外国からこぞって傭兵を集めるようになり、騎士団にも匹敵する私兵を抱えるようになった。
 まさに、この私兵が簒奪するための決起における兵隊であり、戦争中で王都の守りが薄くなった中、内乱が起こる寸前まで行ったという。

 だが、セドリックが味方につけたと思っていた貴族や豪商の中には、脅され、弱みを握られて派閥に組みした者も多く、決起する前に味方の裏切りによってあっさりと瓦解した。
 レイブンは、内乱を起こそうとした実行犯を捕らえたが、戦争中ということを考慮し、首謀者のロマーノをわざと見逃す。
 そして戦争終了後、充分な証拠を揃え、ロイの叙爵騒動を発端に査察を入れ、表向きは横領や賄賂、情報漏洩などの罪で死罪へと追い込んだ。
 だが、本当の罪状は反逆罪だった。




「私が前線にいる間、そんなことが…」
「全て内々に済ませているからね。この事実を知っているものは極少数だよ」
 知っている者の名は後で教える、とロマが付け足す。
「首謀者のセドリックを捕らえて、あたしたちも、それで終わりだと思ってた」
「しかし、その後の調査で、セドリックがただの駒だったことが判明したんです。
 彼を扇動し、簒奪させようとした人物の存在が浮き彫りになった」
 ギルバードがお茶を飲み、空になってしまったティーカップに眉を動かす。
「それが、黒幕か…」
 グレイが腕を組んで呟き、黙り込んだ。

 シーンとその場が静まり返り、誰しもが考え、話そうとしなかった。

「ロイ、おかわりもらえませんか」
 そんな重たい空気を打ち消すように、ギルバートが後ろのソファにいるロイへ空になったティーカップを差し出す。
 ロイが面倒くさそうにソファから立ち上がると、再びティーセットの前に行く。
「おかわりいる奴は」
 ロイの言葉に、全員がティーカップをロイに差し出し、ロイが顔を顰めた。



 お盆を手に、ロイが全員の前に新たに淹れたお茶を置いてまわる。
 全員に行き渡ったところで、一口飲み、ホッと数人が息をついた。
 あまりにも衝撃的な事実に、脳がフル回転して休息が必要だった。
 気をきかせたロイが、クッキーも用意してテーブルに置き、脳へ糖分を送り込む。

「簒奪者と黒幕は別、ということは理解したね?」
 ロマの言葉に全員が頷く。
「我々はそれから5年間、ずっとその黒幕を追ってるんです。
 だが、今だにその影すら掴めない。
 何処の誰なのか、目的は何なのか、全くもって不明です」
 忌々しげにギルバートが目を細めた。

「何故…」
 ディーが口を開く。
 テーブルに手をついて、ティーカップをじっと見つめたまま、誰に問いかけるようでもなく、話す。
「何故、私は蚊帳の外なんでしょうか…」
 戦争中、自分は前線にいた。
 王都にいなかったから、ロマーノの簒奪未遂事件を知らなかったのは理解出来る。
 だが、何故誰も知らせてくれなかったのか。
「ロマーノの件に関しては、知らせても前線に迷惑がかかると判断しました。
 貴方自身、獣士団副団長として重要なポストにいましたからね。
 最前線から貴方を抜くのは、リスクが高いと判断したんです」
 それを聞いて、ロイは納得する。
 もし戦争中にディーが知らせを受けて王都へ帰還なんてことになれば、残される俺や団員、一緒に戦っていた他の士団、兵士にかなりの影響が出たのは間違いない。
 王族であるディーが最前線に立つ、という行為そのものが、あの時の戦争において士気を高める役割を担っていたのも事実。
 だからこそ、そう判断したアランやギルバードに感謝の気持ちすら抱く。
 だが。

「戦争が終わってから、今までも何も教えなかったのは何故だ」
 教える機会はいくらでもあったはずだ。
 なのに、何故。
 ロイはディーがないがしろにされているような気がして腹が立ち始めていた。

「それはね…」
 ロマがうっすらと微笑みを浮かべる。
「それはレイブンがそれを望まなかったからだよ」
 ロマがレイブンがそう決めた時の顔を、表情を思い出し、優しく微笑む。
「ロイが戻って来た後、2人にはきちんと説明することになっていたんだよ。
 だけどね、ロマーノが駒だったことがわかって、ディーゼルをこの件には関わらせないとレイブンが決めたのさ」
「だからそれはなんでだって聞いてんだよ」
 ロイが回りくどい言い方に苛立ちを隠そうともせず、声を荒げる。
「ロイ、あんたは国を追放されて、約1年放浪の旅をしていただろう?
 旅先から、ディーゼルに手紙を送っていた」
「それがどうした」
 ディーが顔を顰めた。
 若干顔が青ざめ、ディー自身はなぜ自分が蚊帳の外に置かれたのか察したようだった。
「ロイからの手紙の内容を、父や兄に話して…羨ましいと…私も一緒に行きたかったと…」
 ディーが両手で顔を覆う。
「私は、王位継承権を放棄したばかりか、王族であることも放棄して、ロイについて行きたいと…」
 ロイの顔が驚愕の表情をする。
「お前…」
「ロイと一緒に行きたかった。一緒に旅をして、世界を見たかった…」
 ディーの声が震える。
「だからレイブンは、貴方には話さないと決めたんです。
 いつかディーゼル・サンドラークではなく、ただのディーゼルになりたいと言った時、王家のしがらみを背負わないように」
 両手で顔を隠し、悔しそうに顔を歪める。
「自分の愚かさに腹が立ちます…。
 家族に守られていることにも気付かず、なんて浅はかな…」
 ディーが小さく震え、頭を抱え込んだ。必死に涙を出さないよう耐えているのがわかる。
「ディー…」
 俺は、ディーの肩を慰めるように抱きしめる。
 ディーはそんな俺の腕にしがみつき肩を震わせた。
「そういうことか…」
 ロイは納得する。
 ディーが口にした夢を叶えさせようとする、レイブンの親心だった。
 もしディーがこの陰謀を知れば、必ず父を兄妹たちを、この国を守ろうと躍起になる。
 サイファーやアラン、ユリアにも負けないほどディーもまたかなり優秀だ。
 戦力としては申し分なく、もしディーもこの陰謀に立ち向かっていたなら、今頃解決に向かっていたかもしれない。
 だがそれでもディーを思って隠してきた。
「溺愛にもほどってもんがあんだろ…」
 ロイもグレイも苦笑した。
「優しい家族だな」
 俺も、ディーを抱きしめて頭を撫でながら慰めた。
 

「すみません、もう大丈夫です」
 若干赤い目をしたディーが顔を上げ、俺へ微笑みかけ、全員の顔を見渡して恥ずかしそうに笑った。
「家族に、怒ってもいいですよね?
 溺愛するのも大概にしろと」
 笑いながら問うと、ギルバートも笑う。
「本音を言うなら、ディーゼル殿下は必要です。
 貴方は王族の中でも士団や平民に近いところに常にいた。
 王族ではなく、ディーゼル殿下個人を支持する声も圧倒的に多いんです。これを利用しない手はありませんからね」
「ギル、悪い顔になってるぞ」
 ロイが指摘し、全員が笑った。


「さて、話を元に戻しましょうか。
 簒奪者と黒幕は別。
 今の所は、両方ともどこの誰なのかわかっていません。
 ですが、今回ショーヘイ君が現れたことで、きっと彼を利用しようと動き出します」
 ギルバートが俺を見る。
「俺の役割は、俺を誘おうとする輩から聞いた話を伝えること」
「そうです。
 どこで、誰が、誰と、どうやって誘いをかけてくるのか、それを教えてもらいたい」
 その言葉に頷く。
 俺に出来ることはそれだけ。これ以上踏み込めば、逆に迷惑がかかるかもしれない。だから、言われたことだけをやろうと決めていた。
「そして、ここからは言われていないと思いますが、その誘いを実際に受けていただきたいのです」
「はぁ!?」
 3人が揃って声を上げた。
 特にロイとディーが大きな声をあげる。
「もちろん、どの誘いを受けるかはこちらで判断します。当然ですが、しっかりとした護衛もつけます」
「おい、ギル。どういうことだ」
 ロイが次第に怒りを表に出してくる。
「考えてもみなさい、誘いの言葉だけで敵の情報を得るなんて不可能ですよ。
 実際に誘いを受けて初めて意味がある」
「しかし…それではショーヘイさんが危険に…」
「そのための護衛です」
「認めねーぞ!絶対認めねー!」
 ロイが怒鳴るが、ギルバートは無視する。
「誘いの内容によっては、敵の懐に入り込む可能性も出て来ます。
 護衛がいるとはいえ、絶対という保証はありません」
 いつのまにか、ギルバートの表情が真剣になり、じっと俺だけを見ていた。
「これまでの道中での貴方の言動、黒から報告を受けています。
 その上で、貴方なら囮として成り立つと判断しました」
「ギル!」
 ロイが怒りと焦りで声を荒げる。
「王は…、サイファーやアランは何と言ってるんですか」
 ディーが眉間に皺を寄せてギルを睨みつける。
「彼らはそこまで望んでいません。
 これは、私とロマからのお願いです」
 それを聞いて2人の顔を見る。
 ロマも真剣に俺を見ていた。
「ショーヘイ、断ってくれて構わないよ。
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 ロマが自虐的に少しだけ微笑んだ。
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「ショーへー、断れ。お前がそこまでする必要はないんだ」
「そうですよ、ショーヘイさん。
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「義理はあるよ」
 ディーの言葉に即答する。
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「すまないね、年寄りの我儘を聞いてもらって」
「まったくだ!!」
 ロイが叫ぶ。
 同様に、グレイは深いため息をつき、ディーも複雑な表情を見せた。
「ごめん、みんな。
 でも、俺、やれるだけやってみるよ」
「優しすぎるんですよ、貴方は!」
 ディーが怒る。
「本当にショーヘイ君は優しいですね…」
 ギルバートがすかさず俺の手を握り、またさわさわと指の一本一本を撫でる。
「触んな!エロジジイ!」
 パシッとギルバートの手を叩き、手を離させる。
「年寄りは労わらないといけませんよ」
「俺より強い年寄りが何を言うか」
「相変わらずだねぇ、あんたたちは…」
 呆れたように呟くロマが、昔を懐かしんでいるような表情になり、一瞬、子供の頃のロイを垣間見た気がした。

 最後には和やかな?ムードに終わり、ギルバートとロマが部屋を出る。
 2人が出て行った後、3人に詰め寄られた。
「約束はどうした!」
「貴方って人は!」
「お前はどうしてそーなんだ!」
 3人にギャンギャンと怒られる。
「ほら、だって敵を知るチャンスだし」
「だからって貴方が利用されることないでしょ!」
「囮になるのは決まってたし」
「危険なことへ首を突っ込まないって約束したのはどの口だ!!」
 とにかくロイとディーが怒り、グレイはムスッとしている。
「ははは…」
 ものすごく怒っている3人に、乾いた笑いを漏らした。
「ごめん…勝手に決めて」
 椅子に座るとはぁっとため息をつく。
「でもさ、俺は俺に出来ることはやりたいんだよ。それはわかってくれよ」
 ブツブツと独り言のように呟く。
「それにさ、俺、王家に嫁ぐんだよな?ってことはさ、家族になるんだろ?俺だって、家族は助けたいよ…。俺だけただ見てるだけって…」
 俯いて、膝に向かって喋るが、次の瞬間、ディーに抱きしめられた。
「ショーヘイさん」
「は、はい」
 両手で顔を挟まれて、じっと目を見られ、何が起こったのかと見つめ返す。
「私の家族を、貴方の家族だと思ってくれるんですか?」
「え?あ、まぁ、そりゃ…。結婚するんだし…」
 少しだけ頬を染めて言う。
 ディーの顔が破顔する。
「嬉しいです…。愛してます」
 ギューッと抱きしめられる。
 そんなディーを見て、ロイとグレイが、絆されたな、と微妙な顔をした。
「ロイだって、ギル様やロマさんの頼み、断れないだろ?」
 ディーの背中をポンポンしながら、ロイに向かって言うと、ロイはうっと言葉に詰まらせる。
 なんだかんだ言って、ロイも2人には弱いのはわかっている。
 そんなロイを見たグレイが、こいつもか、とさらに微妙な顔になった。
「グレイだってさ、もし誰かが王に取って代わったら、ジュリアさんの叙爵どころか、故郷もなくなるかもしれないじゃん」
 グッとグレイも言葉に詰まった。

 よし。

 心の中でガッツポーズを決める。
 俺の言葉に、それぞれが何も言えなくなったことで、上手く丸め込めたと勝利を確信する。
「ってことで、護衛よろしく」
「ショーへー!!!」
 3人が怒鳴った。



 すっかり夜も更けたが、最後の最後に、明日の予定をディーから告げられた。
 明日は1日、王城見学と各士団への挨拶まわりになるとのことだった。
 今日のような仰々しいものではないから安心していいと言われ、ホッとする。それに、王城に入ってから、会議室、自室、謁見の間、控室、4つの部屋しか入っていない。
 明日は社会科見学のように、あちこち見て回れると聞いて楽しみになる。
 それに、騎士団第1部隊のおっさん達に会うのも楽しみだった。

「じゃぁ、俺は宿舎に戻るわ。
 明日は俺の出番はないな?」
「そうですね。明日はロイと私で案内する予定です」
「了解。じゃぁ俺は明日獣士団の仕事してくるわ…」
 若干グレイががっかりしたように肩を落とす。
 そしておやすみと言い部屋を出て行った。
「俺らも寝るか」
「そうですね」
 そうだな、と返事しつつ、寝夜着に着替えようとして、2人を振り返る。
「何してんだよ」
 2人がいそいそとベッドへ上がっていくのを見て聞いた。
「何って、寝る準備だけど」
「なんで普通にここで寝ようとしてんだよ」
「え?3人で寝ても余裕あるし別にいいじゃん」
「そうですよ。もう部屋に戻るの面倒くさいですし」
 ディーが布団を捲って、寝る場所を確保している。
「……今日はしないぞ」
「はい。しません」
「眠いもん」
 そう言いながら、さっさと布団に潜り込む2人を目を細めて見る。
「ほら、寝るぞ」
 ロイが俺の寝る場所をポンポンと叩いて示す。
 返事をせず、ささっとクリーンをかけて寝夜着に着替え、ベッドの端に寄った2人の間に滑り込んだ。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
「おや、すみ…」
 納得いかない、という表情のまま天井を見上げて目を閉じた。
 目を瞑ると、今日1日で得た情報の多さに脳が疲れていたのか、すぐに睡魔が襲ってきた。
 うつらうつらし始めて、もうすぐ寝落ちする、という所で、体に触れた手に意識を引き戻される。
「…しないんじゃなかったのか」
「えー無理ー」
 ロイの手が寝夜着の上から胸を弄り、ディーの手が足を撫でる。
「やっぱり無理ですね…」
 ゴソゴソと俺に触れてくる2人にキレた。
「出てけ!!」
 怒鳴りつけ、ゴンゴンと連続で拳骨を張ると、身体強化の魔法をかけた両腕で、2人をベッドから放り投げた。
「魔法はズルい!!」
「ズルいも糞もあるか!!出てけ!!」
 クワっと怒りの表情を見せると、2人は口を尖らせて、ブツブツと文句を言う。
「いっぱいするって約束は…」
「少しくらい…」
「あ?なんか言ったか?」
 思い切りドスを利かせて言うと、2人がすみません、と小さな声で謝る。
「おやすみ!」
 そのままバフッと布団へ潜り込むと、しばらく俺を見ていた2人ががっかりした様子で、おやすみと告げると部屋を出て行った。
 少しだけ可哀想かな、と思ったが、慌てて仏心を打ち消す。

 また今度な。

 心の中で呟き、目を閉じた。


 
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イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
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 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

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