おっさんが願うもの

猫の手

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王都への旅路 〜囮と襲撃〜

86.おっさん、襲撃を感知する

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 翌日、マーサに起こされて、昨日と同じように3人の女性達によって、湯浴みをさせられるが、寝夜着を脱いだ途端、マーサが渋い顔をして、ハッとする。
 体に残る、昨夜の情事の跡。
「あの子たち…」
 マーサはそれ以上何も言わず、女性達も何食わぬ顔で淡々と仕事をこなす。
 昨日と同じく顔も髪もいじられて、昨日とは違う服を着せられた。
 昨日と違ってまだマシなのはベールがないことだ。
 支度を済ませて部屋から出ようとして、マーサがいないことに気付いたが、促されるままに部屋を出て、執事の案内で昨日の食堂へ向かう。
 昨夜と違って、バイキング形式の食事スタイルに、好きなものを食べられるとウキウキしたが、食堂に入ってすぐ、マーサに怒られているロイとディーの姿を見つけて、吹き出した。
 食堂の壁際でマーサの前に正座させられ、ゴンゴンと拳骨をはられている。
 彼女にとっては、ロイもディーもまだまだやんちゃな子供のままなんだろう。
「おっはよ、ショーヘーちゃん」
「おはよー」
 ジャニスとオリヴィエが俺に声をかけてきて、一緒に食べようと誘ってくれたので、同意した。さらにアイザックやアシュリー達もそばに寄ってきて、大勢でワイワイと朝食をとる。
「昨日、あれに夜這いされたんでしょww」
 怒られているロイとディーをフォークで指し示しながら、ジャニスに笑われて、アシュリーとクリフがブフッと水を噴き出した。
 その質問には微妙な笑顔で返す。
「おはよう、ショーヘーちゃん。私アビゲイル。よろしくね」
 第1部隊の女性騎士が寄ってきて、集団に加わる。
「あら、可愛い坊や。今度どう?」
 隣に座るアーロンの顎下を人差し指で撫でて誘いをかける。
「お、俺で良ければ」
 アーロンが若干赤面する。
「アーロン、勘違いしちゃダメっスよ。訓練のことっスよ。
 アビー、うちの団員を揶揄うのはやめてほしいっス」
 アイザックが笑いながらバラし、アーロンは青ざめ、アビゲイルはバラさないでよ、と笑った。
 どっと笑いが起こって、楽しい朝食に自然と笑顔になった。
 食べ終わって立ち上がり、ロイとディーを見ると、レインとグリフィス達に揶揄われつつ朝食を食べていたが、チラチラと俺の方を見て気にしている。
 そんな2人に微笑みかけると、2人の表情がパアッと明るくなった。
「おー、おはよう」
「おはよー、ショーヘーちゃん」
「今朝も可愛いな」
 イカついおっさん騎士たちがゾロゾロと現れると、俺の後ろを通過しつつ、俺の尻を数人が撫で、尻肉を鷲掴みされる。
「うひゃ!」
 思わず変な声を出した瞬間、ロイとディーがフォークを放り投げて、瞬間移動したかと思うくらいの速さで、尻を触った騎士に殴りかかり、驚いたし慌てた。
 だが、その拳をいとも簡単に受け止めるおっさんにも驚いた。
 あのロイの拳を簡単にあしらうおっさんに、本当に強いんだと感心する。
「ショーヘーに触んな!」
「今度やったら不敬罪で捕らえますよ!」
 2人がものすごい剣幕で怒鳴るが、おっさん達はゲラゲラ笑うだけで、誰も怯まない。
「ショーヘーがおっさんに汚された~」
 ギューっと抱きついたロイに、変な言い方するな、と怒り、ディーはディーでハンカチで俺の尻をささっと拭う。
 奥の方でレインとグリフィスが笑い、女性騎士がロイとディーに変わって、口々におっさん達を罵る。

 なんだこれ。

 朝からメチャクチャな光景に、涙が出るほど笑った。


 一度部屋に戻り、マーサに上流階級の所作の講習を受ける。
「もっと目線を上に」
「足は後ろに下げてください」
「そこで止めて」
 慣れない動きに脇腹も足も攣りそうになる。
「いずれダンスも覚えていただきますからね」
 休憩中にお茶を飲みながら言われて、グフッと噴き出しそうになって、ゴクリと慌てて飲み込んだ。
「だ、ダンス!?」
「ええ、女性パートと男性パートをそれぞれ覚えていただきます」
「え~」
 生まれてこの方ダンスなんてしたことがない。
 宴会の余興で、子供のお遊戯程度のものしか経験がない。
「頑張ってくださいね。これも王族へ嫁ぐ者の義務とお考えください」
「嫁ぐ…」
 そう言われては何も言えなくなる。
 まさかダンスが嫌なので、結婚しません、なんてことになるわけもない。
「大丈夫ですわ。基本さえ覚えれば、ディーゼル様やロイ様がリードしてくださいますから」
 マーサがニコリと笑い、そうですか…と諦めた笑顔を向けた。





 朝と同じように昼食を済ませ、部屋に戻ることはなく玄関そばのベンチに腰掛ける。
 午前中のマーサの講習のおかげで筋肉痛になりそうだった。
「疲れた…」
 たった2時間ほどの講習なのに、長時間歩いたような疲労感が襲う。

 目の前で忙しく騎士達が馬の用意や移動に必要な荷物の準備を続けている。
 俺は何もすることがなく、騎士達の準備をボーッと眺めていた。
 だが、アイザック達に声をかけられ、彼らがベネット領のシュターゲンへ出発すると告げられて、顔を歪ませる。

「みんな、元気で。気を付けてな」
 目を潤ませながら全員を見る。
「ショーヘーさんもお気を付けて」
「王都でまた会いましょう」
「花嫁修行がんばるっスよ」
 1人1人に順番にハグをしていくと、最後にいたウィルの隣に、何故かおっさん騎士が数人並んでハグを待っているのに気付く。
「……」
 ウィルへハグした後、手を差し出して待つおっさんを無視して、肩を震わせながら笑うウィルの背中を押した。
「お前らは関係ないだろ」
 そんなおっさん騎士を、オリヴィエやアビゲイル達が蹴り飛ばし連れて行く。
「ウィル、本当にありがとう。色々と世話になった」
 彼には本当に色々な面で世話になったと握手を求める。
「いいえ。私も色々と勉強になりました。ショーヘイさん、どうかご無事で。貴方はこの国に必要な方だ」
 ウィルが両手でギュッと握手を返し、いつもの穏やかな話し方にほんわかしながら、涙を拭う。

 全員が騎乗すると、ロイ達も一緒に見送る。
「では、行ってきます」
 騎乗での敬礼を全員がすると、アイザックを先頭に屋敷から出て行った。
 彼らの背中が見えなくなるまで見送りを続け、視界から消えるとグスッと鼻を啜る。
「またすぐ会える」
 3人が優しく慰めてくれる。
「うん」
 目を抑え、溢れる涙を必死に堪え、しばらくしてから前を見た。
「いいなぁ、あいつらショーヘーちゃんにハグしてもらって」
「ショーヘー、ワシらにもハグしてくれんか~」
 おっさん達が腕を広げてジリジリと迫ってくるが、寄るな、触るな、あっち行けとロイ達がしっしっと手を振って追い払う。
「ごめんねぇ~撤収するから~」
 走って来たジャニスがおっさん騎士に飛び蹴りをかまし、働けジジイども、と引きずって行く。
「なぁ…騎士団第1部隊って」
「皆まで言うな」
 ロイのセリフに笑った。
 


 順調に出発準備が整い、屋敷の玄関前に新しい馬車が3台横付けされる。
「これに乗るの…?」
 今まで乗ってきた黒塗りのランドール家の馬車も、旅の途中で見てきた馬車に比べると豪華だと思っていたが、目の前にある濃紺の王家の馬車はさらにそれよりも大きく豪華だった。
 馬車を引く馬も4頭になり、馬にも馬車と合わせた装飾が施された馬具をつけている。
 ドアにはサンドラーク公国の紋章が大きく入っている。
 その豪華さに圧倒されて、口を大きく開けて馬車の前で惚けてしまった。
「出発の時間だ」
 後ろからレインの声がして振り返ると、青いマントを翻して数名の騎士を引き連れてレインが玄関から出てくる所だった。
 それだけで絵になる。
「第1部隊!整列!!!」
 グリフィスの言葉で、散り散りになっていた騎士が素早く並び、背筋を伸ばす。
「これより王都への帰還および聖女様の護衛任務にあたる。
 襲撃される可能性が高いため、全員注意を怠るな」
 全員が注視し、レインが静かに言い終わるとグリフィスを見る。
「全員騎乗!!」
「っは!!!」
 全員がガッと踵を鳴らし敬礼すると、自分の馬へと走っていく。
「かっこいいー」
 思わず素直な感想を口に出すと、俺の声が聞こえた騎士が振り向いて、俺にウインクしてくる。
 そのウインクに呆れたように笑ったが、ただのスケベなおっさんではなく、騎士なんだな、と改めて思った。
「俺らも乗るか」
 グレイとディーが先に乗り、ロイが馬車の階段手前まで俺の手を取り連れていき、乗り込む時はディーが手を差し出した。
 1人で乗れる、と言いたいが、昨日思い切りコケた記憶も新しく、流石に素直にエスコートされることにした。
 前の馬車にはレインとグリフィス、フィッシャーが。
 後ろの馬車にはマーサ達使用人が乗り込む。
 馬車が3台連なり、前後に2列で各6騎。左右に縦に4騎。合計20騎で馬車を取り囲む。
 屋敷の門が開き、王都へ向けて出発した。





 馬車の中はかなり広くソファのクッションも効いていた。
「予定では3日である程度まで進みます。3日目の野営で、最終の打ち合わせをして、4日目の午前中に王都に入ることになります」
 カレーリアの街を出てしばらくしてからディーが説明する。
「王都までの行程でも襲撃があるかもしれないって」
「ええ。でも、この隊列とは別に、斥候として黒騎士が動いていますからね。待ち伏せされていたとしても、彼らが始末するでしょう。
 万が一黒騎士の隙をついたとしても、第1部隊が護衛についていることがわかれば手を引くはずです。
 それでも襲って来るのは、ただのバカですね」
 ディーが笑う。
「それでも、気は抜けねえな。各国の諜報部にも手練れはいる。そいつらが襲ってくるとしたら、乱闘になりかねんぞ」
 グレイが苦笑し、全員でうんうんと頷いた。
 その時、首の後ろをチリッとした痛みが走った。
 顔を顰めて思わず首の後ろをさすり、久しぶりに俺たちに敵意を持つ魔力を感じる。
「言ってるそばから…」
 小さく呟く。
「みんな、何か来るぞ」
 真顔でそれぞれの目を見た後、目を閉じる。
「多分…数キロ先だと思う、嫌な魔力がある」
 それを聞いた3人が目を見開く。
「感じるのか」
 ロイが窓の外を確認する。
 俺はじっと嫌な感じがする場所をじっくりと探った。
「8人…?いや…違うな。他にも…」
 目に見えるわけではないが、頭の中でソナーで探知するように、嫌な魔力を感じ取りそれを追ってみる。
「…8人、7人…、7人。それぞれ離れてるけど、全部で22人かな」
 頭の中で小さな光が点滅すように、居場所を示しているのを言葉で伝える。
「どのくらい先かわかりますか!」
「えっと…、10キロから15キロの間かな…。
 ああ、そうだ。3つの班に別れてる。
 こっちへ向かってくるのが、7人づつの2組で…。8人は…、正面で待ち伏せしてる」
 パチっと目を開くと、ロイが窓を開け、すぐ隣を走っていた騎士に伝えていた。
 ロイから情報を受け取った騎士が馬の速度をあげ、前の馬車へ近付くとレインへ報告する。
「ショーヘイさん、引き続き索敵お願いします」
 ディーが剣をいつでも抜けるように構え、ロイとグレイが窓からヒラリと馬車の屋根へ上がる。
 俺は再び目を閉じて、襲ってくる魔力をもっと感じようと意識を集中する。 
「10キロ切った。向かって左側の集団が少しだけ早い」
 ディーが窓の外へ、大声で俺の言葉を伝える。
 前方を走る馬車の屋根にもレインが上がり、剣先を下にして柄を両手で握る。
「障壁、反射」
 走る馬車の屋根を剣先でトンと軽く叩くと、レインを中心に前後左右を走る騎士達を含めて広範囲に魔法壁が張られた。
「5キロ切った」
 俺の言葉をディーが伝える。
「抜剣!!!」
 レインが叫び、騎乗の騎士達が全員剣を抜き、個々が身体強化、防御魔法をかける。
「2キロ……1キロ……左側来るぞ!」
 俺が叫ぶのとほぼ同時にディーも叫ぶ。
「見えた!!先にぶっ放す!!」
 馬車の上でロイが叫ぶと、一瞬で展開させた無数の魔法陣から炎の玉が数十発放たれ、数百メートル先で大きな爆発が起こる。
「3人残った!ジャニス!」
「まっかせてぇ!!」
 レインが叫び、先頭を走っていたジャニスが馬で飛び出す。
「右側!攻撃魔法多数!」
 頭の中の敵の光が大きく輝き、魔力を膨らませて攻撃魔法をしかけてくるのがわかった。
「フィン!エミリア!右障壁集中!!」
 隊列の右斜前に2人の魔法防御壁が二重に張られ、その直後右側の森の中から炎の玉が数十発飛んでくると、障壁にあたり火花を散らす。僅かにそれた炎の玉も、最初にレインが張った障壁に反射されて、飛んできた方角へ跳ね返された。
「ゲイル班突入!!」
 レインの命令で、前方と右にいた4騎が隊列から飛び出していく。
「正面、防御壁展開、魔法は無理だ」
 頭の中のソナーが、8人の前に光の壁が出来たことを察知する。
 ディーが外へさけぶ。
「オスカー班!アビー!オリヴィエ!正面撃破!!!」
「了解!」
 後方から4騎、左から2騎が突撃していく。
「うふふふ~。手応えあるかしら~!」
 アビゲイルが上唇を舐め、両手を離すと足の力だけで馬を操りつつ、両手に細い剣を握る。
「左反応なし、右あと2人、正面、4人…2人…反応消失」
 感じていた魔力が消え、ふぅと息を吐く。だが、さらに広範囲に索敵をかけて、他に敵がいないかをさらに探った。

 馬車がゆっくりと停まり、敵を倒した騎士が戻ってくる。
「ショーヘー」
 屋根から飛び降りたロイがドアを開けて、ショーヘーに飛びつく。
「いて!」
 飛びつかれて壁に頭をぶつけ、頭をぐりぐりと押し付けてくるロイの腕を撫でつつ、同じく屋根から降りたレインが俺たちの馬車へやってきた。
「聖女様。討伐完了しました」
 ニッコリと微笑む。
「怪我は?」
 ロイの肩越しにレインに確認する。
「あんな程度で怪我なんてしないわよぉ」
 ジャニスが顔を出し、所々についた血は襲撃者のものだとわかって苦笑する。
「ロイ、離して」
「やだ」
「ロイ」
 少しだけ声を落とすと、すぐにロイが体を離す。そのロイの頭を撫でると、馬車から降りようとする。そんな俺にたくさんの手が差し出された。
「え」
 その手に怯む。
「聖女様!ワシの手を」
「俺の手を」
「てめえは汚ねえ手出すな」
 おっさん達が競うように俺へ手を差し出して馬車から降りるのをエスコートしようとする。
「あ…えっと…」
 手を取ろうかどうか迷うが、どの手を取っていいのか分からず、出したり引っ込めたりを繰り返して、結局一番近くにあったレインの手を取った。
 その途端、手を差し出していた全員ががっくりと肩を落とす。
 そんな部下達へフフンと鼻を鳴らしてドヤ顔をするレインに、ため息混じりに笑う。

 馬車を降りると騎士達に囲まれて質問責めに合うが、ロイとディーが俺を守るように牽制する。
「説明していただけますか?」
 全員の質問をまとめるようにレインがニコリと笑う。
 そうして、俺が無意識に感知魔法を使っていること、かなり広範囲に、集中すれば個々の魔力の流れまでも感知できることを伝えた。
「さすが戦う聖女様だ」
 レインは褒めたつもりだろうが、どうしても茶化されているようにしか聞こえない。
「魔力消費は大丈夫なのか?」
「こいつ魔力お化けだからな」
 グレイが俺の頭をグリグリと撫でる。
「聖女様じゃなかったら、隊に欲しいな」
 ニヤニヤと笑いながら俺を見るが、それを遮るようにロイとディーがレインから俺を2人の背中に隠す。
「やらねーよ。俺のもんだ」
「あげませんよ」
 2人に反論されて楽しそうにレインが笑う。

 俺たちを襲ったのは、遠い東の国の間者だった。
 22名のうち、3人だけを生かして捕縛し、黒騎士が尋問を行なって判明したという。
 狙いは聖女ではなく、ジュノーであること、他にも他国からの間者がこの3日間を狙って襲撃してくるという話も聞き出した。

 その日の野営で、襲撃への対処について改めて検討し、俺の魔力が問題ないのであれば、俺の索敵魔法を大いに活用することに決定した。

 1人違を唱えたのはマーサで、彼女は俺が戦いに参加することに憤慨した。
 確かに、俺は護衛対象ではあるから、彼女の言うことは正論ではある。
 だが、俺は守られるだけは嫌だ、と彼女の目を見て真剣に言うと、深いため息をついて了承してくれた。




 カレーリアを出て初日から襲撃されるなんて、と天幕の中で寝る前にゴロゴロしながら考える。
「何考えてる?」
「うーん…ちょっとね…」
 クッションを抱えながら顔を顰める。
「襲撃のことですか?」
「まあな」
「何故今になって、ですよね?」
 ディーがクスッと笑って言い、俺はガバッと起き上がってディーを指差す。
「そう!それ!!」
 四つ這いでディーへ近付くと、その膝に触れる。
「今までだって、襲撃のチャンスはあったはずだ。むしろ護衛がいないんだからそっちの方がやりやすいはずなのに」
「ですよね」
 ディーが笑う。その顔は何かを知っている顔だ。
「もう囮作戦は始まっているんですよ」
 ディーが苦笑し、ロイは、王と宰相の戦略にブツブツと文句を言いながら、ゴロリと横になった。
「パレードだけじゃないってことか」
「そういうことです。パレードでの襲撃は大トリで、今は前座ってところですかね」
「ああ…そういうこと…」
「おーい、俺にもわかるように話せよー」
 グレイが不貞腐れたように頬杖をつく。
「つまりさ、ジュノーは聖女でした。でも、やっぱりジュノーでしたってこと」
「おい」
 俺の巫山戯た説明にグレイがムッとする。
「ディーの兄ちゃんが、王都へ来る聖女はジュノーですってバラしたってことだよ」
「そういうことです。
 私たちはジュノーを隠すためにショーヘーさんを聖女に仕立て上げましたよね?
 そのおかげで、つい数日前までは、ジュノーと噂された人物は聖女の間違いでした、という情報が正しいとされていた。ここまではわかりますか?」
 ディーが細かく説明し、グレイも頷く。
「でも、サイファーがその情報を書き換えたんです。
 聖女だと噂された人物は、ジュノーだと」
 グレイが顔を顰める。
「ジュノーだと思ったら聖女でした。
 でも、やっぱり聖女はジュノーでした。
 ややこしいな」
 ガシガシとグレイが頭を掻く。
「ややこしいよなwww」
 グレイの反応が面白くて笑う。
「レインも言ってたでしょ。ジュノーの情報は消えてないって。
 おそらくは、聖女だったと言われても、信じない、もしくは半信半疑のままこの国に留まった間者も多いんでしょう」
「そいつらを一掃するために、あえて真実を流した。
 一斉に襲撃させて、一気に殲滅する。
 アランの考えそうなこったよ」
 ロイがふあぁぁぁと大きな欠伸をする。
「情報を錯綜させて、最後の最後で真実を流す。
 敵の目標を絞らせ集中させることで、こちらも動きやすくなる」
「1箇所に集めて落とし穴に落とすわけか」
 グレイの例えに、俺もディーも笑う。
「落とし穴なwww」
「それにしたってショーヘーの負担がデカい」
 ロイが起き上がると、俺の隣に来て、すりすりと顔を寄せる。
「別に負担には感じないけどな」
「でもなんでこんな周りくどいことしたんだ。そこがわからん」
「それは…」
 俺とディーの言葉が重なる。
 ディーが俺を見て微笑むと、どうぞ、と促した。
「国民のためだよ。
 そうだろ?ディー」
 ディーが嬉しそうに微笑んで頷いた。
「なんでこの状況が国民のためになるんだ」
「襲われた時に巻き添えが出るのを防ぐためだよ。
 いつどこで襲われるかわからないよりも、この作戦で敵を誘き寄せて排除した方が被害は少ないと思わないか?
 それに、一気に排除することで、今後も続くだろう襲撃への牽制にもなる」
「その通りです」
 グレイは説明されて理解したようだが、まだ微妙な表情を浮かべている。
「一般人を巻き込まないようにするためか。なるほどね」
「それでもショーヘーが囮になることが納得できん、だろ?俺もだ」
 ロイがグレイの肩をポンと叩いた。
 グレイが頷く。
「影武者でも何でも用意してやればいいんだ」
「言いたいことはわかりますけど、多分、それは通用しませんよ」
 ディーが苦笑する。
「わかってるけどよー」
 あー、と声を出してグレイが後ろへひっくり返る。
「なぁ、王都に着いたら、兄ちゃんたち殴ってもいいか」
 ロイの言葉にギョッとする。
「ダメですよ」
 ディーが微笑むが、目が笑っていない。
「私が殴るので」
 ディーの言葉にロイとグレイが声に出して笑う。
「私のショーヘイさんを、散々利用してただで済むと思うなよ」
「俺たちの、な」
 ロイがすかさず訂正しつつ大笑いする。
「俺の分も頼むわ」
 グレイが起き上がり、肩を震わせてクックッと笑う。
「よし。まとまったところで、明日に備えてもう寝るか」
 いそいそと寝る場所を確保してさっさと横になり布団を被る。
 その隣にロイが滑り込むと、もそもそと俺の布団に入ってくる。
「自分の布団あるだろ」
 俺にくっついて顔を擦り寄せるロイに顔を顰めた。
「俺はこの肉布団で」
「アホか!」
 ゴンとロイの頭を拳骨で殴るが、離れようとしない。
「もうちょっとそっちに行ってください」
 反対側にディーも滑り込む。
「おい」
 2人で俺を抱き枕のように抱きしめてくる。
「絶対に守ってやるからな」
「そうですよ。絶対に手出しさせません」
「…うん。任せた」
「お前ら、自重しろよ」
 遠くからグレイに言われて、この状況でするかよ、と反論する。
「それは難しいな」
「我慢出来なかったらごめんなさい」
「はぁ!?」
 思わず2人の腕の中から逃げようとするが、手を掴まれて引き止められ、クックッと3人が笑い揶揄われたと気付く。
 そのまま脱力し目を瞑る。

 明日も襲撃があるのかな、出来れば何も無ければいいんだけど。

 そう願いつつ、2人の体温で温められうとうとと微睡むと眠りにつく。




 
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