おっさんが願うもの

猫の手

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王都への旅路 〜囮と襲撃〜

おっさん、囮になる

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 聖女が王都へ。

 千年以上前から語り継がれてきた伝説の存在が初めて人々の前に姿を現す。
 
 聖女降臨に決まった周期はなく、現在から直近の聖女は40年前まで遡る。
 その時に出現した聖女は、とある農村で枯れた水源を復活させ、その地に住まう者達を飢えから救った。
 その前は70年前、モンスターブレイクに襲われた、とある国の王都を丸ごと結界で覆って救った。
 177年前、213年前、225年前、318年前…。
 世界中のあちこちで奇跡が起こり、聖女の奇跡として噂が広がり、全世界に広まって行く。
 その内容も実に様々で、天変地異から戦争、生活に関わるちょっとしたことまで、多岐に渡る。

 約2ヶ月前にサンドラーク公国に出現した聖女は、従者とともに自らも魔獣を打ち倒し、村をモンスターブレイクから守った。
 さらに軽傷から重症者まで、負傷した村人数百人を、一度のヒールで完治させるという奇跡を起こし、「戦う聖女様」として、瞬く間に噂が世界中に広まって行った。


「戦う聖女様って…」
 事情を知っているロイ達は今にも笑い出しそうな顔をしていた。
 何かのキャッチコピーみたいだ、とあははと力なく笑う。
「すでに外務局を通じて各国から問い合わせが入っているそうだ。
 今の所は知らぬ存ぜぬで通しているが、その存在が実在するとバレるのも時間の問題だな」
「その前に先手を打ってこちらから公表する、というわけですね」
 レインのセリフにディーが続けた。
「あくまでもショーヘイを聖女として王都へ連れて行き、公表する。
 彼がジュノーであることは、限られた者にしか公表しないというのが、現在の王の見解だ」
 レインが1人掛けソファに座り、ゆったりと足を組み直すと、グラスの中の琥珀色の酒を飲む。
「すでに大規模な出迎えの準備を進めているから、公表しているようなもんだがな」
 まぁ、それもわざとだが、とフンと鼻で笑う。
「なんか面倒くせえことになったな」
 ロイが両腕を上げ、頭の後ろで手を組むとふんぞりかえる。
「誰のせいだ。お前らがジュノーの存在を隠すために聖女伝説を利用したのがきっかけだろうが」
 レインが聞きづてならんと言い返し、3人がその正論にぐぬぬとなる。

 イグリット領で聖女の存在を大々的にアピールし、お家騒動では各貴族の前で聖女が王都へ向かっていると公言してしまっている。
 まさに今の状況が自分達が蒔いた種の結果なのだ。

「冗談だ。
 ジュノーの存在を隠すには最善の策だ。よくやった。
 おかげで現れたのがジュノーではなく、聖女だったと情報が切り替わって、外交がやりやすくなったと、サイファーが笑ってたぞ」
 レインが責任を感じた顔をする3人を笑い、揶揄ったと打ち明け、それぞれが今度はムッとした表情に変わった。
「腹芸はまだまだだな」
 レインに笑われる。

「事実を確認するために各国から諜報員が続々と王都入りしているという情報が黒から入ってるぞ」
 グリフィスが老眼鏡をかけ、書類をペラペラと捲りながら言う。
「ああ、そうだ。紹介しておこう」
 レインがフィッシャーを振り向く。
「アルヴィン・フィッシャー伯爵。我が部隊所属だが、黒騎士でもある」
 白髪混じりの黒髪と顎髭が良く似合う、50代くらいのすらっとした長身のイケオジが前に出ると、ソファの端に座っていた俺に跪き、礼の如く手を取られて口付けられた。
「どうぞアルとお呼びください」
「あ…よろしくお願いします」
 下からニコリと微笑まれ、あまりのイケオジっぷりに憧れの眼差しを向け赤面した。
「フィッシャー伯も黒騎士だったんですか…」
 ディーが眉間を押さえて、頭が痛いような仕草をする。
「王女殿下には、くれぐれもディーゼル殿下にバレないようにと言われていましたので、隠すのに必死でしたよ」
 全く必死さが伝わってこない。
 ディーが思い切り顰めっ面をして、フィッシャーが笑う。
「話を元に戻すが、とにかくショーヘイは聖女様として王都入りさせる」
 ここでグレイが手を上げる。
「わからんのは、何故第1部隊が派遣されたかだ。ドルキアから帰還してくるローガンの第2部隊でも良かったんじゃないか?」
 グレイが眉を寄せてレインに聞く。
「明日、慌てるようにここを出るのも関係しているんですね?」
 便乗してディーが聞いた。
「まぁ想定していたことではあるんだがな」
 グリフィスが老眼鏡の位置を調整しつつ、報告書の中から該当のページを探す。
「聖女教会が動き出してな」
 グリフィスが書類を近付けたり離したりしながら言った。どうやら字がかなり小さく読みづらいらしい。
 俺以外が、あー…とうんざりしたような顔をした。
 その様子に、俺だけが何?何?と挙動不審になる。
「道すがら話すって言った宗教がらみの話」
 隣に座るロイが俺の手を握る。
「言葉からすると、聖女を奉る感じ?」
 あっけらかんとした口調で聞くと、ロイが苦笑する。
「まぁ、その通りではあるがな」
 レインが笑いながら説明した。
「宗教と名乗ってはいるが、実質的には聖女フリークの集まりだ」
「聖女フリーク…?」
 俺も顔を顰める。嫌な予感しかしない。
 
 聖女教会とは、聖女伝説を元に、聖女を崇め奉る集団で、数々の奇跡を布教してまわり、世界中に信者がいる。
 だが、やっていることは、元の世界に置き換えると、ファンクラブのようなものだと思った。
 聖女の奇跡の書籍、関連グッズの販売、集会などを行い、実在が定かではない聖女の狂信的なファンの集団だと教えてもらった。

「うわぁ…」
 元の世界での、アイドルを熱狂的に応援する人々を思い出す。
 俺はアイドルには興味はなかったが、同僚で1人、某アイドルグループの熱烈なファンが居て、気がつけば社内でどんどん仲間を増やしていた。
 アイドルを応援するという行為には、中毒性があるらしいと、どこかの評論家がテレビで話していたのを思い出す。

「これがなかなかバカに出来なくてな。狂信的な信者の中には過激な行為に出る輩も少なくない」
 レインが苦笑いする。
 だが、実際に存在するかどうかも怪しい聖女に対して、過激な行為って何だ?と首を傾げる。
「聖女が居たと噂される建物への侵入、聖女が使ったとされる物の略奪。まだまだありますよ」
 ディーが指折り数えながらその犯罪履歴を話す。
「物を盗んだりするのはまだ可愛い方だ。問題はその過程で人殺しも厭わないってことだ」
 ロイが真剣に言う。
「聖女が滞在したとされた家は、その家に住んでいた一家が全員殺され、家から家具から全て解体され小分けにされて、お守りとして売られたこともあるんです」
「はぁ!?」
 あまりの内容に声を出す。
「下手したら、ジュノーを奪いにくる商人や各国諜報員よりもタチが悪いぞ」
 グレイもため息をついて、何故第1部隊が派遣されたのか納得した。
「聖女教会の面々が王都に集結しつつある。主要メンバーの割り出しは終わって監視をつけているが、それに漏れた者も多い」
「確実にショーヘーを奪いにくるぞ」
 その言葉に、ゾクッと背筋を悪寒が走った。
「俺、そいつらに捕まったら…殺されてバラバラにされて…」
「その前に確実に犯されるな」
 レインの言葉にヒグッと変な声を出し、青ざめる。
「安心しろ。そうさせないために俺たちが来たんだぞ。俺たちはつえーぞ」
 グリフィスがドヤ顔で笑う。
「あははは…」
 ついつられて笑ったが、ジュノーとしても、聖女としても攫われたらレイプされるなんて、なんて世界だ、とこの世界の非情さを呪いたくなる。
「怖がらせるのもほどほどに」
 ディーが苦笑しながら言い、言われたことはまず起こり得ないと、慰めてくれた。
「ショーヘイさんは、戦う聖女様ですよ。万が一教会の連中に襲われた時は、その有り余る魔力で叩きのめしていいですからね」
 笑いながらディーに言われて、ああ、そうだった、と万が一の時は思い切り反撃しようと決意する。
「もしそんなことがあれば、ボコボコにしてやる」
 独り言を言ったはずだが、全員俺の言葉を聞いていて、言った瞬間笑われた。
「物騒な聖女様だな」
 レインが可笑しそうに笑う。
「まぁ、そんなわけでこの街にも信者が入り込んでてな。1箇所に留まる時間をなるべく短くしたい」
「現在この屋敷の周囲は黒騎士が警護にあたっているのでご安心を」
 フィッシャーが微笑む。
 レインが空になった自分のグラスへ酒を注ぎ、同じく空になった者たちのグラスも満たす。


 一呼吸置いたあと、次の話へ移る。
「最後に王都へ入る時なんだが、グリフィス、説明を」
「ほい」
 グリフィスが王都周辺から内部の地図をテーブルへ広げる。
 その地図には、馬車が城壁の門から王城へ向かうまでのルートが既に描かれていた。
 メインストリートであろう道を進むが、一つの通りを進わけではなく、王都の一番奥に鎮座する岩山を背にした王城に向かって、グネグネとあらゆる通りを使って進むことになっていた。
「…これって…、パレード?」
 思わずそのルートの長さに呟く。
「聖女様を国民にお披露目するんだ」
 グリフィスが説明する。
「なんですかこれ」
 そのルートをじっくり眺め、ディーが顔を顰めて呟く。
「気付いたか、坊ちゃん」
「ここ、ここ、ここも、ここもか」
 ディーが次々と地図上の箇所を指差す。
「襲撃があるとすれば、この場所でしょうね」
 ディーの声が低くなり、怒りが含まれたことに気付く。
「んだと」
 ロイもピクリと反応した。
「悪いな。王命だ。ショーヘーを囮にして、聖女教会ならびに他国のスパイどもを一掃する」
 3人の怒りが一瞬で膨れ上がる。
「っざけんなよ!! 囮ってどういうことだ!!!」
 ロイが怒鳴り、レインへ掴み掛かろうとしたが、いつのまにかロイの後ろへ回り込んでいたフィッシャーがロイの両肩を掴んで抑え込み、立ち上がることさえさせなかった。
 こうなることはわかっていたという動きに驚きを隠せない。
「最後まで話を聞け」
 レインが先走って怒りを纏った3人へ不敵な笑みを浮かべた。
「ショーヘイがジュノーだという情報は消えたわけじゃない。最後のチャンスとばかりに、ここから王都までの行程で、王都内で、襲ってくるだろう」
「事実、他国のスパイはもちろん、誘拐目的で雇われた荒くれ者も入国したという情報がある。
 わかった時点で処理しているが、完璧とはいかないのでね」
 フィッシャーが黒騎士経由での情報を告げる。
「だからわざわざ狙い易い場所を用意したってわけか」
 ロイが忌々しげに肩に置かれたフィッシャーの手を振り払うと、ソファに座り直した。
「そうだ。もちろん、ルートを決める際に発生した偶然の抜け穴として装っている。
 よっぽどの戦略家でない限り、わざとだとは見抜けんだろうな」
 レインが不敵に笑い、ディーをちらりと見て、このルートを作ったのは、最高軍事統括のアランだと言った。
「各士団の精鋭が配置されるが、ほぼ魔導士団と黒騎士だ」
「襲撃される前に片付けるってことか」
 暗殺に長けた黒騎士が、誘き出された襲撃者を片付け、魔導士団がその者たちを拘束、隠蔽する。
「それでも万が一の時は」
 グレイが顰めっつらで腕を組んでレインを睨む。
「その時のためのお前達だろう?」
 レインがニコリと笑う。
「そのための近衞騎士だ」
 レインがグリフィスから書簡を受け取り、開くと読み上げる。
「ディーゼル・サンドラーク、獣士団第2部隊隊長グレイ、ロイ、3名をショーヘイ・シマダの近衞騎士に任命する。
 なお、任期は危機が去るまでとするが、状況を見て判断せよ」
 王と宰相の署名入りだ、と書簡をディーへ渡し、順番にグレイ、ロイ、俺へと渡った。
 3人の着ている見たこともない真っ白い騎士服が、近衞騎士のものだとここでわかった。
「ショーヘー、いいのか? 断ってもいいんだぞ?」
「そうですよ。
 王家のイメージ戦略に使われて、さらに囮にされるなんて」
 グレイとディーの言葉に、断われるもんなのか?と思うが、書簡をクルクルと丸めてレインに返しながら、話す。
「別にいいんじゃね?」
「お前…」
 ロイが呆れたように俺を見る。
「だって、狙われてるのは俺だし、囮としては最適だろ?
 いつ襲撃されるかわからない状況で怯えるより、計画に乗っかって一掃した方が後への憂いもなくなる」
 俺の言葉に、レインもグリフィスもフィッシャーも一瞬だけ目を見開く。
「俺だって万が一の時は戦えるし」
「あはははは!!」
 そのやりとりを見ていたレインが突然大声で笑い出す。
「戦う聖女様か、まさにその通りだな」
 クックックと笑いを堪えられずに肩を揺らす。
「本人もこう言ってることだし、この計画で王都へ乗り込むぞ。いいな」
 レインが笑いながら俺たちに言い、3人は諦めたようにそれを了承した。
「ああ、そうそう」
 レインが手紙を出してディーに渡す。
「王から坊ちゃんに」
 受け取ったディーが嫌な予感を抱きつつ開封する。
 そして折り畳まれた手紙を広げると、思い切り変な顔をした後にブルブルと震え、額に青筋が何本も立つ。
「あんの、クソ親父ぃぃ!!!」
 その手紙をロイとグレイと3人で見て、爆笑した。



 ごめんちゃい テヘペロ



「国王…相変わらずだな…」
 フィッシャーが笑いながら呟いた。





 談話室を出て各自部屋へ戻る。
「何で一緒じゃないんだよ!」
「我儘おっしゃらないでください。聖女様はこれからお休みになられるんです!」
 マーサが部屋の入り口で腕を組み、仁王立ちでロイを塞ぐ。
 どうやら、この屋敷ではそれぞれが個室になるようで、当然ロイとディーとも離れる。
「俺が添い寝するから」
「何をバカなことを」
「ロイ、諦めましょう…マーサが相手では無理です…」
 ディーがポンとロイの肩を叩く。
「いーやー!ショーヘー!」
 地団駄を踏むロイに苦笑する。
「ロイ、我慢しろ。仕方ないだろ」
 宥めるようにロイの腕を撫でたが、その瞬間、壁に押し付けられ、キスされた。
 廊下のあちこちから、騒ぎに顔を覗かせていた騎士達が、ヒューと口笛を鳴らす。
「ん…」
 重ねるだけではなく、舌を絡め取られ、口内を蹂躙される。
「ロイ、チェンジ」
 後ろからディーがロイの肩を掴む。
「っち」
 ロイが思い切り舌打ちすると、ディーへ交代し、今度はディーに濃厚なキスをされ、再び冷やかしの声と口笛が鳴った。
「はふ…」
 2人の濃厚なキスに頭の芯が痺れる感じにため息を漏らした。
「もうよろしいでしょう!」
 マーサが俺の腕を掴むと引っ張って2人から引き剥がす。
「もっかい!」
 ロイが叫ぶ。
「馬鹿なこと言ってないで寝なさい!!」
 まるで小さい子供にするようにロイを叱り、俺を押して部屋の中へ入れる。
 笑いながらバイバイと2人に手を振ると、ロイの顔が歪みブー垂れる。
「夜這いに行くから!」
「来させませんよ!」
 ロイの宣言にマーサがすかさず答え、周囲から笑い声が聞こえた。

 マーサの手で服を脱がされる。
 下着1枚になると寝夜着を着せてこようとしたので、恐縮しつつ断り自分で着た。
 その後、椅子に座らされて髪を解かれてブラッシングされながら話をする。
「全くもう、いつまで経っても我儘で」
 ブツブツというマーサに、思わず笑う。
「マーサさんは、2人をよく知ってるんですね」
「それはもう、ディーゼル様は赤ちゃんの頃からですし、ロイ様は12歳の頃からお世話してましたよ。
 もう2人ともやんちゃでやんちゃで」
 その当時思い浮かべてクスクスとマーサが笑う。
「まさかお二人が1人の男性を同時に愛されるなんて思いもしませんでしたわ」
 マーサが笑いながら言うが、その言葉に、俺なんかですみません、と恐縮してしまう。
「ショーヘイ様で、安心いたしました」
 マーサが優しい目を俺に向ける。
「どうか、ディーゼル様とロイ様をよろしくお願い申し上げます」
「あ…俺なんかで…いいんでしょうか…」
 マーサが2人に望んでいた伴侶として、俺が合格しているかどうか聞いてみる。
「王宮で、サイファー様にお二人が伴侶を見つけたと聞いた時には、どんな方か見極めなくてはと思っていましたが…。貴方様にお会いして、そんな考えは吹き飛びましたわ」
 ブラッシングが終わって立ち上がると、マーサが俺にクリーンをかける。
「お二人は、とても良い方をお選びになったと、誇りに思いますわ。
 貴方様は、あの方達に相応しいお方です。可愛らしくて、品もあって。
 でもそれをひけらかしもしない。
 候補に上がっていたお貴族様の子息令嬢とは比べものになりませんわ」
 最後に寝夜着の皺などを、パッパと手で直して、俺の顔を見て微笑む。
「あのお二人を支えられるのは、貴方様しかいないと、直感いたしました。
 どうか、この婆の願いを聞いてくださいませ。
 ディーゼル様を、ロイ様を、幸せにしてあげてください」
 少しだけ目を潤ませて微笑むマーサに、俺も目を潤ませる。
「ありがとうございます…」
「さ、横へなってくださいませ。明日の朝、また参ります。
 お休みなさいませ」
 深々と丁寧にお辞儀をして、マーサが静かに部屋を出ていった。

 天蓋つきのベッドで、1人仰向けになって天井を見上げる。
 今朝から頭に入ってきた情報をゆっくりと整理している内に、自然と瞼が閉じ、眠りに落ちた。





 ゴソゴソという衣擦れの音と、体を動かされたことにゆっくりと覚醒する。
「ん…?」
 ぼんやりと目の前に人影が見えて、起こされて座らされた体勢だと気付いた。
「…お前ら…」
 ぼんやり見えた人影がロイだと気付き、背後から俺を抱きしめるディーの存在に気付く。
「夜這いに来ちゃった」
「何が来ちゃった、だよ」
 テヘペロっとするロイを蹴ろうとするが、逆に足を掴まれて、途中まで下げられていた寝夜着を下着ごと脱がされる。
「なぁ…いいだろ?」
 上半身もすでに前のボタンを外されて、はだけた状態にされた上で、その確認はないだろ、と呆れる。
「一回だけだぞ。昨日の今日なんだから」
「すみません、ショーヘイさん」
 後ろからディーが申し訳なさそうに言ってくるが、さっきから腰に当たっている硬いモノはなんだ、と呆れる。
 惚れた弱みというやつなのか、怒る気にはならないが、それでも回数制限を設ける。
「一回だけ」
 ロイが復唱して、屈むと、俺のペニスを手に取り、うっとりするように顔を寄せて舌で舐め上げる。
「あ…ぁ、んぅ」
 ロイの舌で追い上げられ、口から嬌声が漏れる。
「ディー…」
 後ろにいるディーを振り向き、少しだけ舌を突き出すと、ディーが微笑み、舌を触れさせてそのまま深いキスを交わす。
「ん…ん…」
 互いに舌を絡ませて、その甘いキスにうっとりとした表情を見せた。
 唇を合わせながら、ディーの指が俺の乳首に触れ、指で弾き、先端を擦る。
「あ、あ…」
 その刺激にピクピクと反応を返しつつ、ロイの口にペニスを含まれて、ギュッと目を閉じた。
「あ、ロイ…」
 ロイのローションに濡れた指がアナルを解し、奥へ奥へと入ってくる。
 グジュ、ジュプと指が出入りする度に音を立てて、いやらしい音に興奮する。
「本当はもっとゆっくり、たくさん味わいたい…」
 ロイが足を抱えると、後ろからディーが俺を支え、伸びてきた手がペニスから陰嚢までなぞり、アナルをロイが入りやすいように人差し指と中指を使ってクパァと開く。
 そのディーの指の間にロイのペニスが添えられて、クプリとロイのペニスを受け入れて行く。
「ん…んぅ、あ、あ」
 ズズッと飲み込むアナルの狭さに、ロイが顔を顰めつつも、歓喜のため息をつく。
 ディーの手がゆるゆると俺のペニスを扱きつつ、乳首も口の中も、全てを使って俺を追い立てる。
「ん!んぅ!ん!!」
 ロイの腰が動き始めて、奥の壁をゴツゴツと突き上げ、さらに奥へ進もうとする。
「んあ!!」
 グポッと音がするような感覚に、思わず口を離し悲鳴に近い声を上げた。
「あ!あ“あ!お、奥!」
 最奥を遠慮なく突き上げてくるロイに、腹を抉られるような錯覚を起こすと同時に、内部から伝わる快感に声が止まらない。
「いい?ショーヘー、奥、気持ちいい?」
「あ”ぁ!あ!いい!きもち、い!」
「可愛い、ショーヘイさん」
 クスッと笑うが、俺のペニスの根本をギュッと握り、射精出来なくする。
「んあ“!!あ!や、離し」
「ダメですよ。イくと疲れますから、少し我慢して…」
 ロイの律動に合わせてゾクゾクと快感が襲うが、ディーの手が射精を許してくれない。
「やぁ!あ”!い、イかせ、て」
 泣きながらディーに懇願するが、ディーは根本を握り、離さない。
「お願、あ!ああ!!」
 何度も何度もロイに最奥を突き上げられ、射精の衝動がピークを迎えるが、堰き止められてイクことができない。
「んぅ」
 ロイが小さく呻くと、俺の中が熱くなる。
 ビューッと中でロイが射精する感覚を受け止めながら、ビクビクと痙攣し射精は出来ないが、絶頂感を味わう空イキを経験して、意識が飛びかける。
 ロイが射精が終わったペニスをゆっくりと引き抜くと、ディーも手を離す。
 途端に白濁とした精液が鈴口からトロリと溢れ落ちた。 
「おい、ディー…」
 ロイが呆れたようにディーのやったことに苦笑する。
「ショーヘイさんのためですから」
 ディーが背後から翔平を抱きしめたまま横たわると、片足を大きく抱え上げ、ゆっくりとペニスを挿入する。
「んぁ…」
 ディーの挿入に合わせるかのように、鈴口からトロトロと精液が溢れ落ち、長く射精し続けるという錯覚を起こした。
「あ、あぁー」
 その錯覚に自然に腰が揺れ、ディーの動きに合わせ始めた。
「うわ…、エロ…」
 翔平が自分からディーへ押し付けるように腰を揺らすのを見て、射精したばかりのロイも再び力を取り戻した。
 そして翔平と向かいあわせに寝転がると、己のペニスを翔平のものに擦り合わせ、2本同時にしごく。
「あぁ…ショーヘー…」
 舌を絡ませあい、吸いながらペニスをしごく。
「ん、ん、んぅ、ん」
 ロイの舌を感じながら、ペニスを扱かれ、中を突き上げられ、気持ち良すぎて理性が逃げ出していく。
「お願い…イカせて…」
 うっとりした声で囁き、ディーが律動を早め、最奥をゴツゴツと突き上げる。
「あ、あ、い、イク…、イっちゃう…」
 ロイの手で2本同時に追い立てられ、ほぼ3人同時に絶頂に達した。
 今度は勢いよく射精し、その快感にビクビクと体が跳ねる。

 3人でハァハァと荒い呼吸で横たわり、快楽の余韻に浸る。
「約束通り、一回な」
 ロイは2回イっているし、俺は射精したのは1回だが、絶頂感を2度味わったから2回じゃないか、と文句を言いたくなる。
「そのまま寝てろ、綺麗にするから」
「ん…」
 俺はまだこの余韻に浸りたくて、言われる通りに寝たままでいた。
 2人が起き上がり、俺にクリーンをかけつつ、寝夜着を着せる。
「じゃーな、ショーヘー。すげー良かった」
「お休みなさい」
 最後に、もう一度長めのキスを2人からされて、そっと窓から出ていくのを首を動かして見ていた。
 そのこそこしした後ろ姿を見ながら笑う。
「俺も大概だな…」
 昨日抱き潰されるだけSEXしたのに、また今日も受け入れるだなんて、と自虐的に笑った。
 それもこれも、気持ち良すぎるのがダメなんだ。
 気持ち良すぎて、普段絶対口に出来ない、思いもつかないことを口走りそうになるのを、僅かに残った理性が抑えていた。
 だが、きっとそれも時間の問題だ。
 
 そう遠くないいつか、理性があっても俺は2人を求める。
 心が求めているように、体も2人を求めて身悶えることになるだろう。

 そう確信した。





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