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王都への旅路 〜自称婚約者〜
77.おっさん、毒にうち勝つ
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「なんかザワついてるね」
窓際で椅子に座り、窓から見える湖の美しい景色を見ながら、ティーカップを右手に、左手にソーサーを持った、長めの金髪を後ろで縛った少年が、近くにいた体格の良い男に話しかける。
「そうだな。あれだろ、下に王子殿下御一行が泊まってるみてえだし、暗殺未遂事件でもあったんじゃねーか?」
筋肉を揺すりながらワハハと笑う。
「暗殺未遂は笑い事じゃないよ」
そう苦笑しながら嗜めつつも、あながちその言葉の内容が正解に近いんじゃないかな、と思いほくそ笑む。
「エド、今日はどうする?」
男が少年の向いの席に座る。
「ん~、そうだねぇ…晴れたしねぇ…」
少年がティーカップをテーブルへ置くと立ち上がり男へ近寄ると、その膝を跨いで座り、男の股間へ自分の尻を押し付けた。
「観光でもしようか?」
そのままグリグリと尻を押し付けながらペロリと自分の唇を舐めた。
「言ってることとやってることが合ってないんだけど」
笑いなら男が少年の腰を掴む。
「いーじゃない、昨日の続きでもさ」
そう言って、男の唇に自分の唇を押し付ける。
「好きものだな、俺の主人は」
そう言いつつ、小さな尻を両方鷲掴み、揉みしだいた。
「お前だってもっと僕を犯したいだろ?」
そう言って、自分からシャツをたくし上げ、ぷくっと立ち上がった乳首を男へ見せる。
「いい眺め」
その乳首へ顔を寄せ舌を突き出し、舐めようとした瞬間、ドアがノックされた。
2人の顔が一瞬で真顔から顰めっ面になり舌打ちした。
「いい所なのに」
少年が男の膝から降り、男が立ち上がってドアへ近付く。
「はいはい、何方?」
ドア越しに来訪者を確認する。
「オーナーのビンセントでございます」
「なんか用?」
ドアを開けずに用件を聞く。
「申し訳ありません。少しだけお時間をいただけないでしょうか」
オーナーの代わりに、ディーがドアに向かって言った。
男は後ろにいた少年を見ると、少年がディーの声に気付いて頷く。
内鍵を開け、ドアを開けた。
「ありがとうございます」
ディーが深々と頭を下げるが、ドアを開けた男の顔を見て驚き目を丸くした。
「ブラッド…」
「おう。久しぶりだなぁ」
ブラッドと呼ばれた男が3人を見て、ニカっと笑った。
それを見て少年が苦笑する。
「どうぞ」
部屋の奥から少年が言い、ブラッドに促されて部屋の中へ入る。
「お初にお目にかかります。ディーゼル・サンドラーク殿下。
エドワード・クラークと申します」
少年が姿勢を正し、右腕を胸の前に持ってくると左腕を後ろに回し、腰から丁寧に頭を下げた後、手を差し出して握手を求めた。
「初めまして。クラーク様。
お寛ぎのところ、大変申し訳ありません」
ディーも同じように頭を下げ、エドワードの手を握り返した。
「どうぞ、エドとお呼びください。
何かお急ぎのようでしたが、何かございましたか?」
少年、エドワードがニコリと微笑む。
そのエドワードの対応に、少年ではなく、れっきとした成人男性であると気付いた。
子供のような体躯を持つ、ハーフリング。小人族だった。あの女性が男の子と間違えるのも無理はない。おそらくわざとだろうが、エドワードは子供の格好をしている。
ハーフリングはその体のせいで子供に間違えられることが多い。だから、成人になると、身なりにはかなり気を使う種族だ。
だが、目の前のエドワードは子供の装いをしている。明らかに見た目を利用して立場を偽っていることがわかる。
さらに、最初から、目の前にいるのがこの国の王子であるとわかった上で挨拶をしたことに、しっかりと教養を身につけていることもわかった。
そしてクラークという名前。
ディーが内心身構える。
「早速で申し訳ありませんが、昨日の夜、メイドに水を部屋まで運ぶように頼みましたか?」
「ああ、頼みましたよ」
答えながら、部屋のソファへ3人を促しつつ、自分も向かい側に座り、その後方にブラッドが立つ。
「頼んだんですけど…」
「何かありましたか?」
エドワードが苦笑する。
「実は、メイドが一緒にいた女性に対する態度が気になりましてね。
お節介だとは思ったんですが、助け舟を出すつもりで声をかけたんです」
「態度とはどんな?」
「要するに脅しですね」
「内容は覚えていますか?」
ディーに真剣に言われ、エドワードが指を口元に当てて思い出そうとする。
「全部聞こえたわけではありませんが…。
確か、あの時と同じことをすればいいと。そう言って、彼女の手に布、袋かな? 何かを握らせていました」
3人とも、目撃者がいたことにホッとする。
だが、あの時とは何だと別の疑問が浮上した。
「その何か、見ればわかりますか?」
「多分。色は覚えていますし」
ディーが頷く。
「他に何か覚えていませんか」
ディーがさらに聞く。
「脅されていた彼女、何度も断っていましたよ。出来ないと。
でも、あのことをバラしてもいいのか、と言われてましたね。
それで、ああ、脅されているんだと思ったんです」
エドワードが可哀想に、と呟く。
「あのメイド、ロマーノ公爵令嬢ですよね?元ですけど」
「ご存知でしたか」
「うちもロマーノ家とは取引がありましたから。
あ、もちろん正規にですよ」
エドワードが苦笑しつつ言う。
「何度かお会いしたことはあります。話したことはありませんがね。
彼女は私なんか眼中にありませんでしたから。彼女にとって平民は下賤な者、ですからね」
そう言って自虐的に笑う。
「今の話、正式に証言をお願い出来ますか?」
ディーが真剣にエドワードを見つめる。
「…もちろん…、と言いたい所なのですが…」
エドワードが苦笑する。
「実は、今お忍びの最中でして。あまり表立って名前を出されるのはいささか…」
「それは承知しております。
ですので、名前は公式的には出しません。限られた者が見る文書には記載されますが、表立って公表されないよう、こちらでも配慮します」
「それならば、可能です。協力は惜しみません」
エドワードがニコリと微笑む。
「ありがとうございます」
そう言って、ディーから手を差し出すと、エドワードもその手を握り返した。
「ディーゼル殿下」
その手をギュッと握り、ディーを見つめる。
「何があったのかはお察しします。こちらとしても証言する理由はお聞きしません」
さらに強く手を握る。
「どうか今後とも、我が商会をよろしくお願いいたします」
そう言って、ニヤリと笑う。
ディーがその言葉に苦笑しつつ、頷いた。
「お前は護衛か?」
部屋を出る時に、ブラッドへグレイが聞いた。
「あー、まぁ、そんなもんだ」
ブラッドが言い淀む。
「ああ、彼とのお忍び旅行なんです」
エドワードがツラッとバラし、ブラッドが照れつつ頭をかく。
「あぁ、そういうことね…」
グレイがスンと真顔で答え、ロイに気付けよ、と小突かれた。
「なぁ、あのガキ、じゃねーのか。エドワードって何者なんだよ」
部屋を出て開口一番にロイがディーに聞く。
「彼は、帝国のクラーク商会の御曹司ですよ」
ディーが顔を顰める。
「あぁ、クラークね…。
…クラーク商会って、あのクラーク商会か」
ロイが若干慌てたように声を出した。
「そうですよ。
ここで縁を持てたのは幸いにしても…、借りを作ることになりましたね」
どうして証言が必要なのか、その理由を聞かれれば、翔平に毒を盛られたことを話さなければならないが、それは同時に翔平が何者なのかも詮索されることになる。
それを彼は察して、あえて聞かない、と言ったことに、彼のしたたかな思惑が絡み、一筋縄ではいかない相手だと思った。
帝国の大商会の息子、エドワード・クラーク。
味方には出来なくても、彼の敵にはならないようにしなくては、と心の中で呟く。
「あの3人と知り合いだったの?」
エドワードがベッドに寝転んだブラッドへ跨り、シャツを脱ぐ。
「ああ、戦争中にちょっとな」
「僕、そんな話聞いてないよ」
口を尖らせて文句を言いながら、ブラッドの上着のボタンを外していく。
「聞かれなかったからな」
笑いながら答え、下からエドワードの乳首を指で撫でる。
「あ」
ピクンと反応を返したエドワードが甘い声を出す。
「SEX以外でやる事出来て良かったじゃねーか」
ブラッドが上半身を起こすと、その乳首へしゃぶりつき、舌で転がしチュウゥと吸い付く。
「あん…僕は、この国に遊びに来たんだよ…あ」
「どこにも行かねーで、ずっとSEXしてるけどな」
「いーじゃない、気持ちいいこと好きでしょ?」
「まあな」
ブラッドの腕がその小さな体を軽々と持ち上げて、ベッドへ押し倒し、その体を心ゆくまで貪った。
貴賓室を出て、一度翔平の様子を見に戻る。
「お帰りなさい。
ショーヘーさん、だいぶ落ち着ついて来たっスよ」
アイザックがベッド脇で立ち上がり、3人を迎える。
「ショーヘー」
仰向けに寝て目を閉じ、ハァハァと荒い呼吸を繰り返す翔平の頬に触れる。
まだ呼吸は荒いが、毒が回り始めた時の短い呼吸より、少しだけ長くなった呼吸は、少しづつ体内のマケイラの種子を消滅させて行っている証拠だ。
額に汗が浮かび、アイザックが濡れた冷たいタオルで、顔を拭いて汗を拭う。
「頑張ってるっスよ。並の精神力じゃないっス」
「俺が惚れた奴だからな」
ロイが照れもせずに呟き、額にキスを落とす。
ディーも同様に、愛おしげに翔平に触れると、小さく頑張ってください、と呟きながら額にキスした。
「どうだったんですか?証言とれたっスか?」
「ああ、大丈夫だ」
「これでマチルダを捕らえられる」
そして、再び、実行犯である女性の元へ向かった。
女性は自室で着替えを済ませ、軟禁された状態で椅子に座っていた。
見張りについていたイーサンに、アーロンとクリフと同様にマチルダの監視にいかせ、再び女性に話を聞いた。
「名前は?」
「アイリーンと申します」
小さく震える声でアイリーンが答える。
「アイリーン、貴賓室の客がマチルダがあなたに袋を渡していた所を見たと。きちんと証言もしてくださるそうです」
それを聞いて、アイリーンが顔を手で覆い、肩を震わせて泣く。
「マチルダとお前の会話を聞いたそうだ。お前、マチルダに脅されているのか」
グレイが聞くと、ビクッと体を強張らせて、顔を上げた。
「あ…」
安堵から驚愕へと表情が代わり、すぐに青ざめた。
「マチルダとの間に何があったんだ」
ロイが先ほどの威圧するのとは違う声で静かに聞く。
「私は…」
アイリーンが静かに涙し、がっくりと項垂れて話し始めた。
「半年前、お嬢様がここへ来てすぐのことです…。
私は、お客様に……レイプされたんです」
小さく体震わせて、自分を抱きしめ守るように腕を交差させる。
「それをお嬢様に知られて、あんなことを…」
アイリーンの顔が青ざめる。
「お嬢様が、そのお客様にあの袋の中身を飲ませたんです。
今日と同じように、食後のお茶に混ぜて」
「お前じゃなく、マチルダが?」
「はい」
「その客はどうなった」
「亡くなりました。すぐに治癒師が呼ばれて、対処しようとしたんですけど、大量に飲み込んでいて、治癒師が来た時にはすでに…」
「遺体はどうなった」
「すぐに火葬されました。
治癒師の方がそう指示を出されて」
「あれがマケイラの毒だと気付いたんだろうな。すぐに火葬するのは最善の対処法だ。
お前はあれがマケイラの毒だと知っていたのか」
「いいえ、知りませんでした。
自警団も駆けつけて、騒ぎになったんですが、自殺だと断定されました」
「自殺…」
「お客様は、ここに宿泊出来るような裕福な方ではなかったんです。
借金を抱えてらっしゃって、死ぬおつもりでここに来たようで、部屋から遺書も見つかりました」
ロイが舌打ちする。
死ぬ前に使用人をレイプするなんて、もう何をしても死ぬからどうでもいい、と思ったのだろう。
そのあまりにも短絡的な考えに吐き気を覚えた。
「でも、あのお客様はマチルダお嬢様が殺したんです。
レイプされて打ちのめされている私に変わって、殺してやった、復讐してやった、お前のためにって。そんなこと、頼んでないのに…」
アイリーンが涙を膝の上で握り締めた手に落とす。
「それで、あのことをバラすぞ、か。
勝手に殺しておきながら、お前のためとか、なんて傲慢な女だ」
グレイが気持ちの悪い感情を押し殺すように歯を食いしばる。
「アイリーンを縛りつけ、利用するためでしょうね…」
ディーが深い息を吐く。
アイリーンの心情が計り知れない。
「私はそれから、バラされたくなかったら言うことを聞けって。彼女の仕事までやらされて、お金も何もかも取られて…。
せっかくロマーノ家から解放されて、まともな職場につけたと思ったのに…」
聞いていたオーナーが目頭を揉み涙を堪えた。
恩義のある人からの頼みとは言え、自分はとんでもない女を雇い入れたと、心から後悔する。
「どのくらいの量を入れたんだ」
「お嬢様からは全部入れるように言われたんですけど、そんなこと出来ません。
あの時お嬢様は、袋にあったものを全部お茶に入れていました。
それを飲んだお客様は数分と持たずに亡くなったのを見ています。
ですから、私は少しだけ…。
治療が間に合うように、少しだけ…」
アイリーンが泣く。
少しだけ、というが、毒を混ぜたことには変わらない。それが罪だということを彼女はよくわかっている。
マチルダに対して、自分は言われた通り毒を盛ったが命は助かった、という事実が彼女には必要だったのだ。
「良くわかった。
だが、お前のやったことは罪だ。それは認めるな」
「はい」
「後は自警団に引き継ぐ。後はそっちへ任せるが、お前の事情もよく説明しておく」
ロイがそう言うと、アイリーンがウワーと大声で泣き始め、オーナーが彼女の隣に座ると、その背中を摩り慰め始めた。
何度も何度も身体中にくまなく魔力を巡らせる。
頭から足先、指の一本一本にいたる隅々まで、慎重に丁寧に。
そしてまた一つ。
歪な形の黒い種子。
まるでその種子に意思があるかのように、俺の魔力から逃げるが、追いかけて種子を壊す。
「ん…」
壊すたびにピクッと体を反応させた。
「ショーヘーさん…」
アイザックが冷たいタオルを翔平の額に当ててその汗を拭う。
マケイラの毒を飲んでからおよそ5時間。
呼吸困難の苦しみと、全身を走る電流のような痛みに耐え、自身の体内を侵す種子を壊してきた。
そしてまた一つ、種子見つけて壊す。
「はぁ…」
翔平の口から息が吐かれ、ゆっくりと深く息を吸い込み、再び長い息を吐く。
深呼吸を何度か繰り返しつつ、何度も魔力で体内を探った。
もうどこにも種子はない。
呼吸が楽になり、痛みを伴う痺れも消えた。
閉じていた目を開けて視線を動かし、アイザックが心配そうに自分を見ていることに気付く。
「アイザック…」
「ショーヘーさん、終わったっスか?もう毒はないっスか?」
泣きそうな表情で聞かれて、小さく頷く。
「良かった…」
アイザックは深い安堵の息を吐く。
「み、ず…」
微かな声で水を求めた。
口呼吸を繰り返したことで喉がひりついて声が上手く出てこない。さらに大量の汗を掻いて、体が水を欲していた。
「ちょっと待っててください」
アイザックがすぐに立ち上がり、部屋のテーブルにあった水差しとコップを持ってくる。
アイザックに抱き起こされて、彼の胸に頭を預ける形で、コップを口に当て慎重に傾けて水を口の中へ注いでくれた。
「ん…」
じんわりと口の中の細胞一つ一つが水を吸収していくのがわかった。
コクリと乾き切った喉を潤す。
数回少なめの水を飲むと、その後はゴクゴクとコップの水を貪るように飲んだ。
「あー…生き返った…」
数杯の水を飲み干し、再びベッドに横に寝かされると、グッタリと体を投げ出す。
「疲れた…」
「無理もないっス。マケイラの毒の解毒は熟練の魔導士や騎士でもかなりキツいッスよ。集中を切らさずに意識して魔力を循環し続けるっスからね」
「そっか…。どのくらい経ったんだ?みんなは?」
アイザックが自分の着替えを用意してくれながら、クリーンをかけてくれる。
「だいたい5時間っスね。どうぞ、着替えてください」
服を渡し、アイザックがクルッと背中を向ける。
ありがとうと言いつつ、汗を吸い込んだ服を脱ぎ、綺麗な服を身につけた。
その時に胸の辺りを確認したが、心臓の辺りから広がっていた紫色の模様は跡形もなく消えていた。
かなりの疲労感に、体を動かすのが辛い。腕を上げるにも一苦労で、着替えるのにややしばらくかかってしまった。
「5時間もかかったのか…」
「5時間で済んだのはラッキーっスよ。下手したら丸一日かかることもあるって聞いたことがあるっス」
「え」
あの苦しみが24時間も、と考えてゾッとした。
「まあ、大抵は途中で力尽きて、結局は解毒出来ずにマケイラに侵食されて死ぬことが多いらしいっスけど」
アハハとアイザックが怖いことを笑いながら言い、あっけらかんとした言い方に力なく笑った。
「ショーヘーさんの魔力コントロールが上手なのもありますけど、飲んだ毒の量が少なかったのか、毒自体が粗悪品だったか。
どちらにせよ、助かって良かったっス」
ニカっとアイザックが笑い俺へ近付くと、スッと何の前触れもなく姫抱きに持ち上げられた。
「え、な」
「ショーヘーさん、軽いっスね」
そう言いながら、別のベッドへ降ろされた。
「汗かいてシーツも気持ち悪いから」
そう言われ、ああ、確かに、と今まで寝ていたベッドのシーツがしっとりの濡れていること気付いた。
それにしても、みんなの中で小柄な方だと思っていたアイザックが俺を軽々と持ち上げたことに驚く。
やっぱり騎士なんだな、と風呂で見たアイザックの上半身を思い出しガッチリついた筋肉を羨ましく思った。
「どこか痛いところとかはないっスか?」
「うん、大丈夫。ただすごくだるい」
はぁと息を吐きながら答え、指一本動かそうとするだけで、腕がプルプルと震えた。
「ロイ様に知らせないと。かなり怒ってて全員殺しかねない勢いだったっス」
アイザックがまた不穏な軽口を叩いて笑った。
「ああ…、待ってくれ。もうちょっとこのままで」
アイザックが知らせに行こうとするのを止めた。
「どうしたっスか?まだおかしいっスか?」
「いや…ロイもディーも知らせたらすっ飛んでくるだろ?
今抱き付かれたりするのはちょっと…」
2人が、俺が無事だとわかって駆け付けるのはいいのだが、その後抱き付かれたり、キスされたり、のしかかられるのは、今はまだ勘弁して欲しいとアイザックに言うと、アイザックがその光景を想像してゲラゲラと笑った。
「そうっスよね。お二人ともかなりショーヘーさんを溺愛してますからね」
「溺愛って…」
アイザックが知らせに行くのをやめてベッドのそばに座り直す。
「目に入れても痛くないんじゃないっスか?」
そう言ってシシシと笑う。
「グレイ様程じゃないっスけど、俺も御二方とはそこそこ付き合い長いんっスよ。
あんな風にデレた2人を見るのは初めてだし、新鮮で面白いっス」
「デレるってww」
「もーデレデレじゃないっスかwww」
アイザックと他愛のない会話を続け、3人には悪いが、もう少しだけこのまま知らせずにいようと思った。
「昔の話、アイザックが知ってる3人のこと教えてもらえるか?」
「えー。いいっスけど、俺が言ったってバラさないでくださいよw」
そうして、アイザックが獣士団時代のロイ、ディー、グレイの話を教えてくれる。
面白おかしく話す内容に、ついさっきまで毒に侵されて苦しんでいたことが嘘のように、声を出して笑った。
窓際で椅子に座り、窓から見える湖の美しい景色を見ながら、ティーカップを右手に、左手にソーサーを持った、長めの金髪を後ろで縛った少年が、近くにいた体格の良い男に話しかける。
「そうだな。あれだろ、下に王子殿下御一行が泊まってるみてえだし、暗殺未遂事件でもあったんじゃねーか?」
筋肉を揺すりながらワハハと笑う。
「暗殺未遂は笑い事じゃないよ」
そう苦笑しながら嗜めつつも、あながちその言葉の内容が正解に近いんじゃないかな、と思いほくそ笑む。
「エド、今日はどうする?」
男が少年の向いの席に座る。
「ん~、そうだねぇ…晴れたしねぇ…」
少年がティーカップをテーブルへ置くと立ち上がり男へ近寄ると、その膝を跨いで座り、男の股間へ自分の尻を押し付けた。
「観光でもしようか?」
そのままグリグリと尻を押し付けながらペロリと自分の唇を舐めた。
「言ってることとやってることが合ってないんだけど」
笑いなら男が少年の腰を掴む。
「いーじゃない、昨日の続きでもさ」
そう言って、男の唇に自分の唇を押し付ける。
「好きものだな、俺の主人は」
そう言いつつ、小さな尻を両方鷲掴み、揉みしだいた。
「お前だってもっと僕を犯したいだろ?」
そう言って、自分からシャツをたくし上げ、ぷくっと立ち上がった乳首を男へ見せる。
「いい眺め」
その乳首へ顔を寄せ舌を突き出し、舐めようとした瞬間、ドアがノックされた。
2人の顔が一瞬で真顔から顰めっ面になり舌打ちした。
「いい所なのに」
少年が男の膝から降り、男が立ち上がってドアへ近付く。
「はいはい、何方?」
ドア越しに来訪者を確認する。
「オーナーのビンセントでございます」
「なんか用?」
ドアを開けずに用件を聞く。
「申し訳ありません。少しだけお時間をいただけないでしょうか」
オーナーの代わりに、ディーがドアに向かって言った。
男は後ろにいた少年を見ると、少年がディーの声に気付いて頷く。
内鍵を開け、ドアを開けた。
「ありがとうございます」
ディーが深々と頭を下げるが、ドアを開けた男の顔を見て驚き目を丸くした。
「ブラッド…」
「おう。久しぶりだなぁ」
ブラッドと呼ばれた男が3人を見て、ニカっと笑った。
それを見て少年が苦笑する。
「どうぞ」
部屋の奥から少年が言い、ブラッドに促されて部屋の中へ入る。
「お初にお目にかかります。ディーゼル・サンドラーク殿下。
エドワード・クラークと申します」
少年が姿勢を正し、右腕を胸の前に持ってくると左腕を後ろに回し、腰から丁寧に頭を下げた後、手を差し出して握手を求めた。
「初めまして。クラーク様。
お寛ぎのところ、大変申し訳ありません」
ディーも同じように頭を下げ、エドワードの手を握り返した。
「どうぞ、エドとお呼びください。
何かお急ぎのようでしたが、何かございましたか?」
少年、エドワードがニコリと微笑む。
そのエドワードの対応に、少年ではなく、れっきとした成人男性であると気付いた。
子供のような体躯を持つ、ハーフリング。小人族だった。あの女性が男の子と間違えるのも無理はない。おそらくわざとだろうが、エドワードは子供の格好をしている。
ハーフリングはその体のせいで子供に間違えられることが多い。だから、成人になると、身なりにはかなり気を使う種族だ。
だが、目の前のエドワードは子供の装いをしている。明らかに見た目を利用して立場を偽っていることがわかる。
さらに、最初から、目の前にいるのがこの国の王子であるとわかった上で挨拶をしたことに、しっかりと教養を身につけていることもわかった。
そしてクラークという名前。
ディーが内心身構える。
「早速で申し訳ありませんが、昨日の夜、メイドに水を部屋まで運ぶように頼みましたか?」
「ああ、頼みましたよ」
答えながら、部屋のソファへ3人を促しつつ、自分も向かい側に座り、その後方にブラッドが立つ。
「頼んだんですけど…」
「何かありましたか?」
エドワードが苦笑する。
「実は、メイドが一緒にいた女性に対する態度が気になりましてね。
お節介だとは思ったんですが、助け舟を出すつもりで声をかけたんです」
「態度とはどんな?」
「要するに脅しですね」
「内容は覚えていますか?」
ディーに真剣に言われ、エドワードが指を口元に当てて思い出そうとする。
「全部聞こえたわけではありませんが…。
確か、あの時と同じことをすればいいと。そう言って、彼女の手に布、袋かな? 何かを握らせていました」
3人とも、目撃者がいたことにホッとする。
だが、あの時とは何だと別の疑問が浮上した。
「その何か、見ればわかりますか?」
「多分。色は覚えていますし」
ディーが頷く。
「他に何か覚えていませんか」
ディーがさらに聞く。
「脅されていた彼女、何度も断っていましたよ。出来ないと。
でも、あのことをバラしてもいいのか、と言われてましたね。
それで、ああ、脅されているんだと思ったんです」
エドワードが可哀想に、と呟く。
「あのメイド、ロマーノ公爵令嬢ですよね?元ですけど」
「ご存知でしたか」
「うちもロマーノ家とは取引がありましたから。
あ、もちろん正規にですよ」
エドワードが苦笑しつつ言う。
「何度かお会いしたことはあります。話したことはありませんがね。
彼女は私なんか眼中にありませんでしたから。彼女にとって平民は下賤な者、ですからね」
そう言って自虐的に笑う。
「今の話、正式に証言をお願い出来ますか?」
ディーが真剣にエドワードを見つめる。
「…もちろん…、と言いたい所なのですが…」
エドワードが苦笑する。
「実は、今お忍びの最中でして。あまり表立って名前を出されるのはいささか…」
「それは承知しております。
ですので、名前は公式的には出しません。限られた者が見る文書には記載されますが、表立って公表されないよう、こちらでも配慮します」
「それならば、可能です。協力は惜しみません」
エドワードがニコリと微笑む。
「ありがとうございます」
そう言って、ディーから手を差し出すと、エドワードもその手を握り返した。
「ディーゼル殿下」
その手をギュッと握り、ディーを見つめる。
「何があったのかはお察しします。こちらとしても証言する理由はお聞きしません」
さらに強く手を握る。
「どうか今後とも、我が商会をよろしくお願いいたします」
そう言って、ニヤリと笑う。
ディーがその言葉に苦笑しつつ、頷いた。
「お前は護衛か?」
部屋を出る時に、ブラッドへグレイが聞いた。
「あー、まぁ、そんなもんだ」
ブラッドが言い淀む。
「ああ、彼とのお忍び旅行なんです」
エドワードがツラッとバラし、ブラッドが照れつつ頭をかく。
「あぁ、そういうことね…」
グレイがスンと真顔で答え、ロイに気付けよ、と小突かれた。
「なぁ、あのガキ、じゃねーのか。エドワードって何者なんだよ」
部屋を出て開口一番にロイがディーに聞く。
「彼は、帝国のクラーク商会の御曹司ですよ」
ディーが顔を顰める。
「あぁ、クラークね…。
…クラーク商会って、あのクラーク商会か」
ロイが若干慌てたように声を出した。
「そうですよ。
ここで縁を持てたのは幸いにしても…、借りを作ることになりましたね」
どうして証言が必要なのか、その理由を聞かれれば、翔平に毒を盛られたことを話さなければならないが、それは同時に翔平が何者なのかも詮索されることになる。
それを彼は察して、あえて聞かない、と言ったことに、彼のしたたかな思惑が絡み、一筋縄ではいかない相手だと思った。
帝国の大商会の息子、エドワード・クラーク。
味方には出来なくても、彼の敵にはならないようにしなくては、と心の中で呟く。
「あの3人と知り合いだったの?」
エドワードがベッドに寝転んだブラッドへ跨り、シャツを脱ぐ。
「ああ、戦争中にちょっとな」
「僕、そんな話聞いてないよ」
口を尖らせて文句を言いながら、ブラッドの上着のボタンを外していく。
「聞かれなかったからな」
笑いながら答え、下からエドワードの乳首を指で撫でる。
「あ」
ピクンと反応を返したエドワードが甘い声を出す。
「SEX以外でやる事出来て良かったじゃねーか」
ブラッドが上半身を起こすと、その乳首へしゃぶりつき、舌で転がしチュウゥと吸い付く。
「あん…僕は、この国に遊びに来たんだよ…あ」
「どこにも行かねーで、ずっとSEXしてるけどな」
「いーじゃない、気持ちいいこと好きでしょ?」
「まあな」
ブラッドの腕がその小さな体を軽々と持ち上げて、ベッドへ押し倒し、その体を心ゆくまで貪った。
貴賓室を出て、一度翔平の様子を見に戻る。
「お帰りなさい。
ショーヘーさん、だいぶ落ち着ついて来たっスよ」
アイザックがベッド脇で立ち上がり、3人を迎える。
「ショーヘー」
仰向けに寝て目を閉じ、ハァハァと荒い呼吸を繰り返す翔平の頬に触れる。
まだ呼吸は荒いが、毒が回り始めた時の短い呼吸より、少しだけ長くなった呼吸は、少しづつ体内のマケイラの種子を消滅させて行っている証拠だ。
額に汗が浮かび、アイザックが濡れた冷たいタオルで、顔を拭いて汗を拭う。
「頑張ってるっスよ。並の精神力じゃないっス」
「俺が惚れた奴だからな」
ロイが照れもせずに呟き、額にキスを落とす。
ディーも同様に、愛おしげに翔平に触れると、小さく頑張ってください、と呟きながら額にキスした。
「どうだったんですか?証言とれたっスか?」
「ああ、大丈夫だ」
「これでマチルダを捕らえられる」
そして、再び、実行犯である女性の元へ向かった。
女性は自室で着替えを済ませ、軟禁された状態で椅子に座っていた。
見張りについていたイーサンに、アーロンとクリフと同様にマチルダの監視にいかせ、再び女性に話を聞いた。
「名前は?」
「アイリーンと申します」
小さく震える声でアイリーンが答える。
「アイリーン、貴賓室の客がマチルダがあなたに袋を渡していた所を見たと。きちんと証言もしてくださるそうです」
それを聞いて、アイリーンが顔を手で覆い、肩を震わせて泣く。
「マチルダとお前の会話を聞いたそうだ。お前、マチルダに脅されているのか」
グレイが聞くと、ビクッと体を強張らせて、顔を上げた。
「あ…」
安堵から驚愕へと表情が代わり、すぐに青ざめた。
「マチルダとの間に何があったんだ」
ロイが先ほどの威圧するのとは違う声で静かに聞く。
「私は…」
アイリーンが静かに涙し、がっくりと項垂れて話し始めた。
「半年前、お嬢様がここへ来てすぐのことです…。
私は、お客様に……レイプされたんです」
小さく体震わせて、自分を抱きしめ守るように腕を交差させる。
「それをお嬢様に知られて、あんなことを…」
アイリーンの顔が青ざめる。
「お嬢様が、そのお客様にあの袋の中身を飲ませたんです。
今日と同じように、食後のお茶に混ぜて」
「お前じゃなく、マチルダが?」
「はい」
「その客はどうなった」
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ロイが舌打ちする。
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「良くわかった。
だが、お前のやったことは罪だ。それは認めるな」
「はい」
「後は自警団に引き継ぐ。後はそっちへ任せるが、お前の事情もよく説明しておく」
ロイがそう言うと、アイリーンがウワーと大声で泣き始め、オーナーが彼女の隣に座ると、その背中を摩り慰め始めた。
何度も何度も身体中にくまなく魔力を巡らせる。
頭から足先、指の一本一本にいたる隅々まで、慎重に丁寧に。
そしてまた一つ。
歪な形の黒い種子。
まるでその種子に意思があるかのように、俺の魔力から逃げるが、追いかけて種子を壊す。
「ん…」
壊すたびにピクッと体を反応させた。
「ショーヘーさん…」
アイザックが冷たいタオルを翔平の額に当ててその汗を拭う。
マケイラの毒を飲んでからおよそ5時間。
呼吸困難の苦しみと、全身を走る電流のような痛みに耐え、自身の体内を侵す種子を壊してきた。
そしてまた一つ、種子見つけて壊す。
「はぁ…」
翔平の口から息が吐かれ、ゆっくりと深く息を吸い込み、再び長い息を吐く。
深呼吸を何度か繰り返しつつ、何度も魔力で体内を探った。
もうどこにも種子はない。
呼吸が楽になり、痛みを伴う痺れも消えた。
閉じていた目を開けて視線を動かし、アイザックが心配そうに自分を見ていることに気付く。
「アイザック…」
「ショーヘーさん、終わったっスか?もう毒はないっスか?」
泣きそうな表情で聞かれて、小さく頷く。
「良かった…」
アイザックは深い安堵の息を吐く。
「み、ず…」
微かな声で水を求めた。
口呼吸を繰り返したことで喉がひりついて声が上手く出てこない。さらに大量の汗を掻いて、体が水を欲していた。
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アイザックがすぐに立ち上がり、部屋のテーブルにあった水差しとコップを持ってくる。
アイザックに抱き起こされて、彼の胸に頭を預ける形で、コップを口に当て慎重に傾けて水を口の中へ注いでくれた。
「ん…」
じんわりと口の中の細胞一つ一つが水を吸収していくのがわかった。
コクリと乾き切った喉を潤す。
数回少なめの水を飲むと、その後はゴクゴクとコップの水を貪るように飲んだ。
「あー…生き返った…」
数杯の水を飲み干し、再びベッドに横に寝かされると、グッタリと体を投げ出す。
「疲れた…」
「無理もないっス。マケイラの毒の解毒は熟練の魔導士や騎士でもかなりキツいッスよ。集中を切らさずに意識して魔力を循環し続けるっスからね」
「そっか…。どのくらい経ったんだ?みんなは?」
アイザックが自分の着替えを用意してくれながら、クリーンをかけてくれる。
「だいたい5時間っスね。どうぞ、着替えてください」
服を渡し、アイザックがクルッと背中を向ける。
ありがとうと言いつつ、汗を吸い込んだ服を脱ぎ、綺麗な服を身につけた。
その時に胸の辺りを確認したが、心臓の辺りから広がっていた紫色の模様は跡形もなく消えていた。
かなりの疲労感に、体を動かすのが辛い。腕を上げるにも一苦労で、着替えるのにややしばらくかかってしまった。
「5時間もかかったのか…」
「5時間で済んだのはラッキーっスよ。下手したら丸一日かかることもあるって聞いたことがあるっス」
「え」
あの苦しみが24時間も、と考えてゾッとした。
「まあ、大抵は途中で力尽きて、結局は解毒出来ずにマケイラに侵食されて死ぬことが多いらしいっスけど」
アハハとアイザックが怖いことを笑いながら言い、あっけらかんとした言い方に力なく笑った。
「ショーヘーさんの魔力コントロールが上手なのもありますけど、飲んだ毒の量が少なかったのか、毒自体が粗悪品だったか。
どちらにせよ、助かって良かったっス」
ニカっとアイザックが笑い俺へ近付くと、スッと何の前触れもなく姫抱きに持ち上げられた。
「え、な」
「ショーヘーさん、軽いっスね」
そう言いながら、別のベッドへ降ろされた。
「汗かいてシーツも気持ち悪いから」
そう言われ、ああ、確かに、と今まで寝ていたベッドのシーツがしっとりの濡れていること気付いた。
それにしても、みんなの中で小柄な方だと思っていたアイザックが俺を軽々と持ち上げたことに驚く。
やっぱり騎士なんだな、と風呂で見たアイザックの上半身を思い出しガッチリついた筋肉を羨ましく思った。
「どこか痛いところとかはないっスか?」
「うん、大丈夫。ただすごくだるい」
はぁと息を吐きながら答え、指一本動かそうとするだけで、腕がプルプルと震えた。
「ロイ様に知らせないと。かなり怒ってて全員殺しかねない勢いだったっス」
アイザックがまた不穏な軽口を叩いて笑った。
「ああ…、待ってくれ。もうちょっとこのままで」
アイザックが知らせに行こうとするのを止めた。
「どうしたっスか?まだおかしいっスか?」
「いや…ロイもディーも知らせたらすっ飛んでくるだろ?
今抱き付かれたりするのはちょっと…」
2人が、俺が無事だとわかって駆け付けるのはいいのだが、その後抱き付かれたり、キスされたり、のしかかられるのは、今はまだ勘弁して欲しいとアイザックに言うと、アイザックがその光景を想像してゲラゲラと笑った。
「そうっスよね。お二人ともかなりショーヘーさんを溺愛してますからね」
「溺愛って…」
アイザックが知らせに行くのをやめてベッドのそばに座り直す。
「目に入れても痛くないんじゃないっスか?」
そう言ってシシシと笑う。
「グレイ様程じゃないっスけど、俺も御二方とはそこそこ付き合い長いんっスよ。
あんな風にデレた2人を見るのは初めてだし、新鮮で面白いっス」
「デレるってww」
「もーデレデレじゃないっスかwww」
アイザックと他愛のない会話を続け、3人には悪いが、もう少しだけこのまま知らせずにいようと思った。
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「えー。いいっスけど、俺が言ったってバラさないでくださいよw」
そうして、アイザックが獣士団時代のロイ、ディー、グレイの話を教えてくれる。
面白おかしく話す内容に、ついさっきまで毒に侵されて苦しんでいたことが嘘のように、声を出して笑った。
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