おっさんが願うもの

猫の手

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王都への旅路 〜自称婚約者〜

75.おっさん、5年前の話を聞く

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 夜になっても雨は降り続く。
 部屋の中から真っ暗な外を見るが、雨が強く窓に吹きつけて、何も見えない。
 時折りピカッと空が発光し、数秒後にゴロゴロと雷が鳴り響いた。
「することないならSEXしよー」
「しなーい」
 ロイのふざけた物言いに即答しつつ、ベッドの上でゴロゴロする。
「なぁ、あの元公爵令嬢、どうなんの?」
 うつ伏せになって枕を抱え込みながら聞いた。
「ああ、どうなるのかはわかりませんけど…、とりあえず、ロイに近づかせないように、とは言いましたけどね…。
 配置転換されたのか、帰宅させられたのか、あれから見てませんね」
「そもそもさ、なんで婚約者だなんて思い込んだわけ?」
「それなー。わけわかんねーわ」
「覚えてませんか?何度か夜会へエスコートもしたでしょう」
「ああ、それは覚えてる。やたらベタベタしてきてよ」
 明らかにイラついた口調で言った。
「おそらくなんですけど、ロマーノ公爵が都合のいい話しかマチルダへしていないんじゃないかと」
 ディーが苦笑する。
 夜会やお茶会、エスコートだなんだと言葉が飛び交い、なんとなく想像出来るが馴染みのない行事に首を傾げる。
 それに気付いたディーが説明してくれて、彼女が勘違いしたであろう内容を理解した。

 要するに、マチルダはロイから申し込みがあったと勘違いしたのだ。
 正しくは、父親のロマーノ公爵からエスコートするよう要請を受け、仕事として行っただけだが、その事実を娘のマチルダには伝えていない、ということだ。

「それでもロイは貴族ではありませんから、マチルダと結婚するために爵位が必要になります」
「ああ…、それで娘と結婚させるためにロイの叙爵を激推ししたわけね…」
「まぁ、元々ロイの叙爵の話はあがっていたんですけどね」
「そんで、ロマーノ公爵の犯罪?を暴くために利用したと…ちなみになんの罪?」
 前に聞かなかったロマーノが没落する原因を聞いてみた。
「横領、癒着、国外への情報漏洩、美術品の横流し、人身売買に…」
「うわぁ…」
 ボロボロ出てくる内容に顔を顰めた。
 まるで絵に描いたような悪役の存在だと思った。
「ロイの叙爵を激推しして、ロイがそれを蹴ったことで、調査が入るきっかけになったのか。
 ロイも知ってたの?」
「そりゃ、当事者だからな。
 ディーに事情を説明されて、サイファーにも直接協力を依頼された」
 ロイが椅子から立ち上がって、自分の隣にゴロンと転がり、大きく伸びをする。
「叙爵を蹴ることになるから、国外追放は必須だし、親父さんやサイファーには謝られたよ」
 国王のことを親父さんと呼び、宰相を呼び捨てにするロイの立ち位置に笑う。
「まぁ、証拠はほぼ揃っていたので、きっかけが欲しかっただけなんですけどね。
 相手が相手だから、小さなきっかけじゃ無理だったんです。
 ロイには申し訳ないことをしましたよ」
「いや、俺は渡りに船だったぜ?貴族になんてなりたくねーし。
 国外追放って言ったって期限付きってわかってたからな。
 おかげであちこち旅して、お前を見つけるきっかけにもなった」
 ロイがそう言って自分を引き寄せると、チュっと額にキスを落とす。
「ロマーノ公爵はどうなったんだ?」
 答えはわかっていたが、念のために確認の意味を込めて質問した。
「…死罪です」
 だよな、と嬉しくない正解に苦笑する。犯罪のオンパレードな状況に助かるわけもないと思った。
「ロマーノ家は建国以来から続く名家だったんですが、お取り潰しとなりました」
「建国以来…。あーごめん、この国って建国何年?」
「今年で808年です」
「へー…」
 結構長いな、と感想を抱く。
 一つの王家が統治する国としては長命なのではないかと、元の世界の歴史と、どうしても比べてしまう。
「ん?」
 ふとひっかかりを感じる。
「もしかして、ギルバートさんって」
「ああ、ギルは建国の立役者の1人だな。ロマも」
 公爵の1人であるギルバート、それに国に仕えていたという大賢者ロマ。
 2人がこの国を作った人だということに愕然とする。
「う…」
 驚きすぎて言葉が出ない。
「ギルもロマも長命種だからな」
 ロマの年齢は聞いていないが、ギルは800歳を超えていると言っていた。
 改めて、この世界のスケールの大きさに驚く。
 だが、その2人が育ての親だというロイの存在も、やっぱり特別なものなんだと改めて気付かされた。
「なんかスケールデカすぎ…」
 はぁとため息をつくが、ロイとディーにキョトンとされて、時間や歴史という概念にもズレを感じた。

「ああ、また話がそれたな」
 うつ伏せの体勢から仰向けになり、改めて聞く体勢を整える。
「んと…それでロマーノ家が没落して、その家族はどうなったわけ?」
「直接犯罪に関わっていた親族は同罪で死罪。伴侶や子供達は平民に格下げです」
「当然、公爵の家族は私財もろもろ全て没収されて放り出されたわけだ。
 貴族から平民への格下げだ。死ぬより辛いだろうよ」
「あー…」
 死ぬより辛い、と言われてそうかもな、と納得する。
 ロイが貴族を嫌っているのは、その賎民意識が主たる原因なんだろうと思う。
 全ての貴族がそうではないだろうが、ベネットもかなり偏った思考の持ち主だった。
 おそらく、ロマーノもそういう輩なんだろうと、容易に想像出来る。
 見下していた平民に、自分がなるのだ。それこそ死んだ方がマシだと思うかもしれない。
「放り出された後は…?」
「それはもうこちらの関知する所ではありませんから…」
 ディーが苦笑する。
「じゃぁ、あの女…、マチルダは平民になってここで働いていたってことか」
「そのはずなんですけどね…」
 ディーがメガネをとって目頭を揉む。
「?」
「婚約者だと思い込んでいることといい、彼女の言動が辻褄が合わないというか…」
 ディーがロイが部屋から出た後、オーナーから聞いた彼女についての情報を話す。

 オーナー曰く、恩義のある人からの頼みだから置いてやって給料も出しているが、それがなければ今すぐにでも追い出したいと。
 何をやらせても文句ばかり。
 なぜわたくしがやらなければならないの、メイドの仕事だと言うばかり。
 何度も説明し、最後の最後にこのままだと辞めてもらうと言って、ようやく動くようにはなったそうだが、仕事を選り好みし、他の使用人に命令してやらせるという有様だった。
 雇って半年なるが、そろそろ限界に近いと、ため息混じりに彼女の扱いについて困り果てていたと言う。

「マチルダ嬢は、未だに自分を公爵令嬢だと、貴族だと思い込んでいるふしがありまして」
「はぁ?」
 ロイが素っ頓狂な声を出す。
「没落して5年だぞ?バカなのか!?」
 ロイの言い方に苦笑する。
「話を聞くに、父親が犯した罪のことも、そのせいで死罪になったことも知らないようです」
「え」
 流石に自分も声に出す。
「誰も教えてないのか。っていうか、教えなくてもわかるだろ。公爵から平民だぞ。生活が180度どころか、天地がひっくり返るくらい違いがあるっつーのに。バカなのか」
 ロイが2度目のバカと言う。
「そこですよ」
 ディーも顔を顰めてため息をつく。
「彼女の性格を詳しく知っているわけではありませんが、かなり自己陶酔の激しい自己中心的な性格のようでして」
 ディーが立ち上がって大きく伸びをすると、ベッドに上がりロイとは反対側に寝転がって、自分の肩に頭を擦り寄せる。
 ダブルサイズのベッドとは言え、男3人が寝転がるのはいささか狭い。
「ロイを婚約者だと思い込んだのも、その自己中心的な性格からでしょうね。
 おそらく母親も周りの者も、誰も事実は告げていないのか、もしくは、自分に都合の悪い話は聞き入れない、聞こえない。
 自己陶酔も甚だしい。
 性格が破綻してますよ」
 ディーがなかなかに辛辣な言葉を並べ立てた。
「やっぱりバカなんじゃねーか」
 ロイが3度目のバカを口にする。 
「想像ですけど、彼女は今忍んでいるつもりなんでしょうよ」
「忍ぶって何に」
 ロイが自分を挟んで反対側からディーに聞く。
「彼女の中では、父親が行方不明で母と2人で逃避行のような生活。
 きっと、誰かの策略に嵌って陥れられた悲劇の貴族令嬢だと思い込んでいるのではないかと」
 そう言って失笑する。
「なんだそりゃ」
 ロイも呆れたように鼻で笑う。
「父親が居なくなり落ちぶれたのも、婚約者のロイと引き離されたのも、全てその誰かのせい」
 そこでディーが体を起こして座ると、胸の前に手を組んで祈るようなポーズを取った。
「わたくしはロイ様が迎えに来てくださる日まで、じっと耐えて待つのです。
 なんて可哀想なわたくし。
 なんて健気なわたくし。
 ああ、ロイ様、陥れられたわたくしを早く救いに来て」
 ディーが俳優さながらに、感情を込めてセリフを言い、目をパチパチさせてロイを見た。
「あっはっはっは!!」
 そんなディーを見て、ロイが爆笑しつつ足をばたつかせた。
 突然始まったディーの小芝居に驚きつつ、その内容にクスッと笑う。
「なんか可哀想な人だな」
 笑った後、ぽそりと呟いた。
「可哀想?」
「うん。だってさ、そんな性格になるまで放って置かれたんだろ?
 何をしても叱らない、咎めない。何を望んでも与えられて、何をやっても褒められて。
 可愛い可愛い、偉い偉いって。
 それって、躾と教育を放棄した親の優しい虐待だよな」
 自分の言葉に2人が口を真横に結んだ。
 不意に2人の手が自分を抱きしめる。
「お前は優しいな」
「ええ、本当に優しい」
 同時に頬へキスされ、赤面する。
「可哀想か…、そうかもな…」
「そうですね…、彼女は貴族という階級社会の深い闇から生まれた申し子なのかもしれません…」
 2人が自分の肩へ顔を寄せて目を閉じる。

 しんと静まり返った部屋に、外の雨の音がサーっと聞こえてきた。






 昨夜話をして結局そのままの一つのベッドで3人で眠り、2人にはさまれた状態で目を覚ました。
 上体を起こし、大きな欠伸をして、両脇の2人を見下ろし、スヤスヤと眠る2人の寝顔にクスッと笑うと、静かにベッドを降りた。
 窓から明るい日差しが差して、雨が上がったことを知らせている。
 窓へ近付いて外を眺め、朝日に輝いてキラキラと光る湖面に、すごい綺麗だと感激した。
 散歩したい衝動に駆られるが、自分1人で行くのは、だめだろうと、2人を起こすかどうか悩んだ。
 とりあえず、寝夜着から服に着替えてどうしようか悩むが、静かに椅子に座っていると、外からドアの開閉の音が聞こえて、急いで廊下へと顔を出した。
 ちょうど、グレイが部屋から出てきたところで、歩いて行くグレイの背中が見え、やった、とそのまま部屋を出て、グレイを追いかけた。
「おはよう、グレイ」
 後ろから声をかけると、振り向いたグレイが自分を見て、笑顔になる。
「おう。おはよう。早いな」
「どっか行くのか?」
「散歩」
 そう言われて、俺も、と歩き出す。
 宿の外に出て、外気を思い切り吸い込みながら大きく背伸びをした。
 グレイも同じように背伸びをして、体をほぐす。
「綺麗だなー」
 そのまま宿近くの湖畔を2人で歩き始める。
「丁度良かった、ショーヘー」
 数歩前を歩いていた自分に、グレイが声をかけてくる。
「ん?」
「2人で話がしたかったんだ」
 グレイが微笑みながら話しかけてくる。
「なんだー、お前も告白すんのか?」
 そう茶化すと、しねーよ、とグレイも笑った。
「お前ら3人の関係、まだ公表しないって話な」
 2人で湖畔のベンチに座った。
「気を付けろ。王都にいるのは味方ばかりじゃない」
 グレイが真剣な表情で忠告してきた。
「お前はジュノーで、聖女だ。
 ロイやディーと恋人関係にあることを公表しないせいで、お前は確実に狙われる。
 必ずお前をモノにしようとする輩が出てくる。それも1人や2人じゃないぞ。
 中には無理矢理手篭めにしようとする奴だっているはずだ。
 自衛しろ。出来うる限りの対策を取れ」
 真剣にグレイに言われて、頷く。
 この世界で自分がどういう目で見られるのか、いい加減身を持って経験した。
 自分の立場もそうだが、性の欲望の対象になることも自覚した。
「ああ、そうするよ。ありがとう。グレイ」
「王都で何があるかわからん。その時、俺たちが必ずそばにいるとも限らん。
 貴族階級は探り合いに騙し合いだ。
 まずは疑え。見極めろ。
 お前なら出来るだろ」
 グレイがそう言って笑った。
「なんとかなるさ」
 そう返して笑う。

 しばらくキラキラと光を反射する湖面を見て、その景色を堪能する。
「ショーヘー」
「んー?」
 たまに吹く心地よい風に気持ち良くて目を閉じていると、再びグレイに話しかけられる。
「ありがとう」
 唐突にグレイが言った。
「何が?」
 グレイがじっと自分を見て微笑む。
「色々だよ。
 本当にお前に出会えて良かった。
 お前と一緒に旅が出来て良かった。
 楽しかったよ」
 ゆっくりとグレイの言葉を飲み込み、じわっと涙が込み上げた。
「な、なんだよいきなり」
「あの2人の前じゃ、小っ恥ずかしくて言えないからな。絶対に揶揄われる」
 そう言って笑う。
「本当にありがとう、ショーヘー」
「グレイ…」
 ポロッと涙がこぼれた。
「こちらこそ…、ありがとう…」
 涙と拭って笑顔で答える。
 グレイの太い腕が自分を包み込み、優しく抱きしめてくれる。
「あと数日、よろしくな」
「うん…」
 お互いにポンポンと背中を叩き、笑顔で離れた。
「もうちょっと歩こう」
 そう言って、2人で湖畔を歩く。
 ちらほらと同じように散歩をする人が増え始めるころ、宿へ戻った。



 そっと部屋に戻ると、2人はまだ眠っていた。起きていないことホッとしてそーっと室内に入る。
「俺のもんに手ぇ出すなよ」
 突然ロイの声がしてビクッと振り返る。
 やけにはっきりした寝言に、驚いてロイのそばに近寄り顔を覗き込むが、ぐっすりと眠っている。
「俺の」
 またはっきりと寝言を言った。
 一体どんな夢を見ているのか、クスッと笑った。
 よく、寝言に返事をしてはいけない、と聞くが、我慢できなくなってロイの耳元で囁く。
「俺はお前のものだよ」
 そう囁くと、ロイの顔が寝ていても二コーっと笑い、その顔に声を出さずに笑った。

 しばらくベランダで2人が起きるまで時間を潰し、起きた後に食堂へ向かった。
 丁度ウィルにも出会って、4人で朝食を済ませた。
 朝食後、斥候からの連絡を待つことになる。
 雨は止んだが、街道の状況がどうなっているのかを確認してから進まなくてはならない。
 昨日の雨で土砂災害などが発生する、またすでに起こっている可能性があるので、安全確認をしてから出発することになる。
 早ければ、今日の午後には出発出来るかもしれないということで、各自準備を整えて待機となった。

 食堂から部屋に戻る途中、フワフワした感覚に足を止めた。
「ショーヘー?」
 立ち止まった自分にロイも立ち止まる。
「なんか…気持ち悪い」
 さっきからムカムカする。
「なんか変なもの食ったか?」
 ロイに揶揄われたが、同じ物を食べて変なものもないだろ、と言い返すことも出来ず、吐き気を堪えた。
「ダメ、だ。吐きそ」
 口と腹を押さえて蹲る。
 咄嗟にそばにいたウィルが素早く使用人に声をかけ、持っていた布巾のような布をひったくり翔平の口元へあてた。
 その瞬間、耐えきれなくなった翔平が吐き戻し、使用人が慌ててタオルや布をたくさん持って駆け寄ってきた。
「ショーヘー!」
 揶揄ったロイが突然の事態に焦り、翔平を支える。
 だが嘔吐は止まらない。
 先ほど食べた朝食をすべて吐き出しても吐き気は消えず、胃液を何度も吐いた。
「まさか…」
 ディーが、嘔吐して汗をかく翔平の顔を見て呟き、翔平の体に触れると魔力の流れを確認し、顔を顰めた。
「ショーヘイさん、移動しますよ」
 ディーが呟き、ロイへ目配せすると、ロイが素早く翔平を抱き上げる。
「あの、治癒師をお呼びしますか?」
「いえ、大丈夫です。おそらく疲れが出ただけだと思いますので」
 使用人の言葉に礼をしつつ断ると足早に部屋に向かった。

 意識はある。
 問いかけにも、答えようとする意思が見えるし、声もわずかだが、出る。
 以前のようなオーバーフローではないのは明らかだ。

 ベッドに横たえても、嘔吐は続く。
 楽になるように横向きに寝かせたが、何度もえずいて、胃液と唾液を口から吐いた。
 吐く物が全く無くなって吐き気は少しだけ治ったが、今度は肺が圧迫されたように、呼吸がし辛くなってきた。
 空気を吸い込んでも、途中でせき止められたように肺に入らなくなり、無理に吸い込もうとすると、胸に痛みが走った。
 さらに、両手足の先が痺れて動かすとピリピリした痛みが走る。
 少しでも力を入れると、両手足の先から体の中心まで電流のような痛みが走り、全く体を動かすことも出来なくなった。
 ヒュッヒュッと浅い呼吸を繰り返す翔平の背中をゆっくりとさすりながら、ロイが心配そうに顔を歪ませる。
「ショーヘイさん、すみません、体を見せてください」
 ディーがそう言うと、翔平が小さく頷く。
 仰向けにすると、シャツのボタンを外し前をはだける。
「…やっぱり…」
 翔平の上半身、心臓のあたりから蔓が伸びるような紫色の模様が浮かび上がっていた。
「マケイラの毒ですね」
 ウィルが呟く。
「毒…?」
 短い呼吸を繰り返しながら、ディーを見つめて聞く。
「殿下」
 ウィルが呼び、ディーがウィルを見て頷く。それだけでウィルは足早に部屋を出て行った。
「誰が…」
 ロイが翔平の手を握り、沸々と湧き起こる怒りを必死に押さえた。
 バタンと部屋のドアが開き、グレイ達が駆け込んでくる。
 そして、翔平の上半身に浮かぶ紫色の模様を見てすぐに気付いた。
「どういうことだ」
 グレイも怒りにピリついた声を上げた。
「ディー、ショーヘーに毒の対処法を教えろ」
 スッと立ち上がり、ディーと場所を変わる。
「行くぞ」
 一言だけ言うと、全員を引き連れて部屋を出て行く。
 パタンとドアが閉まり、ディーが翔平の手を握る。
「ショーヘイさん、聞こえますか」
 短い呼吸を繰り返しながら、閉じていた目を薄く開けてディーを見た。
「く、るし…。いき、が…」
「喋らないで。よく聞いてください」
 ディーが優しく頭を撫で、汗で額に張り付いた髪を払う。
「マケイラの毒は、自分で解毒するしか方法がないんです。
 今からそのやり方を教えます。
 いいですね」
 翔平が頷く。
 ディーが解毒の方法をゆっくりと順を追って説明を始める。
 
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