おっさんが願うもの

猫の手

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王都への旅路 〜指輪の男〜

61.おっさん、39歳になる

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「助けてくれて、本当にありがうございました」
 床に正座し、手をついて深々と頭を下げた。
 数人が大慌てで、やめてください、と頭を上げさせようとしてくる。
「俺たちは、お前に救われたんだ。ありがとうショーヘー」
 グレイが膝をつき、自分の目線まで下がってくると、いつものように頭をポンポンとするのではなく、その自分の何倍もある太い腕で抱きしめられた。
 そのグレイの行動に素直に驚く。
「そうっスよ。ショーヘーさんが、なんで奴の所へ行ったのか、みんな解ってるっス」
 アイザックも膝をついて自分の前に来る。
「部下を救ってもらって、本当に感謝してるっスよ」
 そう言って、自分の手を取るとギュッと握られた。
「逆に、申し訳ありません。護衛でありながら、みすみすと…」
 ウィルが頭を下げ、それに同調するようにアーロンやアシュリーたちも頭を下げた。
「悔しかったです。何も出来なくて」
 アシュリーが目を潤ませがら言い、イーサンが隣で涙を拭う。
「はいはい。もう終わり」
 しんみりとした空気を打ち破るようにロイがパンパンと手を叩く。
 その合図でグレイもアイザックも立ち上がり、何人かは涙を拭った。




 遺跡から歩いて2時間ほどで、村へ到着した。
 途中、目を覚まし、村へ着く直前にロイの背中から降りて自分で歩く。
 真夜中にも関わらず、大勢の村人が救出から帰ってくるのを村の入り口で待っていてくれた。
 そして、魔獣化が治った使用人達の姿を見て、良かった良かったと泣いて喜ぶ村人に、使用人達も涙する。
 村の店のあの店主が、買出しに来ていた女性の手を取って、おいおいと泣く姿に、女性も泣きながらはにかんで微笑む。
 何より驚いたのは、10年前、村の立ち上げの1人で魔獣化被害者となり村から立ち去ったのが、セルゲイだった。
 村人がセルゲイの元へ集まり、治ったこと、戻って来てくれたことを泣いて喜ぶ。
 それを見て、自分もつい貰い泣きしてしまった。

 村にはまだ宿と呼べる物はなく、新規移住者のために事前に建てられていた未居住の家を借りることになった。
 仲間と共に、自分の体力と魔力がある程度回復するまで、村に世話になることになる。
 数時間の休息ののち、夜が明けて日が高くなってから、リヴィングに全員が集まった。
 ここで、改めてシーゲルを紹介され、ウィルの本当の姿を知った。その後、救出までの経緯を聞いた。

 そして、冒頭に至る。

 ロイに立たされて、ソファへ誘導された。
「じゃぁ、話を聞きましょう」
 ディーが椅子に座って言った。その手にはペンが握られ、メモを取る姿勢も忘れない。
 全員が各々自由な姿勢で聞く体勢を取る。
 そんな全員の姿を見て、チャールズについて話をする。

 彼がジュノーであること。
 彼がこの世界で受け続けた苦しみ。
 元の世界へ帰るための転移魔法陣。

 ゆっくりと、チャールズの言葉を時々借りながら、説明した。
「壮絶だな…」
 ロイが呟く。
 ジュノーとして一番最悪なパターンを体感し、その結果、彼自身が最悪なことをした。
 彼を最初に見つけた、その商会の男が元凶だ。もし誰か他の者が見つけていたなら、チャールズの運命も大きく変わっていただろう。
 だが、それは今更言っても仕方がない。
「商会…、セグリア・ウッドマン…、エリック・ファレル…」
 ディーが書き込んだメモを、ペンでトントンと叩きながら、独り言を呟く。
 その途中でハッとして顔を上げると、シーゲルを見た。
「シーゲル、遺跡の…」
「確保ですね。済んでいます。すでに周囲に結界を張って、隠蔽魔法を施しました。さらに4名を周辺警護に残してあります」
 ディーの言いたいことは、シーゲルにはお見通しで、先回りしてやるべきことをやっていた。
「すげぇ…」
 アシュリーが小さく呟く。
「申し訳ない、気が回らず…」
 ディーが恐縮しながら言う。
 翔平を助けることだけで頭がいっぱいで、救出後の処理をすっかり失念していた自分を恥じた。
「それが私ども黒騎士の仕事です。お気になさらず」
 シーゲルがニコリと笑顔を向ける。
「それにしても、黒騎士ってすごい強い。俺ら、必要ないんじゃ…」
 イーサンが自分の不甲斐なさを痛感して、ため息を吐く。
「黒騎士はそういう訓練を受け、篩にかけられ、残った者だけが黒騎士と名乗れる。強くて当然だ」
 ロイがイーサンの口調に苦笑しながら庇うように言った。
「必要ないなんてことはないと思うよ」
 思わず自分も口を出す。
「我々はあくまでも影の存在です。表立って行動はしません」
 シーゲルが静かに言う。
 影、と言われて、黒騎士が全員顔を隠し、かつ認識阻害魔法をかけながら戦っていたことを思い出す。
 どこの誰なのか、絶対にわからない。
「逆に、絶対的強さがあるから、表には出られないんだと思うよ」
 自分の言葉に、アシュリーやイーサン、アーロンたちもキョトンとする。
「強さっていうのは抑止力になる。でも、行きすぎた強さは、諸外国にしたら脅威でしかない。
 国同士のバランスを保つためにも、黒騎士は黒騎士でいることが重要なんだと思う」
 あー、なるほど、と何人かが頷く。
「大きな力をひけらかして圧をかけるよりも、少しだけ強いよ、とした方が均衡が取れて平和になるんだと思うな」
「力があると示した方が、攻めてこられなくなるんじゃないのか?」
 グレイが聞く。その言葉に戦争のことを言っているんだと思った。
「それは違う。
 隣の人が強い武器を持っていたら緊張するだろ?
 対抗して自分も強い武器を持とうとするだろ?
 そのうちに喧嘩が始まるよ」
 そう言われて、グレイが目を見開く。
「確かに…」
 素直に認めるグレイに微笑む。
「だから、バランスが大事なんだ。
 それに、黒騎士は戦闘よりも諜報活動がメインだろ?」
 そう言ってシーゲルを見ると、彼女が苦笑した。
「国内もそうだけど、諸外国とのバランスを取るために、黒騎士たちは情報を集める。
 いざ戦争になれば、経済や人の動きが停滞する。そうなると国力は絶対に落ちてしまう。落ちた国力を上げるためには、ものすごい時間と労力、努力が必要になるんだ。
 だから、戦争を避けるために黒騎士の、影の存在があるんだと思う」
 元の世界を思い出す。
 自分自身は経験したわけではないが、戦争という歴史から学ぶことは多い。
 実際に世界の何処かで戦争していたし、ニュースで何度も映像を見た。
 自国を守るため、とかこつけて核という強大な兵器を持つ国もあった。
「強すぎる力は、諸刃の剣なんだと、俺は思う」
 そう目を伏せた。
 しかし、シーゲルに見つめられて彼女と視線を合わせたが、今までに見たこともない彼女の笑顔を見た。
 少しだけ、背筋に冷たいものが走り、なんだ今の、と焦る。
「ショーヘーさん、学者さんみたいですね」
 クリフが、わかりやすかったです、と感想を言った。
 ロイも、黙って翔平の言葉を聞いて苦笑いした。
 昔、ギルバートに似たようなことを言われた覚えがある。それに付随して、戦略がいかに大切なのか、を懇々と教えられた記憶が蘇った。
 シーンと静まり返る。
 その時、来訪を告げる玄関の呼び出し鈴が鳴った。
 話の区切りとしてもタイミング良く、玄関そばにいた、アーロンがドアを開けた。

 今夜、村でお祝いの宴会を開くことになったという知らせだった。
 宴会という言葉に、数人が色めき立つ。
 まだ数日はここにいることになる。
 喜んで、宴会への参加を告げると、村人が嬉しそうに戻って行く。

「それでは、私はこれで失礼いたします。2、3日後には街に残した馬車が到着すると思いますので。
 どうか、王都までの道中、お気をつけくださいませ」
 シーゲルがスカートをつまみ持ちあげて、優雅な挨拶をする。
「え?宴会に出ないんですか!?」
 アシュリーが慌てて聞いた。
「出ませんよ」
 それにニッコリと微笑みながら答える。途端に、アシュリーがガーンとショックを受けたような顔をした。
「シ、シーゲルさん!」
 ガシッと突然彼女の手を両手で掴む。
「連絡先教えてください!!!」
 全員、ポカンとした。
「出来かねます」
「そこを何とか!!」
「無理です」
 即答できっぱりと断る。
 シーゲルはあくまでにこやかに淡々と。アシュリーは必死に。
「お願いします!!」
「嫌です」
 今度ははっきり拒絶の言葉を告げられ、アシュリーが崩れ落ちる。
「それでは、皆様ごきげんよう」
 ペコリと頭を下げると、静かにシーゲルが家から出ていった。
 シーンと静まり返るが、しばらくして不意に誰かが吹き出した。
 途端にほぼ全員が一斉に大声で爆笑した。
「アシュリー!見事にフラれたな!!」
「よく言った!」
「男らしいぞ!」
 ゲラゲラと口々に揶揄いが混ざった慰めの言葉をかける。
「ウィルさ~ん」
 アシュリーがウィルに涙を浮かべてしがみつく。同じ騎士団の仲間で、シーゲルと同じ黒騎士。きっとウィルなら何か知っていると、懇願するような目でウィルを見る。
 ウィルが笑いを押し殺しながら、アシュリーを見る。
 アシュリーはいい男だ。正義感が強く、真っ直ぐで素直な性格。だが、相手が悪い、と思った。
「シーゲルに認められる方法、教えましょうか」
 クスクスと笑いながらアシュリーに言う。
「是非!!!」
「彼女よりも強くなることです」
 それを聞いて、アシュリーが青ざめ、無理ー!と泣いた。
 そしてまた爆笑される。




「あー、おかしかった」
 アシュリーには悪いが、心の底から笑った。
 ベッドへ腰掛け、何度か思い出し笑いを繰り返す。
 まだまだ夜の宴会までは時間がある。
 みんなは手伝いに出て行き、自分は部屋に戻った。
 ギシッとベッドが軋んで、ロイが隣に座った。
「ショーヘー…」
 久しぶりに2人きりになった。
 約1週間ぶりだが、もっと長かったような気がする。
 ロイの顔が近づき、唇が重ねられた。
 重なった唇が熱い。
 何度か角度を変えて、重ねるだけのキスを繰り返す。
 唇を離し、ロイが両手自分の頬に添える。
「辛かったろ。苦しかったよな」
 ロイが眉根を寄せて切ない声を出した。
「…うん」
 みんなの前ではそんな素振りを見せないようにした。
 全員の命を盾に取られる形で、自分はチャールズの元へ行った。それが、彼らは理解していて、負い目を感じている。
 そこでさらに、辛かったという顔をして、追い討ちをかけるようなことはしたくなかったから、助けてもらった喜びだけを表に出した。
「俺の前で我慢するな。辛いなら、そう言え」
 真剣に言われ、次第に涙が溢れる。
「…辛かった…。苦しくて…何度も…、死んだ方がマシだって…」
 溢れる涙を抑えられない。
 無理矢理魔力を引き摺り出されて奪われる苦痛。
 思い出すだけで、恐怖に体が震える。
「怖かった…」
 最後、助けに来るとわかっていたから、耐えられた。それがなければ、きっと自分は耐えられずに狂っていたと思う。それほど最後の抽出は酷かった。
 そっとロイが抱きしめてくれる。
 頭を撫ぜ、背中を摩り、慰められた。
 そして再び、重ねるだけの長いキスをしてくれる。
「ショーヘー、ありがとう。お前が居なければ、俺は死んでた」
 瞼に、頬に、唇に、何度も何度もキスを落とす。
 そして、涙を指で拭ってやる。
「愛してるよ、ショーヘー。愛してる」
 言葉だけで足りない思いを伝えるように、ギュッと抱きしめる。
「痩せたな」
 抱きしめた体が、前よりも細くなっていることを指摘すると、翔平が苦笑する。
「あんまり食べてなかったから」
 魔力を奪われる行為に、食べたとしても嘔吐してしまう状況が続いていた。
 ロイが眉根を寄せる。
 魔力を奪われ続けた結果、待ち受けるのは死だ。
 魔力がなくなっても死にはしない。休めば回復する。だが、魔力と同時に体力も気力も奪われる。それが何度も繰り返されれば、結果、衰弱死する。
 翔平の体に触れて、その細さ、抱き上げた時の軽さに気付き、かなり衰弱しているとわかった。
「ちゃんと食って、太れよ」
 俺は、もっと肉がついてた方がいい、と体を撫でられて、赤面しながらロイを小突く。
「大丈夫だよ。食べれば元に戻るさ。逆にリバウンドしてブクブクになるかもな」
 と笑うと、突然頭を掴まれて、深いキスをされた。
 ロイの熱い舌が口内に侵入し、舌を絡め取られる。
「ぁ…ん」
 舌を絡ませ、口内を弄られる。
 背筋にジンとした快感が走った。
 ゆっくりと唇が離れ、ロイが舌なめずりする。
「まずは休め」
 そう言い、耳元に口を寄せると、このままじゃSEX出来ない、と耳打ちされ、耳まで赤くして、ロイの腕を殴る。
「あ、そうだ」
 ポケットをごぞごそして、中に入っていたものを取り出す。
「あ…」
 ロイが差し出した手の中に、ピアスがあった。
 もう2度と会えないから、と死をも覚悟して置いていったピアスを差し出され、涙が滲む。
 ロイが腕を伸ばして、またピアスをつけてくれた。
「もう2度と外させない」
 頬にキスを落とす。
「宴会が始まる前に起こしにくるから」
 そう言って立ち上がり、手を振って静かに部屋を出て行った。
 右耳のピアスに触れて、戻ってきた、と実感する。
 ロイの隣に、みんなの所へ戻って来れた。
 じんわりと心が熱くなる。
 ベッドへ横になり、目を閉じた。





 部屋を出て廊下に出るとディーが壁によしかかって立っていた。
「寝ちゃいましたか?」
「ああ。なんかあったのか?」
「いえね、ショーヘイさんに聞きたいことがいくつかあって」
 笑顔でメモ帳をヒラヒラさせる。
「そっか。起きたら聞いたらいいんじゃね?」
「そーします」
 そう言って、歩き出すロイを見送る。
 ロイが階下へ降りていったのを見送ってしばらくしてから、翔平が寝ている部屋へそっと入る。
 ベッドへ近付くと、スウスウと寝息を立てている翔平を見下ろして、その脇にしゃがんだ。
 間近で翔平の寝顔を見て、その右耳のピアスにそっと触れた。
 ロイとお揃いのピアス。
 その飾りに触れ、手を離す。
「ん…」
 飾りが頬に当たって、ピクンと翔平が僅かに動いた。
「ショーヘイさん…」
 しばらくその寝顔を眺めていたが、小さいため息をつくと立ち上がる。
 そして再び翔平を見下ろすと、ゆっくいと顔を近づけ、その頬へ口付ける。


 好きです。愛しています。


 心の中で呟く。
 そして静かに部屋を出た。






 だいぶ日が落ち、薄暗くなった頃、村の中心部の広場に組み上げられた木に火が灯された。
 村人が次々と集まり始め、テーブルへ料理や酒が並べられていく。
 村人の中に、騎士達が混ざって準備を手伝う姿を用意されていた椅子に座って眺める。
 いいなぁ、楽しそうだ、酒飲みたいな、と心の中で呟く。
 だが、まともに食事をしていなかったので、胃が受け付けない。無理に食べ、呑めばきっとお腹を壊してしまう。
 今日はみんなが楽しむ姿だけを見ようと決めた。

「えー、それでは、戻ってきたセルゲイに、新たに加わった村民に、救出してくださった自警団の皆様に、聖女様にかんぱーい」
 村長が大きな声で言い、コップを掲げる。
 村長を含め、村人に本当の素性は明かしておらず、街の自警団の特別部隊だと言ってあった。
 誘拐事件を追っていて、犯人が遺跡に潜伏していると判明し、誘拐された自分を救出に来たという嘘をついていた。
 ついでに魔獣化被害者達も救った、という体だ。
 そんな嘘、よく通ったな、と思ったが、そこがシーゲルのすごい所なんだろうと深くは詮索しないことにする。

 楽しそうに食べ、呑み、村人と一緒に踊るみんなを見て、嬉しくなる。
「シーゲルちゃ~ん…」
 1人、泣きながら酔っ払っているアシュリーを除いて、本当に楽しそうだった。
「これなら食べられますよ」
 ウィルが毒味役さながら、胃の弱った自分でも食べられそうなものを確認しながら、皿によそってくれる。
「ありがとう」
 受け取って、よく煮込まれた肉を口にする。
「ん~うま~」
 そのトロトロな肉の食感にビーフシチューを思い出した。
「明日、この村の創立記念日だそうですよ。今日は救出成功のお祝いだけど、明日の記念日の前夜祭もかねてるんだそうです。だから明日も宴会ですって」
 席に戻ってきたクリフが嬉しそうに言う。
「へえ。そりゃ楽しみだ」
 グレイが山盛りの肉を盛った皿を抱えて笑う。
「お前、食い尽くすんじゃねーのか」
 ロイに言われて、お前に言われたかねーよ、と同じように山盛りの皿を指摘する。
 その会話に笑いながら、ふと考えた。

 記念日か…。

「あのさ、今更なんだけど」
 この世界に来て3ヶ月。
 全く気にしていなかったある事を思い出す。
「今日って何日?」
「8月9日ですよ」
 そう聞いて、元いた世界と同じ日付の言い方に驚く。
 それから年月日について教えてもらったが、曜日というものはなかった。
「8月9日か…」
 そっか…、と独り言のように呟く。
「何かあるんですか?」
「いや、俺、39歳になったんだな、と思って」
「え!?」
「は!?」
 数人が席を立ち、数人が噴き出した。
「39!?」
 その反応に、いつかの酒場で同じような反応をされたことを思い出す。
 そういえば、ドルキアから加わった6人の年齢を聞いたが、自分の年齢を教えていなかったと思い出した。
「嘘でしょ!?」
「なんだよ。失礼だな」
「見えないって言われませんか」
 アーロンに真顔で聞かれる。
「この世界に来てからは…、言われる」
「俺、てっきりロイ様やディー様と同じくらいかと…」
 クリフのその言葉を聞いて、やっぱりこの世界では、かなり若く見えるんだと思い知らされる。
 嬉しいと思えばいいのだが、なぜか素直に喜べない。
「誕生日、いつだったんですか?」
「8月5日」
 4日前の日付を言うと、全員が黙り込んだ。
 ちょうどその日は翔平が攫われた後で、魔力抽出に苦しんでいる最中だ。
 それがわかって、一瞬全員が黙り込む。
「30代最後の年かー」
 来年にはアラフォー。どうりで体力も落ちるはずだ、とコキコキと首を鳴らした。
「39歳、おめでとうざいます」
 イーサンが口火を切ると、次々におめでとうと言われ、微笑んだ。
 何歳になってもやっぱり祝われるのは嬉しいと笑顔になった。

 食事を済ませて、自分は先に部屋に戻るために席を立った。
「先に戻るな。おっさんだから体力戻すのも時間かかんのよ」
 そう言うと、みんな笑う。

 部屋に戻ってクリーンを使って体を清め、着替えるとベッドへ潜り込む。
 外から聞こえてくる楽しげな声を聞きながら、微睡始める。

 おめでとう

 みんなから言われた言葉が心に染み渡る。
 心と共に体も暖かさに包まれ、ゆっくりと眠りに落ちていった。



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