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王都への旅路 〜指輪の男〜
おっさん、話を聞く
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自然に目が開いた。
パチパチと瞬きを繰り返して体を起こし、その部屋の様子に昨日の出来事が夢ではないと、現実を見せられる。
窓がないので、昨日と同じ部屋の明るさに時間の感覚がわからなくなり、壁にかけてあった時計を見ると、9時を回ったところだった。
ふと見ると、部屋のテーブルの上にガラスのクローシュで蓋をされた朝食らしき食事と飲み物が置かれていた。
とりあえずベッドから降りると、浴室で顔を洗い、クリーン魔法で綺麗にする。
部屋に戻ってクローシュを開け、中の果物を一口摘んだ。
モグモグと口を動かしながら、クローゼットを開けると、中から着れそうなシャツとズボンを見つけて身につける。
やたら袖がフワフワしている白シャツとチノパンのようなズボンにブーツを履いた。
「1880年のアメリカ…開拓時代?」
男が来たという年数を思い出して、記憶にある歴史を思い出そうとするが、自分の知識ではその程度しか思い出せなかった。
椅子に座ってテーブルにある食べ物を口に運ぶが、まだ食欲があるわけではなく、果物だけを食べて水を飲んだ。
その時、部屋がノックされて鍵が開けられる音がする。
こちらの返事もまたず、ドアが開き、チャールズが立っていた。
「よく眠れたかね?」
何も答えずにいると、ついてくるように言われて部屋を出る。
また冷たい通路を進み、昨日とは違う部屋へ連れて行かれると、中の椅子に座るように言われ、素直に従う。
その部屋は本がぎっしりと詰まった図書室のような部屋だった。
中央に机と椅子、その前に自分が座るように言われた1人掛けのソファ。
アンティーク家具のような重厚なソファに座ると、チャールズが自分の席なのだろう、机の椅子に座って机に肘をついて自分を見た。
「君はサムライというものなのかね?」
そう言われ、チャールズが1880年当時の日本しか知らないことがわかる。
「その頃はもう侍はいない」
頭の中で明治時代くらいか、と記憶を辿る。
「そうなのか。日本にはサムライという人種がいると聞いていたのだが…。君はサムライではないのか」
チャールズが少し残念そうに言った。
「俺がいたのは2024年だ。とっくに侍なんて絶滅してるし、アメリカとなんら変わりない生活だよ」
「アメリカは2024年にはどうなっているんだ?」
そう聞かれて戸惑う。
「アメリカに詳しいわけじゃない。知ってるのは、今の大統領が46代目っていうことくらいだ」
「そうか…」
残念そうに呟く。
「あんたの目的はなんなんだ。俺をどうするつもりなんだ」
本題に入ろうとしないチャールズに苛立った。
「私の目的か。単純だ」
チャールズが小さくため息を吐く。
「私はね、帰りたいんだ」
「帰る…?」
その言葉にドクンと心臓が跳ねた。
「君はこの世界に来て、不思議に思わなかったかね?何も疑問に思わなったか?」
チャールズの「帰る」という言葉にかなり動揺して、質問の意味が理解出来ない。
「意味が…」
「君は一体何語を話しているのかね?」
「…日本語を…」
「この本は読めるかね?何語で書かれている?」」
チャールズが目の前の本を開く。
そこに書かれたのは、日本語で、内容は別として読むことは出来る。
「日本語で書かれてる…」
「私は、英語で話しているつもりだし、この本も英語で書かれているように見える」
チャールズの言葉にますます混乱して、動揺する。
「ちょ、ちょっと待って」
思わず頭を抱えた。
言葉がわかるようになったのも、文字が読めるのも、ロマの家で同調スクロールを使ったからだ。
魔法陣の上に手を翳して、その魔法陣から何かが自分の中に入ってきた。
「君も同調という魔法を使ったのだろう?
同調とは何かね。何と同調させるんだ?
なぜあの魔法を使えば言葉が通じて、文字が読めるようになるのかね?」
矢継ぎ早に言われて、ますます混乱が酷くなる。
「あれは…、魔法で…」
「そもそも魔法とは何だ」
「それは魔素が…」
「魔素とは何だ」
そう言われて何も答えられなくなる。
チャールズに言われて、初めて気付かされた。
なんでそんな根本的なことを考えようとしなかったのか。
あまりにも非現実的な世界に迷い込み、そういうものだと受け入れることしかしていなかった。
「私はこの世界に苦しんだ。今も苦しみ続けている」
チャールズが話すのをやめて黙り込む。
じっと自分の混乱が落ち着くまでに待つつもりだと思った。
かなり長い沈黙が訪れる。
その間、必死に頭を使う。
チャールズの言う通り、何もかもがわからない。ただこの世界の事象を受け入れて、理解した気でいた。
実際は何もわかっていない。
自分が今まで生きてきた世界の常識が通じず、驚かされることばかりだった。それすらも、そういうものだとただ受け入れた。
だが、ふと思い至る。
自分を助けてくれた人たち。
ロイの顔を思い出す。
自分を助け、この世界の人間じゃない自分を受け入れて、愛してくれた。
その事実がそこにある。
ふぅと息を吐く。
わからない、答えが出ないことを考えても無駄に疲れるだけだ。
それにわかった所で、今の状況がかわるわけでもない。
それなら、素直にそういうものだと受け入れてしまった方が楽だ。
多少のモヤっとした感覚は残るが、そう開き直りに近い考えに至った。
「落ち着いたか」
「ああ…」
「自分が何もこの世界を理解していないと気付いたかね」
その言葉に頷く。
「それでも俺は色々な人たちに助けられて今も生きている。
この世界のことがわからなくても、俺はここで生きてる。それは事実だ」
自分の言葉に、チャールズが笑う。
「生かしてもらっている、の間違いだろう」
「…そうかもな」
チャールズがバカにしたように笑う。
「君は随分と楽観的だな。日本人とはそういうものなのかね?」
「人種じゃねーよ。これは俺個人の性格だ」
「性格ね…」
だいぶ気持ちが落ち着いてきて、ソファの背もたれに体を預けると、ふんぞり帰って足を組んだ。
「しいて言うなら、俺のいた世界が2024年の日本っていう所にもあるのかもな」
「どういう意味かね?」
開き直って、自分がいた日本という国の文化、漫画やアニメ、ゲームというもの。世界中に広がっているファンタジーという空想世界の物語についてチャールズに教えた。
それを時々相槌を打ちながら、黙って聞いていたチャールズが、聞き終わって笑う。
「その空想世界の産物が現実になったわけか。それならば、受け入れるのも容易いかもしれんな…」
チャールズが納得したような感想を漏らす。
自分のように空想の産物としてでも事前情報があれば、受け入れやすいのかもしれない。
「とにかく俺はこの世界に来てしまった以上、ここで生きていく。そう決めた」
そう言ってチャールズを見た。
「それは彼がいるからかね?君はゲイなのか?」
「は?」
唐突にチャールズに聞かれて、ものすごい変な顔を向けた。
「白炎の狼、彼とそういう仲なのだろう?」
「…俺はゲイじゃない」
「元の世界で、恋人や家族は?」
「両親はいるけど…、独身だし、彼女や妻はいない…色々あって…」
自分を誘拐してきた男に、何を話しているんだと、喋ってから気付いて顔を顰めた。
「そうか…。この世界で男女の境がないというのも受け入れたのか。見上げた男だ」
チャールズがやはりバカにしたように笑う。
「私には妻も子供もいる」
男がそう言って、写真立てを自分へ向けた。
風化してボロボロになったセピア色の写真がその中に飾られていた。
そこに若い時であろう、チャールズと妻、2人の子供の姿が写っていた。
「3人目を孕っていた」
そこでふと気付く。
「あんた、何歳なんだ」
チャールズがここに来たのは200年前。アメリカ人なら自分と同じ人間で、この世界で言うなら人族だ。寿命が違いすぎる。それなのに、見た目は60代くらい。
「私も驚いているよ。正確な年数は覚えていないが、200歳は超えている」
その言葉に何度目かの衝撃を受ける。
「この世界の謎の一つでもある」
そう言って、ベルを鳴らした。
「続きは食事の後にしよう。昨日からあまり食べていないようだし、しっかりと食事はしたまえ」
そう言われ、使用人に案内されて部屋へ戻された。
開き直ると、途端にお腹が空いてきた。
部屋のテーブルに朝食の時のようなクローシュが置かれ、その中に温かい食事があった。
それを黙々と食べる。
これから自分が何をされるのかはまだわからないが、チャールズと話して、何となく目的は見えてきた。
「帰りたい」
と彼は言った。
それが自分とどういう関係があるのかはわからないが、その目的にために自分は誘拐されたとわかった。
「帰れる、のか…?」
元の世界に帰るという考えが、そういえばいつのまにか頭から消えていたことに気付く。
最初、この世界にきてロマから色々話を聞いた時に、帰れる方法がどこかにあるかもしれない、という話をされて、その方法を探そうと思ったのは覚えている。
もしかしたら、チャールズがその方法を知っているのかもしれない。
「帰れる…」
そう呟いてゾクっとした。
ロイ、ディー、グレイ、今まで関わった人たちの顔が頭に浮かぶ。
みんなと別れて、元の世界に帰る。
そう考えた時、はっきりと嫌だと思った。
元の世界に未練がないと言えば嘘になる。
会社勤めのサラリーマンとして、そこそこに充実していた。
彼女はいなかったけど、仲の良い友達もいたし、同僚ともいい関係を築いていた。
もしこの世界に来て帰れるとわかれば、すぐに帰っていただろう。
だが、3ヶ月ほど経過して、この世界に順応し、怖い思いも、痛い経験もしたがそれ以上に楽しいと思う時間を過ごして、魔法というものが使えるようになって、愛し愛される人が出来て。
今戻ったとして、今の自分が元の世界に馴染めるのだろうか、と思った。
食事の手を止める。
「帰りたくない…」
そう呟く。
「ロイ」
会いたい。ロイに会いたい。
ポロッと涙が落ちた。
もう、元の世界になんて戻れない。ロイに愛されて、愛することを、心が覚えてしまった。
この心を抱えたまま帰ることなんて出来ない。
「ロイ…会いたいよ…」
こんなに自分が女々しいだなんて思いもしなかった。
ロイがいるから、自分はここで生きる。
ロイのために、ロイが帰る場所になるために、生きようと決めた。
グスッと鼻をすすると、食事を再開する。
ここに来る決断をした時は、もう2度と会えないと覚悟を決めていたけど、チャールズと話して、もしかしたら、逃げるチャンスがあるかもしれないと思い始めていた。
精一杯抗おう。
何とか隙を見て逃げるんだ。
そう決意を固めた。
翔平を奪われて次の日の午後、予想よりも早く峠の天気が回復に向かった。
まだ雪は降っているが、風があまりなく、下山可能だと判断して慌ただしく出発準備が始まる。
「私は一足先に街に向かいます」
ウィルがそう告げて、午前中の内に峠を越えて行った。
食事を摂りたっぷり眠って1人で歩くことは出来るようになったロイが2階から降りてくる。
「もうすぐ出発できます」
アシュリーがロイへ報告した。
「ああ」
返事を返し、予備のコートを羽織った。
「街までどんなに急いでも1日かかります。ロイは馬車でまだ休養してくださいよ」
「わかってる」
そう言って小屋から出た。
すでに馬車も馬も用意が出来ていて、騎乗する所だった。
馬の数が減ったため、馬車にはロイ、ディー、グレイ、アイザック、アーロンが乗り込み、クリフが御者席、他は馬で並走する。
護衛してきた時と違い、全速力で峠を下ることになる。
「出発だ」
グレイがクリフに声をかけ、小屋を後にした。
「ショーヘイさん、今頃どうしてますかね…」
アーロンが呟いた。
「意外に神経太いからな。あの男を困らせてるかもしれねーぞ」
グレイが軽口を叩き、笑った。
「ロイ、目の色が」
ディーがロイの目の色が金色のままなことを指摘した。
「相当頭に来てるな」
グレイが苦笑いする。
「当たり前だ。俺のショーヘーを奪いやがって。ぜってー殺す」
腕を組み、フンと鼻を鳴らす。冗談のように聞こえるが、本気であるのは怒りを孕んだ魔力が外に漏れ出ていてすぐにわかる。
「俺の…ね」
ディーが誰にも聞こえないくらいの小さい声で呟いた。
自分もロイと同じくらい怒りが燻っている。
それと同時に、押し殺していた翔平への想いが今にも爆発してしまいそうで、ロイから視線をそらせた。
ロイが、自分も翔平を愛していると知ったら、どういう反応をするだろうか。それがすごく気になって仕方がない。
ずっと秘めてきた思いが抑えられなくなりつつある状況に、近いうちにロイにもバレるという予感がある。
その時、自分とロイは親友のままでいられるのだろうか、と不安が襲ってくる。
ロイとずっと親友であり続けたい。
まさか1人の男を同時に好きになるなんて思いもしなかった。
親友をとるか、好きな人をとるか。
こんな悩みを抱えることになるなんて想像もしなかった。
だが、ロイが死にかけた昨日、自分はロイを選んだ。翔平をロイの元へ行かせたのは、親友を救って欲しかったからだ。
自分は好きな人を危険な状況に追い込み、その結果奪われてしまった。
もっと他に方法があったのかも、とずっと後悔している。
そして、ドス黒い嫌な部分も自分の中に燻っていることにも気付いた。
あの時、ロイを見殺しにしていれば、翔平を自分のものにできたかもしれない。
一瞬でもそう考えた自分に腹が立って、どんどんと深みへはまる自己嫌悪に苛立ちがつのる。
翔平が欲しい。
でもロイを失いたくない。
矛盾した気持ちが重く心にのしかかる。
揺れる馬車の中、俯いて小さなため息をついた。
峠を越え、平地へ近付くにつれて気温があがり、コートが必要なくなり早々に脱いだ。
平地に入ると一層ペースがあがり、早馬の状態で街へ疾走する。
ランドール家の黒い馬車と並走する騎士たちの疾走に、すれ違う旅人や行商人が、慌てたように街道の脇へ避け、何事かと一行を見送る。
ベネット領の峠の麓の街についたのは、翔平が奪われて2日目の夕方だった。
先行して一行から離れたアシュリーが門番に話をつける。
馬車にディーが乗っていて、ここで人と落ち合うことになっていると告げると、門番達が大慌てで馬車が通れるだけのスペースを作るために、街に入ろうとしていた人をかき分け始め、ちょうど人の整理が終わった頃に、馬車が到着した。
「アシュリー」
そこへ、ひと足先に街へ入っていたウィルが合流する。
ウィルが御者席にいたクリフに宿の場所を伝えると、馬車からは誰も降りることなく城壁を通過した。
宿につき、ロイ、ディー、グレイ、アイザック、ウィルの5人が先に宿に入る。
宿屋の主人がオロオロとして案内しようとしたが、それをウィルが止めて宿の貸切を伝えて金を握らせた。
「殿下、仲間がすでに待機しています」
ディーに近づいたウィルがそっと耳打ちし、部屋に入る。
中に、街のどこにでもいるような小柄な女性が1人立っていた。
ディーを見て、サッと片膝をつく。
「ディーゼル殿下、お久しぶりにございます」
「…シーゲル…」
ディーゼルがその顔を見て、以前ユリア付きのメイドだった彼女を思い出した。
全員が部屋に入り、4人の騎士には宿屋を取り囲むように警護にあたる。
ロイがベッドに座り、ディーとグレイが椅子に座る。ウィルとアイザックがドアを塞ぐように立ち、女性シーゲルの報告を受ける体勢が出来上がった。
「申し上げます。お探しの男、ここから西に2日進んだ遺跡に潜伏中との情報を得ました」
「確かだな」
「はい。すでに3名で入口付近を見張っております」
シーゲルが失礼します、とテーブルに地図を広げた。
遺跡付近の地図だ。
「誰か出入りしているのか」
「はい。身体的に障害を持った者が数名出入りしています」
「障害?」
「魔素にやられ、街や村を追い出された者が生活しているようなのです」
その言葉に全員が口を噤む。
この世界に発生する魔素溜まり。それに触れれば急激に魔素を吸収し魔獣と化す、
だが、たまに魔素溜まりから逃れられる者もいる。
だが、高濃度の魔素に一瞬でも触れた影響で、体の一部が魔獣化し、身体に異常をきたしてしまう場合がある。
魔獣化した箇所を元に戻すことは出来ない。
そうなると、見た目の酷さや、魔獣への恐れから日常の生活に戻ることはできず、差別の対象となって住んでいた地を追い出される、ということが多々起こっていた。
「魔獣化の被害者が集まって暮らしていると…?」
「はい。近くの村の者に確認したところ、2、3日に一度農作物を買いにくると」
「何人いるんだ」
「確認できたのは15名。購入している量を考えると、全部で20名ほどだと思われます」
「指輪の男が、その中にいるということか」
「はい。彼らに匿われているのか、それとも、男が彼らを匿っているのか、それはわかりませんでした」
ディーが眉をひそめた。
魔獣化被害者の問題は、今もこの国に暗い影を落とす問題の一つだ。
本来であれば、そういった者を救うのも国としての責任なのだが、いまだに差別と偏見は根強く残っている。
魔獣化を治す研究も進められてはいるが、進捗も芳しくない。
「面倒なことになりましたね…」
ディーがため息をつく。
翔平を救うために遺跡に突入したとして、遺跡に住んでいる魔獣化被害者たちをどうすればいいのか、その対処に悩む。
彼らは犯罪者ではないから捕える、というのも違う。
可能な限り保護するのが妥当だとは思うが、一度忌み嫌われて蔑まれた被害者たちは人間不信になっていることも多い。
いきなり騎士が現れた時に、被害者たちがパニックを起こしてしまうのは確実だ。
「…黒騎士は何人いる」
ロイが口元に手をあててしばらく考えた後にシーゲルに聞いた。
「現在見張りに3名ですが、2日後にはさらに15名」
「18ね…」
「農作物を買いに行く村のもんは、そいつらを嫌がったりしてるか?」
「いいえ、村では逆に同情の方が強いようで、格安で販売したりしているようです」
「村の人口は」
「150名程度です」
「それなら…いや…うーん…」
ブツブツと呟くロイに誰も声をかけない。
ディーがそんなロイに昔を思い出して笑う。
獣士団時代、何度もこういうロイの姿を見た。特に戦争中、寝る間も惜しんで作戦を練るロイの姿を何度も見た。頭の中でシミュレーションし、最適な作戦を導き出す。そのおかげで何度救われたか。
ロイは戦争に勝つという目的ではなく、負けないように、味方の被害を最小限に留める作戦をいつも考えていた。結果として、それが勝利に繋がり、英雄と呼ばれる所以にもなったのだ。
ギルバートが叩き込んだ戦術と戦略は、しっかりとロイに受け継がれていた。
「よし、決めた」
ロイがブツブツ言い始めて15分余り。膝をポンと叩いてロイが地図から顔を上げた。
「何かいい案が思いつきましたか」
ディーが聞く。
「まあな。それには村の協力がいる。それと遺跡内部の地図は用意できるか」
「遺跡が発見された当初のものしかありませんが…」
「それでいい、ないよりマシだ。全員集めろ。説明する」
ロイがニカッと笑った。
パチパチと瞬きを繰り返して体を起こし、その部屋の様子に昨日の出来事が夢ではないと、現実を見せられる。
窓がないので、昨日と同じ部屋の明るさに時間の感覚がわからなくなり、壁にかけてあった時計を見ると、9時を回ったところだった。
ふと見ると、部屋のテーブルの上にガラスのクローシュで蓋をされた朝食らしき食事と飲み物が置かれていた。
とりあえずベッドから降りると、浴室で顔を洗い、クリーン魔法で綺麗にする。
部屋に戻ってクローシュを開け、中の果物を一口摘んだ。
モグモグと口を動かしながら、クローゼットを開けると、中から着れそうなシャツとズボンを見つけて身につける。
やたら袖がフワフワしている白シャツとチノパンのようなズボンにブーツを履いた。
「1880年のアメリカ…開拓時代?」
男が来たという年数を思い出して、記憶にある歴史を思い出そうとするが、自分の知識ではその程度しか思い出せなかった。
椅子に座ってテーブルにある食べ物を口に運ぶが、まだ食欲があるわけではなく、果物だけを食べて水を飲んだ。
その時、部屋がノックされて鍵が開けられる音がする。
こちらの返事もまたず、ドアが開き、チャールズが立っていた。
「よく眠れたかね?」
何も答えずにいると、ついてくるように言われて部屋を出る。
また冷たい通路を進み、昨日とは違う部屋へ連れて行かれると、中の椅子に座るように言われ、素直に従う。
その部屋は本がぎっしりと詰まった図書室のような部屋だった。
中央に机と椅子、その前に自分が座るように言われた1人掛けのソファ。
アンティーク家具のような重厚なソファに座ると、チャールズが自分の席なのだろう、机の椅子に座って机に肘をついて自分を見た。
「君はサムライというものなのかね?」
そう言われ、チャールズが1880年当時の日本しか知らないことがわかる。
「その頃はもう侍はいない」
頭の中で明治時代くらいか、と記憶を辿る。
「そうなのか。日本にはサムライという人種がいると聞いていたのだが…。君はサムライではないのか」
チャールズが少し残念そうに言った。
「俺がいたのは2024年だ。とっくに侍なんて絶滅してるし、アメリカとなんら変わりない生活だよ」
「アメリカは2024年にはどうなっているんだ?」
そう聞かれて戸惑う。
「アメリカに詳しいわけじゃない。知ってるのは、今の大統領が46代目っていうことくらいだ」
「そうか…」
残念そうに呟く。
「あんたの目的はなんなんだ。俺をどうするつもりなんだ」
本題に入ろうとしないチャールズに苛立った。
「私の目的か。単純だ」
チャールズが小さくため息を吐く。
「私はね、帰りたいんだ」
「帰る…?」
その言葉にドクンと心臓が跳ねた。
「君はこの世界に来て、不思議に思わなかったかね?何も疑問に思わなったか?」
チャールズの「帰る」という言葉にかなり動揺して、質問の意味が理解出来ない。
「意味が…」
「君は一体何語を話しているのかね?」
「…日本語を…」
「この本は読めるかね?何語で書かれている?」」
チャールズが目の前の本を開く。
そこに書かれたのは、日本語で、内容は別として読むことは出来る。
「日本語で書かれてる…」
「私は、英語で話しているつもりだし、この本も英語で書かれているように見える」
チャールズの言葉にますます混乱して、動揺する。
「ちょ、ちょっと待って」
思わず頭を抱えた。
言葉がわかるようになったのも、文字が読めるのも、ロマの家で同調スクロールを使ったからだ。
魔法陣の上に手を翳して、その魔法陣から何かが自分の中に入ってきた。
「君も同調という魔法を使ったのだろう?
同調とは何かね。何と同調させるんだ?
なぜあの魔法を使えば言葉が通じて、文字が読めるようになるのかね?」
矢継ぎ早に言われて、ますます混乱が酷くなる。
「あれは…、魔法で…」
「そもそも魔法とは何だ」
「それは魔素が…」
「魔素とは何だ」
そう言われて何も答えられなくなる。
チャールズに言われて、初めて気付かされた。
なんでそんな根本的なことを考えようとしなかったのか。
あまりにも非現実的な世界に迷い込み、そういうものだと受け入れることしかしていなかった。
「私はこの世界に苦しんだ。今も苦しみ続けている」
チャールズが話すのをやめて黙り込む。
じっと自分の混乱が落ち着くまでに待つつもりだと思った。
かなり長い沈黙が訪れる。
その間、必死に頭を使う。
チャールズの言う通り、何もかもがわからない。ただこの世界の事象を受け入れて、理解した気でいた。
実際は何もわかっていない。
自分が今まで生きてきた世界の常識が通じず、驚かされることばかりだった。それすらも、そういうものだとただ受け入れた。
だが、ふと思い至る。
自分を助けてくれた人たち。
ロイの顔を思い出す。
自分を助け、この世界の人間じゃない自分を受け入れて、愛してくれた。
その事実がそこにある。
ふぅと息を吐く。
わからない、答えが出ないことを考えても無駄に疲れるだけだ。
それにわかった所で、今の状況がかわるわけでもない。
それなら、素直にそういうものだと受け入れてしまった方が楽だ。
多少のモヤっとした感覚は残るが、そう開き直りに近い考えに至った。
「落ち着いたか」
「ああ…」
「自分が何もこの世界を理解していないと気付いたかね」
その言葉に頷く。
「それでも俺は色々な人たちに助けられて今も生きている。
この世界のことがわからなくても、俺はここで生きてる。それは事実だ」
自分の言葉に、チャールズが笑う。
「生かしてもらっている、の間違いだろう」
「…そうかもな」
チャールズがバカにしたように笑う。
「君は随分と楽観的だな。日本人とはそういうものなのかね?」
「人種じゃねーよ。これは俺個人の性格だ」
「性格ね…」
だいぶ気持ちが落ち着いてきて、ソファの背もたれに体を預けると、ふんぞり帰って足を組んだ。
「しいて言うなら、俺のいた世界が2024年の日本っていう所にもあるのかもな」
「どういう意味かね?」
開き直って、自分がいた日本という国の文化、漫画やアニメ、ゲームというもの。世界中に広がっているファンタジーという空想世界の物語についてチャールズに教えた。
それを時々相槌を打ちながら、黙って聞いていたチャールズが、聞き終わって笑う。
「その空想世界の産物が現実になったわけか。それならば、受け入れるのも容易いかもしれんな…」
チャールズが納得したような感想を漏らす。
自分のように空想の産物としてでも事前情報があれば、受け入れやすいのかもしれない。
「とにかく俺はこの世界に来てしまった以上、ここで生きていく。そう決めた」
そう言ってチャールズを見た。
「それは彼がいるからかね?君はゲイなのか?」
「は?」
唐突にチャールズに聞かれて、ものすごい変な顔を向けた。
「白炎の狼、彼とそういう仲なのだろう?」
「…俺はゲイじゃない」
「元の世界で、恋人や家族は?」
「両親はいるけど…、独身だし、彼女や妻はいない…色々あって…」
自分を誘拐してきた男に、何を話しているんだと、喋ってから気付いて顔を顰めた。
「そうか…。この世界で男女の境がないというのも受け入れたのか。見上げた男だ」
チャールズがやはりバカにしたように笑う。
「私には妻も子供もいる」
男がそう言って、写真立てを自分へ向けた。
風化してボロボロになったセピア色の写真がその中に飾られていた。
そこに若い時であろう、チャールズと妻、2人の子供の姿が写っていた。
「3人目を孕っていた」
そこでふと気付く。
「あんた、何歳なんだ」
チャールズがここに来たのは200年前。アメリカ人なら自分と同じ人間で、この世界で言うなら人族だ。寿命が違いすぎる。それなのに、見た目は60代くらい。
「私も驚いているよ。正確な年数は覚えていないが、200歳は超えている」
その言葉に何度目かの衝撃を受ける。
「この世界の謎の一つでもある」
そう言って、ベルを鳴らした。
「続きは食事の後にしよう。昨日からあまり食べていないようだし、しっかりと食事はしたまえ」
そう言われ、使用人に案内されて部屋へ戻された。
開き直ると、途端にお腹が空いてきた。
部屋のテーブルに朝食の時のようなクローシュが置かれ、その中に温かい食事があった。
それを黙々と食べる。
これから自分が何をされるのかはまだわからないが、チャールズと話して、何となく目的は見えてきた。
「帰りたい」
と彼は言った。
それが自分とどういう関係があるのかはわからないが、その目的にために自分は誘拐されたとわかった。
「帰れる、のか…?」
元の世界に帰るという考えが、そういえばいつのまにか頭から消えていたことに気付く。
最初、この世界にきてロマから色々話を聞いた時に、帰れる方法がどこかにあるかもしれない、という話をされて、その方法を探そうと思ったのは覚えている。
もしかしたら、チャールズがその方法を知っているのかもしれない。
「帰れる…」
そう呟いてゾクっとした。
ロイ、ディー、グレイ、今まで関わった人たちの顔が頭に浮かぶ。
みんなと別れて、元の世界に帰る。
そう考えた時、はっきりと嫌だと思った。
元の世界に未練がないと言えば嘘になる。
会社勤めのサラリーマンとして、そこそこに充実していた。
彼女はいなかったけど、仲の良い友達もいたし、同僚ともいい関係を築いていた。
もしこの世界に来て帰れるとわかれば、すぐに帰っていただろう。
だが、3ヶ月ほど経過して、この世界に順応し、怖い思いも、痛い経験もしたがそれ以上に楽しいと思う時間を過ごして、魔法というものが使えるようになって、愛し愛される人が出来て。
今戻ったとして、今の自分が元の世界に馴染めるのだろうか、と思った。
食事の手を止める。
「帰りたくない…」
そう呟く。
「ロイ」
会いたい。ロイに会いたい。
ポロッと涙が落ちた。
もう、元の世界になんて戻れない。ロイに愛されて、愛することを、心が覚えてしまった。
この心を抱えたまま帰ることなんて出来ない。
「ロイ…会いたいよ…」
こんなに自分が女々しいだなんて思いもしなかった。
ロイがいるから、自分はここで生きる。
ロイのために、ロイが帰る場所になるために、生きようと決めた。
グスッと鼻をすすると、食事を再開する。
ここに来る決断をした時は、もう2度と会えないと覚悟を決めていたけど、チャールズと話して、もしかしたら、逃げるチャンスがあるかもしれないと思い始めていた。
精一杯抗おう。
何とか隙を見て逃げるんだ。
そう決意を固めた。
翔平を奪われて次の日の午後、予想よりも早く峠の天気が回復に向かった。
まだ雪は降っているが、風があまりなく、下山可能だと判断して慌ただしく出発準備が始まる。
「私は一足先に街に向かいます」
ウィルがそう告げて、午前中の内に峠を越えて行った。
食事を摂りたっぷり眠って1人で歩くことは出来るようになったロイが2階から降りてくる。
「もうすぐ出発できます」
アシュリーがロイへ報告した。
「ああ」
返事を返し、予備のコートを羽織った。
「街までどんなに急いでも1日かかります。ロイは馬車でまだ休養してくださいよ」
「わかってる」
そう言って小屋から出た。
すでに馬車も馬も用意が出来ていて、騎乗する所だった。
馬の数が減ったため、馬車にはロイ、ディー、グレイ、アイザック、アーロンが乗り込み、クリフが御者席、他は馬で並走する。
護衛してきた時と違い、全速力で峠を下ることになる。
「出発だ」
グレイがクリフに声をかけ、小屋を後にした。
「ショーヘイさん、今頃どうしてますかね…」
アーロンが呟いた。
「意外に神経太いからな。あの男を困らせてるかもしれねーぞ」
グレイが軽口を叩き、笑った。
「ロイ、目の色が」
ディーがロイの目の色が金色のままなことを指摘した。
「相当頭に来てるな」
グレイが苦笑いする。
「当たり前だ。俺のショーヘーを奪いやがって。ぜってー殺す」
腕を組み、フンと鼻を鳴らす。冗談のように聞こえるが、本気であるのは怒りを孕んだ魔力が外に漏れ出ていてすぐにわかる。
「俺の…ね」
ディーが誰にも聞こえないくらいの小さい声で呟いた。
自分もロイと同じくらい怒りが燻っている。
それと同時に、押し殺していた翔平への想いが今にも爆発してしまいそうで、ロイから視線をそらせた。
ロイが、自分も翔平を愛していると知ったら、どういう反応をするだろうか。それがすごく気になって仕方がない。
ずっと秘めてきた思いが抑えられなくなりつつある状況に、近いうちにロイにもバレるという予感がある。
その時、自分とロイは親友のままでいられるのだろうか、と不安が襲ってくる。
ロイとずっと親友であり続けたい。
まさか1人の男を同時に好きになるなんて思いもしなかった。
親友をとるか、好きな人をとるか。
こんな悩みを抱えることになるなんて想像もしなかった。
だが、ロイが死にかけた昨日、自分はロイを選んだ。翔平をロイの元へ行かせたのは、親友を救って欲しかったからだ。
自分は好きな人を危険な状況に追い込み、その結果奪われてしまった。
もっと他に方法があったのかも、とずっと後悔している。
そして、ドス黒い嫌な部分も自分の中に燻っていることにも気付いた。
あの時、ロイを見殺しにしていれば、翔平を自分のものにできたかもしれない。
一瞬でもそう考えた自分に腹が立って、どんどんと深みへはまる自己嫌悪に苛立ちがつのる。
翔平が欲しい。
でもロイを失いたくない。
矛盾した気持ちが重く心にのしかかる。
揺れる馬車の中、俯いて小さなため息をついた。
峠を越え、平地へ近付くにつれて気温があがり、コートが必要なくなり早々に脱いだ。
平地に入ると一層ペースがあがり、早馬の状態で街へ疾走する。
ランドール家の黒い馬車と並走する騎士たちの疾走に、すれ違う旅人や行商人が、慌てたように街道の脇へ避け、何事かと一行を見送る。
ベネット領の峠の麓の街についたのは、翔平が奪われて2日目の夕方だった。
先行して一行から離れたアシュリーが門番に話をつける。
馬車にディーが乗っていて、ここで人と落ち合うことになっていると告げると、門番達が大慌てで馬車が通れるだけのスペースを作るために、街に入ろうとしていた人をかき分け始め、ちょうど人の整理が終わった頃に、馬車が到着した。
「アシュリー」
そこへ、ひと足先に街へ入っていたウィルが合流する。
ウィルが御者席にいたクリフに宿の場所を伝えると、馬車からは誰も降りることなく城壁を通過した。
宿につき、ロイ、ディー、グレイ、アイザック、ウィルの5人が先に宿に入る。
宿屋の主人がオロオロとして案内しようとしたが、それをウィルが止めて宿の貸切を伝えて金を握らせた。
「殿下、仲間がすでに待機しています」
ディーに近づいたウィルがそっと耳打ちし、部屋に入る。
中に、街のどこにでもいるような小柄な女性が1人立っていた。
ディーを見て、サッと片膝をつく。
「ディーゼル殿下、お久しぶりにございます」
「…シーゲル…」
ディーゼルがその顔を見て、以前ユリア付きのメイドだった彼女を思い出した。
全員が部屋に入り、4人の騎士には宿屋を取り囲むように警護にあたる。
ロイがベッドに座り、ディーとグレイが椅子に座る。ウィルとアイザックがドアを塞ぐように立ち、女性シーゲルの報告を受ける体勢が出来上がった。
「申し上げます。お探しの男、ここから西に2日進んだ遺跡に潜伏中との情報を得ました」
「確かだな」
「はい。すでに3名で入口付近を見張っております」
シーゲルが失礼します、とテーブルに地図を広げた。
遺跡付近の地図だ。
「誰か出入りしているのか」
「はい。身体的に障害を持った者が数名出入りしています」
「障害?」
「魔素にやられ、街や村を追い出された者が生活しているようなのです」
その言葉に全員が口を噤む。
この世界に発生する魔素溜まり。それに触れれば急激に魔素を吸収し魔獣と化す、
だが、たまに魔素溜まりから逃れられる者もいる。
だが、高濃度の魔素に一瞬でも触れた影響で、体の一部が魔獣化し、身体に異常をきたしてしまう場合がある。
魔獣化した箇所を元に戻すことは出来ない。
そうなると、見た目の酷さや、魔獣への恐れから日常の生活に戻ることはできず、差別の対象となって住んでいた地を追い出される、ということが多々起こっていた。
「魔獣化の被害者が集まって暮らしていると…?」
「はい。近くの村の者に確認したところ、2、3日に一度農作物を買いにくると」
「何人いるんだ」
「確認できたのは15名。購入している量を考えると、全部で20名ほどだと思われます」
「指輪の男が、その中にいるということか」
「はい。彼らに匿われているのか、それとも、男が彼らを匿っているのか、それはわかりませんでした」
ディーが眉をひそめた。
魔獣化被害者の問題は、今もこの国に暗い影を落とす問題の一つだ。
本来であれば、そういった者を救うのも国としての責任なのだが、いまだに差別と偏見は根強く残っている。
魔獣化を治す研究も進められてはいるが、進捗も芳しくない。
「面倒なことになりましたね…」
ディーがため息をつく。
翔平を救うために遺跡に突入したとして、遺跡に住んでいる魔獣化被害者たちをどうすればいいのか、その対処に悩む。
彼らは犯罪者ではないから捕える、というのも違う。
可能な限り保護するのが妥当だとは思うが、一度忌み嫌われて蔑まれた被害者たちは人間不信になっていることも多い。
いきなり騎士が現れた時に、被害者たちがパニックを起こしてしまうのは確実だ。
「…黒騎士は何人いる」
ロイが口元に手をあててしばらく考えた後にシーゲルに聞いた。
「現在見張りに3名ですが、2日後にはさらに15名」
「18ね…」
「農作物を買いに行く村のもんは、そいつらを嫌がったりしてるか?」
「いいえ、村では逆に同情の方が強いようで、格安で販売したりしているようです」
「村の人口は」
「150名程度です」
「それなら…いや…うーん…」
ブツブツと呟くロイに誰も声をかけない。
ディーがそんなロイに昔を思い出して笑う。
獣士団時代、何度もこういうロイの姿を見た。特に戦争中、寝る間も惜しんで作戦を練るロイの姿を何度も見た。頭の中でシミュレーションし、最適な作戦を導き出す。そのおかげで何度救われたか。
ロイは戦争に勝つという目的ではなく、負けないように、味方の被害を最小限に留める作戦をいつも考えていた。結果として、それが勝利に繋がり、英雄と呼ばれる所以にもなったのだ。
ギルバートが叩き込んだ戦術と戦略は、しっかりとロイに受け継がれていた。
「よし、決めた」
ロイがブツブツ言い始めて15分余り。膝をポンと叩いてロイが地図から顔を上げた。
「何かいい案が思いつきましたか」
ディーが聞く。
「まあな。それには村の協力がいる。それと遺跡内部の地図は用意できるか」
「遺跡が発見された当初のものしかありませんが…」
「それでいい、ないよりマシだ。全員集めろ。説明する」
ロイがニカッと笑った。
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