おっさんが願うもの

猫の手

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王都への旅路 〜ドルキア砦〜

おっさん、激怒する

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 夜這いが大成功に終わって、思わず鼻歌が出てしまうほど上機嫌で部屋へ戻る道を歩く。
 翔平がいる貴賓室から、自分が泊まっている部屋までは砦と兵舎を挟んだ反対側にあるので、結構な距離がある。
 砦の中を通ってもいけるが、火照った体を覚ますという理由もあって、砦を大きく迂回する形で、外の道を歩いていた。
 途中、何度も立ち止まっては翔平の痴態を思い出し、うふふと含み笑いを漏らす。
 何度翔平を抱いても、いつも新鮮な姿を見せてくれて、反応もいちいち可愛くて驚かされる。
 今日も、まさか自分で準備をしているなんて思いもしなかった。準備している翔平の姿を想像するだけで、鼻血が出そうになるくらい興奮する。
 今度、その姿を見せてもらおう、と楽しみが増えて、またうふふとおかしな含み笑いを漏らした。
 るんるんとスキップしそうなくらいの上機嫌さで兵舎のある棟の脇道を通った時、獣士団の団員が2人、物陰に隠れるように立っていることに気付いた。
「いま何時だ?」
 1人がそう言い、そろそろ2時だと、もう1人が答える。
「いくら何でも遅すぎないか?」
「ヤリまくって忘れてんじゃねーの?」
 そう言って2人とも下卑た笑い声を立てた。
「まあ、あと少し待ってみて、それから行ってみよーぜ」
「だな」
 その会話に、ふーん…と何となくだが想像がつく。
 誰かが何処かで行為に及んでいて、終わるのを待っている、いったところだろうか。
 まあ昔から団員同士で性的欲求を解消し合うのはたまにあることだし、特段気にすることでもない。
 ましてや遠征中ではなおさらだ。ストレスが溜まってそれをSEXで紛らわそうとする奴がいてもおかしくはない。
 それが愛憎ドロドロの事態に発展すれば話は変わるが、会話を聞いた感じではそういうわけでもないようで、見て見ぬフリをしようと決めた。
 団員2人から離れ、兵舎を通り過ぎ、来客用の部屋がある棟まで進むと中に入る。
 しんとした廊下を足音を立てずに進み、自分に充てがわれた部屋に到着した。
 そっと中に入りつつ、誰にも見られてないよなとササっと廊下へ視線を走らせた。
 別に見られてもいいのだが、夜這いという秘めた行為に、せっかくならもう少し浸っていたい。
 部屋に入って、さっきまでの翔平とのSEXをまた思い出してニヤニヤする。
 上着を脱ぎ、備えつけの椅子へ放り投げ、夜這いの余韻に浸って眠ろうとベッドの方へ体を向けた瞬間、ブワッと尻尾の毛が逆立つ。
 自分の間抜け具合に猛烈に腹が立った。
 目の前のベッドの布団が、膨らんでいる。誰かが中にいるとすぐにわかった。
 それに気付くと、すぐに部屋に侵入された痕跡が至る所にあることに気付く。
 浮かれすぎて、全く意識出来ていなかった。
 布団を鷲掴みすると、思い切りはぎ取る。
「ロイさまぁ…」
 そこに、裸のセシルがいた。
「どこに行ってたんですかぁ?ずぅっと待ってたんですよぉ…」
 シーツの上で、セシルの長い猫の尻尾が揺れる。
「てめぇ…」
 ロイが低い声で呟くが、あまりにも低すぎて独り言のようになり、セシルには聞こえていない。
「ねぇ…ロイ様…」
 セシルがシナを作って甘えた声を出す。
 その姿に鳥肌が立った。
「SEX、しましょー」
 セシルがロイにペニスとアナルを見えるように、自分から足を広げた。
「僕、昔からロイ様が好きで…」
 足を開き、自分でペニスを扱きながら、アナルへも手を伸ばす。
「ロイ様…、ここに、挿れて…」
 自らアナルを左右に開いてペロリと唇を舐めた。
 ロイがゆっくりとセシルへ手を伸ばす。
 その肩を掴み、ベッドへ押し倒すと、その上へのしかかった。
 セシルが嬉しそうに微笑む。
 だが、内心ではほくそ笑んでいた。

 やっぱり、噂通りの好きものじゃん。
 ちょー楽勝。
 こんな僕の姿を見たら、誰だってヤリたくなるに決まってる。
 英雄を自分の男に出来るなんて最高。
 このまま僕の虜にして…。

 などと頭の中で思考を巡らせていたが、不意に首を片手で掴まれた。
「ロイさまぁ」
 首を掴んだその手で愛撫されるのかと待ったが、そのままゆっくりと力が込められて、首を絞められていく。
「ぐ…ロイ、さ、ま」
 段々と強くなる力に、両手をロイの手に持っていき、引き剥がそうとするが、ビクともしない。
「ぐぅ…」
 首を絞められ、バタバタと足を暴れさせる。
 ロイがそのときゆっくりと顔をあげ、セシルを見た。
「ヒ…」
 その目が怒りで満ちていて、その目を見た瞬間、ロイの怒気を孕んだ魔力に気付いた。

 なんで!?

 首を絞める力は緩みはしないが、それ以上強くなることもなかった。
 首を絞められて死ぬことはないとわかったが、ロイの怒りに触れて、必死に逃げようと暴れる。声を出そうにも出せずに、バタバタと全身を動かした。
「何なんだ、てめぇは…」
 ロイが低い声で言った。
 言葉にも、声にも怒りが滲み出ていて、どんどんと魔力が膨れ上がってくる。

 ヤバい。
 怒らせた。

 セシルが今更そう思っても、もう遅かった。




 ロイはもう部屋に戻ったかな、とベッドに横になり、うっとりと目を閉じる。
 愛を確かめ合った甘いひとときの余韻に微睡みつつ、徐々に眠りへと落ちていく。
 だが不意にザワっと全身に鳥肌が立って、襲ってきていた睡魔がどこかへと逃げ出していく。
 パチっと目を開けて体を起こす。
「…ロイ…?」
 微かに、ロイの魔力を感じる。
 ザワザワと全身の毛が逆立つような錯覚を覚えて、体がブルっと震えた。
 慌ててベッドから降りると寝夜着のまま、靴もはかず裸足のまま部屋を飛び出した。
「わ!」
 突然、自分が部屋から飛び出したことで、寝ずの番をしている警護の騎士が驚いて声を上げた。
「ショーヘイさん!?」
 部屋から飛び出して、そのままの勢いでまっすぐ廊下を走る自分を、一歩遅れて慌てて追いかけてくる。
「待ってください!どうしたんですか!?」
 そう後ろから叫ばれたが、立ち止まって説明している暇はない。

 ロイ、ロイ!

 心の中で必死に名前を呼ぶ。
 ロイの魔力が膨れ上がるのを肌で感じる。それが怒りによるものであることもわかった。
 追いかけて来る騎士は、そのことにまるで気付いていない。
 階段を何段も飛ばしながら急いで駆け下りる。気が急いて足がもつれて何度も転びそうになるが、全力で走る。
「ショーヘイさん!待って!」
 騎士も必死に追いかけて来るが、寝夜着という身軽さもあって、武器を携えた重装備の騎士とどんどん差が開いていく。
 でも、振り向く時間も惜しい。
 騎士の1人が追いかけるのを止め、ゼーゼーと肩で息をしながら、前を行くもう1人に向かって叫ぶ。
「そのまま隊長達に報告に行け!俺はこのまま追いかける!」
 そして再び走り出した。
 多分、来客用の棟に向かったとそう判断して、もう姿が見えない翔平の後を追った。


 

 腹が立つ。
 部屋に侵入されたことにも気付かず、ヘラヘラしていた自分に怒りが沸いた。
 そして、目の前にいるセシル。
 男に媚びへつらう目で、自分を誘う姿に寒気がした。
 吐き気がするほどの嫌悪感に襲われる。
 セシルが自分でアナルを開き、そこに挿れろと言うが、全くそそられもしない。むしろ気色が悪くて萎える。
 自分の中でどんどんと怒りが抑えられなくなっていくのがわかった。
 昨日、こいつがショーへーを閉じ込めた。
 上官からの命令を無視して、警護をするどころか、保護対象を閉じ込め、出られなくするなんて言語道断だ。
 命令違反の上、獣士団の訓練にも参加せず好き勝手し放題。
 こんな奴が獣士団だと!?
 ふざけんな。
 
 ロイの魔力が、抑えても抑えても溢れ出てくる。怒りで抑えが効かなくなりつつあった。

「ロイ、さ、ま、離し、て」
「あぁ?」
 ロイが低い声で聞き返す。
 セシルの首を片手で掴んだままゆっくりとベッドから降りた。
 その動きにセシルも引き摺られ、そのまま床につま先だけが着く高さで止められた。
 必死につま先で立とうとするが、グラグラと揺れて重力に勝てず、自らロイの手で首を絞められる形になった。
「ごめ、ん、なさ、ゆる、し」
 何とかそこまで言うが、ロイが首を傾げて憐れむような目でセシルを見た。
「謝れば許されると思うのか?」
 抑揚のない声でロイが言う。
「俺が退役してて良かったな。現役ならとっくにもう死んでるわ」
「な…、ぼ、く」
 グッと少しだけ手に力を込めると、首を絞め何も言えなくした。
 セシルの顔が絞められてどんどん赤くなるのを見て、限界を迎える前に手を離す。
「ぼ、僕は、貴族、だぞ」
 床に落ちるように、座り込んだセシルがゲホゲホと咳き込み、キッとロイを睨みつけた。
「だからなんだ」
「英雄っていったって、あんただって平民だろ」
「だから、なんだ」
 2度目の言葉に苛立ちと怒気を乗せた。
 セシルがヒュッと息を飲み込む。
「勘違いしてんじゃねーか」
 ロイが上からセシルを汚い物を見るかのような目で見下ろした。
「お前が爵位を持ってるわけじゃねーだろ。たかが三男風情が」
 そう、ロイに事実を告げられてグッと息を飲む。
「やりすぎたんだよ、お前。俺に、ショーヘーに手を出した時点で、完全アウトだ。さっさと退場しろよ」
 セシルが目に涙を溜めながらロイを睨む。だが、ガタガタと体は震えていた。
「うるさい!!平民のくせに!!」
 セシルがロイに向かって魔法を使った。




 はぁはぁと全速力で走って、渡り廊下を駆け抜け、ロイ達が泊まっている来客用の棟を目指していくつも角を曲がった。
 兵士の宿舎の脇を通り抜けて、その奥にロイが泊まっている棟が見える。
 坂を駆け上るが、息が限界に近い。
 どんどんスピードが落ち、一度止まってしまった。
 ゼーゼーと肩で息をして前を見ると再び必死に足を動かす。
 だが、突然横からグンッと体を横に引っ張られて、そのまま転んでしまった。
「お前、何してんのこんな所で」
 尻餅をついた自分を見下ろすように、獣士団団員が自分を見下ろした。
 その顔を見上げて、セシルの取り巻きの1人だとすぐに気付く。
 すぐに立ち上がって、無視して進もうとしたが、後ろから羽交締めにされ、口を手で塞がれた。
「どこ行くの?ロイ様の所?残念だけど、取り込み中だから邪魔しないでやってよ」
 1人が自分を背後から拘束し、もう1人が前に立つと嫌な笑い方をする。
 その言葉に、やっぱりセシルか、と思った。今夜、ロイに仕掛けたんだと理解した。
 だが、今もなおロイの魔力を感じて、その中に怒りが混ざっているのがわかる。
 今、ロイがセシルといるのなら、その怒りはセシルに向けられているということだ。しかも、こんな外に漏れ出てくるような怒りの強さに、セシルの身が危険だと、ロイを止めなくてはと、焦った。

 違う!
 ヤバいんだよ!!

 そう叫びたくても口を塞がれて喋ることも出来ない。
 んーんーともがき、必死に拘束を逃れようとするが、腐っても獣士団の団員だ。明らかに力の差があった。
「まあまあ、そんなに暴れんなって…」
 羽交締めにしている男が、暴れて捲れ上がった首筋を見て、へえー、とニヤリと笑うと、いきなり寝夜着の胸元を背後から掴み、左右に広げた。
 ブチブチと音を立ててボタンが弾け飛び、襟を掴まれると背中の方へ引っ張られ、中途半端に脱がされた寝夜着が両腕を拘束する形になった。そして露わになったその上半身を正面にいる男に見せる。
「見てみろよ、これ」
 言われた男がじっと自分の胸を見ていやらしい笑みを浮かべた。
「なんだ、お前も楽しんだ後か」
 上半身に広がるロイにつけられた情事に痕に、ニヤニヤと笑う。
「やっぱり、誰でもいいのか?警護の騎士でも誘ってヤッたのか?」
 その言葉に、昼間セシルに言われた「誰でもいいから媚を売っておけ」という侮辱の言葉を思い出して腹が立つ。
「俺たちでもいいってことだよな」
 そう言いながら、舌なめずりしながら手を伸ばして体に触ろうとする腕に、怒りが頂点に達した。
 口を塞いでいた男の指の腹を思い切り噛み、その肉を抉り取る。
「痛え!!!」
 思わず手を離した背後の男を振り返り、魔力を込めた拳をその顔面に叩きつけ、そのまま腕を振り抜くと、殴られた男が後ろへ吹っ飛ばされる。男の鼻を砕き、歯も数本折った。
「てめえ!!」
 正面にいた男が襲いかかって来たが、その男にはとても弱いカマイタチの魔法で全身を切り裂いた。
「ギャアアア!!!」
 そんなに深く切ったつもりはないが、数十箇所に及ぶ切り傷はかなり痛いだろう。
 あちこちから血が噴き出し、男が叫び声をあげてのたうちまわった。
「後で治してやる!!」
 そう怒鳴りつけ、本来の目的であるロイに元へ再び向かおうと走り出す。
 建物内に入り、急いでロイの部屋に向かう。確か5階の角だったと思い出しながら、息を切らして階段を駆け上がる。
 5階のフロアに着いたのと同時に、ロイの部屋のドアが、爆発音と共に廊下に吹き飛び、ドアと一緒にロイが廊下の壁に叩きつけられるのを見た。
 一瞬で全身が沸騰する。

 あいつ!!!
 ロイに何をした!!!

 すぐにロイの元へ駆け寄ったが、無傷であることを瞬時に確認して、ロイの部屋の中を見る。
 そこに、ロイに対して魔法を放った全裸のセシルがいた。
「てめぇ…」
 その姿を見て、怒りが全身を這い上がる。

 さっきまでは、ロイを止めなくてはと思っていたが、全裸のセシルの姿を見た途端、そんな考えがどこかへ吹き飛び、純粋な怒りだけが残った。
 もうセシルなんてどうなろうが、構わない、どうでもいいとさえ思った。
 ただ目の前にいるセシルが許せない。
 自分を侮辱しただけならまだ許せる。
 だが、ロイを襲い、あまつさえ攻撃魔法をロイに向けた。
 それだけは絶対に許せない。
 こいつ、殺すか。
 そこまで考えた。

「なんでお前がここにいんのさ!!」
 セシルが怒鳴り、自分に向かって火魔法を放つ。
 だが、右手に魔力を集中させ、無意識で硬化と盾をイメージすると、飛んでくる火の玉を腕だけで弾き飛ばす。
 弾かれた火の玉が壁にぶつかり火花を散らした。
「は?」
 まるで飛んできたボールを打ち返すような動きに、セシルが唖然とした。
「終わりか」
 怒りに満ちた声でセシルに聞く。
「う、うるさい!!」
 セシルが立て続けに火の玉を自分に向かって放ってくる。
「よえーよ」
 その火の玉は弾き返す間でもなく、飛んでいる虫を叩き落とすように、パシッパシッといとも簡単に弾いていく。
 その間もジリジリとセシルに迫る。
 やがて、火魔法も打ち止めなのか、魔法を放つことを止め、自分に詰め寄られて、後退るとのまま尻餅をついた。
 そのセシルをじっと見下ろし、視界に入るものに舌打ちした。
「随分と貧相なものぶら下げてんじゃねーか」
 すっかりと縮こまって小さくなったセシルのペニスを見て、フンと鼻で笑って侮辱する。
 その自分の言葉に、セシルが羞恥に耐えるように口を結び、足を閉じ、手でペニスを隠した。
「貴様…、貴族に対して…」
「不敬罪だろ?それしか言えねーのか、馬鹿が」
 自分でも驚くほど冷静に言葉を返す。だが、実際には怒りで頭の中がどうにかなりそうだった。
「よくも…」
 爆発しそうになる怒りを必死に抑える。
 セシルがビクッと震えた。
「よくも、俺の男に、手ぇ出したな!!」
 拳に魔力を込め、セシルの右頬を思い切り殴った。拳に骨の折れる感触が伝わる。
 殴られたセシルが座り込んだ状態から、横へ吹っ飛ばされて倒れ込む。その口と鼻からボタボタと血が落ち、一瞬で腫れ上がった頬を両手で抑えて、呻き声を上げた。
 フーフーと鼻息を荒くして、さらにセシルを殴るために、近寄ろうとしたが、それを後ろから抱きしめられて止められた。
「もーいいよ」
 ロイが、殴ろうとして振り上げていた拳を、そっと自分の手で包み込み下げさせる。
「俺のために怒ってくれてありがと」
 後ろを振り返り、優しく微笑むロイを見て、怒りがゆっくりと収まっていく。
「ロイ…」
 ロイの方へクルッと体の向きを変えられると、フワッとローブを掛けられた。
 そういえば、寝夜着が取り巻きに破かれてボロボロになっていたことを、今になって思い出す。
 ロイの腕が腰を抱き寄せ、体を密着させると、そのまま唇を重ねる。
「ん…」
 優しいキスに、うっとりと目を閉じる。
 さっきまでの怒りが嘘のように消えていくのがわかった。

「あーオホンオホン」
 ものすごい下手くそな咳が聞こえて、驚いて唇を離し、ロイの肩越しに入口の方を見る。
 そこに、オズワルドやローガン、アイザックといった面々が揃っていた。
 先ほどの下手くそな咳はオズワルドのものだった。
「あー盛り上がってる所悪いんだけどよー、場所、移動しようやー」
 促されるまま部屋を出ると、ディーとグレイも寝夜着にローブを纏った姿で廊下の壁によしかかっていた。
 それに、部屋から自分を追いかけてきた騎士2人が、自分が外で怪我させたセシルの取り巻き2人を拘束して立っている。
 さらに、アイザックの副官ルーカスが数名を連れて走ってくると、会釈しつつ部屋に入っていき、セシルを拘束した。
 あっという間に収束していく状況に、呆然としつつ、ロイに肩を抱かれ促されるまま、移動した。




「なんとなく、予想は尽きますけど、一応説明してください」
 昼間の会議室に、ほぼ全員が寝夜着のまま集結する。
「あー…」
 ロイと顔を見合わせて、どっちから説明するかアイコンタクトをとり、まずは自分から話した。

 寝ようとしていて、突然ロイの怒りに満ちた魔力を感じたこと。
 何かあったんだと思い、慌てて向かったが、その途中でセシルの取り巻き2人に絡まれ、襲われそうになったのでのしたこと。
 ロイの部屋についた途端、ロイがドアごと吹っ飛ばされ、怒って攻撃魔法をロイに向けたセシルを殴り、今に至る。

 ロイは、

 夜這いの話は当然一切せず、眠れなかったので、夜中に散歩に出て戻ったら、セシルに部屋に侵入され、全裸でベッドに潜り込まれていたこと。
 誘われて激怒すると、逆ギレされて攻撃されたこと、後は翔平が俺の代わりに殴ってくれた、と笑いながら話した。

「まぁ、そんなところでしょうねー」
 ディーが眠そうに欠伸をした。
「まー、事情はわかったしー、とりあえず、今日は寝るかー」
 とオズワルドも欠伸をした。
「あいつらも頭を冷やす時間が必要だろ」
 ローガンも眠そうに言う。
「じゃー、一回解散なー。明日、ってもう今日かー。ランチミーティングっつーことでー」
 オズワルドの言葉で全員が部屋に戻ろうとしたが、アイザックに声をかけた。
「あの、一応あの3人の治療だけしたいんだけど」
「別にしなくてもいいんじゃないっスか?」
「いや、なんか俺が怪我させたから後味悪いし」
「そっスかー?んー、じゃ、行きましょうか」
 そう言って、アイザックが3人が収容された地下牢まで連れていってくれた。
 3人が3人とも、自分とロイの姿を見た途端、視線を逸らす。
 別に話すことは何もないので、3人がそれぞれの牢屋にいることを確認し、ヒールを使って同時に怪我を治した。
 自分に治療されて、呆然としている3人を放置して地下牢から出ると、今度こそ眠るために部屋に向かう。
 そろそろ日の出になる時間だったが、少しでも睡眠を取ろうと思った。
 そして、当然のようにロイが自分でついてくるが、もう誰も何も言わなかった。そのまま別棟の部屋に行き、眠たい目をこすりながら2人でベッドに倒れ込む。
 ボロボロになった寝夜着もそのままに、疲れた…なんか色々と大変な日だった、と思いながらすぐに寝息を立てた。
 

 
 
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