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異世界へ 〜現状の把握〜
おっさん、泣く
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今までの人生の中で同性である男に欲情されたことなんて一度もない。俺がそうなったこともない。
今までの性の欲望は常に女性に向けられており、その通り女性とだけSEXしてきた。柔らかな女性の体が今までの性対象で、女性を悦ばせることも楽しいと感じた。
男性相手になんて、そんなことを考えたことも、想像したこともない。ましてや、今まで女性相手に俺がしてきたことを、される形でなんて。
そういった性癖に対して偏見はないつもりだ。実際に元の世界では偏見が取り払われつつある。テレビでそういった話を聞いても、その人たちを見ても、好感も嫌悪も特に何も感じなかった。
それは、俺には関係ないと思っていたからだ。
いや、そう思い込んでいた。
だから、ロイに欲情を向けられた時、それを受け止めて認めることが出来なかったんだ。
「クソッ!クソッ!!」
悲鳴に近い声で悪態を吐く。振り向いて後ろにある壁を両手の拳でガンガンと殴り、そのまま頭を壁に押し付けてズルズルと座り込む。
ロイはいい奴だ。
助けてくれた、ということを無しにしても、すごくいい奴だ。
見た目はすごく綺麗な顔をして、でも女性のような見た目じゃない、鍛えられた体を持った綺麗だが凛々しい男だ。
たまに子供っぽくて、どこか抜けてて、ふざけて笑わせてくれて、人を揶揄うような言葉も吐く。真剣な表情をしている時は見惚れてしまうくらいにカッコいい。
一緒に居て、喋って、ふざけ合って、笑って、たった数日なのにすごく楽しかった。このままずっと続けばいいのに、と心底思っていた。
「ショーヘー…」
欲情に濡れ、耳元で囁いたロイの声を思い出して、ゾクっとした感覚に体が震える。
「っふ…」
目から大粒の涙が溢れた。
「ッヒ…うえっ…え」
一度声が出てしまうと、嗚咽を止めることが出来なかった。髪から落ちる雫と同じように、ボタボタと涙が次から次へと溢れてくる。
何に対する涙なのか。
襲われたことが怖かった?
信用していたロイに裏切られたから?
裏切り?
違う。
ロイは裏切っていない。
ロイは自身の本能に抗えなかっただけだ。今まで無理に抑え込んでいた分、我を忘れるくらい本能のままに行動した。
数日前の行為の後、ロイは一切そういった行動をとらなかった。こっちが話をふらない限り匂いの話題を出すこともなかった。あれからずっと本能を抑え込んでいたんだと、今になって気付く。
なのに、そんなことも忘れて、全く気にすることもなく、後ろから俺に触れる提案した。そう提案した時はっきりとロイは戸惑っていたじゃないか。
自分が悪い。
我慢していたのに、理性というたがを外させたのは俺の浅はかな考えからだ。自らそういう状況を作ってしまったんだ。
ああ、そうか…。
この涙はロイを無視した自分の行動に対する自己嫌悪と、ロイが俺を襲ったと思う負い目を負わせてしまったこと対する謝罪の涙だ。
泣きながら激しく落ち込む。
謝らないと…。
そう思った。
ロイは、木陰でかなり落ち込んでいた。三角座りして頭を抱え込んで小さくなる。自分がしてしまった行動に、どうしたらいいかわからない。
ウウウゥゥゥと唸る。
我慢できると思った。
翔平からは常にいい匂いがしている。どこにいても匂いがする。近くに寄ると匂いは強くなる。
最初は何も考えずにその匂いを思い切り嗅ぎたいと思うだけだった。
でも、目の前で着替えた時、恥ずかしさからなのか匂いの質が変化したのを感じた。言葉にするなら、サラサラだったものがネットリしたものに変わった感じだ。
その匂いを感じた瞬間、ゴクリと唾を飲み込んだ。
気付けば翔平を押し倒して、存分に匂いを味わっていた。一番匂いのする耳のあたりを舐めると、さらに匂いが濃くなる。無我夢中で匂いを貪っていたら、ロマが戻り我を取り戻した。
自分でもわけがわからず呆然としてしまった。
当然、出会って1日足らずの男にそんなことをされて、翔平は怒っていた。
ひたすら謝って何とか許してもらえたが、その後も匂いを嗅ぎたい、貪りたい衝動を抑えるのに必死だった。
同じ部屋で寝ることになって、寝ぼけて翔平にしがみついて眠った時は、寝ていてもその匂いを感じて、夢の中で何度も匂いを貪った。何度も何度も翔平を犯した。
朝、翔平が慌てて起き上がり、部屋を出て行ったのは覚えてる。
出て行った後、自慰行為をした。
匂いを感じ、夢で見た翔平の姿を思い浮かべて、ガチガチに張り詰めたペニスを扱いた。
何度か繰り返してようやっと落ち着くと、改めて自覚した。
翔平に欲情している、と。
今まで感じたことのないほどの強い性欲が体を襲ってくる。
それからは何とか悟られないようにしようと必死だった。
ふざけて誤魔化してみたり、わざと少しだけ匂いを嗅いで満足したふりをしてみたり。
抱きしめて魔力を注いだ時も、それで満足しようと思っていたのに、「次は後ろから」と言われて戸惑った。結局、戸惑う理由が「欲情してしまうから」なんて話せるわけがないし、翔平の提案を受け入れたが、今思うとどこかで期待していたのかもしれない。
我慢我慢と自分に言い聞かせて、何とか平常心を保つようにしていたが、
「ハァ…」
翔平の鼻に掛かった甘ったるい声と、強くなった匂いに、俺の中でゾロリと何かが動き、プツッと何かが切れた気がした。
翔平を後ろから押さえ込み、執拗に耳や唇を嬲り貪る。
舌を絡ませて、溢れた唾液を舐め取り飲み込む。ゾクゾクとした快感が抑えられない。このまま犯したい、支配したいという強い衝動に駆られる。
翔平が俺が与える愛撫に震え、喘ぎ声を上げるたびに、体が歓喜に震えた。
彼のペニスはすっかり固くなっていて、触れればトロトロと先走りの蜜をこぼしている。それにむしゃぶりつきたいと思ったが、目の前にある唇や舌に誘われて、手だけで愛撫した。そして、その愛撫によって、手の中に射精させる。翔平の体がビクビクと跳ね、喜んでくれたと思った。
このままもっと…と思い横たえらせたが、その時彼の目から涙が零れるのを見てしまった。
重い鈍器で頭を殴られたような衝撃が襲った。そして我に返る。当然彼は怒り、触るなと怒鳴られた。
取り返しのつかないことをしてしまった。
俺はこんなに自制心が弱かったのか…?
どうやったら許してくれる?
そもそもあんなことされて許してくれるのか?
自問自答を繰り返していたが、それでも謝らなければ、と翔平を追いかける。そして浴室の中で嗚咽を漏らしながら泣いている彼の声を聞いてしまった。
再びショックが襲う。
翔平を傷つけてしまった。
トボトボと元いた木陰に座ると膝を抱え込んで深く落ち込んだ。
ひとしきり泣いた後、割と頭がスッキリして、冷静になれた。というか開き直ったと言った方が当てはまる。
起こってしまったことは仕方がない。
俺が自ら襲われるような状況を作ってしまったことが悪い。同意を得ずに事に及ぼうとしたロイも悪い。
最後までシたわけじゃないし、今回は事故ってことで。
「うん、お互いに配慮が足りなかったってことにしよう」
自分でもかなり的外れで無理矢理な言い訳だとは思う。
色々考えたが、実際のところ、あんなことをされてもロイのことを嫌いになれない自分に気付いたのだ。ここ数日が楽しすぎて、できれば今後も一緒にいたいと思う。
もしかしたら、今後もこういうことがあるかもしれない。でもその時はその時だ。
まさに開き直りだった。
散々泣いて、思った以上に頭を切り替えることが出来たことに割と驚いたが、相手がロイだったからそう思えたのかもしれない。
相手がロイだったから、というところに多少の引っ掛かりはあるが、これ以上は考えないことにした。
まずは話をしよう。
そう思った。
浴室に常備していた服に着替え浴室を出たが、家の中にロイがいない。探すと、薄暗くなってきた外の木の下でロイが蹲っていた。
体格の良い男が三角座りをして小さく蹲っている姿は少し可笑しい。
静かに、ロイのそばまで行くと、
「おい」
足でロイの腕を軽く蹴った。
ロイがゆっくりと頭を上げて俺の顔を見上げてきた。
俺の顔を見た瞬間、クシャッと顔が歪み、目からブワッと涙が溢れてウワーッと泣き始める。鼻水も涎も垂らし、子供のようにギャン泣きするイケメンに、ギョッとする。
「ショーヘーー!!ごべんなざいー!」
と濁点まみれの言葉を吐きながらオイオイ泣く姿に呆気に取られ、そしてあまりにもイケメンに不釣り合いな姿にプッと吹き出した。
「わかったわかった」
笑いながら、手を伸ばしてロイの頭をポンポン叩く。
「ずびばぜんでじだ…」
鼻水を垂らして謝る姿に、「図体ばかりデカくなって、中身は子供」というロマの言葉を思い出し、ほんと子供みたいだよな…と思った。
すかさず、子供はあんなことしねーけどな、とスンッと一瞬真顔になる。
「帰るぞ」
ロイの手を握り引っ張ると、大きく鼻水を啜りながらも、うん、と返事をするロイが可愛いと思った。
そういえば俺からロイの手を握ったのは初めてだな、と思いつつ、家の中に戻る。
家に戻ると、ロマが煎れてくれていた、あの妙に落ち着くお茶を用意する。
隣り合ってロイにもお茶を渡した。
「ショーヘー、大丈夫か…?」
ずびーっと音を立てて鼻をかんだ後、おずおずと聞いてくる。
「大丈夫だ」
端的に答えたが、ロイが俺の目元に触れてきた。思い切り泣いたせいで目元が腫れぼったい。
「泣いたよな…」
「…まあな」
聞かれてたのか、と少し恥ずかしくなったが、あんなギャン泣きを見た後なのでお互い様だと思った。
「本当にごめん!」
ロイが椅子に座ったまま俺に向き直り頭を下げてくる。
「いいよもう。あれは…俺も悪かったし…」
「え?」
「お前、俺の匂いにあてられたんだろ? んで理性がぶっ飛んじゃったんだろ? そういう状況に持ってった俺も悪い」
素直に自分の非を認める、これが大人しての常識だ。
「気付いてたのか?」
ロイが神妙な顔つきする。
「気付いてないと言えば嘘になるな。認めたくなかったんだよ。俺が男、同性に欲情されるなんて」
「そっか…バレてたんか」
少し、間が空いた。お互いにお茶をすする。
「俺さ、こんなの初めてでさ」
ロイが湯呑みのお茶を揺らしながら話し始める。
「今までいろんな奴とSEXしてきたけど、ショーヘーみたいにいい匂いするやつ初めてでさ」
動物の、狼の本能なんだろうか。特有のフェロモンで発情期に入る、みたいな。
「俺も男相手なんて初めてだよ。俺の世界じゃまだまだ男女のSEXが当たり前だし。あ、最後まではシてないからSEXとは言えないか」
「だいぶ匂いには慣れてきたと思ってたんだけど………そっか」
不意にロイが顔上げた。キラリンと目が輝いた、ような気がする。突然俺に向き直ると、
「ショーヘー、キスしよう」
「…………は?」
たっぷり数秒の間を開けて聞き返す。何を言ってるんだ、こいつは。
「キスしよう」
もう一度笑顔で言われて、みるみるうちにカーッと赤面するのを感じた。
右手で拳骨を作ると、ロイの頭をゴンッと音がするほど殴った。
「いってー」
さほど痛くもないだろうが、文句を垂れる。
「慣れだよ慣れ」
「それとキスがどういう関係なんだよ」
「匂いに慣れるためにキスすればいいんだよ」
とんでも理論だと思った。
「慣れれば、ショーヘーが近くに来る度に犯したい衝動も減ってくるだろうし」
我ながらいい考え、とロイはドヤっている。
今とんでもないことを言わなかったか?
何だよ犯したい衝動って。
そんなことずっと思われてたわけ?
と改めてゾッとした。
「初日に比べたら、ずっと匂いに慣れてきてるし、これならいける」
慣れてもらう、という意見には一理ある。賛成だ。だがそれが何故キスすることになるのか。
「キスという行為の必然性に問題があると思われますので却下いたします。ただ毎日匂いを嗅いで慣れれば良いのではないでしょうか」
至極丁寧に要望を突っぱねる。
だが、ロイは全く折れない。
あんな強烈なベロチューじゃなくて、軽く触れるだけのキスだから、挨拶みたいなもんだと熱弁する。
する、しない、の攻防戦がしばらく続いたが、ロイが急に真顔になり、
「キスさせてくれないと、またいつあんな風にぶっ飛ぶかわかんないよ。今度は泣いても叫んでも最後までシちゃうかもねー」
そう脅してきた。
こいつ…。さっき、ごめんなさいとビービー泣いてたくせに…調子に乗りやがって…。
「……わかった」
深いため息を吐いた後に渋々許可した。
「ただし!条件がある!
一つ! 1日1回!
二つ! 人前では絶対にしない!
三つ! お触り禁止!」
グワっと勢いをつけて叫んだ。
ロイがその条件に猛反対を始め、それから夜遅くまで討論を繰り返した。
今までの性の欲望は常に女性に向けられており、その通り女性とだけSEXしてきた。柔らかな女性の体が今までの性対象で、女性を悦ばせることも楽しいと感じた。
男性相手になんて、そんなことを考えたことも、想像したこともない。ましてや、今まで女性相手に俺がしてきたことを、される形でなんて。
そういった性癖に対して偏見はないつもりだ。実際に元の世界では偏見が取り払われつつある。テレビでそういった話を聞いても、その人たちを見ても、好感も嫌悪も特に何も感じなかった。
それは、俺には関係ないと思っていたからだ。
いや、そう思い込んでいた。
だから、ロイに欲情を向けられた時、それを受け止めて認めることが出来なかったんだ。
「クソッ!クソッ!!」
悲鳴に近い声で悪態を吐く。振り向いて後ろにある壁を両手の拳でガンガンと殴り、そのまま頭を壁に押し付けてズルズルと座り込む。
ロイはいい奴だ。
助けてくれた、ということを無しにしても、すごくいい奴だ。
見た目はすごく綺麗な顔をして、でも女性のような見た目じゃない、鍛えられた体を持った綺麗だが凛々しい男だ。
たまに子供っぽくて、どこか抜けてて、ふざけて笑わせてくれて、人を揶揄うような言葉も吐く。真剣な表情をしている時は見惚れてしまうくらいにカッコいい。
一緒に居て、喋って、ふざけ合って、笑って、たった数日なのにすごく楽しかった。このままずっと続けばいいのに、と心底思っていた。
「ショーヘー…」
欲情に濡れ、耳元で囁いたロイの声を思い出して、ゾクっとした感覚に体が震える。
「っふ…」
目から大粒の涙が溢れた。
「ッヒ…うえっ…え」
一度声が出てしまうと、嗚咽を止めることが出来なかった。髪から落ちる雫と同じように、ボタボタと涙が次から次へと溢れてくる。
何に対する涙なのか。
襲われたことが怖かった?
信用していたロイに裏切られたから?
裏切り?
違う。
ロイは裏切っていない。
ロイは自身の本能に抗えなかっただけだ。今まで無理に抑え込んでいた分、我を忘れるくらい本能のままに行動した。
数日前の行為の後、ロイは一切そういった行動をとらなかった。こっちが話をふらない限り匂いの話題を出すこともなかった。あれからずっと本能を抑え込んでいたんだと、今になって気付く。
なのに、そんなことも忘れて、全く気にすることもなく、後ろから俺に触れる提案した。そう提案した時はっきりとロイは戸惑っていたじゃないか。
自分が悪い。
我慢していたのに、理性というたがを外させたのは俺の浅はかな考えからだ。自らそういう状況を作ってしまったんだ。
ああ、そうか…。
この涙はロイを無視した自分の行動に対する自己嫌悪と、ロイが俺を襲ったと思う負い目を負わせてしまったこと対する謝罪の涙だ。
泣きながら激しく落ち込む。
謝らないと…。
そう思った。
ロイは、木陰でかなり落ち込んでいた。三角座りして頭を抱え込んで小さくなる。自分がしてしまった行動に、どうしたらいいかわからない。
ウウウゥゥゥと唸る。
我慢できると思った。
翔平からは常にいい匂いがしている。どこにいても匂いがする。近くに寄ると匂いは強くなる。
最初は何も考えずにその匂いを思い切り嗅ぎたいと思うだけだった。
でも、目の前で着替えた時、恥ずかしさからなのか匂いの質が変化したのを感じた。言葉にするなら、サラサラだったものがネットリしたものに変わった感じだ。
その匂いを感じた瞬間、ゴクリと唾を飲み込んだ。
気付けば翔平を押し倒して、存分に匂いを味わっていた。一番匂いのする耳のあたりを舐めると、さらに匂いが濃くなる。無我夢中で匂いを貪っていたら、ロマが戻り我を取り戻した。
自分でもわけがわからず呆然としてしまった。
当然、出会って1日足らずの男にそんなことをされて、翔平は怒っていた。
ひたすら謝って何とか許してもらえたが、その後も匂いを嗅ぎたい、貪りたい衝動を抑えるのに必死だった。
同じ部屋で寝ることになって、寝ぼけて翔平にしがみついて眠った時は、寝ていてもその匂いを感じて、夢の中で何度も匂いを貪った。何度も何度も翔平を犯した。
朝、翔平が慌てて起き上がり、部屋を出て行ったのは覚えてる。
出て行った後、自慰行為をした。
匂いを感じ、夢で見た翔平の姿を思い浮かべて、ガチガチに張り詰めたペニスを扱いた。
何度か繰り返してようやっと落ち着くと、改めて自覚した。
翔平に欲情している、と。
今まで感じたことのないほどの強い性欲が体を襲ってくる。
それからは何とか悟られないようにしようと必死だった。
ふざけて誤魔化してみたり、わざと少しだけ匂いを嗅いで満足したふりをしてみたり。
抱きしめて魔力を注いだ時も、それで満足しようと思っていたのに、「次は後ろから」と言われて戸惑った。結局、戸惑う理由が「欲情してしまうから」なんて話せるわけがないし、翔平の提案を受け入れたが、今思うとどこかで期待していたのかもしれない。
我慢我慢と自分に言い聞かせて、何とか平常心を保つようにしていたが、
「ハァ…」
翔平の鼻に掛かった甘ったるい声と、強くなった匂いに、俺の中でゾロリと何かが動き、プツッと何かが切れた気がした。
翔平を後ろから押さえ込み、執拗に耳や唇を嬲り貪る。
舌を絡ませて、溢れた唾液を舐め取り飲み込む。ゾクゾクとした快感が抑えられない。このまま犯したい、支配したいという強い衝動に駆られる。
翔平が俺が与える愛撫に震え、喘ぎ声を上げるたびに、体が歓喜に震えた。
彼のペニスはすっかり固くなっていて、触れればトロトロと先走りの蜜をこぼしている。それにむしゃぶりつきたいと思ったが、目の前にある唇や舌に誘われて、手だけで愛撫した。そして、その愛撫によって、手の中に射精させる。翔平の体がビクビクと跳ね、喜んでくれたと思った。
このままもっと…と思い横たえらせたが、その時彼の目から涙が零れるのを見てしまった。
重い鈍器で頭を殴られたような衝撃が襲った。そして我に返る。当然彼は怒り、触るなと怒鳴られた。
取り返しのつかないことをしてしまった。
俺はこんなに自制心が弱かったのか…?
どうやったら許してくれる?
そもそもあんなことされて許してくれるのか?
自問自答を繰り返していたが、それでも謝らなければ、と翔平を追いかける。そして浴室の中で嗚咽を漏らしながら泣いている彼の声を聞いてしまった。
再びショックが襲う。
翔平を傷つけてしまった。
トボトボと元いた木陰に座ると膝を抱え込んで深く落ち込んだ。
ひとしきり泣いた後、割と頭がスッキリして、冷静になれた。というか開き直ったと言った方が当てはまる。
起こってしまったことは仕方がない。
俺が自ら襲われるような状況を作ってしまったことが悪い。同意を得ずに事に及ぼうとしたロイも悪い。
最後までシたわけじゃないし、今回は事故ってことで。
「うん、お互いに配慮が足りなかったってことにしよう」
自分でもかなり的外れで無理矢理な言い訳だとは思う。
色々考えたが、実際のところ、あんなことをされてもロイのことを嫌いになれない自分に気付いたのだ。ここ数日が楽しすぎて、できれば今後も一緒にいたいと思う。
もしかしたら、今後もこういうことがあるかもしれない。でもその時はその時だ。
まさに開き直りだった。
散々泣いて、思った以上に頭を切り替えることが出来たことに割と驚いたが、相手がロイだったからそう思えたのかもしれない。
相手がロイだったから、というところに多少の引っ掛かりはあるが、これ以上は考えないことにした。
まずは話をしよう。
そう思った。
浴室に常備していた服に着替え浴室を出たが、家の中にロイがいない。探すと、薄暗くなってきた外の木の下でロイが蹲っていた。
体格の良い男が三角座りをして小さく蹲っている姿は少し可笑しい。
静かに、ロイのそばまで行くと、
「おい」
足でロイの腕を軽く蹴った。
ロイがゆっくりと頭を上げて俺の顔を見上げてきた。
俺の顔を見た瞬間、クシャッと顔が歪み、目からブワッと涙が溢れてウワーッと泣き始める。鼻水も涎も垂らし、子供のようにギャン泣きするイケメンに、ギョッとする。
「ショーヘーー!!ごべんなざいー!」
と濁点まみれの言葉を吐きながらオイオイ泣く姿に呆気に取られ、そしてあまりにもイケメンに不釣り合いな姿にプッと吹き出した。
「わかったわかった」
笑いながら、手を伸ばしてロイの頭をポンポン叩く。
「ずびばぜんでじだ…」
鼻水を垂らして謝る姿に、「図体ばかりデカくなって、中身は子供」というロマの言葉を思い出し、ほんと子供みたいだよな…と思った。
すかさず、子供はあんなことしねーけどな、とスンッと一瞬真顔になる。
「帰るぞ」
ロイの手を握り引っ張ると、大きく鼻水を啜りながらも、うん、と返事をするロイが可愛いと思った。
そういえば俺からロイの手を握ったのは初めてだな、と思いつつ、家の中に戻る。
家に戻ると、ロマが煎れてくれていた、あの妙に落ち着くお茶を用意する。
隣り合ってロイにもお茶を渡した。
「ショーヘー、大丈夫か…?」
ずびーっと音を立てて鼻をかんだ後、おずおずと聞いてくる。
「大丈夫だ」
端的に答えたが、ロイが俺の目元に触れてきた。思い切り泣いたせいで目元が腫れぼったい。
「泣いたよな…」
「…まあな」
聞かれてたのか、と少し恥ずかしくなったが、あんなギャン泣きを見た後なのでお互い様だと思った。
「本当にごめん!」
ロイが椅子に座ったまま俺に向き直り頭を下げてくる。
「いいよもう。あれは…俺も悪かったし…」
「え?」
「お前、俺の匂いにあてられたんだろ? んで理性がぶっ飛んじゃったんだろ? そういう状況に持ってった俺も悪い」
素直に自分の非を認める、これが大人しての常識だ。
「気付いてたのか?」
ロイが神妙な顔つきする。
「気付いてないと言えば嘘になるな。認めたくなかったんだよ。俺が男、同性に欲情されるなんて」
「そっか…バレてたんか」
少し、間が空いた。お互いにお茶をすする。
「俺さ、こんなの初めてでさ」
ロイが湯呑みのお茶を揺らしながら話し始める。
「今までいろんな奴とSEXしてきたけど、ショーヘーみたいにいい匂いするやつ初めてでさ」
動物の、狼の本能なんだろうか。特有のフェロモンで発情期に入る、みたいな。
「俺も男相手なんて初めてだよ。俺の世界じゃまだまだ男女のSEXが当たり前だし。あ、最後まではシてないからSEXとは言えないか」
「だいぶ匂いには慣れてきたと思ってたんだけど………そっか」
不意にロイが顔上げた。キラリンと目が輝いた、ような気がする。突然俺に向き直ると、
「ショーヘー、キスしよう」
「…………は?」
たっぷり数秒の間を開けて聞き返す。何を言ってるんだ、こいつは。
「キスしよう」
もう一度笑顔で言われて、みるみるうちにカーッと赤面するのを感じた。
右手で拳骨を作ると、ロイの頭をゴンッと音がするほど殴った。
「いってー」
さほど痛くもないだろうが、文句を垂れる。
「慣れだよ慣れ」
「それとキスがどういう関係なんだよ」
「匂いに慣れるためにキスすればいいんだよ」
とんでも理論だと思った。
「慣れれば、ショーヘーが近くに来る度に犯したい衝動も減ってくるだろうし」
我ながらいい考え、とロイはドヤっている。
今とんでもないことを言わなかったか?
何だよ犯したい衝動って。
そんなことずっと思われてたわけ?
と改めてゾッとした。
「初日に比べたら、ずっと匂いに慣れてきてるし、これならいける」
慣れてもらう、という意見には一理ある。賛成だ。だがそれが何故キスすることになるのか。
「キスという行為の必然性に問題があると思われますので却下いたします。ただ毎日匂いを嗅いで慣れれば良いのではないでしょうか」
至極丁寧に要望を突っぱねる。
だが、ロイは全く折れない。
あんな強烈なベロチューじゃなくて、軽く触れるだけのキスだから、挨拶みたいなもんだと熱弁する。
する、しない、の攻防戦がしばらく続いたが、ロイが急に真顔になり、
「キスさせてくれないと、またいつあんな風にぶっ飛ぶかわかんないよ。今度は泣いても叫んでも最後までシちゃうかもねー」
そう脅してきた。
こいつ…。さっき、ごめんなさいとビービー泣いてたくせに…調子に乗りやがって…。
「……わかった」
深いため息を吐いた後に渋々許可した。
「ただし!条件がある!
一つ! 1日1回!
二つ! 人前では絶対にしない!
三つ! お触り禁止!」
グワっと勢いをつけて叫んだ。
ロイがその条件に猛反対を始め、それから夜遅くまで討論を繰り返した。
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