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異世界へ 〜魔法を学ぶ〜
11.おっさん、キスされ…そして
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「出たー!やっと出たー!!」
魔法の練習を始めて3日目も終わろうかと言う時、ついに手から火が出た。
とはいってもマッチのように小さく、シュボッとついてすぐに消えてしまったが。
それでも火が出たことには変わらない。
「おー、良かったなー」
ロイが上から目線で、子供を褒めるように頭を撫でて来た。
「やめろ」
すぐに手を振り払って、もう一度火を放ちロイに見せる。
「おー、出た出た。ちっせーけど」
プププーッと笑われて、うるせーなと文句を言う。
「後は威力だよなー。これじゃ攻撃にもならねーし」
ロイが呟く。
そうだった。火をつけることが目的じゃなかった。これで攻撃するんだった。忘れていた本来の目的を思い出す。
「多分魔力が足りないんだよ。もっといっぱい出さないと」
そう言われたがピンと来ない。
「魔力は身体中を循環してる。それらを手に集める感じでやってみな。」
フムフムと頷き、早速練習を始めた…が、出来ない。何度やってもマッチ以上の火にはならなかった。
「俺、才能ないのかな」
夜、恒例となった雑談で愚痴る。
「まあ焦んなって」
ロイが笑って慰めてくれた。
そして練習4日目、その日もずーっと練習しているが、マッチ以上の火は出せなかった。
「うーん…」
どうしても、火が大きくならない。ロイは、身体中の魔力を手に集中させると言うが、そうイメージしても、手の中の魔力しか感じられない。全身を巡っている魔力というのを、どうしても感じることが出来なかった。
「もっかい試してみる?」
ロイが向かい合って両手を差し出す。また魔力を自分へ注いで、感覚を掴ませようと提案してくる。
「そうだな…」
体を流れる魔力の感じが掴めれば、何か変わるかもしれない。そう思ってロイの手を取った。
その瞬間、グイッと手を引っ張られて、気が付けばロイに抱きしめられていた。
「ちょっ、何する」
「全身で感じるなら触れないと意味ねーだろ」
言われてみればそうだ。
でも別に抱きしめなくてもいいんじゃないか? 前は背中に添えた手だけで全身に魔力が伝わっただろうが、そう反論しようとしたが、体が触れ合った部分から、ブワッと一気に魔力が染み込んでくることに気付く。
今までのように、手のひらや背中一箇所からだけではなく、触れたところ全部からだ。しかも、じわじわと浸透していくのではなく、大量の魔力が入り込んでくるのがわかった。
「うぁ…」
その異様な感覚に思わず声が出る。
ゾワゾワとした悪寒のような、くすぐったいような、以前魔法陣に手を置いた時の、あの感覚を思い出した。
「あ…あ…」
ガクガクと足が震える。
ロイの魔力が体の中で動き回る異様な感覚に、顔が紅潮し、ビクビクと体が震えた。
時間にして数十秒。
ロイが抱きしめるのをやめて体を離すと、ヘナヘナと力が抜けて座り込んでしまった。
「お、おい」
ロイが慌てて手を差し出し、倒れないように支えてくれたが、腰が抜けたように立てない。
「ちょっ…、加、減、しろ」
息も絶え絶えに、文句を言う。
「ごめんごめん」
ロイが笑いながら言うと、突然俺を抱え上げ、草むらから木陰へと移動し座らせてくれた。お姫様抱っこ、でだ。
2度目のお姫様抱っこに男としてのプライドにヒビが入る。殴ろうかと思ったが力が入らない。
ロイはそんな俺を全く気にせず、水持ってくる、と頭を撫でてから行ってしまった。
38歳なのに子供扱いってどーよ
っていうか、俺って何歳だと思われてるんだ?
ハアァァッと深いため息をついて項垂れる。
そういえば、年齢言ってなかったっけ、と今更気付く。ロイは何歳なんだろう。見た目は20代後半に見える。だが、ロマもかなりの高齢であるようだし、この世界では見た目と年齢は一致していないのが当たり前なのかもしれない。
「ほれ」
下を向いた視線の先に、水の入ったコップが差し出される。
「ありがと」
受け取ると一気に半分まで飲み干した。冷たくて美味しい。さっきの行為で上がった体温が冷めていく気がした。
「落ち着いた? で、どうよ」
ロイが隣に座って聞いてくる。
「うーん…」
先ほどの魔力の流れを思い出してみる。あの時の感覚がむず痒いというか、ゾクゾクとした快感にも近いものがあって、それを思い出すと恥ずかしくもなるが、確かにロイの魔力が体内に流れる感覚は覚えている。
「やってみる」
一度深呼吸して、右手のひらを前につき出す。
先ほどのロイの魔力の流れを意識して、その感覚を追いかけて…、その先に火が点くイメージを…、
ポンッ
そんな音が出た。
ピンポン玉くらいの火の玉がヒョロヒョロ~っと飛び、1mくらい先で消えた。
「…出来た…」
「ヘロヘロだけどな~」
すかさずロイがゲラゲラと笑いながら嫌味を言う。
「体のどのへんから流れを感じたかわかるか?」
「…この辺かな」
胸の辺りに手を当てて、肩、腕、手と流れていく動作をする。
「上出来上出来」
ウンウンとロイが微笑む。
「じゃ今度は足の先からも流れがわかるようにしよーぜ」
一瞬、また? とも思ったが、一度の接触で成長出来たので、断ることは出来なかった。
「…ちゃんと加減しろよ」
だが、また真正面から抱きしめられるのには抵抗がある。
どうしようかなと逡巡した結果、後ろからなら顔を合わせない分幾分マシかと思い至った。
そう提案すると、ロイは一瞬驚いた顔をして、戸惑いを見せる。
「それでいいのか…?」
逆に聞かれて不思議に思う。
「何で?」
やりづらいとかあるのかな、と考えてみるが理由が思いつかない。
まあとにかく、俺の提案通り、そのまま木陰でやってみようということになった。
ロイが木を背もたれにして座り膝を立てて足を開く。その間に俺が座って、ロイに寄りかかり、足もなるべく密着させつつ、俺の脇から前に伸ばされたロイの腕が肘掛けとなり、人間椅子のような体勢になる。
「体重かけてよりかかってもいいぞ」
「あ、うん」
そう言われて上半身を後ろに倒し俺の背中とロイの胸を密着させた。
「ゆっくりだぞ」
「はいはい、ゆっくりね」
先ほどのような突然体内を掻き回されるような感覚はもうごめんだ。ゆっくりな、としつこくロイに言う。
「じゃーいくぞ」
ロイの声と共に目を閉じて集中すると、すぐにじんわりと暖かさが伝わってくる。
ロイに触れている箇所が暖かく熱を帯び始め、ゆっくりと触れた箇所から体に染み込んで行くのを自覚できた。
そして、その熱に慣れてきた頃、ゆっくりと水が流れるように魔力が動き始めた。
「ん…」
一瞬、ピクリと反応したが、ゆっくりと動くロイの魔力に意識を集中して追いかける。
腕、背中、足、そして触れていない胸や腹、足先にも魔力が流れて、血液のように循環しているのがわかる。
やがて、ロイの魔力ではないもの、多分俺のものだろう魔力の流れを感じ始めた。体の中で、二つが絡み合い、溶け合うように流れていく。
全身をゆっくりと流れていく2つの魔力に、快感に近い感覚が体を震わせた。
「ハァ…」
無意識だろう快感を伴ったため息が漏れる。
その時、ロイの体がピクリと反応し、それと同時に体に流れてこんでくるロイの魔力がスーッと潮が引くように消えていった。
「?」
どうしたのか聞こうと思い、寄りかかっていた体を起こそうとしたが、唐突にロイの腕が俺の体を羽交締めにして、ガッチリと押さえ込んできた。
あまりにも突然なことに驚いたが、その力強さに、数日前ロイに押し倒されて散々耳を嬲られた記憶が一瞬で蘇ってくる。
ロイの額が俺の頭に乗せられており、ロイから小さなハァハァという息遣いが聞こえた。
まさか…
魔法に夢中になり、毎日が楽しくて、すっかり忘れていた。
あれ以来、匂いについて何も言われなかったし、匂いを嗅ごうとする行動もなかったから、頭の中からすっぽり抜けてしまっていた。
なんで忘れてた、俺!と自分を殴りたくなる。
「ショーヘー…」
ロイが俺の左耳の裏側へ鼻先を押し付け、囁きと共に吐息を吹きかける。
「…っ!」
その瞬間、ゾクゾクゾクッと背筋を快感が駆け上がった。
先ほどまで感じていた魔力の融合ですでに快感を覚えていたので、耳に息を吹きかけられただけで、鳥肌が立つほどの快感が押し寄せてきた。
「っちょ…やめ…ロイ!」
名前を叫ぶが、ロイの腕が解かれることはない。
耳元でロイの息遣いが聞こえる。少し荒く興奮しているのが手に取るようにわかった。
数日前のロイの恍惚とした表情を思い出し、見えないが今もきっと同じ顔をしていると確信した。
ヤバいヤバいヤバい
なんとか逃げようと体を捩るが、少し体がズレるだけで、ロイの腕の中から逃れることが出来ない。
自由に動かせる足をばたつかせながら、なんとか拘束を解こうとしても、ピクリとも動かない。
必死にもがいていたが、ベロリと耳を舐められて、ヒッと悲鳴のような声を上げた。
舌で唇で耳の形を覚えようとしているかのように嬲ってくる。時折り耳たぶを甘噛みされ、その度にピリッとした衝撃が走る。耳から首すじへと舌でなぞられるとさらなる快感が襲ってくる。
「ぁ…ん…」
自分でも驚くくらいの喘ぎに近い声が口から漏れ、恥ずかしくて必死に抵抗するが、ロイの舌は止まらない。
「ふ…んん…ロ…イ…やめ…ろ…」
舐められる度に電流に似た快感が全身を駆け抜け、腰が砕けそうになる。いや、実際にもう力が入らなくなっていた。かろうじて動かしていた足も、次第に力をなくし動かすことが出来なくなっていた。
「ハァ……ショ…へー…いい匂い…」
ロイの吐息と言葉が鼓膜を刺激する。何度もスンスンと匂いを嗅がれる息遣いが聞こえ、そして匂いを味わうように舐められる。耳も首すじもロイに完全に支配されていた。
「ん…ん…ぁ…」
ビクンビクンと無意識に体が跳ねる。
俺の抵抗が小さくなったことを理解したのか、ロイが少しだけ力を緩めたことに気付いたが、脱力してもう逃げ出すことなんて出来なくなっていた。
ロイが左手で頬に触れてくる。そのまま顎に手をかけてゆっくりと後ろのロイの方へ向けさせられる。
のけぞるような形になり、すぐ目の前にロイの顔が迫る。その目は俺を見ていないようだった。正気を失った瞳の奥に欲情した光がチラチラと揺らいでいる。そんな頬が紅潮し興奮した顔のロイを見て、それだけで快感を覚えた。
顔が近づく。
ダメだ、これ以上は…
心の中で最後の抵抗をするが、体が言うことをきかない。
ゆっくりと上から覆い被さるように唇を重ねられた。
「っふ…」
重ねるだけのキスがしばらく続き、一度離れ、吐息が漏れて口を薄く開いた瞬間を狙ったかのように、ロイの舌が口内に侵入してくる。
「ん…んん…ぁ…」
舌を絡められ、吸われ、唇を舐められる。その度に喘ぎ声が漏れ体が小さく跳ねた。
何度も何度も深いキスを繰り返され、溢れた唾液が顎を伝って流れる。
「あ…ハァ…」
だんだんと息も上がってくる。ため息に近い吐息を漏らすが、ロイの執拗なキスは止まらない。
もうとっくに下半身の方は反応していた。舌を吸われる度に、俺のペニスがピクンと反応するのを感じる。
そしてその反応に気付いているのは俺だけじゃなかった。
ロイの左手は俺の仰け反った首と顎を押さえ、右手は胸から腹へ、ゆっくりと体のラインを確かめるように弄っていく。そして、
「んんん!」
布越しに、ペニスを撫でられ、口を塞がれた状態で喘ぎ声を漏らした。
ゆっくりとロイの手がその形を確かめるように、何度も何度も往復する。
「あ、あっ」
その度に短い悲鳴のような声をあげてしまうが、また唇で塞がれる。
「ロ、イ、や…めろ…」
なんとか残った理性が抵抗を示すが、次の瞬間、ロイの手がズボンの中へ滑り込み、ペニスに直に触れ、握り込んできた。
「あ!やめ…あ」
そのまま上下に擦り上げられ、先端を指でなぞられる。
「…!!!」
もう声にならなかった。ロイの舌が唇を、頬を、耳を嬲り続け、その手がグチュグチュと音を立ててペニスを扱く。
「あぁ…あ…」
ガクガクと震え、腰が勝手に揺れる。
目を見開き、襲ってくる快感に喘ぎ声を止めることが出来ない。
いやらしいグチュグチュという音が、たまに漏れるため息に似たロイの息遣いが聴覚を犯し、ますます快感に飲まれていく。
「んん…!」
再度唇を塞がれたかと思うと、ジュルッと音を立てて舌が吸われ、強めにペニスを扱かれた。
「!!!!!」
数回の扱きの後、ビクンビクンと体が緊張し、ロイの手の中に白濁とした液を放つ。そして、グッタリと体を投げ出した。
「…ん…ん」
果てた後も、キスの雨はやまない。ペニスを握った手は、溢れ出た精液を塗りつけるようにゆっくりと上下に動かされる。その度に、放出した余韻に浸ることも出来ず、ピクンピクンと無意識に体が跳ねる。
そして、ロイは力をなくし荒い呼吸を繰り返す俺をようやく解放すると、ゆっくりと地面に横たえらせ、四つん這いなって覆い被さってきた。
だがその時、あまりにも強すぎた刺激に生理的に生じた涙が、目尻から一筋零れ落ちた。
それを見た瞬間、ビクッと反応したかと思うとロイの表情が変わる。目の奥に揺らいでいた欲情がスーッと消え、驚いた表情で俺を見てきた。
「あ…ショー…へー」
か細い声で呼ばれたが、答えることは出来なかった。声の感じで正気を取り戻したことがわかる。
だが、そんなことはもうどうでも良かった。
グッと体に力を込めると、ロイの体を押し返す。どんなに暴れても動かなかったロイの体が、弱々しい力にも抵抗なく押されて膝立ちの姿勢になった。
上半身を起こし、震える体を気力だけで押さえ込み、ガクガクと力の入らない足をなんとか動かして立ち上がると、ロイに背中を向けゆっくりと歩き出した。
数歩進んで、膝に力が入らずガクンと崩れ落ちそうになったのを、慌てたロイが助けようと手を伸ばしてきた。
「触るな!!!」
自分でも驚くほど大きな声で怒鳴った。だが、我ながら声が震えているのがわかる。
怒鳴られて体を萎縮させたロイを置いて、ゆっくりと家の中に戻り、壁に手をつきながらヨロヨロと浴室へ向かう。
浴室に入りドアを閉め、フラフラと桶を手に取ると冷たい水を頭からかぶる。
汚れた下着やズボンごと自分を綺麗にするかのように、何度も何度も水を浴びた。
大桶にあった水が半分近くまで減り、ようやくかぶるのをやめた。ポタポタと垂れる雫をそのままに壁に寄りかかる。
くそっ!
体はだいぶ冷えた。だがロイに対する怒りがおさまらない。それと同時に自分の甘さに腹が立つ。
数日前、俺の匂いに中てられてロイは正気を失いかけていた。ロマが帰って来なければ、きっとそのまま続けられて、先ほどのような行為に及んでいただろう。おそらく、その先にまで。
そんな経験をしていたのに、男から性の欲情を叩きつけられたのに、一切自衛しなかった。
ロイは、俺の匂いで発情していた。
わかっていた。
わかっていたけど認めたくなかった。
魔法の練習を始めて3日目も終わろうかと言う時、ついに手から火が出た。
とはいってもマッチのように小さく、シュボッとついてすぐに消えてしまったが。
それでも火が出たことには変わらない。
「おー、良かったなー」
ロイが上から目線で、子供を褒めるように頭を撫でて来た。
「やめろ」
すぐに手を振り払って、もう一度火を放ちロイに見せる。
「おー、出た出た。ちっせーけど」
プププーッと笑われて、うるせーなと文句を言う。
「後は威力だよなー。これじゃ攻撃にもならねーし」
ロイが呟く。
そうだった。火をつけることが目的じゃなかった。これで攻撃するんだった。忘れていた本来の目的を思い出す。
「多分魔力が足りないんだよ。もっといっぱい出さないと」
そう言われたがピンと来ない。
「魔力は身体中を循環してる。それらを手に集める感じでやってみな。」
フムフムと頷き、早速練習を始めた…が、出来ない。何度やってもマッチ以上の火にはならなかった。
「俺、才能ないのかな」
夜、恒例となった雑談で愚痴る。
「まあ焦んなって」
ロイが笑って慰めてくれた。
そして練習4日目、その日もずーっと練習しているが、マッチ以上の火は出せなかった。
「うーん…」
どうしても、火が大きくならない。ロイは、身体中の魔力を手に集中させると言うが、そうイメージしても、手の中の魔力しか感じられない。全身を巡っている魔力というのを、どうしても感じることが出来なかった。
「もっかい試してみる?」
ロイが向かい合って両手を差し出す。また魔力を自分へ注いで、感覚を掴ませようと提案してくる。
「そうだな…」
体を流れる魔力の感じが掴めれば、何か変わるかもしれない。そう思ってロイの手を取った。
その瞬間、グイッと手を引っ張られて、気が付けばロイに抱きしめられていた。
「ちょっ、何する」
「全身で感じるなら触れないと意味ねーだろ」
言われてみればそうだ。
でも別に抱きしめなくてもいいんじゃないか? 前は背中に添えた手だけで全身に魔力が伝わっただろうが、そう反論しようとしたが、体が触れ合った部分から、ブワッと一気に魔力が染み込んでくることに気付く。
今までのように、手のひらや背中一箇所からだけではなく、触れたところ全部からだ。しかも、じわじわと浸透していくのではなく、大量の魔力が入り込んでくるのがわかった。
「うぁ…」
その異様な感覚に思わず声が出る。
ゾワゾワとした悪寒のような、くすぐったいような、以前魔法陣に手を置いた時の、あの感覚を思い出した。
「あ…あ…」
ガクガクと足が震える。
ロイの魔力が体の中で動き回る異様な感覚に、顔が紅潮し、ビクビクと体が震えた。
時間にして数十秒。
ロイが抱きしめるのをやめて体を離すと、ヘナヘナと力が抜けて座り込んでしまった。
「お、おい」
ロイが慌てて手を差し出し、倒れないように支えてくれたが、腰が抜けたように立てない。
「ちょっ…、加、減、しろ」
息も絶え絶えに、文句を言う。
「ごめんごめん」
ロイが笑いながら言うと、突然俺を抱え上げ、草むらから木陰へと移動し座らせてくれた。お姫様抱っこ、でだ。
2度目のお姫様抱っこに男としてのプライドにヒビが入る。殴ろうかと思ったが力が入らない。
ロイはそんな俺を全く気にせず、水持ってくる、と頭を撫でてから行ってしまった。
38歳なのに子供扱いってどーよ
っていうか、俺って何歳だと思われてるんだ?
ハアァァッと深いため息をついて項垂れる。
そういえば、年齢言ってなかったっけ、と今更気付く。ロイは何歳なんだろう。見た目は20代後半に見える。だが、ロマもかなりの高齢であるようだし、この世界では見た目と年齢は一致していないのが当たり前なのかもしれない。
「ほれ」
下を向いた視線の先に、水の入ったコップが差し出される。
「ありがと」
受け取ると一気に半分まで飲み干した。冷たくて美味しい。さっきの行為で上がった体温が冷めていく気がした。
「落ち着いた? で、どうよ」
ロイが隣に座って聞いてくる。
「うーん…」
先ほどの魔力の流れを思い出してみる。あの時の感覚がむず痒いというか、ゾクゾクとした快感にも近いものがあって、それを思い出すと恥ずかしくもなるが、確かにロイの魔力が体内に流れる感覚は覚えている。
「やってみる」
一度深呼吸して、右手のひらを前につき出す。
先ほどのロイの魔力の流れを意識して、その感覚を追いかけて…、その先に火が点くイメージを…、
ポンッ
そんな音が出た。
ピンポン玉くらいの火の玉がヒョロヒョロ~っと飛び、1mくらい先で消えた。
「…出来た…」
「ヘロヘロだけどな~」
すかさずロイがゲラゲラと笑いながら嫌味を言う。
「体のどのへんから流れを感じたかわかるか?」
「…この辺かな」
胸の辺りに手を当てて、肩、腕、手と流れていく動作をする。
「上出来上出来」
ウンウンとロイが微笑む。
「じゃ今度は足の先からも流れがわかるようにしよーぜ」
一瞬、また? とも思ったが、一度の接触で成長出来たので、断ることは出来なかった。
「…ちゃんと加減しろよ」
だが、また真正面から抱きしめられるのには抵抗がある。
どうしようかなと逡巡した結果、後ろからなら顔を合わせない分幾分マシかと思い至った。
そう提案すると、ロイは一瞬驚いた顔をして、戸惑いを見せる。
「それでいいのか…?」
逆に聞かれて不思議に思う。
「何で?」
やりづらいとかあるのかな、と考えてみるが理由が思いつかない。
まあとにかく、俺の提案通り、そのまま木陰でやってみようということになった。
ロイが木を背もたれにして座り膝を立てて足を開く。その間に俺が座って、ロイに寄りかかり、足もなるべく密着させつつ、俺の脇から前に伸ばされたロイの腕が肘掛けとなり、人間椅子のような体勢になる。
「体重かけてよりかかってもいいぞ」
「あ、うん」
そう言われて上半身を後ろに倒し俺の背中とロイの胸を密着させた。
「ゆっくりだぞ」
「はいはい、ゆっくりね」
先ほどのような突然体内を掻き回されるような感覚はもうごめんだ。ゆっくりな、としつこくロイに言う。
「じゃーいくぞ」
ロイの声と共に目を閉じて集中すると、すぐにじんわりと暖かさが伝わってくる。
ロイに触れている箇所が暖かく熱を帯び始め、ゆっくりと触れた箇所から体に染み込んで行くのを自覚できた。
そして、その熱に慣れてきた頃、ゆっくりと水が流れるように魔力が動き始めた。
「ん…」
一瞬、ピクリと反応したが、ゆっくりと動くロイの魔力に意識を集中して追いかける。
腕、背中、足、そして触れていない胸や腹、足先にも魔力が流れて、血液のように循環しているのがわかる。
やがて、ロイの魔力ではないもの、多分俺のものだろう魔力の流れを感じ始めた。体の中で、二つが絡み合い、溶け合うように流れていく。
全身をゆっくりと流れていく2つの魔力に、快感に近い感覚が体を震わせた。
「ハァ…」
無意識だろう快感を伴ったため息が漏れる。
その時、ロイの体がピクリと反応し、それと同時に体に流れてこんでくるロイの魔力がスーッと潮が引くように消えていった。
「?」
どうしたのか聞こうと思い、寄りかかっていた体を起こそうとしたが、唐突にロイの腕が俺の体を羽交締めにして、ガッチリと押さえ込んできた。
あまりにも突然なことに驚いたが、その力強さに、数日前ロイに押し倒されて散々耳を嬲られた記憶が一瞬で蘇ってくる。
ロイの額が俺の頭に乗せられており、ロイから小さなハァハァという息遣いが聞こえた。
まさか…
魔法に夢中になり、毎日が楽しくて、すっかり忘れていた。
あれ以来、匂いについて何も言われなかったし、匂いを嗅ごうとする行動もなかったから、頭の中からすっぽり抜けてしまっていた。
なんで忘れてた、俺!と自分を殴りたくなる。
「ショーヘー…」
ロイが俺の左耳の裏側へ鼻先を押し付け、囁きと共に吐息を吹きかける。
「…っ!」
その瞬間、ゾクゾクゾクッと背筋を快感が駆け上がった。
先ほどまで感じていた魔力の融合ですでに快感を覚えていたので、耳に息を吹きかけられただけで、鳥肌が立つほどの快感が押し寄せてきた。
「っちょ…やめ…ロイ!」
名前を叫ぶが、ロイの腕が解かれることはない。
耳元でロイの息遣いが聞こえる。少し荒く興奮しているのが手に取るようにわかった。
数日前のロイの恍惚とした表情を思い出し、見えないが今もきっと同じ顔をしていると確信した。
ヤバいヤバいヤバい
なんとか逃げようと体を捩るが、少し体がズレるだけで、ロイの腕の中から逃れることが出来ない。
自由に動かせる足をばたつかせながら、なんとか拘束を解こうとしても、ピクリとも動かない。
必死にもがいていたが、ベロリと耳を舐められて、ヒッと悲鳴のような声を上げた。
舌で唇で耳の形を覚えようとしているかのように嬲ってくる。時折り耳たぶを甘噛みされ、その度にピリッとした衝撃が走る。耳から首すじへと舌でなぞられるとさらなる快感が襲ってくる。
「ぁ…ん…」
自分でも驚くくらいの喘ぎに近い声が口から漏れ、恥ずかしくて必死に抵抗するが、ロイの舌は止まらない。
「ふ…んん…ロ…イ…やめ…ろ…」
舐められる度に電流に似た快感が全身を駆け抜け、腰が砕けそうになる。いや、実際にもう力が入らなくなっていた。かろうじて動かしていた足も、次第に力をなくし動かすことが出来なくなっていた。
「ハァ……ショ…へー…いい匂い…」
ロイの吐息と言葉が鼓膜を刺激する。何度もスンスンと匂いを嗅がれる息遣いが聞こえ、そして匂いを味わうように舐められる。耳も首すじもロイに完全に支配されていた。
「ん…ん…ぁ…」
ビクンビクンと無意識に体が跳ねる。
俺の抵抗が小さくなったことを理解したのか、ロイが少しだけ力を緩めたことに気付いたが、脱力してもう逃げ出すことなんて出来なくなっていた。
ロイが左手で頬に触れてくる。そのまま顎に手をかけてゆっくりと後ろのロイの方へ向けさせられる。
のけぞるような形になり、すぐ目の前にロイの顔が迫る。その目は俺を見ていないようだった。正気を失った瞳の奥に欲情した光がチラチラと揺らいでいる。そんな頬が紅潮し興奮した顔のロイを見て、それだけで快感を覚えた。
顔が近づく。
ダメだ、これ以上は…
心の中で最後の抵抗をするが、体が言うことをきかない。
ゆっくりと上から覆い被さるように唇を重ねられた。
「っふ…」
重ねるだけのキスがしばらく続き、一度離れ、吐息が漏れて口を薄く開いた瞬間を狙ったかのように、ロイの舌が口内に侵入してくる。
「ん…んん…ぁ…」
舌を絡められ、吸われ、唇を舐められる。その度に喘ぎ声が漏れ体が小さく跳ねた。
何度も何度も深いキスを繰り返され、溢れた唾液が顎を伝って流れる。
「あ…ハァ…」
だんだんと息も上がってくる。ため息に近い吐息を漏らすが、ロイの執拗なキスは止まらない。
もうとっくに下半身の方は反応していた。舌を吸われる度に、俺のペニスがピクンと反応するのを感じる。
そしてその反応に気付いているのは俺だけじゃなかった。
ロイの左手は俺の仰け反った首と顎を押さえ、右手は胸から腹へ、ゆっくりと体のラインを確かめるように弄っていく。そして、
「んんん!」
布越しに、ペニスを撫でられ、口を塞がれた状態で喘ぎ声を漏らした。
ゆっくりとロイの手がその形を確かめるように、何度も何度も往復する。
「あ、あっ」
その度に短い悲鳴のような声をあげてしまうが、また唇で塞がれる。
「ロ、イ、や…めろ…」
なんとか残った理性が抵抗を示すが、次の瞬間、ロイの手がズボンの中へ滑り込み、ペニスに直に触れ、握り込んできた。
「あ!やめ…あ」
そのまま上下に擦り上げられ、先端を指でなぞられる。
「…!!!」
もう声にならなかった。ロイの舌が唇を、頬を、耳を嬲り続け、その手がグチュグチュと音を立ててペニスを扱く。
「あぁ…あ…」
ガクガクと震え、腰が勝手に揺れる。
目を見開き、襲ってくる快感に喘ぎ声を止めることが出来ない。
いやらしいグチュグチュという音が、たまに漏れるため息に似たロイの息遣いが聴覚を犯し、ますます快感に飲まれていく。
「んん…!」
再度唇を塞がれたかと思うと、ジュルッと音を立てて舌が吸われ、強めにペニスを扱かれた。
「!!!!!」
数回の扱きの後、ビクンビクンと体が緊張し、ロイの手の中に白濁とした液を放つ。そして、グッタリと体を投げ出した。
「…ん…ん」
果てた後も、キスの雨はやまない。ペニスを握った手は、溢れ出た精液を塗りつけるようにゆっくりと上下に動かされる。その度に、放出した余韻に浸ることも出来ず、ピクンピクンと無意識に体が跳ねる。
そして、ロイは力をなくし荒い呼吸を繰り返す俺をようやく解放すると、ゆっくりと地面に横たえらせ、四つん這いなって覆い被さってきた。
だがその時、あまりにも強すぎた刺激に生理的に生じた涙が、目尻から一筋零れ落ちた。
それを見た瞬間、ビクッと反応したかと思うとロイの表情が変わる。目の奥に揺らいでいた欲情がスーッと消え、驚いた表情で俺を見てきた。
「あ…ショー…へー」
か細い声で呼ばれたが、答えることは出来なかった。声の感じで正気を取り戻したことがわかる。
だが、そんなことはもうどうでも良かった。
グッと体に力を込めると、ロイの体を押し返す。どんなに暴れても動かなかったロイの体が、弱々しい力にも抵抗なく押されて膝立ちの姿勢になった。
上半身を起こし、震える体を気力だけで押さえ込み、ガクガクと力の入らない足をなんとか動かして立ち上がると、ロイに背中を向けゆっくりと歩き出した。
数歩進んで、膝に力が入らずガクンと崩れ落ちそうになったのを、慌てたロイが助けようと手を伸ばしてきた。
「触るな!!!」
自分でも驚くほど大きな声で怒鳴った。だが、我ながら声が震えているのがわかる。
怒鳴られて体を萎縮させたロイを置いて、ゆっくりと家の中に戻り、壁に手をつきながらヨロヨロと浴室へ向かう。
浴室に入りドアを閉め、フラフラと桶を手に取ると冷たい水を頭からかぶる。
汚れた下着やズボンごと自分を綺麗にするかのように、何度も何度も水を浴びた。
大桶にあった水が半分近くまで減り、ようやくかぶるのをやめた。ポタポタと垂れる雫をそのままに壁に寄りかかる。
くそっ!
体はだいぶ冷えた。だがロイに対する怒りがおさまらない。それと同時に自分の甘さに腹が立つ。
数日前、俺の匂いに中てられてロイは正気を失いかけていた。ロマが帰って来なければ、きっとそのまま続けられて、先ほどのような行為に及んでいただろう。おそらく、その先にまで。
そんな経験をしていたのに、男から性の欲情を叩きつけられたのに、一切自衛しなかった。
ロイは、俺の匂いで発情していた。
わかっていた。
わかっていたけど認めたくなかった。
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