罪なき人の成り上がり～罪人と呼ばれた一族の生き残りが世界の真実を究明するまで～

15話 記憶

大広間では、ラクレスと騎士団長ギイ・ラーンの激戦が再び始まろうとしていた頃・・・

「メアリー様、そろそろ大広間に差し掛かるかと思います。危険ですので、私の後ろにお下がりください。」ソウイはメアリーに冷静に言いかけた。

しかし、メアリーは彼の言葉を一切聞き入れず、先を急いだ。

「待ってください、メアリー様！」ソウイは焦りの色を隠しきれずに、彼女を制止しようとするが、メアリーはそのまま足を速め、大広間へと飛び込んだ。

大広間に到着した瞬間、メアリーは叫んだ。

「ビアンカ、どこ！？ビアンカッ！！」

その声に反応したのは、ラクレスだった。彼は驚いた表情で、メアリーを見つめる。

「メアリー！？何でここにっ？」

「ラクレスお兄ちゃん！」メアリーは彼の姿を見た途端、安堵したかのように力を抜いた。

しかし、ラクレスの表情は暗く、言いづらそうに口を開いた。「メアリー......ビアンカさんは...........」

「えっ...........」メアリーはラクレスの言葉の意味をすぐに理解した。

大広間には、息絶えたビアンカの血に染まった姿が横たわっていた。

「嫌だ...........嫌だよ、ビアンカッ！！！」メアリーの悲痛な叫びが大広間に響く。ソウイもまた、状況を飲み込むことができずに立ち尽くしていた。

ラクレスはメアリーの前に立ち、彼女の目を見て言った。「メアリー、ごめん...........助けられなかった...........」

「ラクレスお兄ちゃんのせいじゃない...........全部、私が...........」メアリーは震えながら、自分を責め続けた。

「メアリー、君のせいじゃない。」ラクレスは彼女を励まそうとするが、その声はどこか虚ろだった。

ソウイもまた、ラクレスに賛同しつつ自分たちの無力さを痛感していた。「メアリー様のせいではありません。元はと言えば、私たちエルフがもっとメアリー様をしっかり守っていれば...........」

ラクレスはそんなソウイに静かに言い聞かせた。「それを言ったらきりがない.........」

「嫌だ....ビアンカ.......死なないで.........」メアリーはそう呟きながら、急に頭を押さえうずくまった。

「メアリー！？」ラクレスとソウイは驚き、彼女の元へ駆け寄った。

「メアリー様、どうかしましたか？」ソウイは心配そうに問いかけたが、メアリーは何も答えなかった。

「何がどうなっているんだ！？」ソウイはラクレスに助けを求めたが、ラクレスも困惑するばかりだった。「分からない...........こんなことは初めてだ...........」

二人の目の前で苦しむメアリー。彼女の頭の中には、過去の記憶が走馬灯のように駆け巡っていた。

（メアリー、あなたはいずれこの国の王になるのよ。）

（メアリー！）

（はっはっはっは。これがエルフの国の王女、ハイエルフか。これで勝てる、勝てるぞ！）

（いいか、お前は俺たちの言うことだけ聞いておけばいいんだ。変な真似はするなよ！）

嫌な記憶、そして忘れていたはずの記憶。それらが次々と脳裏を駆け抜ける。

「あぁぁぁぁぁ！！！！！」メアリーの叫び声が響き渡る。

しかし、その記憶の中には新しい大切な記憶もあった。

（メアリー、大丈夫。私が守ってやるから！）

（メアリー、変な奴拾ってきたぞ。お前、兄ちゃん欲しがってたろ？）

そして、メアリーは突然、目を見開いた。

「あっ！！！」

「メアリー、大丈夫か？」ラクレスはすぐに声をかけた。

「ええ、大丈夫。」メアリーはそう言うと、立ち上がり、ビアンカの元へと向かう。

（何かが変わった...........？）ラクレスは彼女の背中に違和感を覚えたが、それを口にはしなかった。

「メアリー様、ご無事で何よりです。」ソウイは深く息をつき、安堵の表情を浮かべた。

「ソウイ、ありがとう。心配かけたわね。」メアリーは彼に優しく微笑んだ。

その姿を見たソウイの目に涙が浮かんだ。「まさか......メアリー様、記憶が...........」

「そうよ、今、すべてを思い出したの。」メアリーはソウイに答え、彼の手を優しく握りしめた。

「本当に...........？」ラクレスは彼女の言葉に信じられないという表情を浮かべたが、メアリーの瞳に確かな決意を感じ取った。

「ラクレスお兄ちゃんも助けに来てくれてありがとう。」

「でも、ビアンカさんを助けられなかった...........俺がもっと強ければ...........」

メアリーはラクレスの言葉を遮るように静かに言った。「ラクレスお兄ちゃんは十分強いわ。それに、ビアンカは私が生き返らせる。」

その言葉にラクレスは驚愕した。「生き返らせる……？どうやって……？」

しかし、ソウイは彼を制し、「ラクレス、今は黙って見ていろ」と言った。

「どういうことだ、ソウイ...........」

「メアリー様の力です。ビースト王国が彼女をさらった理由...........それは彼女が持つ特別な力、魔法です。」

「魔法...........？」ラクレスは理解できない様子でソウイを見つめた。

「記憶と一緒に封印されていた固有魔法オリジンスペルです。」

ラクレスはその言葉に驚きを隠せなかった。「そんな...........」

メアリーは静かにビアンカの傍に立ち、目を閉じて集中した。そして、彼女の手から強大な魔力が溢れ出し、大広間全体に広がった。

「いくわよ...........固有魔法オリジンスペル精霊の癒しハイヒール！」

メアリーが魔法を唱えた瞬間、ビアンカの体が光に包まれ、次第にその傷が癒えていくのが分かった。

「これが...........メアリーの力...........」ラクレスはその光景を目の当たりにし、ただ呆然と立ち尽くした。

ビアンカが息を吹き返した時、メアリーは彼女の元へ駆け寄り、泣きながら抱きしめた。彼女の背中にはかつての強さと優しさが共存していた。

ラクレスもソウイも、その光景を目にしながら、メアリーの新たな力にただ圧倒されるばかりだった。