罪なき人の成り上がり

今崎セイ

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17話 過ち

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トイ・トークは剣を握りしめ、ビアンカの正面に立った。

「やっとだ。やっとあいつらの仇がうてる.......」トイ・トークはそういって剣を振り下ろした。

すると、メアリーが「お願いっ!!!やめてっ!!!」と言いながらトイ・トークに近づいた。

ビアンカは「メアリーっ!!!来るなっ!!!」とメアリーを制止するために大声を出した。

それによってメアリーの足は止まったが、「でも.....でも!!!ビアンカがっ!!!」とメアリーが涙ぐんだ。

その様子を見てたトイ・トークは剣を一旦止め、「はっはっはっはっは、見てろエルフのガキ、今からこいつをやるぞっ!!!」とメアリーに見せつけるようにビアンカを斬ろうとした。

メアリーは泣きながら「お願いっ!!!やめてっ!!!」と言うが、トイ・トークにその声は届かなかった。

そして、「はぁはぁはぁ、あぁぁぁぁぁ!!!!!!!」」トイ・トークは剣を握りしめ、ビアンカの首を狙って斬りに行った。

その刹那、(あいつらは本当にこれで良いのか......?俺がここでこいつを殺してあいつらは......?)トイ・トークの頭の中にふとそんなことが浮かんだ。

(でも、こいつのせいであいつらは.......。)

(ハハハハハッ!!!さすが、俺達の団長だな!!!あのエルフを連れて出ていくとは。やっぱやることが違うぜっ!!!)

(そうね。でも、私たちはそんな団長だからこそ信じて送り出した。絶対に戻ってくるよ。)

(そうか~?俺は戻ってこないと思うね。団長はああ見えて実は気分屋なんだ。やっぱ山の方が良いわ~とか言って戻ってこないぞ多分。)

(まぁ、どっちにしても俺達の団長はあの人しかいない。)

(えぇ、ギイの野郎の下には絶対につかないわ。何があっても。)

(そもそも、団長がいなかったら、この国にはいなかったつぅの。)

(あ~ぁ、俺達も団長と一緒に行けばよかったなぁ~。そしたら、こんな牢屋に入れられなくて済んだのにな?)

(だから、その話は何回もしたでしょ?私たちがついて行ったら目立つでしょ?だから、団長は一人で行ったんだよ。)

(ハハハハハッ!!!冗談だよ。冗談。)

走馬灯のように駆けてきたトイ・トークの記憶。

(あれ......なんで今こんなことを......。それにしても、あいつらは何であんなに笑顔だったんだよ。裏切られたんだぞ、俺達は。)

そして、再び記憶が巡る。

(おい、裏切り者の部下共よ、最後だ。死ぬかギイのもとで再び戦うか。どっちか選べ。)

(何回も聞いてくんじゃねぇよ!!!俺達の答えは変わらない。)

(はっはっはっはっは。惨めだな。トイ・トークは寝返ったぞ。)

(えっ.............!?)

(嘘よっ!!!トークがあんたらの下につくはずが..........)

(トークッ!!!お前っ!!!)

(お前ら、目を覚ませ。俺達はあいつに裏切られたんだ。)

(何を言ってやがる。)

(何もかにも事実だ!!!)

(嘘ついてんじゃんぇよ!!!)

(そうよ、私たちは裏切られてなんかない。)

(そうだ、そうだ。)

(お前らは揃いもそろって何を言ってるんだ。裏切られてない?笑わすな。じゃあ、何であいつは今ここにいない。何でお前達を助けに来ない。それが答えだ!!!)

(ハハハハハッ!!!おい、トーク。何度でも言うぜ。俺達はお前らの下にはつかねぇ~。それが、俺の・・・。いや、俺達、騎士団長ビアンカ隊の総意だ。やるならさっさとやれ。)

(はっはっはっはっは。馬鹿だ。こいつらは全員バカだったか!!!やれっ!!!お前達っ!!!)

そこで走馬灯のように駆け廻ったトイ・トークの記憶は終わった。

その間、約0.2秒。

0.2秒の間に、トイ・トークの記憶は頭の中を駆け巡っていた。

「なんで、今.....思い出すんだよ.....!?」

そうつぶやいたトイ・トークの剣は、ビアンカの首を斬る寸前で止まっていた。

「「「えっ!?」」」

辺りにいた人たちから一斉に声が漏れた。

「どうしたトーク。やるならやれ。」ビアンカは剣を止めたトイ・トークにそう言った。

しかし、「俺もそうしたいのは山々なんだけどよ、手が動かないんだ。俺はあいつらのためにも.....」トイ・トークはそう言って再び剣をン振り上げた。

「おいっお前。本当に、お前の仲間はビアンカさんを恨んでいたのか?本当は.....」ラクレスが何かを言おうとした途端トイ・トークが割って入る。

「うるさいっ!!!違う。俺だけじゃない。あいつらもこいつを..........」トイ・トークは自分に何かを言い聞かせるように言った。

「本当はお前も分かってるんだろ。自分の間違いに.....自分の.....」トイ・トークはまたもやラクレスの話の途中で割って入った。

「お前に何が分かるんだよっ!!!こいつの弟子だからっていい気になるなよっ!!!」トイ・トークの怒りの矛先がラクレスに変わった。

しかし、トイ・トークの変化をラクレスに指摘される。「じゃあ.....じゃあなんで、今お前は泣いているんだ?」トイ・トークの目からは大粒の涙が流れていた。

しかし、「俺が泣くかっ!!!」トイ・トークはそれを否定し、ラクレスを睨んだ。

「じゃあ、お前の目から流れているそれは何だ?」ラクレスが再び問う。

「うぐっ!!!分かっていたさっ!!!俺が間違ってたって......。でも......じゃあ、俺はどうすればよかったんだよっ!!!俺が寝返れば、みんなもついてくると思ってた。みんな助かると思ってた。だから......でも......。」トイ・トークの本音。しかし、本音を語ったトイ・トークに言葉をかけるものはいなかった。
そして少し間を置きラクレスが口を開いた。

「......。それで、お前は一人だけ残ったのか?」

「あぁ、そうだ。俺は一人取り残された。もう誰もいなくなった。俺が信頼できる人は。もう......。」トイ・トークが下を向いて言った。

「いない?お前の前に今いるのは誰だ?」

「俺の前......?」

「そうだ。お前が今殺そうとした人のことだ。お前だって、本当は信じていたんだろ。」

「でもっ!!!でも......俺はもう......。」

「戻れないと?」

「あぁ、俺はもう戻れない。俺は殺そうとしたんだ......。本当は分かっていたさ。団長は悪くないってこと......。」

「じゃあなんで?なんでこんなことをした?」

「俺は、団長がいなくなってからの1年半、色々なことをした。殺戮、拷問......あらゆる悪に手を染めてきた。団長の隊にいた時には考えられなかったことを。だからかもな。団長に合わせる顔がなかった......。団長に今の惨めな俺を見られたくなかった。だから......俺は......。」トイ・トークがそう語った。

すると、ビアンカがトイ・トークに言葉をかけた。「トーク......すまなかったな。まさか、お前がそんなに背負ってたなんて思ってなかった。お前がそんなに仲間思いな奴だったなんて知らなかった。本当にごめん......。」

ビアンカがそう言うとトイ・トークの涙腺が崩壊してしまった。

「ぐふっ!!!ぁあ~~~~~~~~。でも、俺はもう前みたいには戻れない。だから......団長最後のお願いがあります。俺を殺してください。もう、楽にさせてください。」トイ・トークはそう言うなり、ビアンカの前に座った。

ビアンカは「おいっ、お前は何を言っているんだ?」と少しン驚いた様子だった。

「もう疲れたんだ......。それに、ビアンカ隊では仲間討ちをしようとしたら即刻死刑なんだ。最後くらいは、ビアンカ隊の副団長として死なせてくれ。」トイ・トークが精気の抜けた声でそう言った。

ビアンカは「トーク......。」と、トイ・トークの名前を呼ぶことしかできなかった。

「お願いします、団長。これが、せめてもの償いです。」トイ・トークの懇願。

しかし、「駄目だっ!!!」ビアンカに断られた。

「何でですかっ?最後くらいはビアンカ隊として死なせてください。だから、だから......」

「死ぬことは許さない。」ビアンカのその一言でトイ・トークの顔に少しだけ精気が戻った。

それでも、「でも、俺は団長を......」トイ・トークはビアンカを殺そうとした自分の過ちを許せていない様子だった。

しかし、「何のことだ?」ビアンカは、何を言っているんだ?という様な顔をして、トイ・トークに言った。

「何のことって、何を言ってるんですか?やっぱり悪に染まった俺は、もう......ビアンカ隊には......」

「何を言っている。さっきのは寸止めの練習だろ?それで、死刑になるかっ!!!」ビアンカは突然そんなことを言った。

「えっ......!?でも、俺はこれからどうすれば......俺はもう、この国ではやっていけない。もう無理なんです。」

「お前はビアンカ隊なんだろ?だったら、もうこの国にいる必要はないじゃないか?」

「ってことは......!?」

そう言うトイ・トークに、ビアンカはそう言うことだと言わんばかりの笑顔を見せた。

「もう一度......もう一度......一緒に......。ぐふっ!!!うぁ~~~~~~~~。」

両手を地面につきながら号泣しているトイ・トークの背中をさすりながら、ビアンカがほほ笑んだ。

「頑張ったな。」

そうして、ラクレス、ソウイによるビアンカ、メアリー救出作戦は無事成功に終わった。
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