銀色のクマ

リューク

文字の大きさ
上 下
7 / 16

登校時間

しおりを挟む
 早めに家を出て教室に着いた。他には誰も来ていない。

 昨夜は一時くらいまで探したが、ストラップはまだ見つからない。登校中も地面を探していたが、目に入るのはコンクリートと落ち葉だけだった。学校に近づくにつれ心拍が速くなるのが分かっても、スマホの通知を知らせる振動は全く伝わってこなかった。

 メッセージを送信した子に、返信がなかった理由を自然な感じで聞いてみよう。正直、聞きづらい。でもこのままでは、奈美や他の友達がどんどん離れていく気がする。

 ぽつりぽつりとクラスメイトが登校する。廊下も段々賑やかになってきた。朝の会が始まるまで十五分ほどある。鼓動がどんどん早くなるのが分かった。ガラッとドアが開閉する度、胸が締めつけられるようになる。

 しばらくして、メッセージを送信した女子達が登校してきた。偶然なのか分からないが、四人同時に教室に入ってきた。奈美は昨日と同じように、楽しそうにおしゃべりしている。その中にいきなり割って入り、メッセージの話をする勇気はどうしても出せなかった。「待つしかないかな」と思った時、牧ちゃんがふと教室を出た。おそらくトイレだろうと思い、素早く静かに席を立った。

 廊下で牧ちゃんを見つけ、小走りで追いつく。隣に並ぶようにして「おはよう」と挨拶した。すると、牧ちゃんは悪戯が親に見つかった時のような顔をした。そして気まずそうに「お、はよう」とぎりぎり聞き取れるボリュームで呟いた。

「今日の体育はマラソンだって。やだよねー。外出るんだったら遠足とか何かの見学の方が楽しいし。あ、ねぇ昨日送ったメッセージ見た?」

 牧ちゃんの一瞬の沈黙が答えだった。しかし「あー見たかも。ごめん、昨日忙しくって」と引きつらせた口を動かしながら、トイレに小走りで向かって行った。

 自分が嫌になるほど後悔した。これのどこが自然な流れだ。緊張と焦りで、無理やりメッセージの話を持ち込もうとしたのがバレバレだった。

 トイレの入り口のドアが閉まり、牧ちゃんの背中が見えなくなる。ゆっくりと振り返り、教室に戻った。そして奈美があたしに気づくなり、持っていたスマホを素早くポケットにしまうのが見えた。もう、昨日のメッセージについて聞く気力を失った。

 朝のチャイムが鳴る。もうすぐ先生が来る。教室はみんなが登校して賑やかだったが、単に息苦しいのか本当に空気が薄くなったのか、周囲の音はどんどん遠ざかっていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

桃は食ふとも食らはるるな

虎島沙風
青春
[桃は食っても歳桃という名の桃には食われるな] 〈あらすじ〉  高校一年生の露梨紗夜(つゆなしさや)は、クラスメイトの歳桃宮龍(さいとうくろう)と犬猿の仲だ。お互いのことを殺したいぐらい嫌い合っている。  だが、紗夜が、学年イチの美少女である蒲谷瑞姫(ほたにたまき)に命を狙われていることをきっかけに、二人は瑞姫を倒すまでバディを組むことになる。  二人は傷つけ合いながらも何だかんだで協力し合い、お互いに不本意極まりないことだが心の距離を縮めていく。  ところが、歳桃が瑞姫のことを本気で好きになったと打ち明けて紗夜を裏切る。  紗夜にとって、歳桃の裏切りは予想以上に痛手だった。紗夜は、新生バディの歳桃と瑞姫の手によって、絶体絶命の窮地に陥る。  瀕死の重傷を負った自分を前にしても、眉一つ動かさない歳桃に動揺を隠しきれない紗夜。  今にも自分に止めを刺してこようとする歳桃に対して、紗夜は命乞いをせずに──。 「諦めなよ。僕たちコンビにかなう敵なんてこの世に存在しない。二人が揃った時点で君の負けは確定しているのだから」

秘密基地には妖精がいる。

塵芥ゴミ
青春
これは僕が体験したとある夏休みの話。

十の結晶が光るとき

濃霧
青春
県で唯一の女子高校野球部が誕生する。そこに集った十人の部員たち。初めはグラウンドも荒れ果てた状態、彼女たちはさまざまな苦難にどう立ち向かっていくのか・・・ [主な登場人物] 内藤監督 男子野球部監督から女子野球部監督に移った二十代の若い先生。優しそうな先生だが・・・ 塩野唯香(しおのゆいか) このチームのエース。打たせて取るピッチングに定評、しかし彼女にも弱点が・・・ 相馬陽(そうまよう) 中学では男子に混じって捕手としてスタメン入りするほど実力は確か、しかし男恐怖症であり・・・ 宝田鈴奈(ほうだすずな) 一塁手。本人は野球観戦が趣味と自称するが実はさらに凄い趣味を持っている・・・ 銀杏田心音(いちょうだここね) 二塁手。長身で中学ではエースだったが投げすぎによる故障で野手生活を送ることに・・・ 成井酸桃(なりいすもも) 三塁手。ムードメーカーで面倒見がいいが、中学のときは試合に殆ど出ていなかった・・・ 松本桂(まつもとけい) 遊撃手。チームのキャプテンとして皆を引っ張る。ただ、誰にも言えない過去があり・・・ 奥炭果歩(おくずみかほ) 外野手。唯一の野球未経験者。人見知りだが努力家で、成井のもと成長途中 水岡憐(みずおかれん) 外野手。部長として全体のまとめ役を務めている。監督ともつながりが・・・? 比石春飛(ひせきはるひ) 外野手。いつもはクールだが、実はクールを装っていた・・・? 角弗蘭(かどふらん) 外野手。負けず嫌いな性格だがサボり癖があり・・・?

深海の星空

柴野日向
青春
「あなたが、少しでも笑っていてくれるなら、ぼくはもう、何もいらないんです」  ひねくれた孤高の少女と、真面目すぎる新聞配達の少年は、深い海の底で出会った。誰にも言えない秘密を抱え、塞がらない傷を見せ合い、ただ求めるのは、歩む深海に差し込む光。  少しずつ縮まる距離の中、明らかになるのは、少女の最も嫌う人間と、望まれなかった少年との残酷な繋がり。 やがて立ち塞がる絶望に、一縷の希望を見出す二人は、再び手を繋ぐことができるのか。 世界の片隅で、小さな幸福へと手を伸ばす、少年少女の物語。

処理中です...