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登校時間
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早めに家を出て教室に着いた。他には誰も来ていない。
昨夜は一時くらいまで探したが、ストラップはまだ見つからない。登校中も地面を探していたが、目に入るのはコンクリートと落ち葉だけだった。学校に近づくにつれ心拍が速くなるのが分かっても、スマホの通知を知らせる振動は全く伝わってこなかった。
メッセージを送信した子に、返信がなかった理由を自然な感じで聞いてみよう。正直、聞きづらい。でもこのままでは、奈美や他の友達がどんどん離れていく気がする。
ぽつりぽつりとクラスメイトが登校する。廊下も段々賑やかになってきた。朝の会が始まるまで十五分ほどある。鼓動がどんどん早くなるのが分かった。ガラッとドアが開閉する度、胸が締めつけられるようになる。
しばらくして、メッセージを送信した女子達が登校してきた。偶然なのか分からないが、四人同時に教室に入ってきた。奈美は昨日と同じように、楽しそうにおしゃべりしている。その中にいきなり割って入り、メッセージの話をする勇気はどうしても出せなかった。「待つしかないかな」と思った時、牧ちゃんがふと教室を出た。おそらくトイレだろうと思い、素早く静かに席を立った。
廊下で牧ちゃんを見つけ、小走りで追いつく。隣に並ぶようにして「おはよう」と挨拶した。すると、牧ちゃんは悪戯が親に見つかった時のような顔をした。そして気まずそうに「お、はよう」とぎりぎり聞き取れるボリュームで呟いた。
「今日の体育はマラソンだって。やだよねー。外出るんだったら遠足とか何かの見学の方が楽しいし。あ、ねぇ昨日送ったメッセージ見た?」
牧ちゃんの一瞬の沈黙が答えだった。しかし「あー見たかも。ごめん、昨日忙しくって」と引きつらせた口を動かしながら、トイレに小走りで向かって行った。
自分が嫌になるほど後悔した。これのどこが自然な流れだ。緊張と焦りで、無理やりメッセージの話を持ち込もうとしたのがバレバレだった。
トイレの入り口のドアが閉まり、牧ちゃんの背中が見えなくなる。ゆっくりと振り返り、教室に戻った。そして奈美があたしに気づくなり、持っていたスマホを素早くポケットにしまうのが見えた。もう、昨日のメッセージについて聞く気力を失った。
朝のチャイムが鳴る。もうすぐ先生が来る。教室はみんなが登校して賑やかだったが、単に息苦しいのか本当に空気が薄くなったのか、周囲の音はどんどん遠ざかっていった。
昨夜は一時くらいまで探したが、ストラップはまだ見つからない。登校中も地面を探していたが、目に入るのはコンクリートと落ち葉だけだった。学校に近づくにつれ心拍が速くなるのが分かっても、スマホの通知を知らせる振動は全く伝わってこなかった。
メッセージを送信した子に、返信がなかった理由を自然な感じで聞いてみよう。正直、聞きづらい。でもこのままでは、奈美や他の友達がどんどん離れていく気がする。
ぽつりぽつりとクラスメイトが登校する。廊下も段々賑やかになってきた。朝の会が始まるまで十五分ほどある。鼓動がどんどん早くなるのが分かった。ガラッとドアが開閉する度、胸が締めつけられるようになる。
しばらくして、メッセージを送信した女子達が登校してきた。偶然なのか分からないが、四人同時に教室に入ってきた。奈美は昨日と同じように、楽しそうにおしゃべりしている。その中にいきなり割って入り、メッセージの話をする勇気はどうしても出せなかった。「待つしかないかな」と思った時、牧ちゃんがふと教室を出た。おそらくトイレだろうと思い、素早く静かに席を立った。
廊下で牧ちゃんを見つけ、小走りで追いつく。隣に並ぶようにして「おはよう」と挨拶した。すると、牧ちゃんは悪戯が親に見つかった時のような顔をした。そして気まずそうに「お、はよう」とぎりぎり聞き取れるボリュームで呟いた。
「今日の体育はマラソンだって。やだよねー。外出るんだったら遠足とか何かの見学の方が楽しいし。あ、ねぇ昨日送ったメッセージ見た?」
牧ちゃんの一瞬の沈黙が答えだった。しかし「あー見たかも。ごめん、昨日忙しくって」と引きつらせた口を動かしながら、トイレに小走りで向かって行った。
自分が嫌になるほど後悔した。これのどこが自然な流れだ。緊張と焦りで、無理やりメッセージの話を持ち込もうとしたのがバレバレだった。
トイレの入り口のドアが閉まり、牧ちゃんの背中が見えなくなる。ゆっくりと振り返り、教室に戻った。そして奈美があたしに気づくなり、持っていたスマホを素早くポケットにしまうのが見えた。もう、昨日のメッセージについて聞く気力を失った。
朝のチャイムが鳴る。もうすぐ先生が来る。教室はみんなが登校して賑やかだったが、単に息苦しいのか本当に空気が薄くなったのか、周囲の音はどんどん遠ざかっていった。
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