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「……お、おとう、お父様?う、嘘ですわよね?」

 すまないローザ、と項垂れる姿は嘘には見えなかった。

 由緒ある侯爵家の長女に生まれ、男子がいないため小さな頃から領主になるための特別な勉強もしてきた。

 領地の繁栄のために、と領内だけに自生するハーブに着目し、密かに研究もしてきた。

(もう少しで、製品化できるところまできていたのに……)

 そのハーブはとても希少で、日陰でしか成育しないハーブ『ラブリーナ』。

 赤い葉っぱが特徴で、ハートの形をしているため、その名を私が付けた。

 若返りや、傷の修復に効果的で、エキス抽出して作ったハーブ液にキャリアオイルを混ぜた試作品を試しにお茶会のお土産に渡したところ、あまりの効果に大好評。

 自信をつけた私は、生産に向けた量産体制を作っているところだった。

 なのに?
 なのに?
 お父様はなぜ?

「……なぜ公爵家からの縁談を承諾したのですか?100歩譲って、妹で問題なかったのでは?」

「……その……。ローザを指名してきたからだ……。持参金不要と破格の条件付だ。格上だし、承諾するしかないだろう?」

(……たくっ!こんなんでもまだ領主としては優秀だから憎めないし……)

「お父様っ!そんなことは私でも分かります!そもそも、あの幼馴染みで、女ったらしのアンドレアが名指ししてきた上に、持参金不要なんて……!何か裏のある結婚にしか考えられませんっ!」

「……いやいや、幼馴染みだし、悪いようにはしないだろし。ほら、侯爵家のことはさ……。優秀な婿を探すからさ……」

(……はぁ。私の今までの苦労が水の泡……)

「もう結構です!日陰でハーブを栽培する令嬢から日陰でハーブを栽培するになりますっ!公爵家で暴れますからね!」

「……ローザ、ローザちゃん?そんな……問題は困るよ……」

「お父様が対処なさればいいではないですか!」

 私は一言幼馴染のアンドレアに文句を言うために公爵家を訪問することにした。
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