45 / 73
王宮庭園と招かざる者
しおりを挟む
王妃の突撃訪問を何とか乗り越え、晩餐というなの囲い込み作戦の前にアレク様と一緒に王宮を散策することになった。
明日は一日、商会の契約や仕事の話をすることになっていたから今日は王宮でのんびりと過ごしてほしいとアレク様がおっしゃる。
(……のんびりと言われても、のんびりな感じじゃないけどね……)
普段使用人扱いな私が、王宮になぜか客人扱いで滞在なんて少し前なら考えられなかったけれど、アレク様と出会えて私はとっても嬉しかったのは事実だった。
「リリー?」
アレク様がさりげなく手を差し伸べる。私は一瞬ためらったけれどもエスコートの手を取った。
(男性の手ってやっぱり大きくて温かいのよね……)
ふとレイの温もりを思い出す。
「今、あいつのこと少し考えただろう?」
アレク様がぼそっとつぶやいた。
「……?!」
私は咄嗟に声が出なかったが、表情でばれてしまったようだ。
「……今は、俺だけのことを考えて、リリー?」
額に唇を落とすアレク様。その吐息だけで倒れてしまいそうなほどの色気があった。
「この薔薇園はね、母上がとても大事にしているんだ。手入れも見事だろう?あとで晩餐の時に薔薇園の話をするととても喜ぶと思うよ」
アレク様に連れられて来た薔薇園は本当に見事で、数十種類の薔薇が色とりどりに咲き乱れていた。
「あそこの四阿で少し休憩しようか?」
私は頷くとアレク様は私の手を引きながらゆっくりと四阿に向かった。
四阿が前方に見えてきたところで、アレク様が立ち止まる。四阿には、令嬢と護衛、侍女がいるように見えた。
「……ちょっとここで待っててもらえるかな?」
アレク様が四阿に一人で向かう。
(先約がいるのに、割り込むのは悪いわよね……)
私はそれを伝えようとアレク様の後を追った。
「アレク殿下!!お久しぶりですわっ」
その令嬢はアレク様を見るなり駆け寄るほどの勢いだった。
身なりからして私よりもだいぶ高貴な身分なのが分かった。
「……システィーナ嬢。どうしてここに?」
あきらかにアレク様の口調は嫌がっていたが、このご令嬢はそれをもろともせずにがんがんと攻めてくる。
「もちろん殿下に会うためですわっ!」
これが侍女カエラが言っていた殿下は女性に人気がある……ということね。
殿下は明らかに嫌そうだけれどもご令嬢のその熱意には拍手を送りたいほどだった。
「……殿下、そちらの女性は?」
アレク様の背後にいた私に気がついたご令嬢が私を見つけて説明を求めた。
(やっぱり、あそこで待っていればよかった感じよね……)
アレク様に心の中でごめんなさいを送った。
「……私の大事な客人だ」
「……大事な客人?お名前を教えてくださらないの?」
さすがに身分が下の者から挨拶しないわけにいかなかった。
「……キース国フォンデンベルグ侯爵家が長女、リリアーヌでございます」
ご令嬢の表情が一瞬変わったのを見逃さなかった。
明日は一日、商会の契約や仕事の話をすることになっていたから今日は王宮でのんびりと過ごしてほしいとアレク様がおっしゃる。
(……のんびりと言われても、のんびりな感じじゃないけどね……)
普段使用人扱いな私が、王宮になぜか客人扱いで滞在なんて少し前なら考えられなかったけれど、アレク様と出会えて私はとっても嬉しかったのは事実だった。
「リリー?」
アレク様がさりげなく手を差し伸べる。私は一瞬ためらったけれどもエスコートの手を取った。
(男性の手ってやっぱり大きくて温かいのよね……)
ふとレイの温もりを思い出す。
「今、あいつのこと少し考えただろう?」
アレク様がぼそっとつぶやいた。
「……?!」
私は咄嗟に声が出なかったが、表情でばれてしまったようだ。
「……今は、俺だけのことを考えて、リリー?」
額に唇を落とすアレク様。その吐息だけで倒れてしまいそうなほどの色気があった。
「この薔薇園はね、母上がとても大事にしているんだ。手入れも見事だろう?あとで晩餐の時に薔薇園の話をするととても喜ぶと思うよ」
アレク様に連れられて来た薔薇園は本当に見事で、数十種類の薔薇が色とりどりに咲き乱れていた。
「あそこの四阿で少し休憩しようか?」
私は頷くとアレク様は私の手を引きながらゆっくりと四阿に向かった。
四阿が前方に見えてきたところで、アレク様が立ち止まる。四阿には、令嬢と護衛、侍女がいるように見えた。
「……ちょっとここで待っててもらえるかな?」
アレク様が四阿に一人で向かう。
(先約がいるのに、割り込むのは悪いわよね……)
私はそれを伝えようとアレク様の後を追った。
「アレク殿下!!お久しぶりですわっ」
その令嬢はアレク様を見るなり駆け寄るほどの勢いだった。
身なりからして私よりもだいぶ高貴な身分なのが分かった。
「……システィーナ嬢。どうしてここに?」
あきらかにアレク様の口調は嫌がっていたが、このご令嬢はそれをもろともせずにがんがんと攻めてくる。
「もちろん殿下に会うためですわっ!」
これが侍女カエラが言っていた殿下は女性に人気がある……ということね。
殿下は明らかに嫌そうだけれどもご令嬢のその熱意には拍手を送りたいほどだった。
「……殿下、そちらの女性は?」
アレク様の背後にいた私に気がついたご令嬢が私を見つけて説明を求めた。
(やっぱり、あそこで待っていればよかった感じよね……)
アレク様に心の中でごめんなさいを送った。
「……私の大事な客人だ」
「……大事な客人?お名前を教えてくださらないの?」
さすがに身分が下の者から挨拶しないわけにいかなかった。
「……キース国フォンデンベルグ侯爵家が長女、リリアーヌでございます」
ご令嬢の表情が一瞬変わったのを見逃さなかった。
19
お気に入りに追加
493
あなたにおすすめの小説
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ
悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。
残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。
そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。
だがーー
月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。
やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。
それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
赤貧令嬢の借金返済契約
夏菜しの
恋愛
大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。
いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。
クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。
王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。
彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。
それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。
赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。
森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。
玖保ひかる
恋愛
[完結]
北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。
ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。
アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。
森に捨てられてしまったのだ。
南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。
苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。
※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。
※完結しました。
【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。
しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」
その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。
「了承しました」
ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。
(わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの)
そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。
(それに欲しいものは手に入れたわ)
壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。
(愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?)
エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。
「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」
類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。
だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。
今後は自分の力で頑張ってもらおう。
ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。
ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。
カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*)
変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!
utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑)
妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?!
※適宜内容を修正する場合があります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる