28 / 73
逃避(リリー父目線)
しおりを挟む
私は、ジョセフ・フォンデンベルグ。
妻であり、前侯爵の娘であったミシェリー・フォンデンベルグの夫で、現在、フォンデンベルグ侯爵領の代行をしている。
もともと伯爵家の三男だった私は、喜んで婿入りをした。政略結婚だった。
金髪碧眼でとても美しい氷の女神のようなミシェリー。
その見た目とは裏腹に、活発でしっかりとした天真爛漫な女性だった。
私は伯爵家でも特に平凡で、秀でた才能も能力もなかったが、女性の話を聞いたり、人とのコミュニケーションは三男ならではなのか苦になることなく、成長するにつれて処世術のようになっていった。
政略結婚ではあったが、仲が悪い夫婦ではなかった。
が、私にはずっとミシェリーに隠していたことがあった。
それは、侯爵家に婿入りし、侯爵の仕事の引継ぎの関係で領内視察に行った時のことだった。
領内の宿に宿泊し、夜に一杯飲んでから寝ようと宿の酒場に向かった。そこで、イザベラと出会ってしまったのだ。
今思い返せば、自分が侯爵家の人間であることを誰かから聞いていたのだろう。
飲んだグラスに薬が混ぜられていたに違いない。
朝目覚めたら、横に裸のイザベラがいた。
話を聞いたら、没落した子爵家の人間で、同情を誘う身の上だった。
私は何を勘違いしたのか、視察のたびに関係を持つようになった。
最初はか弱い乙女のような発言ばかりをしていたイザベラだったが、関係が進むにつれてドレスや宝石をねだるようになり、側室でもいいから侯爵家に入りたいと言うようになった。
婿入りの立場で側室の話を出来わけもなく、またイザベラを愛していたわけでもなかった私は、毎回適当にあしらっては別れていた。
そんなある日、妻が妊娠した。
跡取りが出来ると妻は大層喜んだ。私も同じく自分の子供が待ち遠しかった。
…はずなのだが、妻が妊娠すると程なくしてイザベラからも妊娠したと告げられた。かなりの衝撃だった。万が一のために避妊薬も飲ませていたのに、なぜ子供が出来たのか?疑問しかなかったが、妻にだけは知られるわけにいかなかった。
妻と同時期に妊娠している愛人がいると知って、お腹の子供に影響を与えるわけにはいかない。
私は妻の様子を見ながらも、イザベラが何か仕出かさないか気が気でなかった。
仕方なく、イザベラの言われるままに、別宅を構え、欲しいものは買い与えた。勿論、そのお金は侯爵家からの支出である。
当時は妻も妊娠していたため、ほぼ侯爵領域や侯爵家の仕事は私が取り仕切っていた。少しばかりお金を融通してもらっても問題ないだろう、と気が緩んでいたのもあった。
それは秘密裏に妻が亡くなるまで続けられた。
正直、私はそんな生活にうんざりしていた。
美しい妻と、妻に似た娘と幸せな家庭さえ築ければ良かった。
自分の心が弱いばかりに、問題をただ先送りにしただけだった。
そして、妻の死後ー。
待ってましたとばかりに、侯爵家に押し入ってきたイザベラと娘のエリアル。
もう侯爵家とも、イザベラともかかわり合いたくなかった。
だから、私は侯爵家を捨て、領地に引っ込んだ。
娘を残し、たった一人で。
そんな私の元に、サザーランド公爵家の執事と、隣国のミリオニアの使者から会いたいと連絡が入った。
近いうちに伺う、と。
勿論、拒否することは不可能だ。
(……イザベラが何かやらかしたか?)
あまり良い内容でないことだけは確かだろう。
弱い私は、もうこれ以上は逃げる場所すらなかった。
(これが報いなのか……)
まあ、なるようななるだろう。
私はもう、生きている楽しみすらないのだから。
妻であり、前侯爵の娘であったミシェリー・フォンデンベルグの夫で、現在、フォンデンベルグ侯爵領の代行をしている。
もともと伯爵家の三男だった私は、喜んで婿入りをした。政略結婚だった。
金髪碧眼でとても美しい氷の女神のようなミシェリー。
その見た目とは裏腹に、活発でしっかりとした天真爛漫な女性だった。
私は伯爵家でも特に平凡で、秀でた才能も能力もなかったが、女性の話を聞いたり、人とのコミュニケーションは三男ならではなのか苦になることなく、成長するにつれて処世術のようになっていった。
政略結婚ではあったが、仲が悪い夫婦ではなかった。
が、私にはずっとミシェリーに隠していたことがあった。
それは、侯爵家に婿入りし、侯爵の仕事の引継ぎの関係で領内視察に行った時のことだった。
領内の宿に宿泊し、夜に一杯飲んでから寝ようと宿の酒場に向かった。そこで、イザベラと出会ってしまったのだ。
今思い返せば、自分が侯爵家の人間であることを誰かから聞いていたのだろう。
飲んだグラスに薬が混ぜられていたに違いない。
朝目覚めたら、横に裸のイザベラがいた。
話を聞いたら、没落した子爵家の人間で、同情を誘う身の上だった。
私は何を勘違いしたのか、視察のたびに関係を持つようになった。
最初はか弱い乙女のような発言ばかりをしていたイザベラだったが、関係が進むにつれてドレスや宝石をねだるようになり、側室でもいいから侯爵家に入りたいと言うようになった。
婿入りの立場で側室の話を出来わけもなく、またイザベラを愛していたわけでもなかった私は、毎回適当にあしらっては別れていた。
そんなある日、妻が妊娠した。
跡取りが出来ると妻は大層喜んだ。私も同じく自分の子供が待ち遠しかった。
…はずなのだが、妻が妊娠すると程なくしてイザベラからも妊娠したと告げられた。かなりの衝撃だった。万が一のために避妊薬も飲ませていたのに、なぜ子供が出来たのか?疑問しかなかったが、妻にだけは知られるわけにいかなかった。
妻と同時期に妊娠している愛人がいると知って、お腹の子供に影響を与えるわけにはいかない。
私は妻の様子を見ながらも、イザベラが何か仕出かさないか気が気でなかった。
仕方なく、イザベラの言われるままに、別宅を構え、欲しいものは買い与えた。勿論、そのお金は侯爵家からの支出である。
当時は妻も妊娠していたため、ほぼ侯爵領域や侯爵家の仕事は私が取り仕切っていた。少しばかりお金を融通してもらっても問題ないだろう、と気が緩んでいたのもあった。
それは秘密裏に妻が亡くなるまで続けられた。
正直、私はそんな生活にうんざりしていた。
美しい妻と、妻に似た娘と幸せな家庭さえ築ければ良かった。
自分の心が弱いばかりに、問題をただ先送りにしただけだった。
そして、妻の死後ー。
待ってましたとばかりに、侯爵家に押し入ってきたイザベラと娘のエリアル。
もう侯爵家とも、イザベラともかかわり合いたくなかった。
だから、私は侯爵家を捨て、領地に引っ込んだ。
娘を残し、たった一人で。
そんな私の元に、サザーランド公爵家の執事と、隣国のミリオニアの使者から会いたいと連絡が入った。
近いうちに伺う、と。
勿論、拒否することは不可能だ。
(……イザベラが何かやらかしたか?)
あまり良い内容でないことだけは確かだろう。
弱い私は、もうこれ以上は逃げる場所すらなかった。
(これが報いなのか……)
まあ、なるようななるだろう。
私はもう、生きている楽しみすらないのだから。
17
お気に入りに追加
481
あなたにおすすめの小説
赤貧令嬢の借金返済契約
夏菜しの
恋愛
大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。
いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。
クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。
王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。
彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。
それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。
赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。
異世界に召喚されたけど、従姉妹に嵌められて即森に捨てられました。
バナナマヨネーズ
恋愛
香澄静弥は、幼馴染で従姉妹の千歌子に嵌められて、異世界召喚されてすぐに魔の森に捨てられてしまった。しかし、静弥は森に捨てられたことを逆に人生をやり直すチャンスだと考え直した。誰も自分を知らない場所で気ままに生きると決めた静弥は、異世界召喚の際に与えられた力をフル活用して異世界生活を楽しみだした。そんなある日のことだ、魔の森に来訪者がやってきた。それから、静弥の異世界ライフはちょっとだけ騒がしくて、楽しいものへと変わっていくのだった。
全123話
※小説家になろう様にも掲載しています。
0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。
アズやっこ
恋愛
❈ 追記 長編に変更します。
16歳の時、私は第一王子と婚姻した。
いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。
私の好きは家族愛として。
第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。
でも人の心は何とかならなかった。
この国はもう終わる…
兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。
だから歪み取り返しのつかない事になった。
そして私は暗殺され…
次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。
公爵閣下に嫁いだら、「お前を愛することはない。その代わり好きにしろ」と言われたので好き勝手にさせていただきます
柴野
恋愛
伯爵令嬢エメリィ・フォンストは、親に売られるようにして公爵閣下に嫁いだ。
社交界では悪女と名高かったものの、それは全て妹の仕業で実はいわゆるドアマットヒロインなエメリィ。これでようやく幸せになると思っていたのに、彼女は夫となる人に「お前を愛することはない。代わりに好きにしろ」と言われたので、言われた通り好き勝手にすることにした――。
※本編&後日談ともに完結済み。ハッピーエンドです。
※主人公がめちゃくちゃ腹黒になりますので要注意!
※小説家になろう、カクヨムにも重複投稿しています。
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる
夏菜しの
恋愛
十七歳の時、生涯初めての恋をした。
燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。
しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。
あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。
気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。
コンコン。
今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。
さてと、どうしようかしら?
※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。
傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ
悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。
残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。
そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。
だがーー
月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。
やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。
それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。
森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。
玖保ひかる
恋愛
[完結]
北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。
ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。
アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。
森に捨てられてしまったのだ。
南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。
苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。
※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。
※完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる