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ディナー

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私が着せ替え人形になること一時間。
 
 マダム・フルールの優秀すぎるスタッフのお陰で、ドレスから宝飾品、メイクにヘアスタイルまで完璧に仕上がった。
 
 こんな短時間で町娘が大変身。
 
 鏡の中の自分は相手のエスコートを待つ可憐な令嬢に変身していた。

 (これなら、見た目的には貴族令嬢で合格かな?レイに恥をかかせないようにしないと…!)
 
 宝飾品は、ブルーサファイアで統一されていた。

 「ブルーサファイアは、この領内の特産品ですわ。その事業の責任者でもあるアルフォンス様を身に纏われて、本当に愛されていらっしゃいますこと」
 
 ……最終チェックに現れたマダムの感じからするに、ブルーサファイアはレイの指示だったと言うこと?

 私は返答に困りながらとりあえずは微笑みを浮かべてやり過ごした。

 「もうまもなくアルフォンス様がお迎えに参りますわ。素敵なディナーになりますように」
「突然押し掛けたにも関わらず、素晴らしい対応に感謝申し上げます。本当に、お会い出来て嬉しかったです」
 
 挨拶をしていると、レイが入ってきた。

 (……当たり前だけど、レイも着替えてる!す、素敵!)
 
 ディナーだからか堅苦しくならない程度に紺の上品なスーツに身を包んだレイは本当に格好良かった。

 「リリー。待たせてすまな……」
 
 レイが個室に現れて私を見るなり、無言眼福星人になってしまった。

 「……レイ?マダムと優秀なスタッフが本当に良くしてくれて。……どう?似合うかなあ?」
 私は久しぶりのドレスに嬉しくてくるっと回転して見せた。

 「……あ、ああ」

 「……?」

 「……アルフォンス様、リリアーヌ様、素敵でしょう?」
 
 マダム・フルール様が助け船を出してくれた。
「す、すまない。あまり女性をエスコートするのに慣れていなくて…。リリー、いや、その…。良く似合ってる」

 「ありがとう!」
 
 私はにっこり微笑んだ。

 (……しかし、ここのお支払のこと、聞けないなあ)
 
 マダムからは、アルフォンス様にお任せ下さい、と言われてしまい、レイが支払うつもりなのだろう。

 「では、行こうか?リリー」

 「……はいっ!」
 
 私は差し出された手を取ると、レイと共に馬車に乗り込んだ。

 (……馬車、サザーランド家の家紋入りだ!)

 「レイ、ありがとう。お陰で町娘が大変身だよ」

 「リリーは、もともと綺麗だしな。更に綺麗になって驚いた」
 
「本当に?嬉しい!ありがとう!」
 
 とりあえず、褒められたら感謝あるのみ!
 
「ディナーは、俺が時々利用している店で、味は保証する」
 
「楽しみだなー。レイと一緒ならどこでも嬉しいよ?」
 
 対面に座るレイは、先ほどからどんどん視線が下がっていく。
 
「……レイ?」
 
「……いや、あの、あんまりにもリリーが可愛いこと言うから……」
 
 ……私のせい?
 
「私はもっとレイのこと見ていたいよ?」

 私はわざと下からレイを覗きこんだ。
「……リリー。それは反則だ」
 レイの唇が降りてくる。今日2回目のキスだった。
 
◇◇◇
「お待ちしておりました」
 
 キスの余韻に酔いしれていたら、あっという間にお店に到着したらしい。
 レイがディナーに選んだお店は、とても雰囲気が好さそうだった。

 「今日も宜しく頼む」
 
 レイが支配人とおぼしき人物に声をかけた。
 私はレイにエスコートされ、店の個室に入った。

 「ここは両親が良く来ていた店なんだ。気に入ってくれるといいんだが」

 「ウフフ。レイ、私はどんなお店でも嬉しいですよ?」

 その後はフルコースの素敵な料理を堪能し、カフェを別室で頂くことになった。正直、緊張しすぎてあんまり食べた気がしなかった……。とりあえず、マナーはなんとかなって良かった!レイは完璧だったけど!

「とても美味しかったです。ありがとうございました」

「それは良かった」
 
 案内された別室は蝋燭の明かりが灯された少しムーディーな雰囲気で、ソファに座りながら夜空を鑑賞することが出来た。

 「わー!すごい!ここからこんなに星が見えるなんて!」
 
 ロマンチックな夜空に私は一人で興奮してしまった。隣り合わせに座っているレイがふいに私の腰を抱き寄せた。
 
「……リリー。少し早いけどお誕生日おめでとう」
 
 私の耳元でレイがささやきながら、横から赤いリボンをあしらった小箱を差し出した。私はレイが誕生日を知っていたことに驚きながらも素直に嬉しかった。
 
「……開けていい?」
 
 レイがうなずくと、私は赤いリボンをほどいた。中からブルーサファイアをあしらった指輪が現れた。
 
 レイはいつの間にか跪いて片手を差し出し、私を見上げている。
 
「……リリアーヌ・フォンデンベルグ嬢。アルフォンス・サザーランドは生涯かけて君だけを愛し、幸せにすると誓います。どうか結婚して下さい」
 
 差し出したままの左手の甲にキスが落とされ、自ら指輪を箱から取り出し、私の左手の薬指にはめた。
 
(えっと、恋人じゃなくて、婚約でもなくて、いきなりプロボーズ?結婚?)
 
 早すぎる展開に私は一瞬どう反応していいか分からなかった。
 レイはそんな戸惑う私をじっと見つめていた。
 
「……わ、私。いきなりでびっくりしちゃって……。あの……。」
 
 今は、家の状況からいって婚約すらままならないだろう。もし私が婚約を承諾したら、全力であの継母と義妹が邪魔しにくるはずだ。
 
(お父様にも頼れないし……)
 
「リリーの心配していることはよく分かっているつもりだ。結婚は侯爵家を継いでからで問題ないし、俺が侯爵家に婿に入るつもりだから安心してほしい。リリーが承諾してくれたら、水面下で君の父上と交渉する。ちなみに、俺の両親にはもう承諾をもらっているから安心して」
 
(いつの間に……。早い!)
 
「……わ、私でいいの?」
 
「リリーがいい。リリーしかいらないんだ」
 
 (ずるいよ、レイ……)
 
 レイの真っ直ぐな瞳に吸い込まれそうだった。
 
 でも、この真っ直ぐな瞳には私しか映して欲しくない。だから、私の答えはもう……決まっていた。
 
「……私……レイと結婚したい……。よろしくお願いしますっ!」
 
 レイの左手に自分の右手を重ねた。
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