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無口と会話

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何だかんだで、次の休みが待ち遠しかった私。

 それはもちろん、あの見た目が麗しい青年に会えるから。

(眼福だ~!楽しみ!怪我良くなったかなぁ?)

 虐げられた生活では、それこそ妙齢の素敵な男性に会うことは皆無だし、私の元婚約者も好きではなかったし、顔は好みじゃなかったし(だから、婚約者変更万歳だったのに)、最近ではダニエルと使用人棟の侍従くらいしか見てないし、で乙女心はいつのまにやら干からびてた。

 だから、う、嬉しい!

(あの人に会うのにこんな服装であれだけど。行ってから着替えようっと)

 まさか使用人棟でドレスを着るわけにも行かず、お休みの日でも目立たない服装をしているわけで。

(こんなことなら、デート向きの服でも買っておけば良かったかなあ?)

 別に人命救助しただけで、恋人になるわけでもないけど、久しぶりの眼福に心が躍りまくる。

 そんなこんなで屋敷に着くと、玄関の扉を開ける。

「マリア、ダニエル~、ただいまー」

 私が扉を開けると、待ち構えていたのは、まさかの怪我してベットに臥しているはずの眼福さんっ!ご馳走さまですっ!

 私はびっくりして、眼福さんを見上げたまま辺りをキョロキョロしてみたけど、マリアもダニエルも姿を見せない。

「あ、あの……」

 眼福さんは、あの時は気がつかなかったけど、かなり背が高い。165センチの私よりも頭一つ以上は大きいかな。

 そして、黒髪に黒目のクールビューティーが炸裂!

(その目力なら視線だけで妊娠しそう~!)

 期待以上の眼福具合に、見上げながら私は言葉を失ってしまった。
(しっかりするのだ!リリアーヌ!)

「もう起きて大丈夫なのですか?お怪我はいかがですか?」

 次期領主モードに切り替えて対応再開。

 矢継ぎ早に尋ねてしまったのがいけなかったのか?眼福さんは目力全開の瞳が全く動かず、体もそのまま動かず。私を怪訝そうな眼差しで見てくる。

「えーっと…………」

 眼福さんが驚いてるということは、ダニエルたちがあまり話をしていないからだろう。とりあえず、やはり自己紹介しよう!

「はじめまして。次期侯爵のリリアーヌ・フォンデンベルグです。この館の主です!」

 私はありったけの笑顔で右手を差し出した。

 ◇◇◇◇
 私たちはとりあえず応接室に移動することにした。

 眼福さんによると、マリアとダニエルは急用で先ほど出掛けたらしい。

 眼福さんにソファに腰かけてもらっている間に、私はお茶の準備にいく。メイドライフで培ったスキルは侮れない。

「紅茶お持ちしました。領地特産のレモンでいいですか?あとは甘いものお好きでしたら、レモンパウンドケーキはいかがですか?」

 ワゴンを自ら押す次期侯爵は、予備知識も着々と増やしてます。
 眼福さんは無言なので、私は紅茶とパウンドケーキをサーブした。

 その後もあまりに眼福さんが無口で場がもたないため、私は仕方なしに身の上話をすることにした。

「えっと、マリアとダニエルは夫婦で、私の母の侍女と侍従だったんですよ。今では私がこの世で信頼するたった2人の人間です。私、令嬢っぼくないでしょう?母が死んでから、愛人だった継母とその娘に毎日いじめられて――――」

 母からもらったドレスや宝石も奪われたこと。(今別宅にあるのは、母が元から用意してあったものだけ)
 婚約者もいつの間にか継母の子であるエリアルにすり替わっていたこと。
 父は無関心であてにならないこと。 
 ついには、使用人棟に追い出されメイドをしていること。給料もないし、毎日メイドからも嫌がらせされていること。

 (…………私、友だちもいないから、話す相手もいないし。聞いてもらいたかったことをつらつら話してしまった!!)

「ついには、この間貴族学院に入学手続きに行ったら、継母が裏から手を回していたらしくて、入学出来なくなりました…………。はぁ。情けないやらで。それで、決心したんですっ!あと2年半程で侯爵になれるんです!だから、私はそれまでに彼らを追い出すための力をつけることにしたんです!」

 またしても続く沈黙に私のおしゃべりは止まらない。あ、止めちゃいけない?!
(眼福さん……!つまらなくてもいいから、少しは反応して~!)
 私が懇願アピールをしているのに気が付いたのか?ようやく眼福さんが口を開けてくれた。

「…………何とかいうか、大変だったんだな、リリアーヌ嬢。そんな中、助けてもらい、すまない」

「あ、お礼なんていらないですよ。単に倒れてたから助けただけですから。怪我が良くなって良かったですね。あと、お名前だけ聞いてもいいですか?セカンドネームとかでも構いませんし」

 無口すぎる上に、ワケアリ感が半端ない眼福さん。せめて名前くらいは知りたかった。

「……親しい人は、レイと呼んでいる」

「レイ様ですね。了解しました。では、私のことはリリーとでもお呼びさい。ここには、マリアとダニエルしか普段はいませんから、いつまでいてくださっても構いませんから」

 私は、思わず本音を漏らしていた。
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