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第二幕「世界の眼」・World Eyes
Prologue
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4月20日 PM17:47 花札町駅前ロータリー
一昨日までなら人の声で絶えない賑やかな花札町は……今や風が吹き通り、空き缶の転がる音が響く程の無人の地と化していた。
元凶は、世界中で起きた同時多発虐殺事件による世界バランスの崩壊。同一と思われる犯行グループの攻撃は日本各地にも及び、国家システムに壊滅的なダメージを与えたのである。
その国家の下で働く刑事の真坂部 健司は、駅前ロータリーに駐車させた車の中で、行き場のない怒りを喫煙で誤魔化していた。
「先輩……煙草は一日三本までって決めてませんでしたっけ?」
「節煙はやめた。吸わないとやってらんないんだよ」
「いやぁ、しかし吸い過ぎかと……」
後輩の舘上が嫌煙派であることを知っていながらも、遠慮なしに一箱分の煙草を吸っていく。それでも真坂部の気分が落ち着いてないことは、灰皿にこんもりと溢れた吸殻だけで見て取れる。
「クソッ……」
電気街を離れ、花札町へやってきた真坂部と舘上の二人は、朝から避難所へ誘導された住民達へ当時の聞き込み調査をしていた。
ところが……住民達が口々に言うのは「怪物が出た」「変なコスプレをした連中が襲ってきた」など非現実的なものばかりで、事件の核心に迫るような情報は得られなかったのだ。
「無線を聞く限りじゃ、どこも犯人の痕跡はまだ見つかってないようですね。一体誰の仕業なんでしょ……」
「悪趣味な連中による計画的犯行だろ。みんな口揃えて怪物を見たなんて、集団で麻薬やってなきゃ有り得ないだろ」
「ですがこの町に限らず、世界で同時に起きてますからね。指紋も足跡も一切なし。もうお手上げですよ」
「………………」
舘上の意気消沈ぶりに、真坂部はもう一本煙草を吸い、苛立ちを煙に巻く。
ただ彼の言う通り、痕跡も一切見つかっていない以上、人間に成せる犯行ではない。如何なる推測をしようとも空想上の結論へ収束してしまうことが、真坂部には受け入れ難かった。
「でも、当日帰宅していた花札学園の生徒に聞き込みしたのは正解でしたね。緊急連絡網でまだ連絡が取れてなく、安否確認出来てないのは――この真城 創伍という少年だけ」
「……真城 創伍」
しかし収穫はあった。真坂部は、舘上が取り出した手帳に挟まっていた少年の顔写真を今一度確認する。
真城 創伍――花札学園への聞き込みで得た唯一の情報として、死んだかどうかも分かっていないのが彼だけだ。事件当日に惨劇の渦中へと疾走していった花札学園の男子生徒――もし彼がその張本人ならば、事件全容を知る糸口になるかもしれない。
真坂部の勘は、そう信じて止まなかった。
「よし。もう少しこの辺りを探してみるぞ」
「えぇぇ……まさか自力で見つけるつもりですか?」
「当たり前だ。アポ取ってる間に逃げられたらおしまいだからな。まずは花札町駅と近くの集合住宅を調べに行くぞ」
「……わかりました」
重い腰を上げて二人は車を降り、無人の駅へと向かう。
しかし――
「花札学園の生徒を……か。あの人間――どうやら道化のことを調べてやがるな」
「カカッ! 流石は斬羽の兄ぃ、素晴らしい聴力まさに地獄耳ってカー!? んで、この後どうするカー?」
「知り過ぎた者たちが辿る末路なんて、いつも決まってんだろ――」
「カーカカ! まさに死人に口なしってカ! じゃあ急がば回れってカー!」
人ならざる者からの怪しい視線と、その魔の手が迫っていることは……知る由もなかった。
* * *
一昨日までなら人の声で絶えない賑やかな花札町は……今や風が吹き通り、空き缶の転がる音が響く程の無人の地と化していた。
元凶は、世界中で起きた同時多発虐殺事件による世界バランスの崩壊。同一と思われる犯行グループの攻撃は日本各地にも及び、国家システムに壊滅的なダメージを与えたのである。
その国家の下で働く刑事の真坂部 健司は、駅前ロータリーに駐車させた車の中で、行き場のない怒りを喫煙で誤魔化していた。
「先輩……煙草は一日三本までって決めてませんでしたっけ?」
「節煙はやめた。吸わないとやってらんないんだよ」
「いやぁ、しかし吸い過ぎかと……」
後輩の舘上が嫌煙派であることを知っていながらも、遠慮なしに一箱分の煙草を吸っていく。それでも真坂部の気分が落ち着いてないことは、灰皿にこんもりと溢れた吸殻だけで見て取れる。
「クソッ……」
電気街を離れ、花札町へやってきた真坂部と舘上の二人は、朝から避難所へ誘導された住民達へ当時の聞き込み調査をしていた。
ところが……住民達が口々に言うのは「怪物が出た」「変なコスプレをした連中が襲ってきた」など非現実的なものばかりで、事件の核心に迫るような情報は得られなかったのだ。
「無線を聞く限りじゃ、どこも犯人の痕跡はまだ見つかってないようですね。一体誰の仕業なんでしょ……」
「悪趣味な連中による計画的犯行だろ。みんな口揃えて怪物を見たなんて、集団で麻薬やってなきゃ有り得ないだろ」
「ですがこの町に限らず、世界で同時に起きてますからね。指紋も足跡も一切なし。もうお手上げですよ」
「………………」
舘上の意気消沈ぶりに、真坂部はもう一本煙草を吸い、苛立ちを煙に巻く。
ただ彼の言う通り、痕跡も一切見つかっていない以上、人間に成せる犯行ではない。如何なる推測をしようとも空想上の結論へ収束してしまうことが、真坂部には受け入れ難かった。
「でも、当日帰宅していた花札学園の生徒に聞き込みしたのは正解でしたね。緊急連絡網でまだ連絡が取れてなく、安否確認出来てないのは――この真城 創伍という少年だけ」
「……真城 創伍」
しかし収穫はあった。真坂部は、舘上が取り出した手帳に挟まっていた少年の顔写真を今一度確認する。
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真坂部の勘は、そう信じて止まなかった。
「よし。もう少しこの辺りを探してみるぞ」
「えぇぇ……まさか自力で見つけるつもりですか?」
「当たり前だ。アポ取ってる間に逃げられたらおしまいだからな。まずは花札町駅と近くの集合住宅を調べに行くぞ」
「……わかりました」
重い腰を上げて二人は車を降り、無人の駅へと向かう。
しかし――
「花札学園の生徒を……か。あの人間――どうやら道化のことを調べてやがるな」
「カカッ! 流石は斬羽の兄ぃ、素晴らしい聴力まさに地獄耳ってカー!? んで、この後どうするカー?」
「知り過ぎた者たちが辿る末路なんて、いつも決まってんだろ――」
「カーカカ! まさに死人に口なしってカ! じゃあ急がば回れってカー!」
人ならざる者からの怪しい視線と、その魔の手が迫っていることは……知る由もなかった。
* * *
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