16 / 44
第一幕「道化の英雄」・Hero de Jester・
行間03「記憶の欠片」
しおりを挟む視界一面に、テレビでよく見る砂嵐が広がる。耳には不快なノイズや耳鳴りが渦巻き、創伍は今の自分の状況が分からない。
ここは何処だ。誰かいないのか――
心の声に反応するように、砂嵐は波打って乱れ始めると、少しずつ何かが見えてくる。ノイズも小さくなっていくと、誰かの声が聞こえてきた。
『……打て、打て打て! ひたすら連打だ!』
『ロケラン発射だッ!』
朧げに見えるのは、肩を寄せ合う四人の子供の背中。彼らの前方にはブラウン管のテレビが置いてあり、現代ではあまり見ないポリゴングラフィックで精一杯の恐怖を与えるように描かれたゾンビや怪物が映る。
視界は、子供達がテレビゲームで遊ぶ後ろ姿を眺めるという光景だった。
「ボス戦入るぞ! リロードしとけ!」
「出た、カマキリの怪物!!」
いよいよボス戦。カマキリをモチーフとしたグロテスクなボスが現れると、彼らのゲームは大詰めとなり、次第に盛り上がる。
一方、創伍の視界はただそれを眺めているだけではなかった。時たま下を向いて何かをしているのだが、その何かとは、映像の乱れのせいで把握しきれない。
「マシンガンで対応するしかないよ!」
「ダメダメ、そんなの全く効かないから!」
「あー、攻撃が止まらないよぉ!!」
鎌状の足を振り回すボスの攻撃は止まらず、ゲームのプレイヤー達は次々とダメージを負い、遂にはゲームオーバー。
「あーあ、死んじゃった……」
「やっぱり途中でロケランの弾をもっと集めた方がいいって」
「そうだね。それならだいぶ体力に余裕が持てると思うし……」
反省点を振り返り、次のリベンジへ意気込む子供達の会話が止まると、彼らの視線はこちらに集まり、声を掛けてきた。
「どうする創伍、交替する?」
子供が創伍の名を呼んでゲームへ誘うと、視界は左右に揺れ、誘いを断った。
「何だよノリ悪いな~」
「創伍ってさぁ、部屋に来てから絵しか描いてないじゃん」
「もういいよ、放っておいて。続きやろうぜ」
「本当に創伍って、絵を描くのが好きだよなー」
彼らはそう言って、不快そうな顔でまたゲームに没頭する。
そして視界もまた下を向く。ここで初めて映像の乱れが止み、何をしていたのかが鮮明に映し出される。
絵を描いていた。
スケッチブックに、クレヨンや色鉛筆が擦り切れるまで絵を描いている。そしてその絵に描かれていたのは――
『ヒュー・マンティス』
創伍は思い出した。
彼は、何をするにおいても絵を描くことが一番好きだった。この記憶は、ヒュー・マンティスという存在が絵に描かれた瞬間の出来事。
少年達がプレイするゲームを参考に、人間の「ヒューマン」とカマキリの「マンティス」を文字って出来上がった存在。
断片的に欠けていた記憶がはっきり蘇ると、創伍の意識と視界は再び砂嵐とノイズに包まれて遠退いていった……。
* * *
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる