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41話
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4日間の合宿のようなものを終えて、家に着く。通話だけでなく、直接コミュニケーションをとるのも重要だと改めて感じた。普段は出ない言葉や想いが出てくる大事な機会だった。
次は4人全員でできれば、練習の質も上がるだろうな。プロチームがゲーミングハウスを選手の為に用意する理由が分かった。これは、選手同士の仲も深まるし、瞬時に円滑なコミュニケーションをとることが求められる、ゲームには最も大事な環境かもしれない。
前は、そんな地獄みたいな場所絶対に嫌だったが、今なら良いかもしれないな。
そんなことを考えながら、久々の湯船につかるために風呂に湯を張る。
チーム練習の時間はまだ先だから、少しはゆっくりできるだろう。長湯をするときは、いつも考え事をする時でもある。しかし、最近は悩みも特にないので、戦略を練る時間になっている。そのため、タブレットを持ち込み、フォージの動画を見ながら湯船につかる。
「もうすぐ、オフラインか」
楽しさがほとんどを占めているものの、不安要素もある。それは決して、負けることへの恐怖ではない。俺にとって忘れたい過去、消し去りたい過去。それを思い出さなければいけないかもしれない。
いや、かも、ではなくほぼ確定事項だ。反対側のブロックにいるからできれば上がってこないでくれることを、願うだけだ。
「いやいや、だめだそんなことに流されてちゃ」
目の前のことに集中できてない状態で、勝てる程準決勝の相手は甘くない。
「NEO SPOT」は見た感じ一人のプレイヤーが核になっているようだ。決勝トーナメントは全ての試合で、移動1のアタッカー3の編成でやっている。移動職の選手が毎回一人で前線に出て、敵の居場所を把握して、残りの3人が固まって3人がかりで各1人づつ倒していくというのが、必勝パターンのようだ。
とにかく戦場で動き回りかく乱をして、アタッカー達がキルされても、自分が逃げ回り、蘇生を待つという、シンプルな作戦だ。ここまでその一個の作戦だけで勝ち上がって来たのだから、相当な実力者達だ。と思っていたのだが、移動職の選手以外は、特別旨いとは感じられない。
タイガのような、圧倒的火力があるわけではないし、ニシのような精密な射撃、テツのバックアップなど、一人一人の個性のような物が特に見つからない。
しかし、だからといって油断は出来ない。自分の実力を理解している選手は、上手い下手ではなく、厄介だからだ。自分を過信していないから、無理もしないし、すべきことを全うしきる能力がある。そして、かなり有能な司令塔がいるからこそ、ここまで勝ち上がってこれたのだろう。
次の試合の作戦はあらかた決まった。
少し、のぼせて頭がぼんやりしてきたので、風呂から出ることにした。長風呂から出た後の、体の脱力感が好きで、たびたびのぼせるまで入ってしまう。普段ならそのままベットにダイブして、重い体を休ませるのだが、今日はそうもいかない。
既に3人が集まっているのが、分かったからだ。なんなら、ニシよりも遅いなんて、滅多にないことだ。
頭をタオルで拭きながら、パソコンを起動させる。そのまま無線のイヤホンでいったんボイスチャットに入る。
「遅れてごめん。風呂入ってた」
体のダルさを感じながらも、髪の水気を取る。
「いえいえ、全然大丈夫ですよ」
ドライヤーをかけるのが、めんどくさいのでこのまま頭にタオルを巻いて、ヘッドホンに切り替える。
「今日帰ってきたんですよね? どうでした?」
初日以来、あまりネットカフェの話をしなかったためか、ニシから聞かれた。そういったことに、あまり興味が無いかと思っていたが、そうでもないらしい。やっぱりゲーマーだけあって、高性能のパソコンやデバイスの使い心地を知りたいのか。
「マジでよかったよ。色々配慮してもらったのもあるけど、今使っているのより、良いパソコン欲しくなったし」
俺が今使っている物も、決して安い方ではない。競技としてゲームをするのだから、それなりのスペックを求められるからだ。だけど、上には上があることを改めて感じた。
「それもそうですけど、俺は直接ゲームの話とかするも結構楽しかったっすよ」
たしかに、それは俺も感じた。そういった面でも行ってよかったなと思える4日間だった。
「ああー。いいな。楽しそうで」
ん? 今ボソッと呟いたのは、タイガじゃなくてニシだったよな? 「どうでした?」って言うのは、ゲーム環境の話では無くて、2人で直接会っていたことに対しての「どうでした?」だったのか。
「今度は4人でやろうよ」
「いいですね! 僕も行きたいです!」
一番に反応したのはニシではなく、タイガだった。そんなところも、ニシらしいなと思い、微笑ましく感じる。
「前も言ったけど、お前は未成年だから無理だろ?」
「親の許可があればいいんじゃないの?」
タイガが、テツに反論するが実際の所どうなんだろうか? 問題ないのかな? 学校が休みの日なら大丈夫とかあったりするのだろうか?
「まあ、どうせやるにしても、大会終わってからだろうから、一旦は置いといて、練習始めようか」
「了解」「おっけ」「はい!」
「じゃあ、取り敢えず何戦かやってから、準決勝を意識した立ち回りでやるか」
俺達の普段の立ち回りとは、少し違う立ち回りになるだろうから、より作戦理解への意識が必要になる。
「僕も対戦相手の映像見ましたけど、ちょっと厄介ぽいですね」
あくまでも、ちょっとと言うあたり負けることは一切想定していないようだ。それでこそ、うちの火力担当だ。
「そうだよな」
テツが、タイガの発言に同意する。
「お前は知ったかするな。何も知らないだろ」
それに、すかさずニシがツッコミを入れる。
確かに今までのテツなら、自分のすべきことは、指示に従うだけ。そう決めつけて、相手チームの情報を仕入れることは一切していなかった。
だけど。
「ふん。甘いぜニシ。俺は変わったんだよ。ちゃんと全部情報を仕入れてる」
最前線で見方をサポートすることに置いて、自分で考えて行動することの重要性を教えて為、自ら学ぶようになったのだ。前にいればいるほど、戦況とオーダーとのディレイが生れる。全てを指示しきれないが為に、瞬時の自己判断が必要になることがある。それを理解しての、前向きの行動だ。
「へー、そうなんだ。じゃあ、次のチームの特徴は?」
ニシが試すかのように問いかける。
「次のチームはな。………めっちゃ動きまわる奴がいる!」
………。まだ時間は必要みたいだ。
次は4人全員でできれば、練習の質も上がるだろうな。プロチームがゲーミングハウスを選手の為に用意する理由が分かった。これは、選手同士の仲も深まるし、瞬時に円滑なコミュニケーションをとることが求められる、ゲームには最も大事な環境かもしれない。
前は、そんな地獄みたいな場所絶対に嫌だったが、今なら良いかもしれないな。
そんなことを考えながら、久々の湯船につかるために風呂に湯を張る。
チーム練習の時間はまだ先だから、少しはゆっくりできるだろう。長湯をするときは、いつも考え事をする時でもある。しかし、最近は悩みも特にないので、戦略を練る時間になっている。そのため、タブレットを持ち込み、フォージの動画を見ながら湯船につかる。
「もうすぐ、オフラインか」
楽しさがほとんどを占めているものの、不安要素もある。それは決して、負けることへの恐怖ではない。俺にとって忘れたい過去、消し去りたい過去。それを思い出さなければいけないかもしれない。
いや、かも、ではなくほぼ確定事項だ。反対側のブロックにいるからできれば上がってこないでくれることを、願うだけだ。
「いやいや、だめだそんなことに流されてちゃ」
目の前のことに集中できてない状態で、勝てる程準決勝の相手は甘くない。
「NEO SPOT」は見た感じ一人のプレイヤーが核になっているようだ。決勝トーナメントは全ての試合で、移動1のアタッカー3の編成でやっている。移動職の選手が毎回一人で前線に出て、敵の居場所を把握して、残りの3人が固まって3人がかりで各1人づつ倒していくというのが、必勝パターンのようだ。
とにかく戦場で動き回りかく乱をして、アタッカー達がキルされても、自分が逃げ回り、蘇生を待つという、シンプルな作戦だ。ここまでその一個の作戦だけで勝ち上がって来たのだから、相当な実力者達だ。と思っていたのだが、移動職の選手以外は、特別旨いとは感じられない。
タイガのような、圧倒的火力があるわけではないし、ニシのような精密な射撃、テツのバックアップなど、一人一人の個性のような物が特に見つからない。
しかし、だからといって油断は出来ない。自分の実力を理解している選手は、上手い下手ではなく、厄介だからだ。自分を過信していないから、無理もしないし、すべきことを全うしきる能力がある。そして、かなり有能な司令塔がいるからこそ、ここまで勝ち上がってこれたのだろう。
次の試合の作戦はあらかた決まった。
少し、のぼせて頭がぼんやりしてきたので、風呂から出ることにした。長風呂から出た後の、体の脱力感が好きで、たびたびのぼせるまで入ってしまう。普段ならそのままベットにダイブして、重い体を休ませるのだが、今日はそうもいかない。
既に3人が集まっているのが、分かったからだ。なんなら、ニシよりも遅いなんて、滅多にないことだ。
頭をタオルで拭きながら、パソコンを起動させる。そのまま無線のイヤホンでいったんボイスチャットに入る。
「遅れてごめん。風呂入ってた」
体のダルさを感じながらも、髪の水気を取る。
「いえいえ、全然大丈夫ですよ」
ドライヤーをかけるのが、めんどくさいのでこのまま頭にタオルを巻いて、ヘッドホンに切り替える。
「今日帰ってきたんですよね? どうでした?」
初日以来、あまりネットカフェの話をしなかったためか、ニシから聞かれた。そういったことに、あまり興味が無いかと思っていたが、そうでもないらしい。やっぱりゲーマーだけあって、高性能のパソコンやデバイスの使い心地を知りたいのか。
「マジでよかったよ。色々配慮してもらったのもあるけど、今使っているのより、良いパソコン欲しくなったし」
俺が今使っている物も、決して安い方ではない。競技としてゲームをするのだから、それなりのスペックを求められるからだ。だけど、上には上があることを改めて感じた。
「それもそうですけど、俺は直接ゲームの話とかするも結構楽しかったっすよ」
たしかに、それは俺も感じた。そういった面でも行ってよかったなと思える4日間だった。
「ああー。いいな。楽しそうで」
ん? 今ボソッと呟いたのは、タイガじゃなくてニシだったよな? 「どうでした?」って言うのは、ゲーム環境の話では無くて、2人で直接会っていたことに対しての「どうでした?」だったのか。
「今度は4人でやろうよ」
「いいですね! 僕も行きたいです!」
一番に反応したのはニシではなく、タイガだった。そんなところも、ニシらしいなと思い、微笑ましく感じる。
「前も言ったけど、お前は未成年だから無理だろ?」
「親の許可があればいいんじゃないの?」
タイガが、テツに反論するが実際の所どうなんだろうか? 問題ないのかな? 学校が休みの日なら大丈夫とかあったりするのだろうか?
「まあ、どうせやるにしても、大会終わってからだろうから、一旦は置いといて、練習始めようか」
「了解」「おっけ」「はい!」
「じゃあ、取り敢えず何戦かやってから、準決勝を意識した立ち回りでやるか」
俺達の普段の立ち回りとは、少し違う立ち回りになるだろうから、より作戦理解への意識が必要になる。
「僕も対戦相手の映像見ましたけど、ちょっと厄介ぽいですね」
あくまでも、ちょっとと言うあたり負けることは一切想定していないようだ。それでこそ、うちの火力担当だ。
「そうだよな」
テツが、タイガの発言に同意する。
「お前は知ったかするな。何も知らないだろ」
それに、すかさずニシがツッコミを入れる。
確かに今までのテツなら、自分のすべきことは、指示に従うだけ。そう決めつけて、相手チームの情報を仕入れることは一切していなかった。
だけど。
「ふん。甘いぜニシ。俺は変わったんだよ。ちゃんと全部情報を仕入れてる」
最前線で見方をサポートすることに置いて、自分で考えて行動することの重要性を教えて為、自ら学ぶようになったのだ。前にいればいるほど、戦況とオーダーとのディレイが生れる。全てを指示しきれないが為に、瞬時の自己判断が必要になることがある。それを理解しての、前向きの行動だ。
「へー、そうなんだ。じゃあ、次のチームの特徴は?」
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………。まだ時間は必要みたいだ。
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