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36話

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 時刻は14時になる前くらいだった。送られてきた住所の最寄り駅まで来て、テツと合流した。4日間とはいえ、洋服とデバイスだけで、ちょっとした荷物になった。そしてなによりも一番邪魔なものは、俺が俺の役割をこなすために一番必要なものだった。
 テツが、案内してくれたが、駅近なようですぐにネに着いた。

「うわー、本物のヴィクターだ。すげー」

 店内に入ると、受付で立っている男にそいきなり、そう言われた。
 テツはそのまま受付の方に行く。身長は平均くらいのようだが、痩せ気味でテツと並ぶと、小さい印象を持つ。Eスポーツが好きなようで、どこかのチームのロゴが入ったパーカーを着ている。

「テツ君よくこんな凄い人と一緒にゲームしてるね」

 俺を、見たあとに、目の前にいるテツに話しかける

「おっちゃんヴィクターさんのこと知ってるんすか?」

 受付のカウンターに手を付きながら、そう聞くテツは、想像よりも仲がいいようだ。

「当たり前じゃん。こんな店の店長をしてるくらいだぞ? Eスポーツ観戦していないわけがない。そしてヴィクターだぞ!」

 少し早口で興奮気味にいった。
 と言われることに、とんでもないほどの違和感を感じる 
 そんなもてはやされる程の人間ではないことを、俺が一番良く知っているからだ。

「ああ、すみません。興奮しちゃって。ここで店長をしている坂本です。また、ヴィクターさんの活躍が見れて嬉しいです」

 さっきまでの、まるで指をさされているかの、ような感じとは打って変わって、とても礼儀正しくなった。確実に俺よりも年上なのにも関わらず、こんなに低姿勢で来られると、調子が狂うな。

「またってことは、前の僕も知ってるんですか?」

「もちろんですよ! 

 今度はカウンターに両手をつきながら体を乗り出してきた。

「前のタイトルを一躍有名にさせたのは、ヴィクターさんですよ? 僕はリアルタイムで見てましたから。あの日から爆発的にプレイ人口増えたのを体感しましたから。」

「スゲーなー、ヴィクターさん」

 テツが横やりを入れてくるが、お前はなんどもその話を聞いているだろ! とツッコミたくなる。

「そのおかげで、ここの利用者も増えたんですよ?」

 そんな昔からある店だったのか。いや、それよりもそんな影響があったなんて。たしかに前やっていたタイトルは、パソコン専用で他のプラットフォームではできなかったが。まさか俺一人の功績でってことはいくら何でも言いすぎだろ。

「おっちゃん。そんなこと言っても何が凄かったんだ? めっちゃキルしたくらいしか知らないんだよ」

「バトルロワイアルゲームって言うのは、今テツ君がやってるフォージと違って、何チームもがいっぺんに戦うんだよ。徐々にマップが小さくなって、順位とキルでポイントが入る。1対1のゲームと違って運の要素が凄く絡むんだ」

 テツに説明する、店長さんを見ていると、本当にゲームを愛していることが伝わってくる。大人でも熱くなれる。それを確認できただけでも、ここに来た価値はあったかもしれない。
 俺は、過去も今も一人の人を夢中にさせることが出来たんだって、思えた。

「だから、安全策を取るのが、勝つために一番最適なものだったの。それは勝負に徹することだから、なにも間違っちゃいない。みんな勝つためにやってるんだから。だけど、それは長い試合の中で盛り上がりが少ないことにもつながるんだ。

「なるほどね! それは見てる方は楽しくないってことか」

「そうそう! そう言うことなんだよ! 競技を見る楽しさって大事なことなんだよ」

 俺としては、そんな意図一切なかったのに、こんな言われようをすると、複雑な気分だ。ただ怒りをぶつけただけのはずが、こんな良いように解釈されていたとは。

「もともと、見ていた人は新しい面白さに気付く。まったく知らなかった人でも、なんだか面白そうって近づいてくるもんなんだ」

「なるほどな。俺もそれを目指さないといけないってことか」

 無意識なりにも、Eスポーツの発展に一役買っていたと知れてよかったかもしれない。

「ああ、すみません。話が長くなってしまいましたね。練習時間が減ってしまう。部屋は右手の奥になりますので」

 そうだった。褒められ過ぎて、少し気持ちよくなってしまっていた。満足して危うくこのまま帰るところだった。

「おっちゃん。4日も借りるけど、料金はいつ払えばいいんだ? 最終日に一括でいいのか?」

 そうだった。そもそも総額の料金も今だにいくらいになるか分からない。もしかしたら、どこかATMに行って、下してこないといけないしれない。

「なに言ってんの。料金はいらないから、自由に使って」

 は? いまなんて?

「おっちゃんマジかよ?」

 テツも驚いているってことは、俺の聞き間違いじゃないようだ? 配信のブースの最高級パソコンなんてかなりの値段になるだろうに。
 それを無料で貸してくれるのか?

「ああ、その代わりにお願いがあるんですけどいいですかね?」

 俺の方を向き、顔の前で両手を合わせて、少し声のボリューム下げる。

「はい? 何ですか?」

 もう、使うことが確定しているこの状況で、されるお願いごと。そう聞くと、なんとも身構えてしまう。
 断りづらい状況を、作ってからする要望は、社会人のときに何度も味わってきたものだ。

「今SNS呟いて、人が来ちゃうと練習にならないと思うので、後日来店されたことを発信させてもらいたいのと。もし今後イベントなんかを開く予定とかあったらここを使っていただきたいんですけど」

「そのくらいなら全然いいっすよ」

 テツが、俺是非を聞かずに即答した。
 俺も内心ホッとしている。とんでもない無理難題を言われるかと思ってたドキドキしてしまった。

「はい、テツの言うとおり全然いいですよ」

「おっちゃん、なんなら一緒に写真撮ろうや」

「え? いいの?」

 店長さんからしても、想像以上の返答が返ってきたようだ。

「大丈夫ですよね? ヴィクターさん?」

 テツが俺の方を振り返り、確認してきたが、もちろん答えは決まっている。

「うん、全然大丈夫だよ。俺たちはどうせ顔映されるので」

 準決勝、決勝をオフラインでやる以上絶対に顔出し必須だ。

「本当ですか!? ありがとうございます」

 そう言って、お辞儀をした店長さんは、奥にいた店員さんを1人呼んできて、自分のスマホを渡した。

「店の前でいいですか?」

 俺たちは4人は店に看板前に、行き1枚写真を撮った。

「本当にありがとうございます! 店員には話しておきますので、好きに出入りしてください。もし何かあったら、出来る限りのサポートをしますので、遠慮せずに」

 最初少し疑ってしまったが、根っからのいい人で、本当にゲームが好きな人なんだな。
 いつも画面ばかり見ていると忘れてしまうが、こういった人達支えられて、俺たちゲーマーが成り立っていることを、改めて実感する。

「本当にありがとうございます。でも、本当に良いんですか? こんなに良くしてもらっちゃって」

「いえいえ、全然いいんですよ。テツ君にも頑張ってもらいたいし、応援しているODDS&ENDSの活躍が一番のお返しですよ」

「おっちゃん、ありがとな! 絶対に世界大会に行くから!」
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