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34話

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 俺は今帰りの新幹線に乗っている。

 タイガからオフライン進出の連絡を受けた翌日も、母さんの元に行った。昨日よりも顔色はよく、普通に会話もできた。思っていた以上に回復早く、手術から3日後には普通病棟に移動できた。
 そこで母さんにもゲームのことを話した。どうしても自分の口で話したかったからだ。想像してた通り、母さんも俺の頑張りたいことを、受け入れてくれた。
 自分が一番大変な時だというのに、母さんも父さんと一緒で俺のことばかり気にしている。違った点といえば、父さんは仕事の事、母さんは食生活や体のことだった。こんなところで、父と母の視点の違いを感じた。

 しかし、それでも共通していたのは、俺が頑張りたいと言った「ゲーム」を肯定してくれたところだった。そういえば、実家にいたときは、食事の時間すらゲームに充てていたかったから、食卓で食べずに、部屋で食べていたことを思い出す。
 あの時から、ずっと支えてもらっていたんだな。
 スポーツ選手が優秀な成績を残すのに、必要なものは「環境」「指導者」「家族の支え」と言うのを聞いたことがある。ゲームの世界でもきっと同じなのだろう。当時の俺は環境が最悪だったが今は違う。
 後は必要なのは、俺の努力だけだ。今回の帰省でよりそれを強く実感した。

 俺が実家に戻ってきて、まだ4日しか経っていない。母さんもやっと落ち着いた段階だ。それにも関わらず、なぜ俺がもう新幹線に乗って東京に戻っているのか? 母さんに追い返されたからだ。
 そうは言っても別に悪い意味ではなく、今頑張らなければいけないことが目の前にあるのなら、それに集中しなさいと、言うことだった。
 全く持ってその通りではあるものの、それを病床の母さんに言われるのかとは思った。父さんの口ぶりはなるべく実家にいて欲しい感じだったし、母さんも初めはそう言っていた。
 母さんの強さと、父さんの可愛らしい一面が見れたことにより、自分が愛されていることをより深く実感できた。
 だから、俺はその日のうちに実家を出た。帰りは深夜バスでいいかとも思ったのだが、少しでも早くゲームがしたいのと、腰を悪くする可能性を考慮して、新幹線で帰ることにしたのだ。

 俺達は、後10日ほどでフォージの日本一、そして世界大会出場を賭けた最後の試合がある。帰ったらこの4日分を取り戻さないといけない。
 とりあえず、準々決勝がどんな感じだったのかを知るために、新幹線の中でアーカイブを見ることにした。
 チームのチャットに今から東京に帰ることを連絡したが、タイガ達からは、オフライン進出以外のことは何も聞いていない。
 タイガから「待ってます」の一文が来ただけだった。
 3人は慢心せず、準々決勝があった、その日の夜から既に練習を始めていたようだ。今回3人で出たことによって、何か掴めたものがあったのかもしれない。俺も遅れを取らないように、頑張らなければ。

 そんな時、テツから個人チャットの方にメッセージが届いていることに気が付いた。

「お母さんが無事だったようで本当に良かったです」

「ありがとう。今回は本当に迷惑かけてごめんね」

「いえいえ、全然気にしないでください。結果的に勝てましたから、なんの問題もありません」

「そう言ってくれて、嬉しいよ。俺も帰ったら今まで以上に頑張るよ」

「ヴィクターさん。そこでちょっとお話というか、ご相談があるのですが。帰って時間が出来たら、俺に電話もらえますか?」

 個人的に連絡をくれただけかと思っていたが、どうやらそうでは無いらしい。

「分かった。良いよ」

「ありがとうございます! 家にいて寝てない間はずっとパソコンつけっぱなしにしておくので、いつでも大丈夫です! よろしくお願いいたします」

 なんだか、文の様子だとタイガとテツには知られたくない話のような気がする。
 二人に隠して俺に相談とは何だろうか? 俺への苦言といった悪い話ではなさそうだが。
 それにしても、いつも会話ではあんなにフランクに話しかけてくるのに、文章だと妙に固さがあるな。これは、もともとそうなのか、それとも相談内容的にこうなっているのか、どっちなんだろうか?

 配信のアーカイブを見ていたはずが、いつの間にか寝てしまい、起きたら降りる駅に到着していた。
 みんながどんな戦い方をしたのかも見たかったが、せっかくなので帰ってからゆっくりと見ることにする。取り敢えず電車を乗り換えて、これからのことを色々考えよう。準決勝、決勝の相手のアーカイブも見て、対策を練らないといけないしな。

 やはり、やることがいっぱいだ。だけど、楽しみで仕方がない。

 最寄り駅に着いた。真っ直ぐ家に帰ろうと思ったが、腹も減ってきたし、家の冷蔵庫にも何もなかったことを思い出す。だけどもう、時間的に近くの飲食店空いていないので、コンビニよる。しばらく家に引きこもるだろうから、大量に買い込んだ。

 両手にビニール袋を下げながら、ようやく家にたどり着いた。なんだか久々の我が家なような気がする。実家に帰ったのも久々だったが、その間どこかに出掛けたことも一度もなかった。
 今までどれほど、つまらない生活をしていたかがよく分かる。本当に会社と自宅の行き来しかしていなかった。

 買ってきた物を冷蔵庫に入れ、今食べる弁当をパソコンの前に置く。パソコンを起動させると、まだテツが起きていることが分かった。
 どうしようか? 弁当を食べながら、アーカイブを見ようと思っていたのだが。ニシとタイガはもう落ちているようなので、今がちょうどいいかな?

 通話をかけると、すぐにテツが出た。

「お疲れ様です。今帰って来たところですか?」

「うん、そうだよ」

「お疲れの所、ありがとうございます」

「いや、全然大丈夫。それで話ってなに?」

 いつもの、元気のいいハキハキといた声ではなく、神妙な感じだ。

「ヴィクターさん。俺を鍛えてくれませんか?」
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