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16話
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「ヴィクターさん、一ついいですか?」
練習終わりに、ニシが訪ねてきた。
「ん? なに?」
いつものように、編集作業を始めようと思った矢先のことだった。なんとなく、重要そうな感じだったので、一度編集アプリを落とす。
「練習中はみんな、配信したりしなかったりですけど、大会のときはどうします?」
「決勝にリーグからは、公式で配信があるから、個人でしても問題はないかなとは思ってる」
皆っていっても、ほぼ毎日しているのは俺だけだ。まあ、本音は予選から全部配信したい気持ちはあるが、そこは自重しようと思っている。
今は、だいぶ視聴者の人も増えていて、アベレージで1000人欠けるくらいだ。このゲームを始める前は、自分の配信にこんなにも多くの人が集まるなんて、思いもしなかった。
改めてフォージの人気の高さを感じる。それに、日本予選に参加すると公表したのも後押ししてくれていと感じている。世界を目指しますって言っているチームで配信と動画投稿を、俺ほどやっている人が稀だからだ。とは言っても、練習中全部を配信しているわけではなく、ランクマッチや、aim練習中の数時間だけだ。
初の大会開催だから、まだみんな誰が強いのが、はっきりと分からない状態だ。現状ランクマッチの順位をSNSなどで載せている人=強い人。くらいの認識しかないだろう。
「だけど、予選は何戦するかもまだわからないから、作戦バレは痛いから配信せずにいこうかと思ってる」
「そうですよね。良かった。同じ考えで」
ニシの少しこわばった声が、元に戻る。多少の違和感を感じたが、気のせいか?
「というか、そろそろ本番用の作戦も考えていかないとな時期ですよね」
タイガの言うとおりだ。俺たちが今やっているのは、チームの連携や、意思疎通、個人技のアップなどがメインになっている。ゲームでのランクマッチと実際の大会では、相手の動きも練度も段違いのはずだ。
だから、ある程度相手の行動を予想して、作戦を立てなければいけないのだが・・・・。
「でもよお、実際の所、情報が無さすぎるんだよな」
テツが、まるでお手上げだよと言わんばかりの声を出す。
そうだ。まさにその通りなのだ。
「初だからしょうがないって所もあけど、このゲーム緻密すぎるんだよな。ジョブも、武器も装備も、いくらでもやりようがあるから」
フォージは、キル点や生存点で装備やアビリティを上位互換と変えることが出来る。それが、チームとしてのポイントになるため、誰に振り分けることも出来る。そのため、一人の装備を一気に押し上げることもできれば、全員を平等にすることも、チームの方針次第になる。
そのため、作戦は無限にあるといっても過言ではない。
「今のところ、マップが一つしかないのが救いだよな」
テツは永遠に嘆き続けている。しかし、俺には分かる。こいつは何も考えていないことに。テツはこんな感じだが、チームで決めた方針には絶対に従う。基本的に、戦闘中のオーダーを出すのは、俺かタイガだ。テツはいつも、それにきちんと従う。パーティーゲーをやっていて、これほど自分を殺せる人間がいるのはチームとしても心強い。
なぜなら、判断の速さが命取りになるので、意見がどっちつかずになるのが、一番よくないことだからだ。
だから、こんないい加減で、何も考えていない感を出しても、誰も怒れないのだ。
「他のタイトルとかってどうなんですか? 大会出るチーム用の練習会みたいなのってあるの?」
それでいて、プレイ外で一番意見や提案をするのはニシだ。元々色々考えたりするのが好きなタイプなようでだ。それに、将棋をやっていただけあって、提案する戦略にも幅がある。
結構色々いう割には、決定権は俺とタイガにあると思っているらしく、決定したことには、文句を言わない。
なんというか、初めにも思ったが、この二人のタイガへの信頼感は半端ないものだ。タイガも、普段は物凄く年下感を出す割には、ゲームになるとそんなものを一切感じさせない。
そして、タイガが俺に絶対的信頼を寄せているのだから、俺のいうことは間違いがないだろうと思っているようだ。
いや、最初は本当にそんな感じだったが、今はタイガを通してではなく、きちんと俺を見てくれていると思う。
「バトロワゲーとかだと、練習カスタムとかあるけど、フォージみたいな4vs4みたいなゲームは作戦漏れを極端に嫌うから難しいんだよな」
「開催しても集まらない可能性があるってことか」
察しのいいテツだ。一応しっかり話は聞いているようだ。
「そう言うことだな」
「そうですよね、しかも勝てば勝つだけ、配信すればするだけ、対策されますもんね
「だから、対策の対策をするわけだ」
「永遠にイタチごっこだよ」
「ということはだ。作戦バレしても、対策しづらいような作戦を立てればいいのか」
テツが、合点言ったと自信満々にそう言う。確かに、その通りなのだが、なんというか、それが簡単に出来ないから難しいんだよな。
「ヴィクターはなんで、そんなに配信にこだわるんですか? 今もほぼほぼ毎日動画投稿か配信してますよね? 仕事を辞めたからっていうのも分かるんですけど」
「ああ、それかぁ」
「チーム結成したときにも、配信は続けるって言ってたから、全然いいんですけど、なんか引っ掛かるなと思って」
「と、言うと?」
「さっき話してた内容なんですけど、本当に勝つためなら、配信も動画もしない方がいいんじゃないですか?ってことです。作戦バレを防ぐのが最優先じゃないですか?」
痛いところを突かれた。いや、俺が今までみんなの優しさに甘えていただけか。
実際の所、ニシの言うとおりだ。勝ちたいだけなら、一切情報を出さずに、やるべきだ。それこそ、大会に出ることも、言わない方がよかった。もしかしたら、ランクマッチとかで当たったチームに、研究される可能性だってあるのだから。
「これはさ。全くの一人よがり何だけどさ。あんな感じで辞めてった俺を、また本気にさせてくれたeスポーツに、凄い恩を感じているというか、感謝しているんだよね。だから、少しでも、業界が盛り上がる、その手伝いというか、貢献したいというか、そういう考えなんだよね」
完全に自己満足だということは、分かっている。だけど、今もっとも盛り上がりを魅せていていて、注目されているのが、このフォージだ。
だからこそ、誰かのきっかけになればいいなと思っている。普段ゲームをしない人がたまたま見て、少しでも面白いと思ってくれればいいなと。
「そうだったんですね・・・・。なんかすみません。無神経なこと言ってしまって。申し訳ないです」
「別に全然いいんだよ。むしろちゃんと思ったことを口にしてくれて、嬉しいよ。それに、それだけ、本気だってことも伝わったし」
これは、受け入れてくれたってことでいいのかな?
「ヴィクターさん。めっちゃいい話の所、水を差すようで悪いんですけど。だったら名前戻さないとダメくないっすか?」
テツの一言に、一瞬の静寂が訪れる。
「あ、」
3人からは、ずっとヴィクターと呼ばれていたから、忘れていたが、考えてみれば、俺はイカゲソ丸のままプレイしていた。
「で、でも今更、そんな度の面下げて戻ってきたとか思われそうだし、まずお前誰だよとかなりそうだし」
「なに今更ぐだぐだ言ってるんすか? 今までのいい話はどこ行っちゃったんですか?」
「本当あれは、あくまでも自分が勝手にそう思ってるだけというか」
「ここは思い切って、名前戻しましょ。いつまでもイカゲソ丸なんてダサい名前使ってないで」
「業界を盛り上げたいなら、余計に戻した方がいいですよ! 最強の帰還とか言われますよ!」
タイガが興奮気味でそう言ってくる。俺を慕ってくれている、タイガからすれば、とんでもなく熱い展開ではある。
「それは恥ずかしすぎるだろ!」
しかも予想だが、ゲームの実況は、そういう熱いシチュエーションとか言葉とかが、大好物なのだ。冗談抜きで使われそうな気がして怖い。
「いや、決定です。名前ヴィクターに戻しましょう。業界の発展のために」
なんと。3人に押し切られ形で、俺は名前を元に戻すことになった。
練習終わりに、ニシが訪ねてきた。
「ん? なに?」
いつものように、編集作業を始めようと思った矢先のことだった。なんとなく、重要そうな感じだったので、一度編集アプリを落とす。
「練習中はみんな、配信したりしなかったりですけど、大会のときはどうします?」
「決勝にリーグからは、公式で配信があるから、個人でしても問題はないかなとは思ってる」
皆っていっても、ほぼ毎日しているのは俺だけだ。まあ、本音は予選から全部配信したい気持ちはあるが、そこは自重しようと思っている。
今は、だいぶ視聴者の人も増えていて、アベレージで1000人欠けるくらいだ。このゲームを始める前は、自分の配信にこんなにも多くの人が集まるなんて、思いもしなかった。
改めてフォージの人気の高さを感じる。それに、日本予選に参加すると公表したのも後押ししてくれていと感じている。世界を目指しますって言っているチームで配信と動画投稿を、俺ほどやっている人が稀だからだ。とは言っても、練習中全部を配信しているわけではなく、ランクマッチや、aim練習中の数時間だけだ。
初の大会開催だから、まだみんな誰が強いのが、はっきりと分からない状態だ。現状ランクマッチの順位をSNSなどで載せている人=強い人。くらいの認識しかないだろう。
「だけど、予選は何戦するかもまだわからないから、作戦バレは痛いから配信せずにいこうかと思ってる」
「そうですよね。良かった。同じ考えで」
ニシの少しこわばった声が、元に戻る。多少の違和感を感じたが、気のせいか?
「というか、そろそろ本番用の作戦も考えていかないとな時期ですよね」
タイガの言うとおりだ。俺たちが今やっているのは、チームの連携や、意思疎通、個人技のアップなどがメインになっている。ゲームでのランクマッチと実際の大会では、相手の動きも練度も段違いのはずだ。
だから、ある程度相手の行動を予想して、作戦を立てなければいけないのだが・・・・。
「でもよお、実際の所、情報が無さすぎるんだよな」
テツが、まるでお手上げだよと言わんばかりの声を出す。
そうだ。まさにその通りなのだ。
「初だからしょうがないって所もあけど、このゲーム緻密すぎるんだよな。ジョブも、武器も装備も、いくらでもやりようがあるから」
フォージは、キル点や生存点で装備やアビリティを上位互換と変えることが出来る。それが、チームとしてのポイントになるため、誰に振り分けることも出来る。そのため、一人の装備を一気に押し上げることもできれば、全員を平等にすることも、チームの方針次第になる。
そのため、作戦は無限にあるといっても過言ではない。
「今のところ、マップが一つしかないのが救いだよな」
テツは永遠に嘆き続けている。しかし、俺には分かる。こいつは何も考えていないことに。テツはこんな感じだが、チームで決めた方針には絶対に従う。基本的に、戦闘中のオーダーを出すのは、俺かタイガだ。テツはいつも、それにきちんと従う。パーティーゲーをやっていて、これほど自分を殺せる人間がいるのはチームとしても心強い。
なぜなら、判断の速さが命取りになるので、意見がどっちつかずになるのが、一番よくないことだからだ。
だから、こんないい加減で、何も考えていない感を出しても、誰も怒れないのだ。
「他のタイトルとかってどうなんですか? 大会出るチーム用の練習会みたいなのってあるの?」
それでいて、プレイ外で一番意見や提案をするのはニシだ。元々色々考えたりするのが好きなタイプなようでだ。それに、将棋をやっていただけあって、提案する戦略にも幅がある。
結構色々いう割には、決定権は俺とタイガにあると思っているらしく、決定したことには、文句を言わない。
なんというか、初めにも思ったが、この二人のタイガへの信頼感は半端ないものだ。タイガも、普段は物凄く年下感を出す割には、ゲームになるとそんなものを一切感じさせない。
そして、タイガが俺に絶対的信頼を寄せているのだから、俺のいうことは間違いがないだろうと思っているようだ。
いや、最初は本当にそんな感じだったが、今はタイガを通してではなく、きちんと俺を見てくれていると思う。
「バトロワゲーとかだと、練習カスタムとかあるけど、フォージみたいな4vs4みたいなゲームは作戦漏れを極端に嫌うから難しいんだよな」
「開催しても集まらない可能性があるってことか」
察しのいいテツだ。一応しっかり話は聞いているようだ。
「そう言うことだな」
「そうですよね、しかも勝てば勝つだけ、配信すればするだけ、対策されますもんね
「だから、対策の対策をするわけだ」
「永遠にイタチごっこだよ」
「ということはだ。作戦バレしても、対策しづらいような作戦を立てればいいのか」
テツが、合点言ったと自信満々にそう言う。確かに、その通りなのだが、なんというか、それが簡単に出来ないから難しいんだよな。
「ヴィクターはなんで、そんなに配信にこだわるんですか? 今もほぼほぼ毎日動画投稿か配信してますよね? 仕事を辞めたからっていうのも分かるんですけど」
「ああ、それかぁ」
「チーム結成したときにも、配信は続けるって言ってたから、全然いいんですけど、なんか引っ掛かるなと思って」
「と、言うと?」
「さっき話してた内容なんですけど、本当に勝つためなら、配信も動画もしない方がいいんじゃないですか?ってことです。作戦バレを防ぐのが最優先じゃないですか?」
痛いところを突かれた。いや、俺が今までみんなの優しさに甘えていただけか。
実際の所、ニシの言うとおりだ。勝ちたいだけなら、一切情報を出さずに、やるべきだ。それこそ、大会に出ることも、言わない方がよかった。もしかしたら、ランクマッチとかで当たったチームに、研究される可能性だってあるのだから。
「これはさ。全くの一人よがり何だけどさ。あんな感じで辞めてった俺を、また本気にさせてくれたeスポーツに、凄い恩を感じているというか、感謝しているんだよね。だから、少しでも、業界が盛り上がる、その手伝いというか、貢献したいというか、そういう考えなんだよね」
完全に自己満足だということは、分かっている。だけど、今もっとも盛り上がりを魅せていていて、注目されているのが、このフォージだ。
だからこそ、誰かのきっかけになればいいなと思っている。普段ゲームをしない人がたまたま見て、少しでも面白いと思ってくれればいいなと。
「そうだったんですね・・・・。なんかすみません。無神経なこと言ってしまって。申し訳ないです」
「別に全然いいんだよ。むしろちゃんと思ったことを口にしてくれて、嬉しいよ。それに、それだけ、本気だってことも伝わったし」
これは、受け入れてくれたってことでいいのかな?
「ヴィクターさん。めっちゃいい話の所、水を差すようで悪いんですけど。だったら名前戻さないとダメくないっすか?」
テツの一言に、一瞬の静寂が訪れる。
「あ、」
3人からは、ずっとヴィクターと呼ばれていたから、忘れていたが、考えてみれば、俺はイカゲソ丸のままプレイしていた。
「で、でも今更、そんな度の面下げて戻ってきたとか思われそうだし、まずお前誰だよとかなりそうだし」
「なに今更ぐだぐだ言ってるんすか? 今までのいい話はどこ行っちゃったんですか?」
「本当あれは、あくまでも自分が勝手にそう思ってるだけというか」
「ここは思い切って、名前戻しましょ。いつまでもイカゲソ丸なんてダサい名前使ってないで」
「業界を盛り上げたいなら、余計に戻した方がいいですよ! 最強の帰還とか言われますよ!」
タイガが興奮気味でそう言ってくる。俺を慕ってくれている、タイガからすれば、とんでもなく熱い展開ではある。
「それは恥ずかしすぎるだろ!」
しかも予想だが、ゲームの実況は、そういう熱いシチュエーションとか言葉とかが、大好物なのだ。冗談抜きで使われそうな気がして怖い。
「いや、決定です。名前ヴィクターに戻しましょう。業界の発展のために」
なんと。3人に押し切られ形で、俺は名前を元に戻すことになった。
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