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第四十三話 兵士たちは

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 一人の少女の前に数十人に及ぶ大の大人が並ぶ。普通ではありえないその光景に、その場にいる人たちが一番疑問に思っているだろう。末端の兵士の中には自分が今何をしていて何をすればいいか理解していない人間もいるかもしれない。
 それほどまでに、城の兵士が有事でもないのに外に出てたった一人の少女を追いかけることは異常であった。

「私はこの場から去ります。それを邪魔しなければ私はなにもしません」

 本来幼いはずであった少女は、今は目の前の兵士たちと同等に視線を持っている。環境が人を強くすることは間違いなく本当のようで、その少女は背負わなくてもいいはずの重圧を背負ってしまっている。簡単に押しつぶされてしまえば、これほど楽なことは無いであろう。しかし、少女にそれはできない。
 それが、少女が身に余る力を得るときに希望とともに背負った使命であった。

「たった一人の小娘をとり逃すなんて報告できるわけがないだろぉ!」

 やはり一番に激高するのは魔法士の男であった。冷静に対処できる頭は持ち合わせていないようで本来頭脳派であるはずにも関わらず自ら汚名を被る。今にも少女に殴りかかりそうな雰囲気である。

「まだそんなことを言うかグロリア! 冷静になれ! 一番は賢者様の任務を遂行することだろう!」

 隣に立つ同僚を落ち着かせようと、これまで引き気味であった兵士長がいい加減しろと言わんばかりに声量で抑え込もうとする。

「ああ、そうだな」

 普段そんな姿をあまり見せないのであろう。グロリアと呼ばれた魔法士は兵士長
 の方を見てから、申し訳なさそうに目線をそらした。兵士長が兵士長である所以が分かる一面であった。
 これにより、完全にカエデ側についていた風向きが変わった。これからは、自身の実力でこの場を乗り切らなければならないことになった。

「……いきます」

 少女が覚悟を決めた声は普段よりも低い声であった。
 少女の勝利方程式である、浮遊からの高火力攻撃。今回は相手の人数もみて、自身の周りに高エネルギー弾をセットする。その光景を少女の正面から見ている兵士たちは、数多もの光る銃口を向けられている感覚であろう。
 それの一個でも直撃すれば、ただでは済まない。

「陣形用意ぃ!」

 その掛け声とともに先ほどまでバラバラであった魔法士達と兵士達がいっせいにそれぞれの持ち場に着く。その陣形は、白兵戦を仕掛ける兵士達の援護をする魔法士達という町でも見た、もっともポピュラーものであった。
 最前列にいた二人はお互いの目線を合わせて合図をしたのちに、グロリアは後方に下がる。その顔つきには慢心は一切見えない。
 カエデの目の前には大きな盾を構えた兵士たちが、カエデの砲撃を受け止める準備をしている。そのままジリジリと近づいてくる。そのもっと後ろには魔法士達がなにやら詠唱している様子が見える。

「一人じゃちょっと大変かもな……」

 目の前の一つの大きな集団は今まで戦ってきたどんな異物よりも手ごわいものであろう。だからと言って、後ろに魔法士が目を光らせているから背中を向けて逃走することもできない。そうなれば、相手側の高出力魔法の詠唱が終わる前にある程度の片を付けなければいけない。

 いつ、火ぶたが切り落されてもおかしくない状況から先に動いたのはカエデの方であった。じわじわと詰め寄られた距離を、自身の戦闘が一番しやすい距離に保つために一度大きく後退する。すると、相手も逃げると思ったのか盾を持った兵士たちが走り寄ってく来る。
 その態勢が崩れたところを狙って、準備していたエネルギー弾を放つ。それを軽いものだと想像していた兵士は見事に吹き飛び、その一放射のみで3分の1程度まで前衛の数を減らした。

「放てぇ!!!」

 このまま陣形を崩されてはまずいと思ったグロリアの合図とともに、詠唱をしていなかった魔法士達による火球がカエデ目がけて飛んでくる。広範囲に及ぶその火球はとてもではないが、全てよけきることはできないため、自身の目の前に大きなシールドを展開して、その攻撃を防ぐ。シールドに火球が当たるとそこには大きく黒い煙が立ち、まるで煙幕を炊いたかのように対面するカエデと集団の間は直視できないものになった。

「いまだ!」

 煙の向こう側からそんな声が聞こえる。カエデもすぐに行動できない今のうちに陣形を整えているのであろう。
 機動力があるわけではないため、側面から急に攻撃が飛んでくる心配はないと思っていたカエデは今のうちに再度魔法を生成する。前面の盾部隊が崩壊した今ならば、もう一度同じことを繰り返せば、確実に陣形内部まで崩すことができると踏んでいた。それで、相手の恐怖心が煽られれば再び逃走することも可能だろう。
 本来であれば、真正面から戦わずに浮遊の高度を上げ真上から打ち下ろすことができれば一瞬で勝負がついたであろうが、あいにく相手の魔法士の数が多いため空中にいては格好の的だと思いその判断はしなかった。

 徐々に煙が晴れてきてうっすらと対面にいる兵士たちが目視できるようになった。
 すると、カエデの目に映ったのは想像以上に兵士たちがカエデに詰め寄ってきていた。しかも、それは盾を持った兵士ではなく、剣を持った白兵戦専用の兵士達であった。その数、先ほどの3人とは違い十人くらいはいるであろう。

「ひゃっ!」

 カエデが先に目がいったのは、その振りかざされた剣の先ではなく兵士たちの顔であった。無防備な状態で振りかざされたら少女などひとたまりもないそれよりも、威圧感を感じる表情は、覚悟の証を感じ取った。

(自分は今までどんな顔をしながら異物を倒してきたのだろうか)

 そんなことが一瞬少女の脳裏を通過してしまったため、攻撃への反応が遅れてしまい。少女は威力を調整することなく、浮遊の力を使い大きくバランスを崩しながら後ろ飛んだ。その確実な一閃は避けれたものの、他の兵士の追撃は鍔迫り合いほどの近距離でのシールド生成で防ぐも、盾を持った兵士に体当たりをされ体重の軽い少女は吹き飛ばされてしまった。

「うっ!」

 その衝撃は、幼い少女からしてみれば車と衝突したのと同等の威力であった。鈍い声とともに転がる少女が纏う爽やかな色合いの魔装は払ってもすぐには落ち切らない程度の土汚れがつく。空を飛ぶ魔法少女が土をつけられるのは、文字通り敗北を表す。
 その様子を見ても、もう油断はしない兵士たちは勝ちを確信しながらも焦ることなくゆっくりと隊列を崩さず近づいてきている。
 うつぶせに倒れながらも、何とか顔を上げる少女は地面に叩きつけられたことによる肺へのダメージで呼吸不全に陥る。少女の目はぼやけているにも関わらず、確実に敵の表情はつかみ取っている。
 魔法少女という特性から相手との距離が近くなることはなかった。そのため今まで幾度となく戦って来たにも関わらず、戦闘の事実を知らずに来てしまった。
 それは少女にとっては良いことだったのかもしれない。見なくても良いもの、知らなくて良いものは少なからず存在する。それに触れても全く気にしない者や、必要以上に気にしてしまう者がいる。少女は圧倒的後者である。

「最後まで油断するな。取り押さえて、賢者様に引き渡すまでが我々の任務だ」

「先遣隊! 急いで戻って賢者様に報告しろ!」

 各々の小隊を率いる二人の長が、的確な指示を出す。
 それを聞くとすかさず、カエデに詰め寄る兵士と馬で城に方にかけていく兵士で別れていった。






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