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第四十二話 傲慢な魔法士
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これまでの白兵戦しかできない兵士とは違い、その魔法士の集団は相手に天秤が触れる最後のピースが揃ったと同義であった。なぜ、一人の人間を追いかけるのに、国の中隊を動かす必要があったのかは、対面した三人兵士以外は理解していないであろう。この場でその少女を取り押さえることができなければ、二度と少女に対することができないと瞬時に判断した賢者は、やはり有能なようだ。
戦争中の国同士で一人の少女が溶け込むことはそう難しいことではないであろう。しかし、国の兵士が国境を越えて人探しに行くなどあまりにも非現実的すぎる。
「追いつかれちゃった……」
ぱっと見では何人いるか数えきれないその集団を目の前にしても、少女は多少の焦燥感を持つ程度でそれが、心を折るきっかけにはならないようだ。立ち上がりながら、魔装に着いた土ぼこりを払う少女は、この場をどうやって切り抜けるかを考えている。
「私この人数を一人で相手に出来るのかな?」
日本で異物と戦っている時も、この世界に来て異物と戦っている時もどちらも少数の敵しか相手にしてこなかった。さらに、それの相手が人となれば、なおさら今まで戦ってきた経験値をそのまま活かすことは難しいであろう。殺してもいい異物と殺してはいけない人とでは話の訳が違うからだ。
「それが、祝福の少女で間違いないんだな」
「ああ」
先ほど、少女の足止めをした魔法を放った魔法士が、兵士長の真横にきてカエデの方を見て再確認する。二人の姿格好は全くの別物であるため、すぐに役割が違うことは分かるが、ボロボロの格好をしている兵士長とは裏腹に、魔法士のほうはやけに綺麗な格好をしているように見える。
「まったく、危うく逃げ切られそうになって一体なにをやっている。不甲斐ない!」
「すまない……」
魔法士の男は、敵対対象であるカエデを目の前にしても余裕を持て余しており、立場が同じであろう同僚を叱責している。後方に部下が控えている状況であってもなに一つ遠慮なしのようだ。
「だから初めに言ったのだ。我々だけで十分だと。対象が魔法士であるならばなおさらのことと。賢者様もそろそろ老いかな」
「お前! それは賢者様相手に失礼だろ!」
「ん? なんだ? なにか間違ったことを言ったか? 実際に俺が来なければお前らは死んでいたかもしれないんだぞ?」
その魔法士は、カエデ達が命の奪い合いをしているように見えたようだ。しかし、実際はそれとはまったく異なることを知っているのはその場にいた者だけであった。
「いや、それは……」
「なにか間違ったことを言ったか? ん? そうじゃないなら引っ込んでいろ」
だからと言って、そのまま伝えたところでその事実を信じてくれるわけがないし、そもそもそんな自身の体たらくを同僚に言えるはずがない。
二人のやり取りを見ているだけで、位は同じでもその魔法士のほうが優位な立場にあることが分かる。やはり、魔法が仕えるというだけでかなり優遇されているようだ。
「おい、お前。もう無駄な抵抗は止めて大人しくついてこい。この人数を相手に勝てるわけも、逃げ切れるわけもないんだから」
少女を見下すように命令する魔法士の男は、これでも優しさの心を持って接しているつもりのようだ。自身の背よりも高い杖をたずさえて片足に体重をかけ切っているその姿は、白兵戦など一切想定していないたたずまいである。
「それはできません」
「バカなのかお前?」
先ほどの魔法で魔法士としての実力は見せたつもりでだった。さらに、後方にはこれほどの兵士を連れていれば、誰でも腰が引ける。そう思って、勝利を確信してその場に立っていた男からすればそれは、想定を大きく覆す言葉であった。
実力の差が分からないほど差があるのか、それともこれだけを見せてもなお余裕でいられるほどの実力が目の前の少女にあるのか。圧倒的前者だと考えてしまうのは誰であっても無理はないであろう。
「じゃあ、もういい。動けなくしてから賢者様の前に連れて行けばいいだけだ」
そう言い切る前に、魔法士は杖を構える。その少し膨らんでいるような形状の先端が、赤く燃え始める。今までこんな近距離で魔法を扱うところを見てこなかった少女は、初めて自身以外の魔法が放たれるところをまじかで目撃していた。
「ふん!」
放つ魔法の力に押し負けないように地面を蹴り返す。再び先ほどの同等程度の火球が少女と魔法士の間に生成される。それで、勝負は終わりだと思い込んでいたのは、カエデ以外のその場にいたすべての人間だったであろう。
しかし、一度見て威力も分かったで少女にとっては十分防ぎきれるものであると判断していた。すぐさま、自身の前にシールドを生成するが、先ほどとは違い、大きいシールドに重ねるようにもう一つ小さな物を生成する。それだけで耐久値は上がりその一直線に飛んでくる予想の範疇の攻撃は、相殺された。
「な! なにっ!」
部下も後ろに控えている状態にも関わらず、周りを一切気にしない動揺を見せる魔法士は、大きく目を開きながら数歩後ずさりする。
「俺の魔法を止めただと!!! こんな小娘が!」
確かにカエデのその見た目からは優秀な魔法士には到底見えない。それは、誰しもがそう思うだろう。
「この少女は只者ではない。油断しているとお前と言えども痛い目を見るぞ」
味方のために剣を構えて、目の前の魔法少女の追撃に備えている兵士長は一足先に体験した少女の脅威度を隣に立つ魔法士に忠告する。
「黙れ! お前ら剣を振ることしか能のない奴らと一緒にするな!」
それを素直に認められないようで、悪態をつく。それを後方にいる部下たちにも聞こえたようで、魔法士達はクスクスと笑い声をあがている。少女の目の前に立っていない者が笑うのは簡単なことだ。
カエデはその目の前で行われるやり取りをみて、複雑な思いでいっぱいであった。その様子からは、ガーランド国の兵士たちが一枚岩で結束された強固な集団ではないことが目に見えて分かるものであった。魔法が仕える者とそうでない者との確執はカエデが想像しているものよりも、より大きな狭間のようだ。
誰しもが、カエデとブレンのような長所活かしあい、短所を補うような戦い方をできるわけではない。
それが分かったと同時に少女はこの場から逃げ切れるであろうことを悟った。
戦争中の国同士で一人の少女が溶け込むことはそう難しいことではないであろう。しかし、国の兵士が国境を越えて人探しに行くなどあまりにも非現実的すぎる。
「追いつかれちゃった……」
ぱっと見では何人いるか数えきれないその集団を目の前にしても、少女は多少の焦燥感を持つ程度でそれが、心を折るきっかけにはならないようだ。立ち上がりながら、魔装に着いた土ぼこりを払う少女は、この場をどうやって切り抜けるかを考えている。
「私この人数を一人で相手に出来るのかな?」
日本で異物と戦っている時も、この世界に来て異物と戦っている時もどちらも少数の敵しか相手にしてこなかった。さらに、それの相手が人となれば、なおさら今まで戦ってきた経験値をそのまま活かすことは難しいであろう。殺してもいい異物と殺してはいけない人とでは話の訳が違うからだ。
「それが、祝福の少女で間違いないんだな」
「ああ」
先ほど、少女の足止めをした魔法を放った魔法士が、兵士長の真横にきてカエデの方を見て再確認する。二人の姿格好は全くの別物であるため、すぐに役割が違うことは分かるが、ボロボロの格好をしている兵士長とは裏腹に、魔法士のほうはやけに綺麗な格好をしているように見える。
「まったく、危うく逃げ切られそうになって一体なにをやっている。不甲斐ない!」
「すまない……」
魔法士の男は、敵対対象であるカエデを目の前にしても余裕を持て余しており、立場が同じであろう同僚を叱責している。後方に部下が控えている状況であってもなに一つ遠慮なしのようだ。
「だから初めに言ったのだ。我々だけで十分だと。対象が魔法士であるならばなおさらのことと。賢者様もそろそろ老いかな」
「お前! それは賢者様相手に失礼だろ!」
「ん? なんだ? なにか間違ったことを言ったか? 実際に俺が来なければお前らは死んでいたかもしれないんだぞ?」
その魔法士は、カエデ達が命の奪い合いをしているように見えたようだ。しかし、実際はそれとはまったく異なることを知っているのはその場にいた者だけであった。
「いや、それは……」
「なにか間違ったことを言ったか? ん? そうじゃないなら引っ込んでいろ」
だからと言って、そのまま伝えたところでその事実を信じてくれるわけがないし、そもそもそんな自身の体たらくを同僚に言えるはずがない。
二人のやり取りを見ているだけで、位は同じでもその魔法士のほうが優位な立場にあることが分かる。やはり、魔法が仕えるというだけでかなり優遇されているようだ。
「おい、お前。もう無駄な抵抗は止めて大人しくついてこい。この人数を相手に勝てるわけも、逃げ切れるわけもないんだから」
少女を見下すように命令する魔法士の男は、これでも優しさの心を持って接しているつもりのようだ。自身の背よりも高い杖をたずさえて片足に体重をかけ切っているその姿は、白兵戦など一切想定していないたたずまいである。
「それはできません」
「バカなのかお前?」
先ほどの魔法で魔法士としての実力は見せたつもりでだった。さらに、後方にはこれほどの兵士を連れていれば、誰でも腰が引ける。そう思って、勝利を確信してその場に立っていた男からすればそれは、想定を大きく覆す言葉であった。
実力の差が分からないほど差があるのか、それともこれだけを見せてもなお余裕でいられるほどの実力が目の前の少女にあるのか。圧倒的前者だと考えてしまうのは誰であっても無理はないであろう。
「じゃあ、もういい。動けなくしてから賢者様の前に連れて行けばいいだけだ」
そう言い切る前に、魔法士は杖を構える。その少し膨らんでいるような形状の先端が、赤く燃え始める。今までこんな近距離で魔法を扱うところを見てこなかった少女は、初めて自身以外の魔法が放たれるところをまじかで目撃していた。
「ふん!」
放つ魔法の力に押し負けないように地面を蹴り返す。再び先ほどの同等程度の火球が少女と魔法士の間に生成される。それで、勝負は終わりだと思い込んでいたのは、カエデ以外のその場にいたすべての人間だったであろう。
しかし、一度見て威力も分かったで少女にとっては十分防ぎきれるものであると判断していた。すぐさま、自身の前にシールドを生成するが、先ほどとは違い、大きいシールドに重ねるようにもう一つ小さな物を生成する。それだけで耐久値は上がりその一直線に飛んでくる予想の範疇の攻撃は、相殺された。
「な! なにっ!」
部下も後ろに控えている状態にも関わらず、周りを一切気にしない動揺を見せる魔法士は、大きく目を開きながら数歩後ずさりする。
「俺の魔法を止めただと!!! こんな小娘が!」
確かにカエデのその見た目からは優秀な魔法士には到底見えない。それは、誰しもがそう思うだろう。
「この少女は只者ではない。油断しているとお前と言えども痛い目を見るぞ」
味方のために剣を構えて、目の前の魔法少女の追撃に備えている兵士長は一足先に体験した少女の脅威度を隣に立つ魔法士に忠告する。
「黙れ! お前ら剣を振ることしか能のない奴らと一緒にするな!」
それを素直に認められないようで、悪態をつく。それを後方にいる部下たちにも聞こえたようで、魔法士達はクスクスと笑い声をあがている。少女の目の前に立っていない者が笑うのは簡単なことだ。
カエデはその目の前で行われるやり取りをみて、複雑な思いでいっぱいであった。その様子からは、ガーランド国の兵士たちが一枚岩で結束された強固な集団ではないことが目に見えて分かるものであった。魔法が仕える者とそうでない者との確執はカエデが想像しているものよりも、より大きな狭間のようだ。
誰しもが、カエデとブレンのような長所活かしあい、短所を補うような戦い方をできるわけではない。
それが分かったと同時に少女はこの場から逃げ切れるであろうことを悟った。
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