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第四十一話 反転攻勢

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 微笑むわけでも、険しい顔をするわけでもない。
 そう宣言する少女の表情は実に淡々としているようにも見える。彼女が望んで得たものではあるが幸か不幸か彼女の人生を大きく動かしたことは事実である。幼い少女は命の危険を感じつつもこんな場所でたった一人で戦い続けているのだから、はたから見ればそれは代償ともとれるだろう。

「魔法少女? それが賢者様とどんな繋がりがあるんだ!?」

 魔法を使うものは等しく魔法士であるこの世界においては、魔法少女という単語は聞きなれないもののようだ。そして、少女があえてその言葉を選んだことにより、兵士たちはそれが何か秘密を有しており、自分たちの英雄である賢者に繋がっていると考えたようだ。

「私も詳しくはありません。ただ、あの人の願望を私が拒んだだけです」

「なんだよそれ……? 結局なにもわからないじゃんかよ」

 はっきりとしないその返答に兵士も困惑する。それほどまでに彼らにとって賢者は偉大な存在で、かつこのような曖昧な命令を下すことも今までなかったのだろう。
 それでも、少女も嘘は言っていない。現にあの錯乱した状態の言葉をそのまま受け入れることは難しいし、本当は違う意図があったにしろ自分はそれができないと断ったことは事実だ。
 それを相手が受け入れる受け入れないの問題ではない。願いと願いがぶつかり合うとはこういうことである。

「賢者様に対してなんだその態度は!」

 一番最初に我に返った兵士長は、自らが仕える賢者になれなれしくするその少女に腹を立てている様子である。それは、本心からくるものもあるだろうが、一番はこの少女側に傾いている雰囲気を察知したためであった。

「あの方がどれほど凄い人かを理解しているのか!? あの方が居なければ今の我々もお前も存在していなかったかもしれないんだぞ!」

 一度流れに乗ったものがそのままの勢いで次々と吐き出してくる。あくまでも任務中であった兵士たちは、兵士としてのありかたを全うしていたのだろう。しかし、そのメッキがはがれるほどには少女の異質は際立っていた。
 見た目とその後ろに見えるものの果てしなさは一回で許容できる量ではない。ブレンのようにその強さだけに注目出来る人物は、この世界でも数少ないようだ。

「私は、知りません。この国の、この世界の人間ではないので。だからこそ、お互いが手助けできることがあるかもしれないと思ってここにきましたが、それができなかった。それだけです」

「な……なにを訳の分からないことを言っているんだ」

 信じられなくて当然の事実を、それを理解したうえで少女は話した。もう、伝えたところで何を言い返されても驚くことは無い。それでも、自身の心のけじめとしてそれは言わなければいけないことであった。

「もういい! やるぞ!」

「おお!」

 目の前の小娘と話をしていても埒が明かないと悟った兵士長は、もう一度号令を二人にかける。それは、任務を遂行するまで撤退を許されない国の兵士としての使命を果たすために。
 それを聞いて少女も再び戦闘態勢をとる。兵士たちとの会話で不必要な威圧をしないために、浮遊を止め地面に降りていた。しかし、今度は地面に足をつけたまま戦うようだ。兵士たちを倒したあと、再び逃げるために少しでも体力を残しておきたいと考えたのだった。

「おおい! 来たぞ!」

 少し離れたところから兵士たちを飛び越えてそんな声が聞こえてくる。それは、少女にとっては凶報、兵士たちにとっては吉報となるものであろう。
 カエデと同時に兵士達にも声が届いたため、勢いよくその声が聞こえる方向に顔を向ける。それ以上に、戦闘中であったため気が付かなかったが徐々に大きくなる幾多もの足音の方がその期待と恐怖を煽っていた。

「やった。これで……」

 少女と対峙する一人の兵士が、後方にいた援軍の到着に気づき安堵の声を漏らす。その少女を前に死に対する恐怖感は抱いてはいなかったものの、底知れないなにかが援軍のおかげで消え去ったようだ。
 もし、少女が残忍な性格の持ち主であったのならば、その隙をつかれていたであろうほど、無防備姿をさらけ出していた。しかし、少女の目的は兵士を殺すことではなく、この場から立ち去ることであった。
 そのため、すでに勝ち目が見えなくなった少女はその状況を見てすぐに逃走を試みた。

「おいお前ら! よそ見をするな!」

 誰よりも先に少女の動きに気が付いた、援軍の司令官であろう男が浮遊して後退する少女を指さした。その男は、先ほどまで目の前にいた騎士達とは違い鎧などは身につけず、動きやすような軽装であった。その後ろにはそれと同じ装備を付けたものと鎧を身に着けたものがいて、二層に分かれるそれらはより統一感を表している。

「……な!」

 その声を聞いた三人はカエデが先ほどまでいた方を向く。その顔には「油断した!」大きく描かれていた。これでは、これまで少女を引き留めていた意味がなくなると思い、焦って少女の後を追うように走り出す。しまし、馬でようやく追いつくくらいのスピードで移動できる少女に、走って追いつくわけがない。ましてや、気が付くまで多様なり時間がかかったのであればなおさらのことだ。

「……よし! これなら」

 少女の中にも一瞬の余裕が見えたその時であった。後方から、今までに感じたことのないほどの存在感を感じて少女は瞬時に振りかえる。すると、少女の視界に映るのは町で見た魔法士が使った火球よりも数倍は大きく、数段速い速度で迫ってくる火球であった。

「え!?」

 まさか、突然そんなものが自身を襲ってくるとは思ってもいなかった少女は、慌てふためいて自身と火球の間にシールドを生成する。しかし、とっさのことであったため、その耐久値は十分なものではなくすぐさま破壊され、そのまま勢い弱まることなく少女の方に迫ってきた。

「あっっっぶない!」

 幸い、寸でのところで見事な横っ飛びをしたためなんとか直撃は免れたが、なびくマントに少しカスったのか焦げ臭いにおいが地面に転がり込んだ少女の鼻にまとわりつく。

「祝福の少女!!! 次は逃さないぞ!」

 洗練された兵士達には、その少ない時間であれども稼ぐことができれば態勢を立ち直す猶予を与えるようだ。





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