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第三十七話 再起奮闘
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以外にも、その見上げるほどの壁の厚さは思っていたほどではなく、すぐに通り抜けることができた。それもそのはずで、大層な厚さをしている壁であるのならば、そんなものに容易に穴など開くはずがなくましてや、小さなものになればなおさらであろう。
「ん~!」
少女は立ち上がり、自身の膝と手の平に着いた土ぼこりを払うとおもむろに伸びをした。城の内側にいた時は特段に閉鎖感を覚えていたわけではない物の、改め外に出たという感覚が少女に解放感を与えているようだ。壁はすぐ横にあり、内と外にいるだけの問題にも関わらず、これほどの違いがあるのだから感覚と言うものは案外あてにならない物なのかもしれない。
「無事に出られてよかったな。案外早く見つかったし」
既に今回の件はこれにて落着と思っている少女は、すでにこの先のことを考え始めている。
「賢者さんの話を聞いてて思ったんだけど、もう一度異物に吸い込まれれば何とかなるかな?」
一瞬でも現世に帰れるかもしれないという幻想を抱いてしまったが故に、今までしまい込んできたその思いがあふれ出てきてしまっている。その幼い少女にしまい込むにはあまりにも大きすぎる感情であった。それでも自身が普通ではないこともしっかりと認識しているためここまでやってこれだった。
「でも、さすがにそんな一か八かみたいなことは恐いな……」
再び歩き始めた少女は、城の中にいた時のように慎重さもなければ軽快さもない。重い足をゆっくりと前に進めるだけで精いっぱいであった。この世界に来てからほぼノンストップで生きてきた。どれほどの時間が経ったのかは正直分かっていないだろう。それでも、それでよかったし、それがよかったのだ。
悩む暇がなければ、どこまででも歩いていける。しかし、一歩でもその歩みを止め後ろを振り返ってしまったのならば、それを無かったことにするのは容易ではない。
「私はもう2度と帰れないのかな」
自ずと下がるその目線では、こぼれ出る涙を耐えることはできなかった。突如襲ってきた悲しみの波に少女は抗うことなく飲み込まれている。
緊張感の糸が切れた状態であればなおさらのことだろう。
すすり泣き声が漏れながらも、それでも少女は重くて重くて仕方がないその足を想いだけで前に進める。
「……!」
そんな時少女の頭の中にある出来事がフラッシュバックした。似たようなことが昔にもあった。今と同じくらい、もしくはそれ以上に過酷な状況だったかもしれない。それでも、少女は救いを求めて歩いていた。
少女が持つ願いの力を授かる要因となったその出来事。何も持たなかった少女だった時と比べれば今は遥かにマシな状況だろう。怪我は無い。体は自由に動く。願いの力もある。これほど揃ってまだなにかを望むのはさすがに傲慢ではないだろうか?
「ン! ン!」
少女は自身の頬を両手の平で2度叩く。思いっきりやったら絶対に痛いので思わず手加減をした。
「イテテッ」
ヒリヒリと痛むその頬と手の平を和らげるためにゆっくりとこすり合わせる。
やはり「願いの力」はこの少女に与えられるべくして与えられたのだろう。その小さな器ではあふれ出すほどの苦難が押し押せても、それでもなお少女は前を向き歩き続けることができる。こればかりは、与えられたものではなくカエデの中から必然的に湧き出てきた能力であろう。
「クヨクヨしててもしょうがないよね! 一個ダメだったらまた別のを探せばいいだけ!」
先ほどまでとは打って変わって、まるでスキップをしているかのように城から離れていく。はたから見れば、町の住む少女が親に内緒で城のそばまでこっそり来た後に、目標が達成されたその嬉しさで頭がいっぱいになり、こっそり来たことを忘れてしまったように見えるであろう。
しかし、今の少女にとってはその方が都合のいい。なぜなら、城の中にはカエデに用事のある人物が大勢いるのだから。
「いたぞ! あそこだ!」
そんな矢先、少女から少し離れた後方からそんな声が聞こえた。それは、紛れもなくたった一人に向けられているものである。
「ん~!」
少女は立ち上がり、自身の膝と手の平に着いた土ぼこりを払うとおもむろに伸びをした。城の内側にいた時は特段に閉鎖感を覚えていたわけではない物の、改め外に出たという感覚が少女に解放感を与えているようだ。壁はすぐ横にあり、内と外にいるだけの問題にも関わらず、これほどの違いがあるのだから感覚と言うものは案外あてにならない物なのかもしれない。
「無事に出られてよかったな。案外早く見つかったし」
既に今回の件はこれにて落着と思っている少女は、すでにこの先のことを考え始めている。
「賢者さんの話を聞いてて思ったんだけど、もう一度異物に吸い込まれれば何とかなるかな?」
一瞬でも現世に帰れるかもしれないという幻想を抱いてしまったが故に、今までしまい込んできたその思いがあふれ出てきてしまっている。その幼い少女にしまい込むにはあまりにも大きすぎる感情であった。それでも自身が普通ではないこともしっかりと認識しているためここまでやってこれだった。
「でも、さすがにそんな一か八かみたいなことは恐いな……」
再び歩き始めた少女は、城の中にいた時のように慎重さもなければ軽快さもない。重い足をゆっくりと前に進めるだけで精いっぱいであった。この世界に来てからほぼノンストップで生きてきた。どれほどの時間が経ったのかは正直分かっていないだろう。それでも、それでよかったし、それがよかったのだ。
悩む暇がなければ、どこまででも歩いていける。しかし、一歩でもその歩みを止め後ろを振り返ってしまったのならば、それを無かったことにするのは容易ではない。
「私はもう2度と帰れないのかな」
自ずと下がるその目線では、こぼれ出る涙を耐えることはできなかった。突如襲ってきた悲しみの波に少女は抗うことなく飲み込まれている。
緊張感の糸が切れた状態であればなおさらのことだろう。
すすり泣き声が漏れながらも、それでも少女は重くて重くて仕方がないその足を想いだけで前に進める。
「……!」
そんな時少女の頭の中にある出来事がフラッシュバックした。似たようなことが昔にもあった。今と同じくらい、もしくはそれ以上に過酷な状況だったかもしれない。それでも、少女は救いを求めて歩いていた。
少女が持つ願いの力を授かる要因となったその出来事。何も持たなかった少女だった時と比べれば今は遥かにマシな状況だろう。怪我は無い。体は自由に動く。願いの力もある。これほど揃ってまだなにかを望むのはさすがに傲慢ではないだろうか?
「ン! ン!」
少女は自身の頬を両手の平で2度叩く。思いっきりやったら絶対に痛いので思わず手加減をした。
「イテテッ」
ヒリヒリと痛むその頬と手の平を和らげるためにゆっくりとこすり合わせる。
やはり「願いの力」はこの少女に与えられるべくして与えられたのだろう。その小さな器ではあふれ出すほどの苦難が押し押せても、それでもなお少女は前を向き歩き続けることができる。こればかりは、与えられたものではなくカエデの中から必然的に湧き出てきた能力であろう。
「クヨクヨしててもしょうがないよね! 一個ダメだったらまた別のを探せばいいだけ!」
先ほどまでとは打って変わって、まるでスキップをしているかのように城から離れていく。はたから見れば、町の住む少女が親に内緒で城のそばまでこっそり来た後に、目標が達成されたその嬉しさで頭がいっぱいになり、こっそり来たことを忘れてしまったように見えるであろう。
しかし、今の少女にとってはその方が都合のいい。なぜなら、城の中にはカエデに用事のある人物が大勢いるのだから。
「いたぞ! あそこだ!」
そんな矢先、少女から少し離れた後方からそんな声が聞こえた。それは、紛れもなくたった一人に向けられているものである。
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