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第二十九話 行く先は
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賢者とジオードの後について行く。
ほとんど決着が付きかけていた、ちょうどいいタイミングで割って入ってきた二人は、偶然とは思えないものであった。
「お前、俺の入れ替わりであいつのパーティーに入ったやつだろ?」
前置きもなくブレンがそんなことを口に出した。それを指す人物がカエデと賢者なわけがないため自ずと一人に絞られる。
「はい、そうです」
爽やかで落ち着いた低温の声の持ち主は、身にまとう白色によりその高貴さをより濃く醸し出している。下の方で結んでいる茶髪よりも少し色素の抜けた長い髪が歩くたびに揺れている。
その人物も、剣を使うようだがブレンと比べると一回りくらい小さく、その人物であれば片手で軽く扱うことができるであろう。
「なんで、ここにいる」
「それはどういう意味でしょう?」
大人しく前を歩く二人についていきながらも、疑問だらけのこの状況をどうにかすべく、ジオードを問い詰める。
それに対して、首だけこちらに向け返答するジオードだがあえてブレンの聞きたいことをはぐらかそうと分からないふりをしているようにも感じる。
いくら礼儀知らずのブレンであっても、いきなり賢者の首根っこを掴み怒鳴り声とともに問いただすことはできないようだ。
それが分かるからこそ、なにも分からないカエデにとってもこの人物がいかにすごい人かが推し量れる。
「あいつとパーティーを組んでいるはずなのになんで、賢者と一緒にいる?」
それに一番驚いていたのは、あの男自身だろう。
「ブレンさん。私にはどんな言葉遣いでも構いませんが、せめて大賢者様にはもう少しまともな言葉遣いをした方がよろしいですよ」
先ほどとは違い、今度は後ろを振り返らずに前を向いて歩いたままブレンに忠告する。それは決して不快感を表しているからではなく、単に呆れているだけのように感じられる。そもそも、彼も町の出身であるならばブレンのことを知っているであろう。要は、なぜいきなり賢者の護衛のような重大なポジションを手に入れられたのかということだ。
前々からそうであったとしたら、なぜ町に出て一般以下の生活をするようなことをしたのか。もし、急に拾い上げられたのならば、なにが理由だったのか。
これらの会話も聞こえているであろうが、それでも賢者は特に口を開くようなことはしない。それが彼にとっては些細な問題なのか、それとも答えを持ち合わせていないのか。
「ケッ! ずいぶんと余裕だな」
「それは、そうです」
気に入らないと吐き捨てるように、悪態をつく。すでにその様子を見慣れてしまったカエデは特に何を思うわけでもなく賢者の後ろを離れず歩く。
魔法師としてはまだまだ未熟な少女からすると周りから賢者と称えられるその人物に興味をひかれる。自身が授けられた『願いの力』をより良く使える方法彼は知っているかもしれな。そう考えると、ここに来て3人目の信頼できる人間が少女の前に現れたことになる。そしてそれは、元の世界に帰る手掛かりになる可能性もある。
警戒心を解いた少女は年相応に、そのワクワクを抑えきれずにそわそわし始めている。年老いていても少女よりも大きなその背中をまっすぐ見つめる。少女の頭の中にはこれからの明るい未来にしか見えていないのであろう。
「俺が、お前のことをあいつの仲間だと思っているままだと、後ろから急に刺されるかもしれないぜ?」
そんな一方で、こちらはずっと殺伐とした雰囲気が続いている。それを全く気にしていない賢者と全く気にも止まらないカエデでとで、真っ二つの雰囲気である。
ジオードに直接の恨みはないにしろ、腑に落ちない今の状況に苛立ちを覚えているようだ。
「それは絶対にないと断言できます」
「ああん?」
「もし、本当にその気があるならおちおち着いてきていないですし、それにもっと早い段階でやっています」
ジオードという男は頭もキレるようでブレンという女性のことをよく分かっている。それは親しんだ間柄の理解とは全く別物で、聞き及んでいる情報からその人物を推測しているにすぎない。
それは、ある意味で決めつけのようなもののため、された側からすればあまり気のいいものではない。
「ずいぶんと余裕があるみたいじゃねーか?」
案の定ほとんど話したことのない男に対する好感度は最底辺まで落ちた。ブレンのこめかみには怒りマークが浮き上がっているだろう。
「それに……」
「それになんだよ?」
その後に続く言葉次第では、後ろからその無防備な背中めがけて剣を突き刺してしまうのではないだろうか。
そんな最悪の雰囲気を察したカエデも、それを見てオロオロし始める。今更何を言おうともブレンが止まらないことはカエデは知っている。
「それに、あなたとは命を預け合う同僚になるからです」
「はぁ? なにわけの分からないこといってんだお前は?」
続く言葉があまりにも予想外だったため、ブレンの沸騰しきっていた頭も冷静さを取り戻せるくらいには冷やすことができたようだ。
突拍子もないその言葉が何を意味するかは分からないが、そのまま受け取るのであれば、同じパーティーになるということだろうか。ブレンは、ジオード
のような紳士のような振る舞いをする男をあまり好かない。鼻につくと言ってしまえばそれまでだが、おそらく信用しづらいのだろう。
「時期に分かりますよ」
最後に一言そ呟いてこの話を締めくくった。結果としてブレンが行動に移すことはなかったため説得は成功だったのかも知れないが、結局その全てを知っていると豪語する男が何を知っているのかまでは分からなかった。
国の賢者と呼ばれる優れた人物と一切の素性の分からない男との不釣り合いな組み合わせに、蛮族という言葉通りのブレン。さらには異世界から来たカエデと、どんな立場の誰が見ても不思議な集団であっ
た
「さぁ、どうぞお乗りください」
賢者が歩みを止め、手の平全体で指すのは車輪の付いた箱であった。カエデの知る車とは違い、それは本当に人が数人入れる箱に車輪がついたものであった。
「どうぞ」
そう言って入口の真横にジオードが立ち、まず賢者が入り込むのを手伝う。その次に入り込むカエデは身長が足りず、踏み台に足がかからなかったためジオードに抱きかかえられようやく箱の中に入る。
最後に乗るブレンはジオードのエスコートの手を叩き払い自らの手で乗り込んでいく。
それを見たジオードは、想像通り期待通りに行かないブレンに困った顔を向ける。
ほとんど決着が付きかけていた、ちょうどいいタイミングで割って入ってきた二人は、偶然とは思えないものであった。
「お前、俺の入れ替わりであいつのパーティーに入ったやつだろ?」
前置きもなくブレンがそんなことを口に出した。それを指す人物がカエデと賢者なわけがないため自ずと一人に絞られる。
「はい、そうです」
爽やかで落ち着いた低温の声の持ち主は、身にまとう白色によりその高貴さをより濃く醸し出している。下の方で結んでいる茶髪よりも少し色素の抜けた長い髪が歩くたびに揺れている。
その人物も、剣を使うようだがブレンと比べると一回りくらい小さく、その人物であれば片手で軽く扱うことができるであろう。
「なんで、ここにいる」
「それはどういう意味でしょう?」
大人しく前を歩く二人についていきながらも、疑問だらけのこの状況をどうにかすべく、ジオードを問い詰める。
それに対して、首だけこちらに向け返答するジオードだがあえてブレンの聞きたいことをはぐらかそうと分からないふりをしているようにも感じる。
いくら礼儀知らずのブレンであっても、いきなり賢者の首根っこを掴み怒鳴り声とともに問いただすことはできないようだ。
それが分かるからこそ、なにも分からないカエデにとってもこの人物がいかにすごい人かが推し量れる。
「あいつとパーティーを組んでいるはずなのになんで、賢者と一緒にいる?」
それに一番驚いていたのは、あの男自身だろう。
「ブレンさん。私にはどんな言葉遣いでも構いませんが、せめて大賢者様にはもう少しまともな言葉遣いをした方がよろしいですよ」
先ほどとは違い、今度は後ろを振り返らずに前を向いて歩いたままブレンに忠告する。それは決して不快感を表しているからではなく、単に呆れているだけのように感じられる。そもそも、彼も町の出身であるならばブレンのことを知っているであろう。要は、なぜいきなり賢者の護衛のような重大なポジションを手に入れられたのかということだ。
前々からそうであったとしたら、なぜ町に出て一般以下の生活をするようなことをしたのか。もし、急に拾い上げられたのならば、なにが理由だったのか。
これらの会話も聞こえているであろうが、それでも賢者は特に口を開くようなことはしない。それが彼にとっては些細な問題なのか、それとも答えを持ち合わせていないのか。
「ケッ! ずいぶんと余裕だな」
「それは、そうです」
気に入らないと吐き捨てるように、悪態をつく。すでにその様子を見慣れてしまったカエデは特に何を思うわけでもなく賢者の後ろを離れず歩く。
魔法師としてはまだまだ未熟な少女からすると周りから賢者と称えられるその人物に興味をひかれる。自身が授けられた『願いの力』をより良く使える方法彼は知っているかもしれな。そう考えると、ここに来て3人目の信頼できる人間が少女の前に現れたことになる。そしてそれは、元の世界に帰る手掛かりになる可能性もある。
警戒心を解いた少女は年相応に、そのワクワクを抑えきれずにそわそわし始めている。年老いていても少女よりも大きなその背中をまっすぐ見つめる。少女の頭の中にはこれからの明るい未来にしか見えていないのであろう。
「俺が、お前のことをあいつの仲間だと思っているままだと、後ろから急に刺されるかもしれないぜ?」
そんな一方で、こちらはずっと殺伐とした雰囲気が続いている。それを全く気にしていない賢者と全く気にも止まらないカエデでとで、真っ二つの雰囲気である。
ジオードに直接の恨みはないにしろ、腑に落ちない今の状況に苛立ちを覚えているようだ。
「それは絶対にないと断言できます」
「ああん?」
「もし、本当にその気があるならおちおち着いてきていないですし、それにもっと早い段階でやっています」
ジオードという男は頭もキレるようでブレンという女性のことをよく分かっている。それは親しんだ間柄の理解とは全く別物で、聞き及んでいる情報からその人物を推測しているにすぎない。
それは、ある意味で決めつけのようなもののため、された側からすればあまり気のいいものではない。
「ずいぶんと余裕があるみたいじゃねーか?」
案の定ほとんど話したことのない男に対する好感度は最底辺まで落ちた。ブレンのこめかみには怒りマークが浮き上がっているだろう。
「それに……」
「それになんだよ?」
その後に続く言葉次第では、後ろからその無防備な背中めがけて剣を突き刺してしまうのではないだろうか。
そんな最悪の雰囲気を察したカエデも、それを見てオロオロし始める。今更何を言おうともブレンが止まらないことはカエデは知っている。
「それに、あなたとは命を預け合う同僚になるからです」
「はぁ? なにわけの分からないこといってんだお前は?」
続く言葉があまりにも予想外だったため、ブレンの沸騰しきっていた頭も冷静さを取り戻せるくらいには冷やすことができたようだ。
突拍子もないその言葉が何を意味するかは分からないが、そのまま受け取るのであれば、同じパーティーになるということだろうか。ブレンは、ジオード
のような紳士のような振る舞いをする男をあまり好かない。鼻につくと言ってしまえばそれまでだが、おそらく信用しづらいのだろう。
「時期に分かりますよ」
最後に一言そ呟いてこの話を締めくくった。結果としてブレンが行動に移すことはなかったため説得は成功だったのかも知れないが、結局その全てを知っていると豪語する男が何を知っているのかまでは分からなかった。
国の賢者と呼ばれる優れた人物と一切の素性の分からない男との不釣り合いな組み合わせに、蛮族という言葉通りのブレン。さらには異世界から来たカエデと、どんな立場の誰が見ても不思議な集団であっ
た
「さぁ、どうぞお乗りください」
賢者が歩みを止め、手の平全体で指すのは車輪の付いた箱であった。カエデの知る車とは違い、それは本当に人が数人入れる箱に車輪がついたものであった。
「どうぞ」
そう言って入口の真横にジオードが立ち、まず賢者が入り込むのを手伝う。その次に入り込むカエデは身長が足りず、踏み台に足がかからなかったためジオードに抱きかかえられようやく箱の中に入る。
最後に乗るブレンはジオードのエスコートの手を叩き払い自らの手で乗り込んでいく。
それを見たジオードは、想像通り期待通りに行かないブレンに困った顔を向ける。
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