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第二十四話 対立

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 顔があらわになると、それは見知った顔だったわけではないがとても嫌な気分と結びついているものであった。

「あなたは!」

 誰よりも先に反応したカエデであったが、それもそのはずでブレンが驚かなければ、この場でその行為をする人は他にいるはずがない。

「で、なんの用だって?」

 初めから招待を見破っていたブレンは冷静に、話を続ける。カエデにとってはこの間初めてあった嫌な奴という印象だが、ブレンからしてみればその顔はすでに見飽きたものであった。

「お前らには一緒に来てもらう」

 初めに姿を現した時と同じことをもう一度言うが、ブレンが聞きたいことはその先だろう。

「ヤダよ。だってお前キモいもん」

 カッコつけながら自身満々に応える男にとって一番効くであろう断り方をする。一人は少女であるものの女性を誘うのに対して、そんな上から目線で命令するような口調で付いてこいと言われても応じる人はなかなかいないだろう。
 ましてや、その人物が因縁の相手であるのならばなおさらのことだ。

「そんな威勢のいいこと言ってられるのも今のうちだぞ? すぐにあの時と同じ絶望した顔をすることになる」

 脅し文句とも取れるその言葉は、後ろに十数人の仲間を置いてう言うものではない。

「私達があなたに何をしたって言うんですか!」

 いつまでもしつこい男に対してカエデが、ブレンの後ろから口をとがらせる。大人数人に囲まれて、敵意を向けられているというもののカエデは一切躊躇していない。
 それはこの後何が始まるかを理解していないわけではなく、単純にブレンという心強い味方がいることがそれらを払拭しているのだ。

「なにもしちゃいないよ? ただ用があるだけだ」

 ケンカを売られることは、自分たちに何か非があるからだ。普通の世界で普通に生活してたカエデにとってはその考えが当たり前であった。
 突如目の前から全てを奪い去られる経験をした少女であっても、そんなことが人生でそうなんでも訪れないことを知っている。

「だから、それがなにかを聞いているんです!」

 珍しく感情をあらわにするカエデに、ブレンも目を丸くしながらそれを見ている。しかしそれは小型犬が飼い主の後ろでキャンキャン吠えているそれに近い。魔装を装備していなければ、ただの少女に過ぎない。しかしながら、それを見ると初めて二人があった時から比べると、少女の引っ込み思案の性格も少し柔らかくなったのかもしれない。

「ある人物からお前らを連れてこいって命令されたんだ」

「ある人物ぅ?」

 反感を買うようなことに身に覚えが有り過ぎるブレンが頭を悩ます。いくつも顔が浮かぶものの、この連中を顎で使ってまでそんな事する人物は思い浮かばなかった。

「そうだ。お前らも聞けば驚くような人物だ」

 自らは大したことのない人間が、後ろ盾を得ると気が大きくなるのはどこの世界でも同じのようだ。それはどこまでいっても情けなく、ちっぽけな人間ですと自己紹介しているのと同義であった。
「聞けば驚くと」いう単語にカエデも反応するが、カエデの頭に思い浮かぶこの世界の人物は店主くらいのものであった。しかし、その人物がそんなことをするはずがないので、ブレンと同じく首を傾げ頭を悩ませるだけであった。

「それは大賢者様だ!!!」

 その人物がいかにすごい人かを表すためか、自身の全身を大きく広げながら叫ぶ。体を覆うほどの綺麗なマントを身に着けている男は、思っていたよりも小柄であった。己の自信の分だけ多少大きく見えていたようだが、背丈はブレンとは変わらずこの町の屈強な男性陣から比べると多少目おとりするものであった。

「!?」

 カエデには誰だか分からなかったが、ブレンが驚きの表情をする程度には予想外の人物だったようだ。
 その場でたった一人だけ、頭に?を浮かべながら首を傾げている。男の後ろにいる集団にとっても、その後ろ盾はブレンと祝福の少女を前にしても余裕を持てる程度には大きい存在のようだ。

「なんだってわざわざそんなお偉いさんが俺たちに用があるんだよ?」

 大賢者というからには、国にとっても大事な人なのだろうとは想像がつく。そして、それが魔法の力によるものだと。
 しかしながら、この国での城と城の外とでは文字通り生きる世界が違う。それにも関わらず、城の中の人間が外の人間に興味を持つこと自体がおかしな話である。もし仮にブレン達がなにか罪を犯し罰せられるのだとしても、城の外に守らなければいけない法律などはなく、皆独自のルールで行動している。それをわざわざ城の人間が口出してくることなど考えられない。

「さぁな」

 この男も命令されただけで、なんの情報も持っていないようだ。偉そうなことを言っていてもやはりただの使いっぱしりのようだ。

「第一呼んでくれりゃ喜んでいくのに、こんなゴロツキを通す理由はあるのか?」

 ブレンも敵対の姿勢は崩さないままであるが、その城の中のお偉い方に興味を持ってもらったのは嬉しいようだ。それもそのはずで、城の兵士になることを望むブレンにとってそれが、良い方向でも悪い方向だとしても見つけてもらわなければ何も始まらない。
 だとするならば、これ以上にないアピール場面である。

「やっぱりバカ女だなお前は」

 耳の横で両手の平を上に向け首を横に振りながら、鼻で笑いながら言う。

「そんなの、俺の実力が買われているからに決まっているだろ」

 自信満々に右手の親指で自分の胸を刺す。自信というものは、メッキがはがれる前ならばその人物の価値を大きく引き上げる。もし、この男から流れる違和感を覚えるほどの胡散臭さを感じられる前であれば、少女もこの男ことを尊敬の眼差しで見ていたに違いない。

「バカが」

 しかし、この場の誰もがそんなことを事実だとは思ってもいなかった。その証拠にブレンが悪態をついてもそれに対して怒っているのはたった一人だけなのだから。

「もういい! 言うことを聞かないなら無理やり連れていくまでだ!」



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