上 下
11 / 48

第十一話 優しいブレン

しおりを挟む
「そっちいきました!」

「おらぁぁぁ!」

 普段のブレンであれば、一体の異物を倒せばその日の仕事は終わりだった。一日に何体も倒した方が効率も良ければ、稼げる額も大幅に上がる。しかし現実はそんなに簡単なものではなかった。それは異物との連戦は死にもっとも近づく行為であったからだ。

「やったぞ!」

 しかし、カエデという強力な相棒を得たブレンはその日7体討伐という初めての経験をした。その日暮らしでやっとだった人間が、初めて余裕というものにありついたのだ。

「コアもありました!」

 ブレ自身の実力もさながら、カエデの空中からの高火力はブレンが地上でできることを増やすことに繋がり致命傷はほとんどブレンが取っていた。今までかつてないほどに、安全に異物を倒し続けた。

「嬢ちゃんはそれ以外はなにか出来るのか?」

 二人は異物を探すのを一時止め、大きな岩を背に休憩をはさんでいた。カエデはノリに乗っていて今なら負けなしで進んでいけると思っているだろう。しかし、ブレンの肌感覚は鋭くいったん間を開けることになった。

「そうですね。後は一瞬だけバリアみたいなのを出したりとかでほとんど守り系ですね」

 カエデの必勝法は空中での衝撃は攻撃が主であり、ほかに攻撃方法を知らない。魔法の力を授かったときに、ある程度の使い方は頭にインストールされたかのように理解していた。
 しかし、それは本当の基礎だけであり攻撃方法、防御、浮遊などは少女が後から手にしたものだ。そのため、自身の身を守ることを第一優先にしている彼女は攻撃手段の成長が著しく遅かったのである。

「ふーん。攻撃手段が少ないのはほかの魔法士と一緒か」

 片膝を立てて座るブレンは、横目でカエデを見る。他の魔法士と同じと言ってもカエデのほうが数段優れていることをこの数戦で正しく理解した。

「みんなそんな感じなんですか?」

「ああ、俺のところにいたやつは炎を巻き散らかすしかできなかったな」

「へぇー」

 やはり棘のある言い方ではあるものの、ブレンが言うにカエデとこの世界の魔法士には共通点があるらしい。

(炎かぁ。カッコいいな)

 自身の魔法が見た目が地味なことを多少気にしているようで、炎といういかにも魔法ですというものに憧れがあるようだ。しかし、もしカエデのいた日本の市街地で文字通り炎なんてまき散らしたら、それこそ周りに危害や魔法少女だということがバレてしまっていただろうから、これが妥当だったのであろう。

「この国はな、魔素がいまだに多くあってそれの性質が炎使うのに適しているらしい。だから、この国の魔法士や魔法剣士はほとんどが炎を使う奴らだ。まじで優秀な治癒系の高等魔法を使える奴らは城でお抱えしちまってるからなかなか見ることは無いだろうけどな」

「そうなんですね。私もいくつか使えますよ」

 カエデの発言はブレンによほどの驚きを与えるものだったのか、ありえないものを見るかのようにカエデを凝視する。それにびっくりしてカエデが軽く体を飛び上がらせる。

「お前あんまり、それを公言するなよ!」

「な、なんでですか?」

 凄んだ顔で言うブレンに怯えるカエデ。忠告をもらっているはずが、はたから見れば物を脅し取られているようである。

「ただでさえ、お前は優秀な魔法士だ。実際に一緒に戦っている俺が言うんだ間違いない。それにも関わらず、治癒系統の魔法まで使えるってなればそれを目当てで近寄ってくる連中も出てくるそうするとっ」

 必死にカエデに話しかけるブレンは、ふと我に返るとカエデの顔がすぐ目の前にあることに気が付く。気性が荒く常に怒っているカエデだが、今の様子はいつものそれではなく余裕がないものに見える。

「この国は、自分のことで必死になっているやつが多い。だから、他人のことなんて一切考えていない。嬢ちゃんみたいな優秀で都合のいいやつはいいように利用されるだけだ」

「……ありがとうございます」

 その勢いに若干押されカエデだが、ブレンの伝えたいことの意味をくみ取ることができお礼の言葉を口にする。
 冷静さを取り戻したブレンも、元の座っていた位置よりも少し離れたところに座り直す。

(ブレンさんはやっぱり優しい人なんだな。初めて会ってついてきた人がこの人で良かった)

 体育座りでの格好で座っているカエデは、下を向き自身の足の間から覗ける地面を見ながら心の中でそんなことを思う。誰一人知り合いがいない、何も知らない土地での人の温かみ程心に刺さるものは無い。
 そして、自身の力が目の前にいるそんな心優しい人のために使えることへの喜びも相まっている。
 心優しい少女の拳はより強く握りこまれる。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。 そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。 そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

処理中です...