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治癒術師 クレア・キャンベル

治癒術師 クレア・キャンベル(5)

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 アジムは振りかぶった剣を袈裟斬りに首なしの騎士デュラハンに叩きつけた。

 首なしの騎士デュラハンの得物はアジムに劣らぬ大きな剣だ。それを右手だけで扱っている。
 頭を抱えている左からの攻撃は対応しにくいだろうと左肩を狙ったアジムの剣を、首なしの騎士デュラハンは両手で剣を扱えない故の不自然な剣捌きで受けた。
 大きく重い剣を扱うに十分な膂力はある。だが、それだけでは左からの攻撃に十分とは言えない。

 勝機を見出したアジムは体勢が崩れるのを覚悟の上でぶつけ合った剣をそのままに、続けざまに首なしの騎士デュラハンの中途半端な高さでとても蹴りやすい位置にある顔をめがけて回し蹴りを繰り出した。剣を持つ右手を剣を絡ませたままにされている首なしの騎士デュラハンは首を持っている左腕でそれを受けたが、人間で言えば首で鉄の脚甲グリーブに覆われたアジムの重い蹴りを受けたようなものだ。

 重要な神経や血管はなくとも頭への衝撃を堪えきれずに首なしの騎士デュラハンが足元をふらつかせた。

 アジムは追撃のために剣を振りかぶる。
 だが、そこで骸骨兵スケルトンがアジムに向かって剣を振るってきた。錆びた赤黒い刃を2つは腕鎧で受けたが、3つ目の刃が過ぎて鎧を滑り、左腕を大きく斬り裂かれる。

「……っ」

 思わず息を漏らしたアジムの追撃の動きが鈍る。

 その間に衝撃から立ち直った首なしの騎士デュラハンがアジムに向かって剣を振るってきたが、それには振り上げていた剣がギリギリで間に合った。しかし、体勢が不十分だったために首なしの騎士デュラハンの剣の勢いを殺しきれずに剣を流されてしまう。

 首なしの騎士デュラハンが追撃してくる。それにもどうにか腕力任せに引き戻した剣をぶつけて耐えるが、骸骨兵スケルトンが改めて振り上げてくる剣にまで対処できない。

「すみません、遅れましたっ!」
 
 そこにユズリハがアジムと骸骨兵スケルトンの間に割って入ってくれた。
 骸骨兵スケルトンの一体を土魔法で足元の地面を跳ね上げてふっ飛ばし、骸骨兵スケルトン二体の剣を引き受けてくれる。

「助かるっ!」

 骸骨兵スケルトンから開放されたアジムは眼の前の首なしの騎士デュラハンに意識を向け直した。

 首なしの騎士デュラハンの剣は凄まじい膂力から繰り出されるもので鋭く、侮ることのできないものだが右腕だけで振るっているので動きに不自然さがある。それ以上にアカネと戦ったばかりのアジムからすれば首なしの騎士デュラハンの剣は素直すぎて対応しやすく、攻撃の組み立てもヌルい。

「<小治癒マイナー・ヒール>」

 パーティの立て直しが終わったのだろう。
 クレアの声が聞こえると同時に左腕の痛みも消えた。

 やれる。

 そう確信して、アジムは首なしの騎士デュラハンに向かって踏み込んだ。戦いが始まったときと同じ、首なしの騎士デュラハンが対応しにくい左側を狙った袈裟斬り。首なしの騎士デュラハンも最初と同じように剣をぶつけて応じてくる。

 違ったのはそこからの展開だ。
 アジムは剣がぶつかり合うと、即座にそれを手放して首なしの騎士デュラハンに掴みかかった。

 剛力を誇る自分に掴みかかってくる人間がいるとは思っていなかったらしく、左手にある顔に驚愕を浮かべ動きの止まった首なしの騎士デュラハンの剣を持つ右手に掴みかかり、両手でそれを封じる。そこまでされてアジムの意図を理解した首なしの騎士デュラハンが慌てて振りほどこうとするが、もう手遅れだ。

 金属の膝当てをつけた膝を、蹴りやすい場所にある首なしの騎士デュラハンの顔面にめり込ませる。それなりにしっかりと左腕で保持されていたらしく、しっかりと鼻面を潰して骨まで蹴り込んだ感触が足に伝わってきた。左手から蹴られた首なしの騎士デュラハンの頭が吹っ飛んでいき、身体の方ものけぞるようにして動きが鈍る。

 アジムは無防備になった身体の鎧が薄そうな股間に向かって、もう一発膝を打ち込んだ。
 顔面を蹴り飛ばしたときと同じように何かを潰した感触が、膝に伝わってくる。

「あおおおぉぉぉおおぉぉぉぉぉ!!??」

 顔を蹴られても苦悶の声をあげなかった首なしの騎士デュラハンの転がった頭から、凄まじい絶叫が響き渡った。

「トドメを!」
「わかった!」

 股間を血と潰された睾丸に詰まっていた体液で汚し、内股で暴れる首なしの騎士デュラハンの身体を押さえながら声を上げると、いつの間にか首なしの騎士デュラハン骸骨兵スケルトンの後ろに回り込んでいたカオルから声が返ってきた。

「ぐぎゃああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁあおぉぉっ!!」

 カオルの剣が転がった頭を刺し貫くと、首なしの騎士デュラハンの顔から断末魔の絶叫が上がる。身体のほうはそれでも暴れていたが、しばらくすると活動を停止して力を失い、ぐにゃりと倒れ込んだ。

「やりましたね、アジムさん!」

 骸骨兵スケルトンたちを引き受けてくれたユズリハと、それを手伝ったアサヒが危なげなく骸骨兵スケルトンたちを倒して、明るい笑みを浮かべて駆け寄ってくる。

「はい。
 骸骨兵スケルトンを引き受けてもらって、ありがとうございます」
「ありがとうございますはこっちのセリフですよ!
 一人で首なしの騎士デュラハンを相手してもらってありがとうございます!」

 アジムが前衛の2人と喜び合っている横で、

「えげつない……」
不死者アンデッドも金的効くんだなぁ……」
「想像するだけで内股になりそう……」

 後衛の三人はドン引きしていた。

 しばらく勝利の余韻を楽しんでいたが、当初の目的を達するために<個人プライベートダンジョン>を奥へと進む。すでにダンジョンの主である首無しの騎士デュラハンは倒れているので危険もない。気楽な会話を楽しみながら足を進める。

「アジムさん、首無しの騎士デュラハンだけなら一人でもなんとかなりそうでしたね?」
「そうですね。
 力は強いですが右手しか使えませんし、
 剣スキルが高いせいかイレギュラーな攻撃もありませんでした。
 OLさんオーガロードのほうが予想外な攻撃があるので面倒かもしれません」
「<戦慄の咆哮テラーハウリング>や<麻痺の眼光パラライズアイ>は
 まったく効きませんでしたもんね。
 それなら首のないほうの首無しの騎士デュラハンのほうが
 両手を使ってくるからアジムさんには厄介かも」

 アサヒの言葉にアジムは頷いた。

「それにしても相性がいいとは言え、
 アジムさん、強いですねぇ」
「いえ、そんな」
「いや本当に。私たちだけでは
 何度やっても勝てない相手を一蹴ですからね」

 クレアとシオンに褒められて、アジムは面映ゆくなって頭を掻く。

「そんなに褒められると照れますよ」

 褐色の肌を赤く染めて照れる大男の可愛げな姿に、<プリンセスプリンセス>の面々は笑みを浮かべた。

「アジムさん、強いっ!」
「アジム、かっこいい!」

 ほんの僅かなからかいと、心からの称賛をアジムに投げかけて、さらに肌を赤くしていくアジムを笑いながら足を進めていくと、金色に輝く大きな宝箱が洞窟の床に置かれていた。主を倒してしまえば罠も鍵もないらしく、カオルが警戒もなく無造作に蓋を開け、中にあった一本の杖を取り出すとクレアに投げ渡した。

 クレア自身の背よりも頭一つ分ほど長い、枯れて水分が抜けた白い木の杖だ。節くれだって捻じ曲がり、普通に杖として使うにはちょっと不便そうな、アジムの目には何の変哲もない杖だが、クレアは嬉しそうにそれを両手で捧げ持った。

「魔法の威力を少しだけ増強する杖なんです!
 これで消耗を抑えて魔法を使うことができます!」

 嬉しそうに言われ、アジムも笑みを返して頷いた。

「よかったです」
「はい! ありがとうございました!
 首無しの騎士デュラハンには犯され飽きてたので、
 本当によかったです!」
「それはクレアだけでしょ」
「俺たちも犯られたけど、
 あの冷たいのが入ってきて出されたら何かが抜けていくの、
 本当にすごい違和感。あんまり良くないよ」

 アジムがクレアの言葉に苦笑を浮かべていると、カオルとアサヒも苦笑しながら会話に入ってきた。

「そうかなぁ。でも、生きているもの相手じゃ楽しめない感覚だし」
「そもそもあの感覚を楽しめるってのがおかしいんだよ」

 そのままじゃれ合うような会話が続くが、アジムには聞き捨てならない言葉が入っている。

「……カオルさんとアサヒさんも首無しの騎士デュラハンに負けたら犯されたんですか?」
「そうですよ。
 人数が多かったんで牢獄みたいなところに連れ込まれて拘束されて、
 順番に犯されました」
「みんな気持ち悪くて嫌がってたのに、
 クレアだけは最初からものすごいよがりっぷりでみんなドン引きですよ」
「だって太くて硬いのに冷たいのって初めてだったし」
「いや、やっぱり熱いのでないと」
「そうそう。あれなら魔導人形ゴーレムとかに負けて
 機械姦されるほうがいい」
「えー、そうかなぁ」

 シオンとユズリハもやってきてそのまま猥談に流れていきそうになるが、アジムには確認しておきたいことがあった。

「クレアさん以外は男なのに犯されたんですか?」

 <プリンセスプリンセス>の面々はアジムの言葉にぴたりと会話を止めてお互いの顔を見合わせ、すぐに納得して頷きあった。

「そうか。そうですよね」
「いや、違うんです。ウチは全員が女のパーティなんですよ」
「えっ」

 言われてアジムは男衆に目を向ける。

 アサヒは小柄で生意気そうな顔だが、同時に背伸びしてみえる可愛らしさがある。
 シオンは恐ろしく整った顔でその所作には気品すら感じる。
 ユズリハは大きな身体でのんびりとした雰囲気があって、大らかな包容力がある。
 カオルは擦れた気配を漂わせようとしているが、人の良さを隠し切れない柔らかさがある。

 だが、全員どう見ても男だ。

「えっ?」

 混乱するアジムにクレアが声をかける。

「そのあたりの事情の説明を合わせて、祝勝会しましょう!」

 やたらといい笑顔のクレアはそのまま続けて言った。

「ついでにその場でこの後のプレイ内容も決めちゃいましょう!」

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