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治癒術師 クレア・キャンベル

治癒術師 クレア・キャンベル(4)

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 何度もこの<個人プライベートダンジョン>に挑戦して返り討ちにあってきた<プリンセスプリンセス>は構造も熟知している。無駄な戦闘は避けてまっすぐに<個人プライベートダンジョン>の主だという首無しの騎士デュラハンを目指す。

「首のある方の首無しの騎士デュラハンなんですよ」

 その道すがらに戦う相手の情報を教えてもらおうとして、アサヒから返された説明にアジムは首を傾げた。

首無しの騎士デュラハンなのに
 首があるんですか?」
「ああ。首無しの騎士デュラハンは二種類いるんです。
 首のないほうは両手剣でひたすら斬りつけてくるだけなんですけど、
 今回戦う首無しの騎士デュラハン
 自分の斬り落とされた首を片手に抱えて、
 もう片方の手で両手剣を振り回してくるんです」
「はぁ」

 両手剣を片手で扱う膂力はすごいと思うが、両手で剣を振るうほうが強いのではないだろうか。
 そんなアジムの疑問に、アサヒは言葉を続ける。

「この抱えられている首というのが厄介で、
 視線だけで身体に痺れを引き起こす<麻痺の眼光パラライズアイ>を使ってくるし、
 声を上げれば<戦慄の咆哮テラーハウリング>で足を竦ませる。
 俺たちのパーティはどうにもVIT(体力)が低くて抵抗力に欠けるので、
 クレアに<抵抗魔法レジストマジック>を掛けてもらっていても、
 たいてい二人くらいは戦闘開始と同時に行動不能になっちゃうんです」

 5人の内の2人が行動できないとなると、もうそれは戦線崩壊だ。

首無しの騎士デュラハン
 骸骨兵スケルトンを何体か従えて現れるので、
 残ったメンバーでどうにか首無しの騎士デュラハンを相手していても、
 骸骨兵スケルトンに回復役のクレアやシオンに接敵されてしまうと
 立て直しができなくなって、後はなし崩しにやられちゃうんです」
「なるほど」

 アジムは話を聞いて頷く。

「つまり、戦闘開始から戦線の立て直しまでの
 時間稼ぎが俺の仕事ですね?」
「はい。
 アジムさんなら首無しの騎士デュラハン
 <麻痺の眼光パラライズアイ>や<戦慄の咆哮テラーハウリング>にはかからないと思うので、
 突っ込んで首無しの騎士デュラハンの攻撃を引き付けて
 俺たちが立て直す時間を稼いでほしいんです」
「わかりました」

 頷いたアジムは持参したポーションを確認する。効果時間は短いが大きくSTR(筋力)を向上させる薬を持ってきた。これを飲めばOLさんオーガロードと殴り合っても力負けしないだろう。首なしの騎士デュラハンとも正面からぶつかり合えるはずだ。

「ああ。
 アジムさんが倒してしまえるなら倒してしまってください」
「いいんですか?」

 思い出したように付け足された言葉にアジムが問い返すと、

「はい。勝つのが目的で、俺たちで倒すのが目的じゃないですから」

 アサヒの言葉に、後ろを歩いているシオンが苦笑交じりに言葉を重ねる。

「正直なところ、軽い剣と魔法がメインの私たちでは
 首なしの騎士デュラハンの分厚い鎧には中々ダメージが与えられないんです。
 時間稼ぎの壁役をお願いしたうえで申し訳ないのですが、
 アジムさんには火力面でも期待させてもらっています」
「わかりました」

 肩越しにシオンに頷き、アジムは背中の大剣を手に取った。リュドミラにお願いして重量を増やしてもらった剣だ。刃物というより鈍器に近い、重い圧がある。アジムの腕力で振るわれれば一太刀でな剣をへし折り、鎧ごと肉を裂き、骨を両断し、臓物を千切り飛ばすそれならば、アジム自身が身につけているような魔法のかかった金属鎧でもただでは済まない。首無しの騎士デュラハンが身につけているだろう鎧に対しても、一撃で鎧を断ち斬れなくても大きな打撃を与えられるはずだ。

「そろそろ勝ちたいですねぇ。
 もう冷たい肌の男に強姦されるのも飽きてきましたし」

 戦線を立て直せないまま押し切られ、無惨に斬り刻まれて自らの血で作った血溜まりに沈められた仲間たちを見せつけられながら、死の冷たさを帯びた肉棒に貫かれ、精を吐き出されるたびに魂を穢され、ゆっくりと死ぬに死ねないへと変えられていく経験を何度もさせられたクレアがのんびりと言う。
 アジムはそんな彼女の図太さに尊敬を感じたが、

「クレアはあれに犯されるの気に入ってたんじゃないの?」
「冷たい肌と出されてるのに何かが抜けていく感覚は初めてだったから、
 もうちょっと楽しみたいとは思ったけど、
 何度も抱かれてると飽きちゃった」
「あの感覚を気に入るほうがびっくり。
 僕は無理だった」
「私も無理ですねぇ。
 バイブとかとも違う、人肌なのに冷たいのが入ってくるのがどうにも……」

 後に続いたユズリハとシオンの言葉で首を傾げた。
 何故ユズリハとシオンまで首無しの騎士デュラハンに襲われた経験があるのだろう。

 もしかして、首無しの騎士デュラハンは男もいけるのか?

「あ、あの……!」
「すまない、見つかった!」

 焦ったアジムの声に被せるように、斥候を務めていたカオルが音もなく駆け戻ってきて声を上げる。

「すぐに来る! 今回はお供のガイコツは4体だ!」

 言われて耳に意識を向ければ、耳慣れた金属鎧が動きに合わせて軋む音と重量のある足音が近づいてくる。それ以外にもカタカタと軽いものが擦り合わされる音が聞こえてくるのが骸骨兵スケルトンなのだろう。

 カオルはそのまま前衛のアジムたちの前を通り過ぎ、クレアやシオンよりも少し前よりの位置で剣を抜いて身構えた。魔法を使う2人を守れる場所だ。

「アジムさん、よろしくお願いします!
 できるだけ早く復帰しますんで!」

 斥候なのに発見されてしまった申し訳無さをにじませたカオルの声に頷きつつ、アジムは手早く確認しておいたSTR増強剤を飲んだ。魔法剣士たちは各々の戦い方にあった補助魔法を自分に発動させていく。

「<抵抗強化レジストマジック>!」

 最後に最も魔法に秀でたクレアから全員に抵抗力を上げる魔法が配られた。
 戦闘準備は完了だ。不意の接敵にならないだけでも斥候をやってくれるカオルには感謝しかない。

 大剣を振るうには十分な広さの洞窟だ。足元も砂のある岩肌で踏ん張りやすい。アジムに戦いやすい環境だが、それは駆け寄ってくる首無しの騎士デュラハンにとってもそうだろう。

 アジムとほぼ同じくらいの体格に桎梏の金属鎧プレートアーマーを身に着けているが首から上には何もなく、左手に死人の肌とざんばら髪の男の頭が抱えられていた。整ってはいるが生者を弄ぶ喜び歪む顔は醜悪で、瞳は白い部分も残さず血色に染まっている。右手にはアジムが両手で構えるものと変わらぬ大きさの剣が握られていた。黒い刀身に拭われないままの血がこびりつき、何人もの生者を死の檻に送り込んできたことがわかる。

 首無しの騎士デュラハンとともに現れた骸骨兵スケルトンたちは慣らしで戦ったものとは違い、その手に錆びた剣を持っていた。アジムの鎧を突き破れるとは思わないが、仲間たちの革鎧には脅威だろう。アジムも鎧のない場所を斬られるとだからこそ傷口が広くなって出血と痛みが強くなりそうで馬鹿にできない。

 一番前で身構えるアジムを見て首無しの騎士デュラハンは昏い笑みを浮かべると、地響きのような哄笑をあげた。

「ははははハハはははははははは!!」
「ぅぐっ!」
「くぅ……っ!」

 これが<旋律の咆哮テラーハウリング>らしいがアジムにはただ耳障りなだけだ。
 しかし、後ろから仲間たちの堪えきれない苦悶が聞こえてきたことに、アジムは怒号を発する。

「馬鹿笑いしてるんじゃねぇや、
 この野郎!!」

 怒鳴りつけられた首無しの騎士デュラハンは驚いたように哄笑を引っ込めたが、その血色の瞳をギラリと光らせた。

 <麻痺の眼光パラライズアイ>だ。
 だが、アジムは一瞬ほどの拘束を感じることもなく構えていた大剣を肩に担ぎ、首無しの騎士デュラハンに向かって突っ込む。

「おおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 駆け込んだ勢いをそのままに、首無しの騎士デュラハンに向かって大剣を叩きつける。首無しの騎士デュラハンそれを右手の剣で迎え撃った。

 爆発を思わせるような、鉄がぶつかり合う重い音が響く。

 ぶつかりあった剣の衝撃でアジムと首無しの騎士デュラハンはお互いに仰け反った。そして仰け反った分だけ踏み込み直し、咆哮とともに相手を粉砕するつもりで剣を振るう。

「おおおぉぉぉぉぉ!!」
「ぐおぉぉぉぉ!!」

 また一つ重い鉄がぶつかる音が響き、剣越しにお互いの殺意の視線をぶつけ合う。
 リリィに負けて襲われるのはちょっと興味があるが、この生者を羨む醜悪な面相の男に掘られるのは御免被る。

「ぬうあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 満身の力を込めて首無しの騎士デュラハンの剣を弾き飛ばし、アジムは追撃の剣を振りかぶった。
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