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諦観の騎士 リリィ・フランネル
諦観の騎士 リリィ・フランネル(5)
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アジムは馴染んだシラクーザの潮風を感じながら、船から港に降り立った。
冒険家のような仕事だけでなく闘技場で稼ぐようになってローマにも部屋を構えたので、こちらの部屋に帰るのは久しぶりだ。ローマにも部屋を構えたとはいうものの本当に寝るだけのもので、粗末な寝具と薬や投擲用短剣が雑に放り出されているだけの部屋だ。仕事と闘技場での戦いが一段落して休みができたのに、そんな部屋にずっと居る理由もない。広くてふかふかのベッド、うまい飯のルームサービスのある<騙され一角獣亭>でゆっくりするために戻ってきた。もちろん、目的は休息だけでなく仕事や闘技場で戦う間は禁欲していた性欲の発散でもある。娼婦もいる<騙され一角獣亭>はそういう意味でも都合がいい。
ゆらゆらと動く船から港に降り立つと動いていないはず地面が動いているようで、身勝手な不安定さを感じながら歩いていく。シラクーザのあるシチリア島は無法の島だ。法の守護は受けられない。港には荷物や財布を狙ってスリや置き引きをする連中もたくさん居たが、少し視線を向けてやるだけで分厚い板金鎧にバカでかい剣を背負ったアジムに近づいてこなくなった。
アジムは着替えや冒険家仕事をするときに使う細々とした道具を入れた大きな袋を背負い、船員や漁師、荷運びとそれに紛れ込んだ盗人たちでごった返す港を歩いていく。日はまだ高く、水面がきらきらと輝いている。時間は昼を少し回ったところで、まだ食事をしていないのでかなり空腹だ。
宿に入る前にどこかで食べていくかと考えながら足を進めていると、港から街へ続く道の途中で、以前にも同じ場所で立ちはだかった人影に行く手を遮られた。
「よぅ!
俺のちんぽが忘れられなくてまた抱かれに来たか」
立ちはだかったリリィに、アジムは性欲をぶつける相手が来たと笑みを浮かべて気安く声をかける。
叩きのめした後のリリィなら、アジムの馬鹿げてでかい男根で邪妖精や豚面鬼のような底なしの性欲で知られる魔物たちよりも長く激しく抱きまくっても、娼婦たちのように商売ができなくなるなどと文句を言われることもない。
何より、化粧っ気もなく鎧をまとってアジムの声に嫌悪の表情を浮かべていても、化粧をして着飾って媚びる娼婦よりもリリィのほうが愛らしい。
顔を歪めたリリィは左手に剣の鞘を掴んだ。
「ちんぽをしゃぶりながら絶頂き散らかしてたんだ。
そんな顔をしても欲しがっているようにしか見えねぇぞ」
リリィの嫌悪をそう言って笑ったアジムは荷物を背負ったまま、リリィを顎で誘った。
「……前回と同じ路地でいいだろ。
ついて来な」
アジムが背を向けて先に歩き出すと、リリィは鞘を握りしめたままアジムの背を追って歩き始めた。
アジムは足を進めながら肩越しにリリィを振り返る。リリィの装備はこれまでと変わらない。腰にある細身の片手半剣は何度も斬りつけられてその切れ味を身と記憶に刻まれたもの。美しい光沢のある革鎧も斬られた鬱憤を獣欲に変えて身体に叩きつけてやるときに無理やり脱がせてやったそれだ。特別に他に持ち物が増えた様子もない。
視線をリリィの顔に向ける。その愛らしい顔にアジムの言動に嫌悪を顕にしていたが、アジムが背を向けて一度視線が切れるとリリィの顔から怒りや嫌悪といった攻撃的なものが抜け落ちて、弱々しいものが浮かび上がっていた。視線が落ち着かずにふらふらとして、以前の戦意を滾らせた凛とした表情は見る影もない。気迫のようなものがまったく感じられない。
気力が萎えているなら、そのほうが戦いやすいが。
アジムが訝しさとともに自分の有利を感じつつも、追い詰められたリリィが騎士の誇りを投げ出して後先を考えない不意打ちをしてくるかもしれないと警戒していたが、何事もなくそのまま以前リリィを叩きのめしてブチ犯してやった裏路地にたどり着く。
アジムは背負袋を道の端に投げ出して、背負っていた剣を手に取った。
それに合わせてリリィも剣を抜く。
「さぁて、どう鳴かせてやろうか」
にたりと嗤い、踏み込みながら手にした大剣を振りかぶる。
顔を曇らせたままのリリィは、言葉を何一つ口にせず、それに応じて剣を構え踏み込んだ。
そして何度となくぶつかり合い、剣も魔法もアジムには何一つ通じないまま、リリィは魔力と体力を使い果たして薄汚れた路地裏に膝をついた。
「……あぁ?」
どんな策を隠し持っているのかと警戒しながら戦っていたアジムは、ただ漫然と戦い、力尽きて膝をついたリリィに訝しんだ声を上げた。
「なんだそりゃ。やる気あんのかよ?
前回のほうがよほど気合いが乗ってたじゃねぇか」
アジムが大剣を肩に担ぎながら問うと、リリィは荒い息をしながら、
「何をしたら勝てるのか、
何も思い浮かばなかった……っ!」
どうしようもない現実を吐露する。
「剣も、魔法も、通用しない!
<暴走>を使っても殺しきれない!
じゃあ私はどうしたら勝てるの……!?」
アジムはその血を吐くような叫びを、鼻で笑った。
「勝ち目もないのにかかってきたんなら、
抱かれに来たのも間違ってなかったわけだ」
「だって、だって……!
私のせいでみんながアンタに犯された。
それなのに、私がアンタに挑まなくなるのは、
みんなに対する裏切り……それだけはできない……!」
陵辱されたリリィの仇を取ろうと友人たちがアジムに挑み、全員が返り討ちにあって陵辱された。その仲間たちに対する贖罪と責任で、勝つための目算もなくリリィはアジムに剣を向けた。
だが、そんなことはアジムにはどうでもいい。
「リリィちゃんがかかってきたいなら、かかってくればいい。
その度にちんぽをブチ込まれて、
どんどん調教されていくだけだがなぁ?」
顔を覗き込むようにして嘲るアジムに、リリィが顔を屈辱に歪める。
それに合わせて、周りから低い下卑た喜びの声が聞こえてきた。
「あぁ?」
アジムが、そしてリリィも驚いて視線を周りに投げる。
そこには裏路地を塒にしているらしい薄汚れた男たちが数人、戦っていた二人を中心にこちらを伺っていた。街中で部屋も持てないような男たちだ。誰もが栄養不足な小柄な身体に着の身着のままでいつから洗濯していないのかわからないような垢まみれの襤褸を着込み、不揃いな歯の口からよだれを垂らし、欲望にギラついた目でリリィをみながら、自分のものをしごいている。
「なんだ、お前ら?」
アジムが声をかけるが、それが聞こえないのかそれぞれに煤や泥や垢で汚れた顔にだらしない笑みを浮かべてリリィを見ながら、
「へ、へへ……可愛いなぁ」
「綺麗な髪だぁ……」
「泣き声、堪んなかったなぁ。
また聞きてぇ……」
「白い肌、しゃぶりてぇ……」
アジムはその言葉を聞いて理解する。どうやら前回リリィと戦い、叩きのめし、陵辱したときに、どこからか見ていた連中らしい。その時のリリィの痴態を期待して集まってきたようだ。今のところは数人だが、聞こえてくる物音から人数はまだまだ増えそうだ。
アジムは舌打ちをする。リリィはアジムのお気に入りだ。こんな連中に好きにさせてやる心算はない。疲れ切ったリリィを担いで突破してもいいが、放り出してある荷物を諦めることになる。無法の島であるシチリア島だから集まってくる男どもを皆殺しにしても咎められることはないが、面倒だ。
リリィに目を向けると、リリィは顔を青くして震えていた。増えていく男たちに輪姦される未来を想像したのだろう。
「おう、リリィちゃん。
まだ<帰還>くらいは使えるだろ」
自分で逃げてもらおうとアジムがそう声をかけると、リリィは怯えたままの視線をアジムに向けてくる。
「え……」
「<帰還>は使えるだろって聞いてるんだ。
どうなんだ」
「え、あ……集中時間が取れれば、使えると、思う」
アジムはそれを聞いて頷く。
「よし。じゃあ<帰還>を使って一回帰れ。
それで身綺麗にしてから、抱かれに来い」
青白かったリリィの肌に、赤が混じった。
「どうして私がアンタなんかに抱かれに来ないと行けないの!」
「なら、お前の代わりにお友達の誰かをブチ犯してやろう。
メルフィナがいいか? ソフィアがいいか?」
にやにやと笑みを浮かべて差し出す仲間の名前を上げてやると、リリィは何も言えなくなって悔しげにアジムを見上げることしかできなくなった。
「どうするんだ?
決断しなけりゃ、この場でリリィちゃんは浮浪者どもに犯されて、
お友達が俺に犯されることになるだけだ」
じわりじわりと男たちの輪が狭まってくる。リリィは返事を返さないまま、目を閉じて<集中>に入った。
「俺が泊まっている部屋はわかるな?
<騙され一角獣亭>の最上階だ。
日没までに来い。来なけりゃ……そうだな、今日はメルフィナにするか」
アジムが言葉をかけている間に<集中>を終わらせたリリィは目を開けてアジムを睨み、
「最低……<帰還>!」
そう言葉を残して魔法を発動させ、光に包まれ消え去った。
アジムはリリィの捨て台詞をにんまりと笑みを浮かべて受け取ってから、放り出してあった荷物に向けて無造作に歩み寄る。途中にはリリィの肢体に欲望を滾らせていた男たちがいたが、アジムの眼中にない。
だが、魔法の知識はなくとも、リリィを離脱させたのがアジムだと理解できる程度の頭はあったらしい男たちがアジムに向かって敵意の籠もった視線を向ける。一人であればアジムに抗するなど考えもしなかっただろうが、気づけば10人を超える人数になった自分たちのほうが有利だと、勘違いしたようだ。
男の一人がアジムの前に立ちはだかって金目の物を集ろうと声をあげた。
「臭い。寄るな」
アジムは面倒くさそうに言って、鼻面を蹴り飛ばした。蹴られた男は吹っ飛んで道端に転がり、そのまま動かなくなる。アジムはその姿に目を向けることもなく放り出してあった荷物を肩にかけ、男たちの視線を受けながら歩み去った。
残された男たちはアジムの一方的で絶対的な暴力を目にして、滾らせていた欲望が萎えてお互いに目を交わし合い、散り散りに去っていった。何人かはアジムに蹴られた男に近づくと、身にまとっていた襤褸とわずかばかりの小銭を奪い、同じようにその場を後にする。
後に残ったのは魔物の餌にも使えない、骨と皮と身の程知らずな欲望を抱いた男だけが転がっていた。
冒険家のような仕事だけでなく闘技場で稼ぐようになってローマにも部屋を構えたので、こちらの部屋に帰るのは久しぶりだ。ローマにも部屋を構えたとはいうものの本当に寝るだけのもので、粗末な寝具と薬や投擲用短剣が雑に放り出されているだけの部屋だ。仕事と闘技場での戦いが一段落して休みができたのに、そんな部屋にずっと居る理由もない。広くてふかふかのベッド、うまい飯のルームサービスのある<騙され一角獣亭>でゆっくりするために戻ってきた。もちろん、目的は休息だけでなく仕事や闘技場で戦う間は禁欲していた性欲の発散でもある。娼婦もいる<騙され一角獣亭>はそういう意味でも都合がいい。
ゆらゆらと動く船から港に降り立つと動いていないはず地面が動いているようで、身勝手な不安定さを感じながら歩いていく。シラクーザのあるシチリア島は無法の島だ。法の守護は受けられない。港には荷物や財布を狙ってスリや置き引きをする連中もたくさん居たが、少し視線を向けてやるだけで分厚い板金鎧にバカでかい剣を背負ったアジムに近づいてこなくなった。
アジムは着替えや冒険家仕事をするときに使う細々とした道具を入れた大きな袋を背負い、船員や漁師、荷運びとそれに紛れ込んだ盗人たちでごった返す港を歩いていく。日はまだ高く、水面がきらきらと輝いている。時間は昼を少し回ったところで、まだ食事をしていないのでかなり空腹だ。
宿に入る前にどこかで食べていくかと考えながら足を進めていると、港から街へ続く道の途中で、以前にも同じ場所で立ちはだかった人影に行く手を遮られた。
「よぅ!
俺のちんぽが忘れられなくてまた抱かれに来たか」
立ちはだかったリリィに、アジムは性欲をぶつける相手が来たと笑みを浮かべて気安く声をかける。
叩きのめした後のリリィなら、アジムの馬鹿げてでかい男根で邪妖精や豚面鬼のような底なしの性欲で知られる魔物たちよりも長く激しく抱きまくっても、娼婦たちのように商売ができなくなるなどと文句を言われることもない。
何より、化粧っ気もなく鎧をまとってアジムの声に嫌悪の表情を浮かべていても、化粧をして着飾って媚びる娼婦よりもリリィのほうが愛らしい。
顔を歪めたリリィは左手に剣の鞘を掴んだ。
「ちんぽをしゃぶりながら絶頂き散らかしてたんだ。
そんな顔をしても欲しがっているようにしか見えねぇぞ」
リリィの嫌悪をそう言って笑ったアジムは荷物を背負ったまま、リリィを顎で誘った。
「……前回と同じ路地でいいだろ。
ついて来な」
アジムが背を向けて先に歩き出すと、リリィは鞘を握りしめたままアジムの背を追って歩き始めた。
アジムは足を進めながら肩越しにリリィを振り返る。リリィの装備はこれまでと変わらない。腰にある細身の片手半剣は何度も斬りつけられてその切れ味を身と記憶に刻まれたもの。美しい光沢のある革鎧も斬られた鬱憤を獣欲に変えて身体に叩きつけてやるときに無理やり脱がせてやったそれだ。特別に他に持ち物が増えた様子もない。
視線をリリィの顔に向ける。その愛らしい顔にアジムの言動に嫌悪を顕にしていたが、アジムが背を向けて一度視線が切れるとリリィの顔から怒りや嫌悪といった攻撃的なものが抜け落ちて、弱々しいものが浮かび上がっていた。視線が落ち着かずにふらふらとして、以前の戦意を滾らせた凛とした表情は見る影もない。気迫のようなものがまったく感じられない。
気力が萎えているなら、そのほうが戦いやすいが。
アジムが訝しさとともに自分の有利を感じつつも、追い詰められたリリィが騎士の誇りを投げ出して後先を考えない不意打ちをしてくるかもしれないと警戒していたが、何事もなくそのまま以前リリィを叩きのめしてブチ犯してやった裏路地にたどり着く。
アジムは背負袋を道の端に投げ出して、背負っていた剣を手に取った。
それに合わせてリリィも剣を抜く。
「さぁて、どう鳴かせてやろうか」
にたりと嗤い、踏み込みながら手にした大剣を振りかぶる。
顔を曇らせたままのリリィは、言葉を何一つ口にせず、それに応じて剣を構え踏み込んだ。
そして何度となくぶつかり合い、剣も魔法もアジムには何一つ通じないまま、リリィは魔力と体力を使い果たして薄汚れた路地裏に膝をついた。
「……あぁ?」
どんな策を隠し持っているのかと警戒しながら戦っていたアジムは、ただ漫然と戦い、力尽きて膝をついたリリィに訝しんだ声を上げた。
「なんだそりゃ。やる気あんのかよ?
前回のほうがよほど気合いが乗ってたじゃねぇか」
アジムが大剣を肩に担ぎながら問うと、リリィは荒い息をしながら、
「何をしたら勝てるのか、
何も思い浮かばなかった……っ!」
どうしようもない現実を吐露する。
「剣も、魔法も、通用しない!
<暴走>を使っても殺しきれない!
じゃあ私はどうしたら勝てるの……!?」
アジムはその血を吐くような叫びを、鼻で笑った。
「勝ち目もないのにかかってきたんなら、
抱かれに来たのも間違ってなかったわけだ」
「だって、だって……!
私のせいでみんながアンタに犯された。
それなのに、私がアンタに挑まなくなるのは、
みんなに対する裏切り……それだけはできない……!」
陵辱されたリリィの仇を取ろうと友人たちがアジムに挑み、全員が返り討ちにあって陵辱された。その仲間たちに対する贖罪と責任で、勝つための目算もなくリリィはアジムに剣を向けた。
だが、そんなことはアジムにはどうでもいい。
「リリィちゃんがかかってきたいなら、かかってくればいい。
その度にちんぽをブチ込まれて、
どんどん調教されていくだけだがなぁ?」
顔を覗き込むようにして嘲るアジムに、リリィが顔を屈辱に歪める。
それに合わせて、周りから低い下卑た喜びの声が聞こえてきた。
「あぁ?」
アジムが、そしてリリィも驚いて視線を周りに投げる。
そこには裏路地を塒にしているらしい薄汚れた男たちが数人、戦っていた二人を中心にこちらを伺っていた。街中で部屋も持てないような男たちだ。誰もが栄養不足な小柄な身体に着の身着のままでいつから洗濯していないのかわからないような垢まみれの襤褸を着込み、不揃いな歯の口からよだれを垂らし、欲望にギラついた目でリリィをみながら、自分のものをしごいている。
「なんだ、お前ら?」
アジムが声をかけるが、それが聞こえないのかそれぞれに煤や泥や垢で汚れた顔にだらしない笑みを浮かべてリリィを見ながら、
「へ、へへ……可愛いなぁ」
「綺麗な髪だぁ……」
「泣き声、堪んなかったなぁ。
また聞きてぇ……」
「白い肌、しゃぶりてぇ……」
アジムはその言葉を聞いて理解する。どうやら前回リリィと戦い、叩きのめし、陵辱したときに、どこからか見ていた連中らしい。その時のリリィの痴態を期待して集まってきたようだ。今のところは数人だが、聞こえてくる物音から人数はまだまだ増えそうだ。
アジムは舌打ちをする。リリィはアジムのお気に入りだ。こんな連中に好きにさせてやる心算はない。疲れ切ったリリィを担いで突破してもいいが、放り出してある荷物を諦めることになる。無法の島であるシチリア島だから集まってくる男どもを皆殺しにしても咎められることはないが、面倒だ。
リリィに目を向けると、リリィは顔を青くして震えていた。増えていく男たちに輪姦される未来を想像したのだろう。
「おう、リリィちゃん。
まだ<帰還>くらいは使えるだろ」
自分で逃げてもらおうとアジムがそう声をかけると、リリィは怯えたままの視線をアジムに向けてくる。
「え……」
「<帰還>は使えるだろって聞いてるんだ。
どうなんだ」
「え、あ……集中時間が取れれば、使えると、思う」
アジムはそれを聞いて頷く。
「よし。じゃあ<帰還>を使って一回帰れ。
それで身綺麗にしてから、抱かれに来い」
青白かったリリィの肌に、赤が混じった。
「どうして私がアンタなんかに抱かれに来ないと行けないの!」
「なら、お前の代わりにお友達の誰かをブチ犯してやろう。
メルフィナがいいか? ソフィアがいいか?」
にやにやと笑みを浮かべて差し出す仲間の名前を上げてやると、リリィは何も言えなくなって悔しげにアジムを見上げることしかできなくなった。
「どうするんだ?
決断しなけりゃ、この場でリリィちゃんは浮浪者どもに犯されて、
お友達が俺に犯されることになるだけだ」
じわりじわりと男たちの輪が狭まってくる。リリィは返事を返さないまま、目を閉じて<集中>に入った。
「俺が泊まっている部屋はわかるな?
<騙され一角獣亭>の最上階だ。
日没までに来い。来なけりゃ……そうだな、今日はメルフィナにするか」
アジムが言葉をかけている間に<集中>を終わらせたリリィは目を開けてアジムを睨み、
「最低……<帰還>!」
そう言葉を残して魔法を発動させ、光に包まれ消え去った。
アジムはリリィの捨て台詞をにんまりと笑みを浮かべて受け取ってから、放り出してあった荷物に向けて無造作に歩み寄る。途中にはリリィの肢体に欲望を滾らせていた男たちがいたが、アジムの眼中にない。
だが、魔法の知識はなくとも、リリィを離脱させたのがアジムだと理解できる程度の頭はあったらしい男たちがアジムに向かって敵意の籠もった視線を向ける。一人であればアジムに抗するなど考えもしなかっただろうが、気づけば10人を超える人数になった自分たちのほうが有利だと、勘違いしたようだ。
男の一人がアジムの前に立ちはだかって金目の物を集ろうと声をあげた。
「臭い。寄るな」
アジムは面倒くさそうに言って、鼻面を蹴り飛ばした。蹴られた男は吹っ飛んで道端に転がり、そのまま動かなくなる。アジムはその姿に目を向けることもなく放り出してあった荷物を肩にかけ、男たちの視線を受けながら歩み去った。
残された男たちはアジムの一方的で絶対的な暴力を目にして、滾らせていた欲望が萎えてお互いに目を交わし合い、散り散りに去っていった。何人かはアジムに蹴られた男に近づくと、身にまとっていた襤褸とわずかばかりの小銭を奪い、同じようにその場を後にする。
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