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剣闘士 アカネ・シンジョウ
剣闘士 アカネ・シンジョウ(5)
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欲望を滾らせた三人の男の前に、アカネは剣を携えて独り立った。
三人組の男たちは魔法剣士である金髪の男と、速度型剣士の総髪の男を前衛に、集中が必要になる魔法使いの銀髪の男を後ろに下がらせた構えでアカネに対した。前衛で時間を稼いでいる間に長い集中時間を取った魔法で撃破を狙うというつもりなのだろう。
アカネは男たちが並んで構えている立ち位置を、測る目で見ていた。
そして戦闘開始の声がかかると、アカネは前衛の二人に対して抜き払った刀を片手に無造作に突っ込んだ。突っ込む先は前衛二人が並んだ間。銀髪の男への最短ルートだ。
男たちのほうは銀髪の男が戦闘開始と同時に目を閉じて集中に入り、残る二人がアカネを待ち受けて剣を構える。
アカネは前衛の二人に向かって駆けながら、二人に対して無集中で放てる<魔力矢>を撃ち込んだ。魔力消費を増やして二連発。それを左右の男たちに一発ずつ振り分ける。
純粋な魔力の塊である<魔力矢>は剣で打ち払うわけにいかない。避けるか、身体でうけとめるか。銀髪の男を後ろに庇う前衛の二人は、<魔力矢>を体の前で両手を交差して受け止めた。アジムほどの肉体的な耐久力のない二人は、その衝撃にわずかにふらつく。
アカネは前衛二人がふらついてできた僅かな隙間を、足を緩めることなく駆け抜けて手にした刀を銀髪の男へと突き込んだ。
地面と平行になるよう刃を寝かせた突き。それは銀髪の男の喉にするりと入り、骨を断ち切って首の後ろから鋒をのぞかせた。人体に突き立てたとは思えないほど滑らかなその一太刀は、見ていたものに怖気が走るほど淀みがない。
アカネは突き込んだ刀を手にしたまま、片足を軸に、踊るようにくるりと回転する。銀髪の男の喉の半分を切り裂いて刀は自由を取り戻し、主の手の中に戻った。
首を斬り裂かれた銀髪の男が断末魔を上げることもできずに崩れ落ち、砂の地面に血を撒き散らしてから光になって消え去った。
「うあああぁぁぁぁ!!」
「ああぁぁぁぁぁぁあっ!!」
銀髪の男を簡単に排除され、当初の戦術が使えなくなったことに焦った二人が、タイミングを合わせることなくバラバラに斬りかかる。
「<呪い>」
それにカウンターを合わせるようにアカネはステータスの一つを選択して減少させる効果のある妨害魔法を放つ。対象は総髪の男のSTRだ。
「……あっ!?」
アカネの魔法に関するスキルは高いが、INTやDEXといったパラメータが本職の魔法使いと比べて低い。減少させるパラメータ量もそれに応じて少なくなるが、剣を扱うのにSPDとDEXしか上げてこなかった総髪の男にはとても大きく影響が出た。
刀を扱うための最低STR値を下回ってしまったせいで、普段どおりの握り方をしていた手から刀がすっぽ抜けた。
振るう途中で勢いをつけて投げ飛ばしてしまった刀を拾いに、総髪の男が慌てて走り出す。それを見届けることなく襲いかかってきた剣を刀で受けて鍔迫り合いに持ち込んだアカネは、刃の向こうにある金髪の男の顔にねっとりと微笑みかけた。
「一対一やなぁ?」
魔法を使いながら自分の攻撃をあっさり受け止めたアカネに、金髪の男の喉から怯えを含んだ呼気が漏れる。アカネはそれを鼻で笑い、両手で剣を握っているためにがら空きになっている顔面に向けて<火の矢>を撃ち込んでやった。
金髪の男が剣を放り出して悲鳴を上げながら地面に転がる。ぶすぶすと煙を上げる顔を覆って、地面を転がりまわる。
金髪の男を無力化できたと判断したアカネが視線を転じると、総髪の男はようやく刀を拾い上げたところだった。アカネは足を動かさず、魔法を放つ。<魔力矢>だ。それ立て続けに総髪の男に撃ち込んでいく。
三人の中では速度に秀でていた総髪の男だが、アカネから見れば特別に動きが速いわけでもない。<魔力矢>を回避しながら近づくことはできず、何発目かの<魔力矢>を回避しそこねて体勢を崩し、そのまま<魔力矢>で撃ち倒された。
総髪の男が光になって消え去ったことを確認してアカネは地面に足元に目を向ける。未だに地面をのたうっているだけで、回復のために薬や魔法を使おうともしない金髪の男にため息をつき、その首に刀を振り下ろして介錯してやった。
戦闘の興奮もないまま勝利を得たアカネはもう一度ため息をついてから、客席のアジムに向かって好戦的な笑みを浮かべてみせた。そして、アジムに向かって拳を突き出す。
次はアンタやで。
無言のその言葉を受け取ってアジムもアカネと同じような笑みを浮かべ、観客席から腰を上げた。
○
「ま、そうは言うても、新人さんになんのハンデもなしにガチンコでやろうとは思わんよ。
10戦やって、1回でもウチに勝てたら、
ウチのこと好きにさせたる」
闘技場に降りてきたアジムと対峙したアカネは笑みを浮かべてそう言ったが、
「もちろん、アジムが10連敗したらウチが好きにさせてもらうで?
ええ身体しとるから、今から楽しみやわぁ」
途中からその笑みを淫靡なものに変えて、アジムの大きな身体に視線を這い回らせた。歳に似合わない熟れた身体をした少女の色が乗った視線に、アジムは少し落ち着かない気分になったが、ちろちろと唇を舐めるアカネから目を背けて大きく息を吸い込んだ。
胸の中に元々あったものと合わせて、息を吐ききる。
また息を吸う。また吐ききる。
それを何度か繰り返して、普段の平静さを取り戻した。
「それじゃ、やりましょうか」
「おー」
そして戦い始め、何がなんだかわからないまま、2回死んだ。
「んっふっふー。
これならウチがアジムのこと可愛がったれそうやなー」
煽るようにアカネに言われ、蘇生したアジムは頭を掻いた。
本当に、何をされて首を落とされたのかまったくわからなかった。初めてシズカと戦ったときのような理不尽な強さを感じる。シズカやゼルヴァほど恐ろしく速いわけではないのに、気がつくと視線を切られて喉に冷たくも熱い刃を突き入れられていた。
「じゃあ、3戦目、お願いします」
「んー」
あまりに情報が足りない。どう斬り捨てられているのかを理解するために、攻撃を控えて観ることに徹する。
剣技は、明らかにリリィより上だ。魔物を相手に戦うリリィよりも、対人に慣れたアカネのほうが人間相手に戦いなれているというのもあるが、そもそもの剣の正確さや鋭さが上回っている。おそらく<剣>と<刀>で二重奏スキルになっているのだろう。だが、三重奏スキルにしているシズカほどの恐ろしい冴えは感じない。
ただ、その手にしている刀が危険だ。リリィの剣も業物だが、アカネの刀は段違いに切れ味鋭い。メルフィナに魔法で強化してもらった板金鎧の上からアジムの肌を斬り裂いてくる。さすがにソフィアが見つけてくれた腕鎧の上からは無理なようだが、あの刀を腹に突きこまれたら、鎧の上からでも内蔵まで達しかねない。
アジムが後ろに下がりながら、大剣の間合いを活かしてアカネの刀をいなし続けていると、アカネの攻撃に魔法が混じり始める。
アカネの魔法攻撃はリリィと同じような攻撃魔法に加えて<火炎>という炎を燃え上がらせるだけの、難易度が低い魔法が交じる。攻撃力はなくとも派手に燃え上がるそれがアカネの姿を揺らめくように隠し、視線を切られてしまうのだ。
そして、死角に滑り込んだアカネから、必殺の一撃が飛んでくる。
「なるほど、これが《陽炎》」
また首を落とされて蘇生したアジムは納得して呟いた。そんなアジムに、アカネはにっと笑ってみせた。
まだまだ隠したものはあるだろうが、まずはアカネが基本戦術として使う技術を一通り見せてもらったアジムはそれを踏まえて四度目の戦闘に挑む。しかし、四度目も五度目も、頭では理解しているものの、やはり炎に視線を遮られて死角を作られて斬って捨てられた。
そうして六度目の戦いをもう一度観ることに使って、ようやくうっすらと理解する。
炎を使って視界を遮る前の視線誘導。それこそが《陽炎》の本質なのだろう。刀と魔法の連携でじわりじわりと相手の体勢をコントロールして、最後に<魔力矢>で衝撃を叩きつけて頭の位置と視界を固定し、そこを<火炎>で遮るのだ。
言うのは簡単だが、戦いながら相手をコントロールしていくのは簡単なことではない。
アジムはアカネのプレイヤーとしての技量に嘆息する。
だが、理合いがわかれば、なんとかできるかもしれない。
もちろんアカネのコントロールは巧みで、そう簡単に抜け出すことはできないだろうが、アジムもアカネにはまだ剣技しか見せていない。三人組との戦いで短剣を投げていたのは見ていただろうが、投網の存在には気づいていないだろう。
何より、意図的に蹴りを出すことを控えていた。
<格闘>の存在は隠している。
次で七度目の戦いだ。約束の十回まで、そう余裕もない。
ギリギリまで見せるのを引き伸ばしてしまうと、アカネの警戒レベルも上がってしまうだろう。
次の戦いで、全部出す。
アジムは努めて表情を平静に保ちながら、必勝の意思を秘めてアカネに声をかける。
「七戦目、お願いします」
「おっけー」
そうとは知らないアカネは笑みを浮かべてアジムの声に応じた。
アジムは無駄な死に方を決してしない。最後までしっかり自分を見据えて死ぬ瞬間まで諦めず、必ずなにかを得ようと考えながら戦っている。たった六回の戦いで、もう《陽炎》にある程度は対応するようになってきた。
一戦一戦、戦った分だけ強くなる。
アカネはそれがすごく楽しい。
刀を構え直しながら、アジムが勝負をかけてくるだろう最後の一戦を想像して心を熱く、そして同時にそれを打ち破ったあとを思い、身体を熱くしながらアジムが挑みかかってくるのを待ち受ける。
本気で勝ちに来るアジムに対し、アカネはまだ探りの段階だろうと思ったまま、七度目の戦いが始まった。
三人組の男たちは魔法剣士である金髪の男と、速度型剣士の総髪の男を前衛に、集中が必要になる魔法使いの銀髪の男を後ろに下がらせた構えでアカネに対した。前衛で時間を稼いでいる間に長い集中時間を取った魔法で撃破を狙うというつもりなのだろう。
アカネは男たちが並んで構えている立ち位置を、測る目で見ていた。
そして戦闘開始の声がかかると、アカネは前衛の二人に対して抜き払った刀を片手に無造作に突っ込んだ。突っ込む先は前衛二人が並んだ間。銀髪の男への最短ルートだ。
男たちのほうは銀髪の男が戦闘開始と同時に目を閉じて集中に入り、残る二人がアカネを待ち受けて剣を構える。
アカネは前衛の二人に向かって駆けながら、二人に対して無集中で放てる<魔力矢>を撃ち込んだ。魔力消費を増やして二連発。それを左右の男たちに一発ずつ振り分ける。
純粋な魔力の塊である<魔力矢>は剣で打ち払うわけにいかない。避けるか、身体でうけとめるか。銀髪の男を後ろに庇う前衛の二人は、<魔力矢>を体の前で両手を交差して受け止めた。アジムほどの肉体的な耐久力のない二人は、その衝撃にわずかにふらつく。
アカネは前衛二人がふらついてできた僅かな隙間を、足を緩めることなく駆け抜けて手にした刀を銀髪の男へと突き込んだ。
地面と平行になるよう刃を寝かせた突き。それは銀髪の男の喉にするりと入り、骨を断ち切って首の後ろから鋒をのぞかせた。人体に突き立てたとは思えないほど滑らかなその一太刀は、見ていたものに怖気が走るほど淀みがない。
アカネは突き込んだ刀を手にしたまま、片足を軸に、踊るようにくるりと回転する。銀髪の男の喉の半分を切り裂いて刀は自由を取り戻し、主の手の中に戻った。
首を斬り裂かれた銀髪の男が断末魔を上げることもできずに崩れ落ち、砂の地面に血を撒き散らしてから光になって消え去った。
「うあああぁぁぁぁ!!」
「ああぁぁぁぁぁぁあっ!!」
銀髪の男を簡単に排除され、当初の戦術が使えなくなったことに焦った二人が、タイミングを合わせることなくバラバラに斬りかかる。
「<呪い>」
それにカウンターを合わせるようにアカネはステータスの一つを選択して減少させる効果のある妨害魔法を放つ。対象は総髪の男のSTRだ。
「……あっ!?」
アカネの魔法に関するスキルは高いが、INTやDEXといったパラメータが本職の魔法使いと比べて低い。減少させるパラメータ量もそれに応じて少なくなるが、剣を扱うのにSPDとDEXしか上げてこなかった総髪の男にはとても大きく影響が出た。
刀を扱うための最低STR値を下回ってしまったせいで、普段どおりの握り方をしていた手から刀がすっぽ抜けた。
振るう途中で勢いをつけて投げ飛ばしてしまった刀を拾いに、総髪の男が慌てて走り出す。それを見届けることなく襲いかかってきた剣を刀で受けて鍔迫り合いに持ち込んだアカネは、刃の向こうにある金髪の男の顔にねっとりと微笑みかけた。
「一対一やなぁ?」
魔法を使いながら自分の攻撃をあっさり受け止めたアカネに、金髪の男の喉から怯えを含んだ呼気が漏れる。アカネはそれを鼻で笑い、両手で剣を握っているためにがら空きになっている顔面に向けて<火の矢>を撃ち込んでやった。
金髪の男が剣を放り出して悲鳴を上げながら地面に転がる。ぶすぶすと煙を上げる顔を覆って、地面を転がりまわる。
金髪の男を無力化できたと判断したアカネが視線を転じると、総髪の男はようやく刀を拾い上げたところだった。アカネは足を動かさず、魔法を放つ。<魔力矢>だ。それ立て続けに総髪の男に撃ち込んでいく。
三人の中では速度に秀でていた総髪の男だが、アカネから見れば特別に動きが速いわけでもない。<魔力矢>を回避しながら近づくことはできず、何発目かの<魔力矢>を回避しそこねて体勢を崩し、そのまま<魔力矢>で撃ち倒された。
総髪の男が光になって消え去ったことを確認してアカネは地面に足元に目を向ける。未だに地面をのたうっているだけで、回復のために薬や魔法を使おうともしない金髪の男にため息をつき、その首に刀を振り下ろして介錯してやった。
戦闘の興奮もないまま勝利を得たアカネはもう一度ため息をついてから、客席のアジムに向かって好戦的な笑みを浮かべてみせた。そして、アジムに向かって拳を突き出す。
次はアンタやで。
無言のその言葉を受け取ってアジムもアカネと同じような笑みを浮かべ、観客席から腰を上げた。
○
「ま、そうは言うても、新人さんになんのハンデもなしにガチンコでやろうとは思わんよ。
10戦やって、1回でもウチに勝てたら、
ウチのこと好きにさせたる」
闘技場に降りてきたアジムと対峙したアカネは笑みを浮かべてそう言ったが、
「もちろん、アジムが10連敗したらウチが好きにさせてもらうで?
ええ身体しとるから、今から楽しみやわぁ」
途中からその笑みを淫靡なものに変えて、アジムの大きな身体に視線を這い回らせた。歳に似合わない熟れた身体をした少女の色が乗った視線に、アジムは少し落ち着かない気分になったが、ちろちろと唇を舐めるアカネから目を背けて大きく息を吸い込んだ。
胸の中に元々あったものと合わせて、息を吐ききる。
また息を吸う。また吐ききる。
それを何度か繰り返して、普段の平静さを取り戻した。
「それじゃ、やりましょうか」
「おー」
そして戦い始め、何がなんだかわからないまま、2回死んだ。
「んっふっふー。
これならウチがアジムのこと可愛がったれそうやなー」
煽るようにアカネに言われ、蘇生したアジムは頭を掻いた。
本当に、何をされて首を落とされたのかまったくわからなかった。初めてシズカと戦ったときのような理不尽な強さを感じる。シズカやゼルヴァほど恐ろしく速いわけではないのに、気がつくと視線を切られて喉に冷たくも熱い刃を突き入れられていた。
「じゃあ、3戦目、お願いします」
「んー」
あまりに情報が足りない。どう斬り捨てられているのかを理解するために、攻撃を控えて観ることに徹する。
剣技は、明らかにリリィより上だ。魔物を相手に戦うリリィよりも、対人に慣れたアカネのほうが人間相手に戦いなれているというのもあるが、そもそもの剣の正確さや鋭さが上回っている。おそらく<剣>と<刀>で二重奏スキルになっているのだろう。だが、三重奏スキルにしているシズカほどの恐ろしい冴えは感じない。
ただ、その手にしている刀が危険だ。リリィの剣も業物だが、アカネの刀は段違いに切れ味鋭い。メルフィナに魔法で強化してもらった板金鎧の上からアジムの肌を斬り裂いてくる。さすがにソフィアが見つけてくれた腕鎧の上からは無理なようだが、あの刀を腹に突きこまれたら、鎧の上からでも内蔵まで達しかねない。
アジムが後ろに下がりながら、大剣の間合いを活かしてアカネの刀をいなし続けていると、アカネの攻撃に魔法が混じり始める。
アカネの魔法攻撃はリリィと同じような攻撃魔法に加えて<火炎>という炎を燃え上がらせるだけの、難易度が低い魔法が交じる。攻撃力はなくとも派手に燃え上がるそれがアカネの姿を揺らめくように隠し、視線を切られてしまうのだ。
そして、死角に滑り込んだアカネから、必殺の一撃が飛んでくる。
「なるほど、これが《陽炎》」
また首を落とされて蘇生したアジムは納得して呟いた。そんなアジムに、アカネはにっと笑ってみせた。
まだまだ隠したものはあるだろうが、まずはアカネが基本戦術として使う技術を一通り見せてもらったアジムはそれを踏まえて四度目の戦闘に挑む。しかし、四度目も五度目も、頭では理解しているものの、やはり炎に視線を遮られて死角を作られて斬って捨てられた。
そうして六度目の戦いをもう一度観ることに使って、ようやくうっすらと理解する。
炎を使って視界を遮る前の視線誘導。それこそが《陽炎》の本質なのだろう。刀と魔法の連携でじわりじわりと相手の体勢をコントロールして、最後に<魔力矢>で衝撃を叩きつけて頭の位置と視界を固定し、そこを<火炎>で遮るのだ。
言うのは簡単だが、戦いながら相手をコントロールしていくのは簡単なことではない。
アジムはアカネのプレイヤーとしての技量に嘆息する。
だが、理合いがわかれば、なんとかできるかもしれない。
もちろんアカネのコントロールは巧みで、そう簡単に抜け出すことはできないだろうが、アジムもアカネにはまだ剣技しか見せていない。三人組との戦いで短剣を投げていたのは見ていただろうが、投網の存在には気づいていないだろう。
何より、意図的に蹴りを出すことを控えていた。
<格闘>の存在は隠している。
次で七度目の戦いだ。約束の十回まで、そう余裕もない。
ギリギリまで見せるのを引き伸ばしてしまうと、アカネの警戒レベルも上がってしまうだろう。
次の戦いで、全部出す。
アジムは努めて表情を平静に保ちながら、必勝の意思を秘めてアカネに声をかける。
「七戦目、お願いします」
「おっけー」
そうとは知らないアカネは笑みを浮かべてアジムの声に応じた。
アジムは無駄な死に方を決してしない。最後までしっかり自分を見据えて死ぬ瞬間まで諦めず、必ずなにかを得ようと考えながら戦っている。たった六回の戦いで、もう《陽炎》にある程度は対応するようになってきた。
一戦一戦、戦った分だけ強くなる。
アカネはそれがすごく楽しい。
刀を構え直しながら、アジムが勝負をかけてくるだろう最後の一戦を想像して心を熱く、そして同時にそれを打ち破ったあとを思い、身体を熱くしながらアジムが挑みかかってくるのを待ち受ける。
本気で勝ちに来るアジムに対し、アカネはまだ探りの段階だろうと思ったまま、七度目の戦いが始まった。
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