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剣闘士 アカネ・シンジョウ
剣闘士 アカネ・シンジョウ(4)
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銀髪の男が光になって消えてから、アジムは客席から勝者を称える声援に、慣れないながらも手を振って応じていた。しばらく声援に応じ続けていたが、中々状況が変化しないことに焦り始めたところで身体の周りに光が集まり始めたことにホッとする。
強い光に瞳を焼かれないよう目を閉じて備えているとすぐに浮遊感が身体を襲い、それが収まるとアジムは戦闘前と同じようにベルトで大剣を担いだ姿で受付前に立っていた。疲労はなかったが、威力は低くともいくつか魔法を撃ち込まれてわずかながら痛む場所もあったのだが、それも消え去っていて完全に戦場に向かう前のコンディションを取り戻している。
手に持っていたはずの大剣も元の場所に戻っていて「なるほど、これは便利なものだ」と納得して頷いていると、甲高く裏返った声が耳に飛び込んできた。
「チートだ!」
アジムが視線を向けると戦ったばかりの三人が、それぞれに顔を赤くしてアジムを睨んでいる。
「なんで魔法でダメージ入らねぇんだよ!
ダメージ無効化MODとか入れてんだろ!
チートだ、チート!
運営に報告してやるからな!」
「反応速度強化MODも入れているのか。
クズめ」
「お前みたいな低DEXが
あのコントロールで投げナイフ使えるはずないだろ!
無限ステータス・スキルMODもはいってるのか!」
口の端から泡立った唾を撒き散らしながらそれぞれに言い募る三人に、アジムは首をかしげてみせた。
「チートってなんですか?」
それが煽りだと感じた三人はさらに熱り立つ。
「なに煽りくさってんだこの野郎!
ぶっ殺すぞチート野郎!」
「チートして煽るとか最悪だな!
クズ! 死ね! クズ!」
「クソ。マジクソ。
ゲームやめて死ね!」
暴言をぶつけられたアジムは困って頭を掻いた。
何を言われているのかよくわからないが、とりあえず思ったまま言葉を口にする。
「別にズルいことをしなくても勝てますよ」
「あぁ!?」
「ちゃんと鍛えればいいんですよ」
笑みを浮かべて諭すように言うと、三人の言葉が一瞬止まる。
「スキルとステータスをきちんと上げきっていないですよね?
半端なスキルとステータスで、
ちゃんとスキルとステータスを上げきって防具を身につけている俺に
そんなの効きませんよ。
それでも効かせたいならちゃんと防具の隙間を狙わないと」
一瞬だけ静かになっていた三人は、アジムの言葉に爆発した。
「うるっせぇ!!
死ねクソが!」
「マジ死ね!」
「雑魚面なんだから大人しく死んどけカス!!」
わかりやすく主人公風の金髪の男や痛い過去になる感がアリアリの銀髪の男だけでなく、総髪の男まで激して語彙力が激しく低下した言葉で罵ってくる。
せっかくアドバイスをしたのに聞く気のない三人に、アジムはまた頭を掻きながら困ってしまう。弱いなら鍛えれば強くなれるし、弱いまま戦うなら戦い方を突き詰めるべきだ。そう考えるアジムには、目の前の三人の「自分たちが思うまま気持ちよく勝てるべきだ」という考えは理解できない。
「にーちゃん、にーちゃん。
正論パンチはそのくらいで堪忍したり」
アジムが困り続けているとけらけらと笑う声とともに、後ろから腰のあたりを叩かれた。
アジムが振り返るとショートカットの赤い髪の少女が、笑みを浮かべてアジムを見上げていた。イタズラっぽく細められた目は髪と同じ色合いの赤い輝きを宿し、気の強さと人懐っこさを同居させている。年や背丈はリリィと同じくらいに見え、顔には美しさよりも愛らしさの割合のほうが大きい。だがその身体の方は完全に熟れきった女のそれだ。胸や尻はむっちりと張り、どちらもアジムの大きな手でも存分に揉みしだいて堪能できそうなほどたわわに実っている。
そんなアンバランスさが雄の劣情を刺激する少女だったが、その大きな胸と尻を革鎧に押し込めて、刀を腰に差していた。全体的に洋風のいでたちだが、得物だけが和風だ。リリィや金髪の男が身につけているような革鎧を身に着けていることから、なんとなく魔法剣士型ではないかとアジムはあたりを付けた。
「にーちゃんはパラメータとスキルを上げてる人やんなぁ?
装備もしっかりしてそうやし、
死んだり負けたりしても気にせぇへんねんやったら、
中位を飛ばして上位で対戦を組んでもろたほうがええと思うで」
「そうなんですか?
でも、あまりにも俺の戦績が悪すぎて、
戦ってくれる人にメリットがないから戦いが成立しないんじゃないでしょうか」
「耐久型の人はめっちゃ少ないから、
経験を積むために戦いたがってる人は多いんよ。
心配せんでもマッチングはすると思うけど……
アレやったらウチとやる? ほかにもウチのギルドの連中も紹介したれるよ」
「是非、お願いします!」
「おー。ほな、上位の受付に行こかー」
アジムと少女が連れ立って上位の受付に向かいかけたところで、ようやく金髪の男が声を上げた。
「お前! ふざけんなよ!
ソイツとは俺たちがまだ話してるだろうが!」
怒鳴るようにして声をかけられた少女が面倒くさそうに振り返る。
「どうせ負けるから、にーちゃんにリベンジマッチする気もないんやろ。
色んな意味でもう終わっとるやん」
「あぁ!?」
「普段はスキルもろくに覚えてないNPC相手に圧勝して
イキリ散らかしとるんやろ。
たまたま見つけた勝率の低いにーちゃんやったらPC相手でも勝てると思たのに
返り討ちにおうてもて、プライド傷ついたんやなぁ」
少女のほうが身長は低いのにあからさまに見下した視線になって、
「これに懲りて初心者狩りみたいなことせんと、
NPC相手に自慰っときーや」
口元ににんまりと笑みを浮かべると一音ずつ区切るようにして言った。
「ざ・ぁ・こ♡」
「ぶっ殺してやる!!」
目の前の少女が上位受付を使っているという事実を忘れて金髪の男が吠える。
少女の笑みが獲物を見つけた猫のように残酷さを帯びて深くなった。
「量産型主人公顔が吐かしよる。
ええで。相手したろ」
少女に笑いかけられて、自分が絶対勝てない相手に喧嘩を売ってしまったことに気づいた金髪の男が怯む。
「ああ、けど、そっちの男と戦ったばかりだから、
今日は、その……」
金髪の男の言い訳に、少女はうんざりと吐き捨てた。
「なんや。喧嘩売っておいてヘタれるんかい。
しゃーないなぁ。三人まとめてでもOKにしたるわ。
さすがにそれやったらチャンスあるんちゃう?」
急に巻き込まれた総髪の男と銀髪の男が顔を見合わせる。
少女は身を翻して背を向けると、分厚いズボンを履いていてもむっちりとした張りが見て取れる尻を振って見せた。
「勝てたらウチを一晩好きにさせたるわ。
三人で輪姦すんやったら
穴の数はちょうどええやろ」
三人の顔が暴力的な性欲で塗りたくられる。目の前で挑発を繰り返す少女にはどう逆立ちしても一対一では絶対に勝てない。だが、三人がかりなら、もしかすると。
そんな希望を抱いて少女を見れば、戦うには不向きなほど大きな胸と、白々しく目の前で振られているむちむちとした尻。それだけでも十分に性欲を煽るが、嘲るように笑うその顔を、ぐちゃぐちゃに犯し尽くして泣き顔にしてやりたい。
「わかった。それなら、地下闘技場のほうでやるんだな。
三対一だ。変更は認めねーぞ」
金髪の男の言葉に、他の二人も異議を唱えなかった。
「ええで。ほな先に行ってルール設定とかやっといてや」
三人がいそいそと去っていくのを見送って、少女はようやくアジムを振り返った。
「ごめんなぁ、にーちゃん。
ちょっと待ったってくれるかなぁ」
両手を顔の前で合わせ、申し訳無さそうに見上げつつ、
「あかんかったら、他の対戦者を探してくれてもええよ。
ウチの勝手で待たせてしまうのも申し訳ないし」
そんな風に言葉を連ねる少女に、アジムは苛立つこともなく首を横に振る。
「せっかくなので待ちますよ。
地下闘技場というのがあるのも知らなかったので、
そちらも教えてもらいたいですし」
「そお?
ほな、そっちに移動しながら説明しよか」
少女が歩き出すのに合わせてアジムも少し遅れ、その背を追って歩き始めた。
少女が向かったのは受付の大広間の片隅にある下り階段だ。そこからは地下になるらしく、階段を降りるごとに陽光が遠くなる。そして、意図的なのか明かりがあまり灯されていないために、妙に薄暗い。
「上の普通の闘技場は、本当に普通に戦うだけやねん。
もちろん、プレイヤーランキングは変動するし、
戦うルールも色々細かく変更はできるけど、
こう、闘技場の場で対戦相手を拘束して拷問したり、
強姦したりとかはできんようになってる」
そんな降りてくるものを拒絶するような気配の階段を下り切ると、そこが地下闘技場の受付になっていた。地上の受付には上位中位下位のそれぞれに女性の受付嬢がいて、役場か銀行かというような事務的ではあるが明るい気配の場所だったが、地下闘技場の受付はそれまでの階段と同じように明かりが少なく、薄汚れたなんとも胡散臭い雰囲気が漂っている。受付にいる職員も顔や身体のあちこちに傷跡のある、どこのヤクザなのかというような迫力の男どもだ。
「そういう制限がまったくないのが地下闘技場になってるんよ。
後、観客もそういうのを期待してるヤバい観客ばっかりなんが特徴かな」
だが、受付の近くで対戦相手を探しているプレイヤーたちに目を向けると、どうにもアングラな雰囲気の地下闘技場に似つかわしくない明るい気配のものが多い。年齢や体格、容姿、身につけた武具などは千差万別だが、共通しているのは楽しそうな雰囲気で、表情が出にくく威圧感のあるアジムのほうが場にふさわしいくらいだ。
アジムが首をかしげていると、受付を手早く済ませて少女が戻ってきた。
「なんか、ここにいる人たちは妙に楽しげですね?」
「そんなん、あたりまえやん」
アジムが訝しく思っていたことを訪ねてみると、少女は呆れたように応えた。
「観客に見られながら叩きのめして叩きのめされて、
犯して犯されてをする場所に
わざわざ来てる連中ばっかりやねんから
今からのプレイに期待してわくわくしてるに決まってるやん?」
最後に「まあ、ウチもやねんけど」と付け足して、少女がてへへと笑う。
アジムは少女の説明に納得してから、ふと気がついてまた問いかける。
「あれ? 三人を相手に負けてしまったら、
一晩拘束されてしまうんじゃあ……?」
プレイヤーに割り当てられるスキルとパラメータの総量は誰でも同じだ。人数差はそれがそのままスキルとパラメータの数値の差になる。少女一人と三人組なら、鍛えきっていない状態でも三人組のほうがスキルとパラメータの値は多くなるだろう。その上で手数は人数の多い三人組のほうが必ず多い。少女がちゃんと鍛えきったプレイヤーだとしても、大きな不利を背負っての戦いになる。
「負けるわけないやん」
だがそれでも、アジムの問いかけに少女はさらりと応えを返した。
当たり前のことを当たり前のこととしていうその声音に、揺らぎなど微塵もない。
「ウチ、これでもランカーやからな!」
にやりと笑って胸を張る。
鎧の上からでも中身の大きなものがぶるんと揺れるのがわかった。
「ウチは《陽炎》。《陽炎》のアカネ・シンジョウや!」
胸を張ったままドヤ顔でアカネが見上げてくるのに、アジムは頷きと一緒に名乗り返す。
「そういえば名乗っていませんでしたね。
アジムです。
よろしくお願いします、アカネさん」
しかし、それはアカネが期待したリアクションではなかったらしい。
アカネはがっくりと肩を落として恨めしげにアジムを見上げる。
「二つ名持ちのランカーって名乗ったのに、
スルーされたら切ないわ……。
もーちょっとこう、リアクションしたってくれてもええんとちゃう?」
「ええと……わ、わー、すごいですね」
「もうええわ!」
素直に芝居臭い驚きの声をあげたアジムにツッコんで、アカネは気を取り直した。
「もしかして、ランカーの意味もわかってなかったかな」
「はぁ、実はそうなんです」
「むぅ……アジムくんはホンマに初心者なんやなぁ」
アジムはアカネに名を呼ばれて、無意識に眉間にシワを寄せた。
「あー……。
ごめんなぁ。馬鹿にしたつもりはなかってん」
アカネに焦るようにそう言われて、自分が不機嫌な顔になっていたことに気づいてアジムも慌てて言葉を口にする。
「あ、いや、こちらこそすみません。
初心者扱いに思うところがあったわけではないんです」
「そう? それならよかったけど」
「ただ、その……名前は、呼び捨てにしてください」
「じゃあ、アジムで呼ばせてもらおうか。
ウチもアカネでええで」
「わかりました」
そうお互いに頷き合ってから、改めてアカネが説明を続けてくれる。
「ゲーム内に色んなランキングがあるんやけど、
それぞれのランキングで5000番以上がランカーって言われるんや。
ウチは当然、戦闘ランキングやね。
他には資産ランキングとか、未開地踏破ランキングとか、
遺物発見数ランキングとか、ヤった回数ランキングとか、色々あるんや」
ふんふん、と頷きながら聞いていたアジムは最後のランキングで苦笑してしまう。
「ランカーになると運営側から二つ名をつけてもらえるんや。
これは自分で選択できるわけやなくて、
普段の言動とか戦い方からつけてもらえる。
別に二つ名があるから言うてパラメータとかスキルとかに
特別な補正がかかったりするわけやないんやけど、
ウチが《陽炎》って名乗ったら、NPCとかには
「おお、貴方があの《陽炎》さんか!」みたいに言ってもらえるんやで」
「それは特別感があって、嬉しいですね」
「せやろ。
あとは戦闘ランキングだと二つ名持ちはプレイヤー間でも強い人、
という扱いになるかな」
「それなら、やっぱり戦闘ランキングトップが一番強い人になるんですか?」
「それが意外とそうでもないんや。
ランキングトップを争ってるのは
徒党を組んでポイントを一人に集約するようなことをしてる連中や。
100位くらいまではそういうのが占めてる。
こういう連中はランキングの正常性を損ねる扱いで運営に嫌われてるみたいで
《死体漁り》とか《墓暴き》みたいな二つ名が
運営から送られてるからなんとなくわかるで。
本当に強いのは直近100試合の勝率で探す方がええやろな」
アカネがそう説明したところで手続きが終わったのか地下闘技場の掲示板に三人組の名前とアカネの名前が表示され、戦績も表示される。三人組のほうは戦績がアジムに立て続けに負けたものだけが表示されているが、アカネの方は四桁を超える戦績が表示されていた。
アカネの直近100試合の勝率は8割を超えている。一対一での戦いを重ねた結果の8割なら、その勝率は恐ろしく高い。
「さて、それじゃあ行ってこよかな」
ぐるぐると肩を回して準備運動をしながら、気負うこともなくアカネが闘技場に向かってあるき出す。
「頑張ってください」
「頑張らんでも楽勝や!」
アジムの声にも、笑みを浮かべて応じる余裕がある。
「終わったら、アジムとも同じルールでやろうか?
勝てたらウチのことブチ犯せるで」
「あ、いえ、そういうのは間に合ってますので」
咄嗟の返事で素が出た。
ギルドの仲間たちや<戦乙女たちの饗宴>の面々を散々に陵辱し尽くしたし、まだ挨拶できていないエルフの弓使いや、クラウスの二人の奥さんからも熱い視線を送られているのだ。十分に間に合っている。
「……なんやぁ? ウチには魅力がないっちゅーんか?」
「いえ、決してそういうわけでは!」
アカネの目に剣呑な光が宿るのを感じてアジムは慌てて否定するが、すでに手遅れだ。
「決めた! このあとの戦いで、
ウチが勝ったらアジムのことブチ犯したる!」
負けることなどまったく考えていない言葉だがアカネにはそれだけの実力が十分に備わっている。
強さこそが正義の闘技場で、強いものが傲慢なのは当たり前だ。
「秒で終わらしてくるわ!
すっからかんになるまで搾ったるから待っときや!」
アカネはそう言うと、大股で闘技場に向かっていった。
アジムは頭を掻きながら見送ってからまあいいかと思い直し、戦闘を観戦しようと観客席に歩き出した。
強い光に瞳を焼かれないよう目を閉じて備えているとすぐに浮遊感が身体を襲い、それが収まるとアジムは戦闘前と同じようにベルトで大剣を担いだ姿で受付前に立っていた。疲労はなかったが、威力は低くともいくつか魔法を撃ち込まれてわずかながら痛む場所もあったのだが、それも消え去っていて完全に戦場に向かう前のコンディションを取り戻している。
手に持っていたはずの大剣も元の場所に戻っていて「なるほど、これは便利なものだ」と納得して頷いていると、甲高く裏返った声が耳に飛び込んできた。
「チートだ!」
アジムが視線を向けると戦ったばかりの三人が、それぞれに顔を赤くしてアジムを睨んでいる。
「なんで魔法でダメージ入らねぇんだよ!
ダメージ無効化MODとか入れてんだろ!
チートだ、チート!
運営に報告してやるからな!」
「反応速度強化MODも入れているのか。
クズめ」
「お前みたいな低DEXが
あのコントロールで投げナイフ使えるはずないだろ!
無限ステータス・スキルMODもはいってるのか!」
口の端から泡立った唾を撒き散らしながらそれぞれに言い募る三人に、アジムは首をかしげてみせた。
「チートってなんですか?」
それが煽りだと感じた三人はさらに熱り立つ。
「なに煽りくさってんだこの野郎!
ぶっ殺すぞチート野郎!」
「チートして煽るとか最悪だな!
クズ! 死ね! クズ!」
「クソ。マジクソ。
ゲームやめて死ね!」
暴言をぶつけられたアジムは困って頭を掻いた。
何を言われているのかよくわからないが、とりあえず思ったまま言葉を口にする。
「別にズルいことをしなくても勝てますよ」
「あぁ!?」
「ちゃんと鍛えればいいんですよ」
笑みを浮かべて諭すように言うと、三人の言葉が一瞬止まる。
「スキルとステータスをきちんと上げきっていないですよね?
半端なスキルとステータスで、
ちゃんとスキルとステータスを上げきって防具を身につけている俺に
そんなの効きませんよ。
それでも効かせたいならちゃんと防具の隙間を狙わないと」
一瞬だけ静かになっていた三人は、アジムの言葉に爆発した。
「うるっせぇ!!
死ねクソが!」
「マジ死ね!」
「雑魚面なんだから大人しく死んどけカス!!」
わかりやすく主人公風の金髪の男や痛い過去になる感がアリアリの銀髪の男だけでなく、総髪の男まで激して語彙力が激しく低下した言葉で罵ってくる。
せっかくアドバイスをしたのに聞く気のない三人に、アジムはまた頭を掻きながら困ってしまう。弱いなら鍛えれば強くなれるし、弱いまま戦うなら戦い方を突き詰めるべきだ。そう考えるアジムには、目の前の三人の「自分たちが思うまま気持ちよく勝てるべきだ」という考えは理解できない。
「にーちゃん、にーちゃん。
正論パンチはそのくらいで堪忍したり」
アジムが困り続けているとけらけらと笑う声とともに、後ろから腰のあたりを叩かれた。
アジムが振り返るとショートカットの赤い髪の少女が、笑みを浮かべてアジムを見上げていた。イタズラっぽく細められた目は髪と同じ色合いの赤い輝きを宿し、気の強さと人懐っこさを同居させている。年や背丈はリリィと同じくらいに見え、顔には美しさよりも愛らしさの割合のほうが大きい。だがその身体の方は完全に熟れきった女のそれだ。胸や尻はむっちりと張り、どちらもアジムの大きな手でも存分に揉みしだいて堪能できそうなほどたわわに実っている。
そんなアンバランスさが雄の劣情を刺激する少女だったが、その大きな胸と尻を革鎧に押し込めて、刀を腰に差していた。全体的に洋風のいでたちだが、得物だけが和風だ。リリィや金髪の男が身につけているような革鎧を身に着けていることから、なんとなく魔法剣士型ではないかとアジムはあたりを付けた。
「にーちゃんはパラメータとスキルを上げてる人やんなぁ?
装備もしっかりしてそうやし、
死んだり負けたりしても気にせぇへんねんやったら、
中位を飛ばして上位で対戦を組んでもろたほうがええと思うで」
「そうなんですか?
でも、あまりにも俺の戦績が悪すぎて、
戦ってくれる人にメリットがないから戦いが成立しないんじゃないでしょうか」
「耐久型の人はめっちゃ少ないから、
経験を積むために戦いたがってる人は多いんよ。
心配せんでもマッチングはすると思うけど……
アレやったらウチとやる? ほかにもウチのギルドの連中も紹介したれるよ」
「是非、お願いします!」
「おー。ほな、上位の受付に行こかー」
アジムと少女が連れ立って上位の受付に向かいかけたところで、ようやく金髪の男が声を上げた。
「お前! ふざけんなよ!
ソイツとは俺たちがまだ話してるだろうが!」
怒鳴るようにして声をかけられた少女が面倒くさそうに振り返る。
「どうせ負けるから、にーちゃんにリベンジマッチする気もないんやろ。
色んな意味でもう終わっとるやん」
「あぁ!?」
「普段はスキルもろくに覚えてないNPC相手に圧勝して
イキリ散らかしとるんやろ。
たまたま見つけた勝率の低いにーちゃんやったらPC相手でも勝てると思たのに
返り討ちにおうてもて、プライド傷ついたんやなぁ」
少女のほうが身長は低いのにあからさまに見下した視線になって、
「これに懲りて初心者狩りみたいなことせんと、
NPC相手に自慰っときーや」
口元ににんまりと笑みを浮かべると一音ずつ区切るようにして言った。
「ざ・ぁ・こ♡」
「ぶっ殺してやる!!」
目の前の少女が上位受付を使っているという事実を忘れて金髪の男が吠える。
少女の笑みが獲物を見つけた猫のように残酷さを帯びて深くなった。
「量産型主人公顔が吐かしよる。
ええで。相手したろ」
少女に笑いかけられて、自分が絶対勝てない相手に喧嘩を売ってしまったことに気づいた金髪の男が怯む。
「ああ、けど、そっちの男と戦ったばかりだから、
今日は、その……」
金髪の男の言い訳に、少女はうんざりと吐き捨てた。
「なんや。喧嘩売っておいてヘタれるんかい。
しゃーないなぁ。三人まとめてでもOKにしたるわ。
さすがにそれやったらチャンスあるんちゃう?」
急に巻き込まれた総髪の男と銀髪の男が顔を見合わせる。
少女は身を翻して背を向けると、分厚いズボンを履いていてもむっちりとした張りが見て取れる尻を振って見せた。
「勝てたらウチを一晩好きにさせたるわ。
三人で輪姦すんやったら
穴の数はちょうどええやろ」
三人の顔が暴力的な性欲で塗りたくられる。目の前で挑発を繰り返す少女にはどう逆立ちしても一対一では絶対に勝てない。だが、三人がかりなら、もしかすると。
そんな希望を抱いて少女を見れば、戦うには不向きなほど大きな胸と、白々しく目の前で振られているむちむちとした尻。それだけでも十分に性欲を煽るが、嘲るように笑うその顔を、ぐちゃぐちゃに犯し尽くして泣き顔にしてやりたい。
「わかった。それなら、地下闘技場のほうでやるんだな。
三対一だ。変更は認めねーぞ」
金髪の男の言葉に、他の二人も異議を唱えなかった。
「ええで。ほな先に行ってルール設定とかやっといてや」
三人がいそいそと去っていくのを見送って、少女はようやくアジムを振り返った。
「ごめんなぁ、にーちゃん。
ちょっと待ったってくれるかなぁ」
両手を顔の前で合わせ、申し訳無さそうに見上げつつ、
「あかんかったら、他の対戦者を探してくれてもええよ。
ウチの勝手で待たせてしまうのも申し訳ないし」
そんな風に言葉を連ねる少女に、アジムは苛立つこともなく首を横に振る。
「せっかくなので待ちますよ。
地下闘技場というのがあるのも知らなかったので、
そちらも教えてもらいたいですし」
「そお?
ほな、そっちに移動しながら説明しよか」
少女が歩き出すのに合わせてアジムも少し遅れ、その背を追って歩き始めた。
少女が向かったのは受付の大広間の片隅にある下り階段だ。そこからは地下になるらしく、階段を降りるごとに陽光が遠くなる。そして、意図的なのか明かりがあまり灯されていないために、妙に薄暗い。
「上の普通の闘技場は、本当に普通に戦うだけやねん。
もちろん、プレイヤーランキングは変動するし、
戦うルールも色々細かく変更はできるけど、
こう、闘技場の場で対戦相手を拘束して拷問したり、
強姦したりとかはできんようになってる」
そんな降りてくるものを拒絶するような気配の階段を下り切ると、そこが地下闘技場の受付になっていた。地上の受付には上位中位下位のそれぞれに女性の受付嬢がいて、役場か銀行かというような事務的ではあるが明るい気配の場所だったが、地下闘技場の受付はそれまでの階段と同じように明かりが少なく、薄汚れたなんとも胡散臭い雰囲気が漂っている。受付にいる職員も顔や身体のあちこちに傷跡のある、どこのヤクザなのかというような迫力の男どもだ。
「そういう制限がまったくないのが地下闘技場になってるんよ。
後、観客もそういうのを期待してるヤバい観客ばっかりなんが特徴かな」
だが、受付の近くで対戦相手を探しているプレイヤーたちに目を向けると、どうにもアングラな雰囲気の地下闘技場に似つかわしくない明るい気配のものが多い。年齢や体格、容姿、身につけた武具などは千差万別だが、共通しているのは楽しそうな雰囲気で、表情が出にくく威圧感のあるアジムのほうが場にふさわしいくらいだ。
アジムが首をかしげていると、受付を手早く済ませて少女が戻ってきた。
「なんか、ここにいる人たちは妙に楽しげですね?」
「そんなん、あたりまえやん」
アジムが訝しく思っていたことを訪ねてみると、少女は呆れたように応えた。
「観客に見られながら叩きのめして叩きのめされて、
犯して犯されてをする場所に
わざわざ来てる連中ばっかりやねんから
今からのプレイに期待してわくわくしてるに決まってるやん?」
最後に「まあ、ウチもやねんけど」と付け足して、少女がてへへと笑う。
アジムは少女の説明に納得してから、ふと気がついてまた問いかける。
「あれ? 三人を相手に負けてしまったら、
一晩拘束されてしまうんじゃあ……?」
プレイヤーに割り当てられるスキルとパラメータの総量は誰でも同じだ。人数差はそれがそのままスキルとパラメータの数値の差になる。少女一人と三人組なら、鍛えきっていない状態でも三人組のほうがスキルとパラメータの値は多くなるだろう。その上で手数は人数の多い三人組のほうが必ず多い。少女がちゃんと鍛えきったプレイヤーだとしても、大きな不利を背負っての戦いになる。
「負けるわけないやん」
だがそれでも、アジムの問いかけに少女はさらりと応えを返した。
当たり前のことを当たり前のこととしていうその声音に、揺らぎなど微塵もない。
「ウチ、これでもランカーやからな!」
にやりと笑って胸を張る。
鎧の上からでも中身の大きなものがぶるんと揺れるのがわかった。
「ウチは《陽炎》。《陽炎》のアカネ・シンジョウや!」
胸を張ったままドヤ顔でアカネが見上げてくるのに、アジムは頷きと一緒に名乗り返す。
「そういえば名乗っていませんでしたね。
アジムです。
よろしくお願いします、アカネさん」
しかし、それはアカネが期待したリアクションではなかったらしい。
アカネはがっくりと肩を落として恨めしげにアジムを見上げる。
「二つ名持ちのランカーって名乗ったのに、
スルーされたら切ないわ……。
もーちょっとこう、リアクションしたってくれてもええんとちゃう?」
「ええと……わ、わー、すごいですね」
「もうええわ!」
素直に芝居臭い驚きの声をあげたアジムにツッコんで、アカネは気を取り直した。
「もしかして、ランカーの意味もわかってなかったかな」
「はぁ、実はそうなんです」
「むぅ……アジムくんはホンマに初心者なんやなぁ」
アジムはアカネに名を呼ばれて、無意識に眉間にシワを寄せた。
「あー……。
ごめんなぁ。馬鹿にしたつもりはなかってん」
アカネに焦るようにそう言われて、自分が不機嫌な顔になっていたことに気づいてアジムも慌てて言葉を口にする。
「あ、いや、こちらこそすみません。
初心者扱いに思うところがあったわけではないんです」
「そう? それならよかったけど」
「ただ、その……名前は、呼び捨てにしてください」
「じゃあ、アジムで呼ばせてもらおうか。
ウチもアカネでええで」
「わかりました」
そうお互いに頷き合ってから、改めてアカネが説明を続けてくれる。
「ゲーム内に色んなランキングがあるんやけど、
それぞれのランキングで5000番以上がランカーって言われるんや。
ウチは当然、戦闘ランキングやね。
他には資産ランキングとか、未開地踏破ランキングとか、
遺物発見数ランキングとか、ヤった回数ランキングとか、色々あるんや」
ふんふん、と頷きながら聞いていたアジムは最後のランキングで苦笑してしまう。
「ランカーになると運営側から二つ名をつけてもらえるんや。
これは自分で選択できるわけやなくて、
普段の言動とか戦い方からつけてもらえる。
別に二つ名があるから言うてパラメータとかスキルとかに
特別な補正がかかったりするわけやないんやけど、
ウチが《陽炎》って名乗ったら、NPCとかには
「おお、貴方があの《陽炎》さんか!」みたいに言ってもらえるんやで」
「それは特別感があって、嬉しいですね」
「せやろ。
あとは戦闘ランキングだと二つ名持ちはプレイヤー間でも強い人、
という扱いになるかな」
「それなら、やっぱり戦闘ランキングトップが一番強い人になるんですか?」
「それが意外とそうでもないんや。
ランキングトップを争ってるのは
徒党を組んでポイントを一人に集約するようなことをしてる連中や。
100位くらいまではそういうのが占めてる。
こういう連中はランキングの正常性を損ねる扱いで運営に嫌われてるみたいで
《死体漁り》とか《墓暴き》みたいな二つ名が
運営から送られてるからなんとなくわかるで。
本当に強いのは直近100試合の勝率で探す方がええやろな」
アカネがそう説明したところで手続きが終わったのか地下闘技場の掲示板に三人組の名前とアカネの名前が表示され、戦績も表示される。三人組のほうは戦績がアジムに立て続けに負けたものだけが表示されているが、アカネの方は四桁を超える戦績が表示されていた。
アカネの直近100試合の勝率は8割を超えている。一対一での戦いを重ねた結果の8割なら、その勝率は恐ろしく高い。
「さて、それじゃあ行ってこよかな」
ぐるぐると肩を回して準備運動をしながら、気負うこともなくアカネが闘技場に向かってあるき出す。
「頑張ってください」
「頑張らんでも楽勝や!」
アジムの声にも、笑みを浮かべて応じる余裕がある。
「終わったら、アジムとも同じルールでやろうか?
勝てたらウチのことブチ犯せるで」
「あ、いえ、そういうのは間に合ってますので」
咄嗟の返事で素が出た。
ギルドの仲間たちや<戦乙女たちの饗宴>の面々を散々に陵辱し尽くしたし、まだ挨拶できていないエルフの弓使いや、クラウスの二人の奥さんからも熱い視線を送られているのだ。十分に間に合っている。
「……なんやぁ? ウチには魅力がないっちゅーんか?」
「いえ、決してそういうわけでは!」
アカネの目に剣呑な光が宿るのを感じてアジムは慌てて否定するが、すでに手遅れだ。
「決めた! このあとの戦いで、
ウチが勝ったらアジムのことブチ犯したる!」
負けることなどまったく考えていない言葉だがアカネにはそれだけの実力が十分に備わっている。
強さこそが正義の闘技場で、強いものが傲慢なのは当たり前だ。
「秒で終わらしてくるわ!
すっからかんになるまで搾ったるから待っときや!」
アカネはそう言うと、大股で闘技場に向かっていった。
アジムは頭を掻きながら見送ってからまあいいかと思い直し、戦闘を観戦しようと観客席に歩き出した。
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