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復讐の騎士 リリィ・フランネル
復讐の騎士 リリィ・フランネル(10)
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リリィはアジムが剣術演習を始めたのを見て、適当な本を選んで近くの椅子に浅く座る。いつでも剣を抜けるよう右手を開けて、本はすぐに投げ出せるよう左手で軽く持つ。街中とは言え、スキル演習をする個室とわかっている場所だ。演習中でまったく無防備になっているプレイヤーを狙った盗賊プレイヤーが出没する。ましてや、ここはゲーム中最大のプレイヤータウンのあるチューリッヒの図書館だ。スキル演習を利用するプレイヤーは多く、それを狙う盗賊プレイヤーも多い。
そう言えば、そういった危険を説明しておくのを忘れていたなと反省しつつ、リリィは本と出入口に半分ずつ注意と視線を振り分けてアジムの演習が終わるのを待つ。そうしてゆっくりと待つつもりをしていたのだが、リリィの予想よりもずいぶんと早く、剣術演習をしていたアジムの目が開いた。
「あれ、ずいぶん早かったね?」
「ええ、まぁ……」
珍しく歯切れの悪いアジムの言葉にリリィが首をかしげていると、アジムは手に持っていた一刀流の本を棚に戻し、別の流派の本を取り出した。
「合わなかった?」
「そうですね……いくつか試してみようとは思ってますけど、
刀を前提にした剣術は合わないかもしれません」
アジムのその言葉は正しく、剣術演習を進めるにしたがって困惑が深まっていくのが見ていてよく分かった。示現流の演習を終わらせたアジムは本を棚に直して、困ったように頭を掻く。
「う~ん……。
受けの技術とかは凄く参考になるんですけど、
刀の剣術はどれも速さを求められる剣術なので、
俺にはあまり使いこなせそうにないですねぇ」
リリィはそんな風に嘆くアジムに、別の棚から探しておいた本を差し出した。これも剣術の本だが、手にする剣や身に着ける武具の想定が大きく違う。両手で持つ重い剣と、重厚な鎧を前提とした剣術だ。
「ドイツ流剣術……ですか」
「うん。アジムくんの装備だと、
こっちのほうがあってるんじゃないかな思って」
「ありがとうございます。
試してみます」
アジムが改めて目を閉じて剣の世界に没入する。リリィはほかにも西洋剣術の本を探し出してアジムが目を開けるのを待っていたが、それまでよりも明らかに長い時間、目を閉じて演習しているのを感じたリリィは笑みを浮かべて椅子に腰を落ち着けた。
リリィが適当に選んだ本も剣術教本だ。久しぶりにこうしてゆっくり目を通してみると、勉強になることも多い。思わず熱を入れて読み始めてしまい、気が付くと演習を済ませていたアジムがリリィを待ってくれていた。
「あ、ごめんね。もう終わってたんだ」
アジムはリリィの言葉に笑みを返し、
「ありがとうございます、リリィさん。
俺にはこの剣術、すごくいいです」
そう言って嬉しそうにドイツ流剣術の教本を示す。日本の運営が作ったものなのですべての技法が網羅された完全な教本ではないのだが、両手持ちの重い剣を効率よく振り回す手法や、剣を触れ合わせたところからの技術、剣を振るった後の隙を蹴りや体当たりでフォローする考え方など、剣や鎧の重量を欠点ではなく利点とする剣術はアジムのステータスや装備によく合った。
「そっか。うまく使えそうなら薦めた甲斐があったよ」
アジムとリリィは連れ立って図書館を後にする。演習をいくつかやっている間にそれなりに時間が過ぎ去っていた。日は暮れたがまだわずかに陽光が残る薄暮の時間、チューリッヒの街に明かりがともり始めている。天から降り注ぐものではなく、人々が手に手に灯す明かりたちは昼間のような強い輝きではなかったが、ゆらゆらと揺れて石造りの町並みに影を躍らせる。
魔法が一般的で、油や炭以外の明かりがあるので日が落ちても人通りは極端に少なくはならない。光魔法を使って明かりを売り歩く行商や、一夜の春を売る女たちなど、薄暗くなってから仕事に出てきたものたちもいて、街はまだまだにぎやかだ。
リリィはアジムと来た道を遡るように歩いていたが、アジムからぼそりととんでもない言葉が零れるのを聞いた。
「……腹減ったな」
「もう!?」
串焼きを食べてからそう時間は経っていないのだが。
リリィの信じられないと言いたげな声を聞いて、アジムは頭を掻いた。
「あー。まあ、そろそろ晩御飯の時間だし、何か食べようか」
アジムが嬉しそうに頷くのに苦笑して、
「どうする? プレイヤータウンのほうまで戻る?
それともこのあたりのお店でスイス料理のお店に入ってみる?」
リリィの言葉を聞いてアジムは視線を川沿いに向けた。淡い魔法の明かりに浮かび上がる川べりに、色々な店のテラス席がおぼろげに見えている。川からの涼風と夜景を楽しみながら口にする酒や料理は旨いだろう。
「この辺りでお店に入ってみましょうか」
「そうだね。せっかくこちらまで来たんだし、
知らない料理を食べてみようか」
頷き合って川べりの店が立ち並ぶほうに足を向け、適当に覗き込む。馴染みのないスイス料理の良し悪しなどわからないので店の雰囲気を見ながら歩いていると、一軒の酒場を見つけた。鎧を身に着けたまま高級なレストランに入るのは気が引ける。それでもお互いの声が聞こえないほどのバカ騒ぎしている酒場も御免だ。ちょうどいい騒々しさと、漂う料理の匂いに誘われてアジムが目を向けていると、それに気が付いたリリィも目を向けた。メニューを見ようと二人で近づくと、恰幅のいい女将に見つかって声をかけられ、あれよあれよという間に席まで案内されてしまう。テラス席に案内してもらえたのはありがたかったが、客引きに抵抗できなかった二人はお互いに苦笑を見合わせた。
「さーて、お二人さん。何にするね?」
「んー。私たちはこのあたり初めてだから、
おばちゃんのオススメでこのあたりの名物を食べさせてほしいな!」
「そうなのかい!
それじゃあ、旨いものをしっかり覚えて帰ってもらわないといけないねぇ。
たくさん食べておくれよ」
アジムはドイツ語が理解できないのだが、リリィと女将の雰囲気でなんとなくわかったような気になって頷きを返し、リリィに頼んでビールを注文してもらった。即座にザワークラウトと一緒に木のジョッキで提供されたビールは濃厚な黒ビールで、冷えてはいないが味わい深い。炭酸の少ないビールは初めて飲んだが、これはこれで旨い。少し遅れて女将が持ってきてくれた肉感の強いヴルストも相性抜群で、ビールが進む進む。
リリィはヴルストと一緒にチューリッヒ名物として持ってこられたツーリッヒャー・ゲシュネッツェルテスを口に入れて目を輝かせた。
「アジムくん、これ、すごくおいしいよ!」
リリィが同じ皿に盛られていたレシュティと一緒にフォークに乗せて差し出すと、アジムは一瞬ためらってから差し出されたフォークを口にした。
「ね、おいしいでしょ?」
アジムががくがくと首を縦に振る。凄まじいペースでビールを飲んでいたからなのか、急に赤くなったアジムに水も飲んでおくように言うが「そういうわけじゃないんですよ」とため息交じりに返された。首を傾げたリリィに、今度はアジムが切り分けたヴルストをフォークに刺して差し出してくれる。遠慮なくそれに食いつくと、しっかりとした肉感の噛めば噛むほど味が広がるヴルストに笑みがこぼれた。
「わあ、これもおいしいねぇ」
苦笑していたアジムだったが、美味しそうににこにこするリリィに苦笑から苦みが抜けて、アジムも笑顔になった。そんな風に笑みを交し合う二人を微笑ましく思いながら、女将は持ってきたとろとろに溶けたチーズの鍋をテーブルにどしんと置いた。
「さあ、スイスに来たならフォンデュも食べてもらわないとねぇ」
二人から思わず漏れた歓声に気分を良くしながら、女将はパンや温野菜と一緒に白ワインのボトルを用意してやった。フォンデュにはビールよりもこちらのほうが合う。アジムは嬉しそうにパンにチーズを絡めてもりもり食べているが、チーズフォンデュを少し食べると満腹になったらしいリリィは椅子の背もたれに身体を預けた。
「ゆっくり食べてね、アジムくん」
焦って残りの料理を口に詰め込もうとしたアジムに苦笑しながらそんな風に言って、ちびちびとワインをやりながらアジムが食べ終わるのを待っているリリィに気づいた女将はワインの肴になるようにと、ビュンドナーフライシュをスライスしたものを、生野菜と一緒に出してやった。
リリィが女将に礼を言って腰を落ち着けて飲み始めたのを感じて、アジムも気兼ねなくゆっくり食べる。最後にフォンデュ鍋の底に残ったかりかりとしたチーズまでしっかり腹に納めて、アジムもワイングラスを手に取った。
「お腹いっぱい?」
「はい。ずいぶんとお待たせしました」
「いいよいいよ。
アジムくんが食べるのは見ていて気持ちいいから」
食べる姿を観察されていたことに少し照れながら、アジムもワインを口にする。
「今日は半日近く付き合ってもらってありがとうございました。
買い物だけじゃなく、自分に合う剣術まで見つけてもらって、
本当に助かりました」
「ううん。私も楽しかったから気にしないで」
リリィはワインが回ってきたのか、ほんのり赤らんだ顔に笑みを浮かべる。
「何かお礼させてもらえたらいいんですけど。
俺だとリリィさんに何が提供できますかねぇ」
アジムがそんなふうに言いながら何かお礼にできるものがないか検討していると、急にリリィの目が泳ぎだした。
「い、いや、アジムくんなら、お礼ってすごいのがあるじゃない?」
「んー。何かありましたっけ?」
うー、とじっとりした目でリリィが唸り声をあげる。
「私がアジムくんに初めて声をかけたとき、
どうしてもらったか忘れちゃったわけじゃないよね?
私から言わせたいんだったら、アジムくん、いじわるだよっ」
アジムはリリィの言葉に「えっ」と声を漏らし、
「そんなのでいいんですか?」
「そんなのでいいの!」
やけくそ気味に叫んだリリィは、昼間に買い物していたときに手に取っていたポーションを懐から取り出してアジムに押し付けた。
「今週末!
これ飲んで私と戦って、叩き潰して監禁して!」
ポーションのラベルには「超!精力剤」と書かれていた。
そう言えば、そういった危険を説明しておくのを忘れていたなと反省しつつ、リリィは本と出入口に半分ずつ注意と視線を振り分けてアジムの演習が終わるのを待つ。そうしてゆっくりと待つつもりをしていたのだが、リリィの予想よりもずいぶんと早く、剣術演習をしていたアジムの目が開いた。
「あれ、ずいぶん早かったね?」
「ええ、まぁ……」
珍しく歯切れの悪いアジムの言葉にリリィが首をかしげていると、アジムは手に持っていた一刀流の本を棚に戻し、別の流派の本を取り出した。
「合わなかった?」
「そうですね……いくつか試してみようとは思ってますけど、
刀を前提にした剣術は合わないかもしれません」
アジムのその言葉は正しく、剣術演習を進めるにしたがって困惑が深まっていくのが見ていてよく分かった。示現流の演習を終わらせたアジムは本を棚に直して、困ったように頭を掻く。
「う~ん……。
受けの技術とかは凄く参考になるんですけど、
刀の剣術はどれも速さを求められる剣術なので、
俺にはあまり使いこなせそうにないですねぇ」
リリィはそんな風に嘆くアジムに、別の棚から探しておいた本を差し出した。これも剣術の本だが、手にする剣や身に着ける武具の想定が大きく違う。両手で持つ重い剣と、重厚な鎧を前提とした剣術だ。
「ドイツ流剣術……ですか」
「うん。アジムくんの装備だと、
こっちのほうがあってるんじゃないかな思って」
「ありがとうございます。
試してみます」
アジムが改めて目を閉じて剣の世界に没入する。リリィはほかにも西洋剣術の本を探し出してアジムが目を開けるのを待っていたが、それまでよりも明らかに長い時間、目を閉じて演習しているのを感じたリリィは笑みを浮かべて椅子に腰を落ち着けた。
リリィが適当に選んだ本も剣術教本だ。久しぶりにこうしてゆっくり目を通してみると、勉強になることも多い。思わず熱を入れて読み始めてしまい、気が付くと演習を済ませていたアジムがリリィを待ってくれていた。
「あ、ごめんね。もう終わってたんだ」
アジムはリリィの言葉に笑みを返し、
「ありがとうございます、リリィさん。
俺にはこの剣術、すごくいいです」
そう言って嬉しそうにドイツ流剣術の教本を示す。日本の運営が作ったものなのですべての技法が網羅された完全な教本ではないのだが、両手持ちの重い剣を効率よく振り回す手法や、剣を触れ合わせたところからの技術、剣を振るった後の隙を蹴りや体当たりでフォローする考え方など、剣や鎧の重量を欠点ではなく利点とする剣術はアジムのステータスや装備によく合った。
「そっか。うまく使えそうなら薦めた甲斐があったよ」
アジムとリリィは連れ立って図書館を後にする。演習をいくつかやっている間にそれなりに時間が過ぎ去っていた。日は暮れたがまだわずかに陽光が残る薄暮の時間、チューリッヒの街に明かりがともり始めている。天から降り注ぐものではなく、人々が手に手に灯す明かりたちは昼間のような強い輝きではなかったが、ゆらゆらと揺れて石造りの町並みに影を躍らせる。
魔法が一般的で、油や炭以外の明かりがあるので日が落ちても人通りは極端に少なくはならない。光魔法を使って明かりを売り歩く行商や、一夜の春を売る女たちなど、薄暗くなってから仕事に出てきたものたちもいて、街はまだまだにぎやかだ。
リリィはアジムと来た道を遡るように歩いていたが、アジムからぼそりととんでもない言葉が零れるのを聞いた。
「……腹減ったな」
「もう!?」
串焼きを食べてからそう時間は経っていないのだが。
リリィの信じられないと言いたげな声を聞いて、アジムは頭を掻いた。
「あー。まあ、そろそろ晩御飯の時間だし、何か食べようか」
アジムが嬉しそうに頷くのに苦笑して、
「どうする? プレイヤータウンのほうまで戻る?
それともこのあたりのお店でスイス料理のお店に入ってみる?」
リリィの言葉を聞いてアジムは視線を川沿いに向けた。淡い魔法の明かりに浮かび上がる川べりに、色々な店のテラス席がおぼろげに見えている。川からの涼風と夜景を楽しみながら口にする酒や料理は旨いだろう。
「この辺りでお店に入ってみましょうか」
「そうだね。せっかくこちらまで来たんだし、
知らない料理を食べてみようか」
頷き合って川べりの店が立ち並ぶほうに足を向け、適当に覗き込む。馴染みのないスイス料理の良し悪しなどわからないので店の雰囲気を見ながら歩いていると、一軒の酒場を見つけた。鎧を身に着けたまま高級なレストランに入るのは気が引ける。それでもお互いの声が聞こえないほどのバカ騒ぎしている酒場も御免だ。ちょうどいい騒々しさと、漂う料理の匂いに誘われてアジムが目を向けていると、それに気が付いたリリィも目を向けた。メニューを見ようと二人で近づくと、恰幅のいい女将に見つかって声をかけられ、あれよあれよという間に席まで案内されてしまう。テラス席に案内してもらえたのはありがたかったが、客引きに抵抗できなかった二人はお互いに苦笑を見合わせた。
「さーて、お二人さん。何にするね?」
「んー。私たちはこのあたり初めてだから、
おばちゃんのオススメでこのあたりの名物を食べさせてほしいな!」
「そうなのかい!
それじゃあ、旨いものをしっかり覚えて帰ってもらわないといけないねぇ。
たくさん食べておくれよ」
アジムはドイツ語が理解できないのだが、リリィと女将の雰囲気でなんとなくわかったような気になって頷きを返し、リリィに頼んでビールを注文してもらった。即座にザワークラウトと一緒に木のジョッキで提供されたビールは濃厚な黒ビールで、冷えてはいないが味わい深い。炭酸の少ないビールは初めて飲んだが、これはこれで旨い。少し遅れて女将が持ってきてくれた肉感の強いヴルストも相性抜群で、ビールが進む進む。
リリィはヴルストと一緒にチューリッヒ名物として持ってこられたツーリッヒャー・ゲシュネッツェルテスを口に入れて目を輝かせた。
「アジムくん、これ、すごくおいしいよ!」
リリィが同じ皿に盛られていたレシュティと一緒にフォークに乗せて差し出すと、アジムは一瞬ためらってから差し出されたフォークを口にした。
「ね、おいしいでしょ?」
アジムががくがくと首を縦に振る。凄まじいペースでビールを飲んでいたからなのか、急に赤くなったアジムに水も飲んでおくように言うが「そういうわけじゃないんですよ」とため息交じりに返された。首を傾げたリリィに、今度はアジムが切り分けたヴルストをフォークに刺して差し出してくれる。遠慮なくそれに食いつくと、しっかりとした肉感の噛めば噛むほど味が広がるヴルストに笑みがこぼれた。
「わあ、これもおいしいねぇ」
苦笑していたアジムだったが、美味しそうににこにこするリリィに苦笑から苦みが抜けて、アジムも笑顔になった。そんな風に笑みを交し合う二人を微笑ましく思いながら、女将は持ってきたとろとろに溶けたチーズの鍋をテーブルにどしんと置いた。
「さあ、スイスに来たならフォンデュも食べてもらわないとねぇ」
二人から思わず漏れた歓声に気分を良くしながら、女将はパンや温野菜と一緒に白ワインのボトルを用意してやった。フォンデュにはビールよりもこちらのほうが合う。アジムは嬉しそうにパンにチーズを絡めてもりもり食べているが、チーズフォンデュを少し食べると満腹になったらしいリリィは椅子の背もたれに身体を預けた。
「ゆっくり食べてね、アジムくん」
焦って残りの料理を口に詰め込もうとしたアジムに苦笑しながらそんな風に言って、ちびちびとワインをやりながらアジムが食べ終わるのを待っているリリィに気づいた女将はワインの肴になるようにと、ビュンドナーフライシュをスライスしたものを、生野菜と一緒に出してやった。
リリィが女将に礼を言って腰を落ち着けて飲み始めたのを感じて、アジムも気兼ねなくゆっくり食べる。最後にフォンデュ鍋の底に残ったかりかりとしたチーズまでしっかり腹に納めて、アジムもワイングラスを手に取った。
「お腹いっぱい?」
「はい。ずいぶんとお待たせしました」
「いいよいいよ。
アジムくんが食べるのは見ていて気持ちいいから」
食べる姿を観察されていたことに少し照れながら、アジムもワインを口にする。
「今日は半日近く付き合ってもらってありがとうございました。
買い物だけじゃなく、自分に合う剣術まで見つけてもらって、
本当に助かりました」
「ううん。私も楽しかったから気にしないで」
リリィはワインが回ってきたのか、ほんのり赤らんだ顔に笑みを浮かべる。
「何かお礼させてもらえたらいいんですけど。
俺だとリリィさんに何が提供できますかねぇ」
アジムがそんなふうに言いながら何かお礼にできるものがないか検討していると、急にリリィの目が泳ぎだした。
「い、いや、アジムくんなら、お礼ってすごいのがあるじゃない?」
「んー。何かありましたっけ?」
うー、とじっとりした目でリリィが唸り声をあげる。
「私がアジムくんに初めて声をかけたとき、
どうしてもらったか忘れちゃったわけじゃないよね?
私から言わせたいんだったら、アジムくん、いじわるだよっ」
アジムはリリィの言葉に「えっ」と声を漏らし、
「そんなのでいいんですか?」
「そんなのでいいの!」
やけくそ気味に叫んだリリィは、昼間に買い物していたときに手に取っていたポーションを懐から取り出してアジムに押し付けた。
「今週末!
これ飲んで私と戦って、叩き潰して監禁して!」
ポーションのラベルには「超!精力剤」と書かれていた。
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