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復讐の騎士 リリィ・フランネル

復讐の騎士 リリィ・フランネル(2)

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「それじゃあ、戦いやすい亜人デミヒューマン魔物モンスターが出る洞窟に行こうか」

 そんなクラウスの言葉と共に開かれた<帰還の門リコール・ゲート>に、商会に残るソフィアに見送られて足を踏み入れる。真っ白な光に包まれて足元が浮き上がるような感触を感じながら足を進め、光で奪われていた視界が回復すると、そこはすでに森の中だった。切り立った岩壁に、巨大な剣で斬りつけたように口を開けている洞窟があり、その横に先に到着していたらしいメルフィナと、歓迎会でも見かけた泣き黒子が印象的な金髪の女性が待っていた。

「ミランダです。
 よろしくお願いしますね」
「アジムです。こちらこそよろしくお願いします」

 挨拶もそこそこに接点が薄かった女性と改めて自己紹介し合う。灰色がかった金髪をかっちりとシニヨンにまとめている。そこからほつれた前髪が緩くウェーブしながら柔らかな青い瞳と泣き黒子にかかっていた。赤い唇には紅がひかれていて健康的に白い肌のなかで色を放っている。年のころは20台半ばから後半だろうか。隣に並んだメルフィナと比べても少し上に見えた。アジム自身以外で身に着けている人を初めて見た金属鎧を身に着けている。と言っても、アジムが装備している重量と防御力のある板金鎧プレートアーマーではなく、鉄片をつなぎ合わせた鱗鎧スケイルアーマーだ。それでもリリィやシズカのような皮鎧と比べると防御力は段違いだろう。手には円形の盾ラウンドシールドを持っていて、腰には金属製の鈍器メイスを下げている。盾は上半身を覆うに十分な大きさだが、腕にベルトで固定するようなものではなく手持ちの盾だ。鈍器は持ち手が小さな片手用のものだが先端が丸い鉄球になっていて、そこから大量の棘が突き出ている。殴ると鎧を粉砕しながら肉を抉る凶悪な得物だ。剣で斬られるより治りの遅い傷になるだろう。

「アジムさん、これをお渡ししておきます」

 アジムがミランダの装備を観察していると、メルフィナに声をかけられた。差し出されたのは紫がかった宝石の嵌った指輪と、薔薇のレリーフがあしらわれた指輪だった。

「これは?」
「私の塔とローズガーデン商会に向かって<帰還リコール>を使える魔道具です。
 指輪を握って集中時間1分を取ってもらって<帰還>と口に出せば使えますよ」
「俺は魔法系スキルを何も持っていませんけど……」
「<帰還>の魔道具を使うだけならスキルはいりませんよ。
 ただ<帰還>の魔法をチャージする必要があるので、
 5回くらい使ったら私に言ってチャージしてくださいね。
 今は最大の10回分がチャージされていますよ」

 受け取りながら質問すると、メルフィナがそう説明してくれた。

「これ、残っているチャージ回数はわからないんですか?」
「『鑑定』のスキルが入っていればわかるんですけどね。
 微妙な不便さはスキルなしで使うから仕方ないですよ」
「なるほど」

 アジムは受け取った指輪を自分の右手の指に嵌め……ようとして、指が太すぎて嵌らない。
 メルフィナが目を丸くして苦笑する。

「私の手持ちの指輪で一番大きいのを使ったんですけど……
 ダメみたいですね」

 アジムは頭を掻いた。メルフィナが髪をまとめるのに使う飾り紐を取り出して指輪に通し、端を結んで大きな輪を作ってくれる。ちょいちょい、と手招かれて頭を下げると、それを首にかけてくれた。

「パーティで固まって動く予定ですけど、はぐれてしまったときに使ってくださいね」
「ありがとうございます。
 これ、ありがたいですけど、高いものだったりしませんか?」
「<帰還>の魔道具自体は安いものなので、
 人をたくさん呼び込みたいプレイヤーのお店とかだと
 無料で配ったりしていますよ」
「そうなんですか? じゃあ、いただいておきます。
 ありがとうございます」

 笑みを浮かべて頭を下げるアジムに、いえいえ、とメルフィナも微笑んだ。
 実際のところは<帰還>の魔道具は安く作れるが、メルフィナの塔やローズガーデン商会とわかるようにした指輪のほうが「ちょっとする」価格だったりする。それでもメルフィナからすれば死んで失くしてしまっても「あちゃー」程度で済む価格なので、あえてアジムに伝えるつもりはない。

「アジム、メルフィナさんから<帰還>もらった?
 そう、それじゃあ、入る準備しようか」

 アジムが頷いて見せると、クラウスは集中のために目を閉じた。同じようにミランダが集中のために目を閉じていて、リリィがアジムに近づいてきた。

「アジムくん、松明たいまつを出してくれる?」

 アジムが事前に渡されていた松明を荷物から取り出すと、礼を言って受け取ったリリィは魔法でそれに火を灯した。赤々とした火が松明の先で燃え上がる。さらに、クラウスが<夜目ナイトビジョン>の魔法を各自にかけ、ミランダが自分の盾に<持続コンティニュアルライト>をかけた。

「色んな光を用意するんですね?」
「魔法の光や<夜目>の魔法は<解呪ディスペル>でまとめて消されるかもしれないし、
 松明と魔法の光は<ダークネス>の魔法で闇をかぶせられて遮られるかもしれない。
 松明の火に水をかけられても魔法系の明かりは消えない。
 一応、リスク分散になるんだよ」

 リリィにそう説明されて、アジムは感心して唸る。
 ギルドメンバーに戦ってもらって戦闘経験は少しずつ増えてきているが、パーティを組んでの冒険は初めてのアジムにはすべてが新鮮だ。

「それじゃあ、入ろうか。
 ここは戦闘ダンジョンだから、罠の心配とかはないんだ。
 斬って斬って斬りまくってくれればいいよ」

 クラウスがそんな風にアジムに声をかける。

「とりあえず、対魔物のアジムの戦い方を見たいから、
 普段通りに戦ってくれる?
 層が浅いうちは邪妖精ゴブリンしか出ないし、
 嫁も来てるからよほどのことがないと負けないし」

 アジムはクラウスの言葉に頷きかけて、聞き捨てならない言葉が含まれていたことに首を傾げた。

「……嫁?」
「あれ、自己紹介のときに言ってなかった?
 おーい」

 と、クラウスは装備を確認していた女性陣に声をかけて、自分は手まで覆っていたローブの裾をまくり上げる。

「ボクの嫁。
 ミランダ・シェーネベルクだね」
「そういえば姓を名乗っていませんでしたね。
 クラウスの嫁の、ミランダ・シェーネベルクです」

 精通しているかさえ怪しく思えるクラウスと、女ざかりの大人の魅力に満ちたミランダは笑みを浮かべて、揃って左手の薬指に光る指輪をアジムに向かって示した。
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