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ローズガーデン姉妹

商人 ソフィア・ローズガーデン(2)

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「あの、よろしいですか?」
 ため息をついていたアジムに、そんな声がかけられる。

 落ち着いた透明感のある声に振り返ると、たおやかな女性がアジムを見上げていた。
 年のころは17・8くらいに見えるが、穏やかに微笑みを浮かべている女性の気配はもっと落ち着いたものを感じさせた。アジムの胸の辺りに頭があるので、女性としては長身なほうだろう。ほっそりした身体だが華奢な感じはなく、女性的な丸みはあまりないが姿勢のよさとあいまってすらりとした上品さに感じられる。
 薄く青みがかかった銀髪はショートボブで整えられ、明るい海のような色の瞳は不躾にならない程度にアジムを観察している。暖色系のエプロンドレスとヘッドドレスを身に付けているが、メイド服のような華やかで広がりのあるようなものではなく、エプロンドレスの下にズボンをはいて肌の露出はほとんどない。身体にぴったりとした軍服や旅装のようなもので、ぱっとみると女性兵士のようだが、エプロンドレスの隋所にリボンがあしらわれていて、彼女の控えめな女性らしさが滲んでいた。
 戦闘も行うつもりがあるのか、腰にはメイスがぶら下がっている。ただ、エプロンドレスは旅装束としては丈夫そうに見えるが、装甲らしいものはないので、アジムにはそのまま殴り合いをするのは無謀なように思えた。

「お初にお目にかかります。
 リリィから鎧の入手を依頼されていた
 ソフィア・ローズガーデンと申します」
「ご丁寧にありがとうございます。
 俺が鎧を使う予定だったアジムです。
 すみません、お手間取らせて」
「いえいえ、私は商人ですので、何か入手したいものがあるなら、
 気軽にお声をおかけくださいね」

 業務用の薄い微笑が仲間内に見せる笑顔に変わると、とたんに親しみやすい印象になる。

「じゃあ、鎧を脱いでいただけますか?
 サイズを確認させてください」
「え? あ、はい」

 そういえば腕の鎧を見つけてくれたんだったな、と思い返しながら、アジムは鎧をはずす。胸甲との付け根の相性もあるというソフィアの説明があったので、手甲と腕周りだけでなく、上半身の鎧を順番にはずしていく。
 アジムが胸甲をはずしている間に、ソフィアは先にはずした手甲や腕当てを手にとって、サイズを確かめる。

「うん、これならサイズ的には大丈夫そうですね。
 食人鬼オーガが装備できるくらいのサイズで鎧を探して欲しい、
 なんてリリィから言われたときは、狂ったのかと思いましたけど」

 アジムは鎧を脱ぎながら酷い言われようだと思ったが、間違った説明ではないとも思ったので、何も言わずに鎧をはずす手を動かす。

「性能的には私が見つけた鎧のほうが上ですね。
 同じ「防御力」がかかった鎧ですが、
 プレイヤーに再現できないレベルの「防御力」がかかっていますので」

 アジムが胴鎧をはずして置くと、ソフィアが近づいて腋や肩の周りを確認しはじめた。
 アジムは鎧をはずしたのでリリィとの模擬戦でかいた胸周りの汗をぬぐいながら、シャツをパタパタさせて風を入れる。

「私が見つけた鎧で肩鎧の邪魔になったりはしなさそうですが……
 今までと比べると腋の部分がかなり露出しそうですね。
 さすがにお誂えの品は身体にぴったりです」

 鎧を確認し終えたソフィアがアジムを振り返る。

「どうされますか?
 防御力は上がるでしょうが、多対一を想定されているなら
 腋が露出すると危ない……」

 そこまで口に出したソフィアが不自然に言葉を途切れさせた。
 訝しく思ったアジムが首をかしげると、ソフィアがにこやかに近づいてくる。

「胴鎧ごと装備を変えるのもいいかもしれませんね。
 腕を回して胴回りのサイズを測るので触れさせていただきますね。
 サイズを確認させていただきたいので失礼しますね」

 ソフィアは早口で言ってアジムの返事を待たずに、まだ汗で湿っているシャツの上からアジムの胸に顔をつけて、身体に腕を回してきた。

 正面から抱きつかれて腕を回そうとぐいぐいと身体を押し付けられると、腹の辺りに胸があたるし、いい匂いがするし、鼻息がくすぐったいし、何より照れる。アジムが赤面しつつ両手を上げて所在なく視線を彷徨わせていると、にやにやしているクラウスの視線とぶつかった。

「役得?」
「……否定はしません」

 クラウスの質問に重々しく頷く間も、背中に回りきらないソフィアの手が、アジムの腋やら腰やらを優しく這い回る。ちょっとぞくぞくする気持ちよさがあるのは否定できない。

 いい加減、もういいだろうと思ってソフィアの頭をぽんぽんと叩くと、ソフィアが顔を上げた。涼やかな表情はそのままに、頬が少しだけ染まって見えた。

「もうサイズは測れましたよね?」
「サイズ? ……ああ、そういう口実で抱きついたんでしたね」

 アジムが思わずぽかんとすると、クラウスが笑い出した。

「いやー、開き直ってるねぇ」
「アジムさんが不用意にこんないい身体を見せるからいけないんですよ。
 抱きつきたくなるに決まっているじゃないですか」
「知的なのは見た目だけで、中身は痴的なんですね……」
「お、上手いこというね」

 アジムのボヤキをクラウスが褒めている間も、ソフィアの手がアジムの身体に触れて回る。
 分厚い胸板や丸太のような二の腕、肩の筋肉が押し返してくる感触を確かめるように、無遠慮に触れて回っていたが、ソフィアの手が太い首周りに達したところで動きが止まる。ソフィアの手が止まった場所には、メルフィナがつけたキスマークが刻まれていた。

 ソフィアが目を細める。

 ソフィアの手がまた動き出すと、ソフィアの手を好きなようにさせていたアジムの背筋がびくりと伸びた。胸板に戻ってきた手が、分厚さを確認するように表面をなぞりながら、アジムの胸の突起を掠めたのだ。

「……ソフィアさん?」

 驚いたアジムがソフィアを見下ろす。
 ソフィアはアジムに笑顔を返し、舌を出して自分の唇を舐めた。

 その仕草を見ただけで、アジムは自分が食われる側の立場になっていることに気づく。

「ソフィア、ストップストップ。
 抜け駆けはダメだぜ」
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