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ローズガーデン姉妹

商人 ソフィア・ローズガーデン(1)

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「あ、危なかった! 最初から全力だったけど、普通に負けるかと思った!」

 ぜいぜいと荒い息をついて、魔力を使い果たしたリリィがへたり込む。
 メルフィナの塔1階でのアジム対リリィの模擬戦は、本当にギリギリのところでリリィに軍配が上がった。

 リリィに炎の魔法を兜の隙間から叩き込まれ、顔面を吹き飛ばされたアジムはメルフィナに蘇生魔法をかけてもらって身体を起こした。

「最後のあれ、すごかったですね。
 やっぱり経験の差ですねぇ」
「あんなギャンブルなこと、毎回できるもんじゃないけどね。
 アジムくんがひっかかってくれなければ、普通に私の負けだよ」

 メルフィナの付与魔法がかかった鎧を身に付けたアジムは、リリィの剣や魔法の火力では鎧の上からダメージを与えるのが著しく難しくなった。リリィの剣の使い方は強力な魔法がかかった「剣の切れ味」に頼ったものだ。包丁や日本刀の使い方に近い。重さで押し斬るのではなく、切れ味で斬り裂くのだ。付与魔法がかかっていないアジムの鎧はこの斬り方で斬り裂けたのだが、付与魔法がかかってしまうとそういうわけにいかなくなってしまった。

 木の小枝でも振り回しているのか、という勢いで振り回されるアジムの大剣を掻い潜って斬りつけても、腕を斬ろうが足を斬ろうが、ことごとく剣を受け止められてしまう。

 関節の継ぎ目などの装甲が薄い場所を狙って斬ることができればアジムに血を流させることもできたが、それを気づかれてからは意図的に装甲の厚い場所で受けられてしまうようになり、リリィの得意とする炎の魔法も分厚い装甲の上からでは大きな打撃を与えることはできず、アジムを削りきる前に魔力が尽きてしまうことは間違いなかった。

 リリィはジリ貧になったことを悟り、スタミナと魔力を消耗する前にとギャンブルに出た。

 アジムの大剣を、体勢が崩れた振りをしてあえて剣で受ける。重さと腕力に勝るアジムの大剣に、当然のようにリリィの剣は叩き落とされる。リリィが落とされた剣を拾おうと動きかけると、アジムはリリィの剣を遠くに蹴り飛ばそうと片足を上げた。

 その瞬間に、リリィはアジムの地面についている軸足を刈るように、無集中で放てる小さな爆発魔法を放った。

 軸足を刈られたアジムが仰向けに倒れこむ。リリィは倒れたアジムに馬乗りになって頭を掴み、残った魔力のすべてを火の矢の魔法に変えて兜の隙間から叩き込んだ。頭に火の矢を直撃させても「抵抗力」スキルをマスターしているアジムを一撃で倒せるか不安だったリリィは連続して魔法を叩き込み、気がつけば兜の中にあったはずのアジムの頭が炭化して何もない状態になるほど魔法を撃ちまくったのだった。

「初めて死にましたけど、そんなにショックはないですね」
「今まで死んだことなかったの?
 まあ、アジムくんはタフだから引きどころを間違えなければ死ににくいかな」
「もう一戦、お願いできますか?」
「アジムくん、死んだ直後なのにキツくないの?」
「俺は全然平気ですよ?」
「普通は結構精神的にクるはずなんだけどね……。
 プレイヤーレベルでもいい意味で図太いね、アジムくん」
「ちょっと、いいですか?」

 床に座り込んだまま話していたアジムとリリィの会話に、蘇生魔法をかけた後は目を閉じていたメルフィナが割り込んだ。

「どうしたの?」
「リリィちゃん、ソフィアちゃんから
 フレンドメッセージが来ているはずですよ」
「えっ? 私に? なんでメルフィナがそんなことわかるの?」
「リリィちゃんにフレンドメッセージを送っても反応がないからと、
 良さそうな腕部の鎧を見つけたけどどうする?
 みたいなメッセージがギルドメッセージで送信されていますよ」
「あれ、フレンドメッセージなんていつ送ってくれてたんだろう?」
「アジムさんと戦闘を始めた後のじゃないですか?
 オンラインなのに反応がないのを訝しく思って
 ギルドメッセージを送ったんじゃないでしょうか」
「そっか。それならちょっとメッセージ確認を……」
「ギルドのほうがややこしいことになっていますよ。
 リリィちゃんが重装甲系の鎧を探している理由を好き勝手に推測して、
 貢がされているんじゃないか、みたいな話も出てますね」
「えぇ……?」

 困惑したような声を上げて、リリィはメッセージを確認するために目を閉じた。

 フレンドメッセージは個人同士でメッセージをやり取りする機能だが、ギルドメッセージは所属しているギルドメンバー全員でメッセージを共有できる機能だ。ギルドは街のギルド商会でプレイヤーがちょっとしたお金を払うことで簡単に作成することができるプレイヤー同士の組織で、これを作成・所属することで手軽に全員でメッセージをやり取りすることができるようになる。

 メルフィナもリリィと同じギルドに所属しているので、リリィがギルドメッセージでメンバーとやり取りしているのを見てくすくす笑う。

「リリィちゃん、
 アジムさんに負けてボロボロにされたのをギルドで話してましたからね。
 『脅されているのか! なら私たちが行って話をつけてやる!』
 みたいなことになっていますね」
「えぇ……?」

 思わずリリィと同じような困惑した声を漏らしたアジムに、メルフィナは笑みを深める。

 メッセージをやりとりしていたリリィは目を開くと、おずおずとアジムを見上げた。

「あの……アジムくん、
 よかったら、ウチのギルドメンバーたちと会ってやってもらえないかな」
「はぁ。まあ、構いませんけど……
 俺がリリィさんを脅してる、なんて誤解は解いてもらえてるんですか?」
「うん、それなんだけどね。
 あいつら、わかってやってるから」
「それじゃ、迎えのゲートを開きますよー」

 苦虫を噛み潰したような顔をしているリリィの横で、メルフィナが集中に入る。

「わかってやっている?」
「うん。まあ、その……なんていうか……
 うちのギルドのメンバーって、
 基本的に私と同じような子たちなんだよね……」
「魔法剣士系ってことですか?」
「まあ、魔法剣士もいるけど……その……」

 リリィの奥歯に物が挟まったような返答にアジムが首をかしげている間に、メルフィナの集中が終わって魔法が発動される。

「「帰還の門」」

 座っているアジムとリリィから少し離れた場所に、床から円柱型に白い光が立ち上る。光は見る間に背を伸ばし、立ったアジムよりもかなり高く、3メートルはありそうだなった。幅も広く、荷車程度は円柱の中にすっぽりと納まりそうだ。

 光の中にいくつも人影が見えるようになったのでアジムが立ち上がると、リリィもあわせて立ち上がった。一番前にいたひときわ小さな人影が、光の中から足を踏み出すと同時にアジムを見つけて目を丸くして足を止める。

「うわぁ、おっきいなぁ!」

 幼く高い声が驚嘆の声を上げた。アジムを見上げる黒い瞳が好奇心で輝いている。眉尻の下がった顔は幼い甘さあって、ぱっとみると男の子か女の子か判断に迷う。声変わりもまだらしい二次成長前の小さな身体に魔術師らしいローブを纏っているが、ローブのサイズがあっていないのか、杖を持つ手が隠れてしまっている。背はリリィよりも低く、アジムの前まで足を進めてくると、白い髪の頭はアジムの腰の高さだ。

 その後も続々と人影が円柱型の光から姿を現す。

 刀を帯びた女侍、拳のガードをつけた格闘家らしい獣耳の少女、弓矢を担いだ尖った耳の女、比較的重装備に見える鈍器を持った女性。その後ろにもまだ人影が見えたが、アジムは最初に姿を見せた少年に声をかけられた。

「貴方が、アジムさん?」
「え? あ、はい。アジムです」
「僕はクラウス・シェーネベルク。このギルドのギルドマスターです」

 クラウスと名乗った少年がアジムに手を差し出す。アジムは少し身をかがめて、差し出されたクラウスの手を握った。
 
「いやぁ、リリィさんからは聞いてましたけど、
 本当におっきいし、分厚い人ですねぇ!
 ちょっと力を入れるだけで、僕の手なんか簡単に握りつぶされそう」

 握手している手を見てクラウスが嬉しそうにしている。
 アジムはクラウス以外のギルドメンバーの視線が自分に集中しているのを感じて、落ち着かない。

「あの……?」
「あ、ごめんなさい。僕もそうだけど、ギルドのみんなが
 リリィさんが負けたっていう人に会ってみたいらしくて」

 にこにこと笑っているクラウスはアジムの手を握ったままだったが、アジムの横に現れたリリィが何故かその手を解かせ、代わりにアジムの手を指を絡めて握ると腕を胸に抱きしめた。

「私がみんなに紹介するわね。この人がギルドで私が言ってたアジムくん。
 決闘で負かした私を媚薬を使ってよがらせて、回復薬で気絶することも許さずに、
 朝まで極太おちんちんを突っ込みまくって、
 私を精液ボテ腹にしちゃったアジムくんよ」

 リリィの言葉に固まったアジムは、自分に集中する視線に篭る熱量が増したことを感じる。

「ついでに私のこともぐちゃぐちゃに犯しまくったアジムさんでもありますよ。
 お風呂に入ってなかった汚いおちんちんをお口にねじ込まれて射精されて、
 飲みきれずにこぼした精液を床にはいつくばって舐めさせられた上に
 淫乱なおまんこを躾けてください、なんて言わされちゃったんです」

 何時の間にやら近づいてきていたメルフィナが、リリィが抱いているのとは反対側の腕を胸にうずめるようにして抱きしめて追い討ちをかける。
 アジムは全身から嫌な汗が噴出してきた。
 最後のは自分から言ったんじゃないか、とツッコミたいが、相変わらずにこにこしているクラウス以外の視線の圧力が怖くてヘタなことを言えない。

「アジムくんはすごくゴツイから、
 押し倒されて抱きしめられるとどうしようもないんだよね。
 振りほどけないとかいうレベルじゃなくて、
 本当に身動きできないよね」
「あのアジムさんの肉の重みがいいんですよね。
 ああ、もうどうしようもないんだな……っていう絶望感が」
「わかるわかる」

 リリィとメルフィナは相変わらずアジムの腕を抱きしめたまま、笑顔でアジムから受けた陵辱について嬉しそうに語り続けている。アジムの嫌な汗はもう滝のようだ。二人に腕を抱きしめられているので汗を拭えない。だらだらと流れる汗が目に入りそうだ。

 あれ、もしかして俺ってリリィさんとメルフィナさんに拘束されてね?

 ようやくそんなことに気がついたアジムだが、メルフィナの言う「ああ、もうどうしようもないんだな……」という絶望感を感じつつ、黙って突っ立っていた。

「そっかー、メルフィナは命令される系だったんだ。
 アジムくん、今度はそれもやってくれる?」
「私は今度はリリィちゃんみたいにオナホ扱いして欲しいです」

 二人が見上げてくるのに、アジムは自分の社会的信用を諦めながら頷く。

「二人が望むなら」

 自分でも笑えるくらい小さな声での返事になったが、誰も物音を立てていなかったので、妙に響いた。

「ズルイ!!」

 何人もの女声が重なった声は、その逆にすさまじい熱と圧力を持って響き渡る。

「リリィちゃんこのまえ知り合ったばっかりだって言ってたよね?
 なんでそんなに仲良くなってるの!? ちゃんと紹介してよ!」
「メルフィナなんかは昨日あったばっかりなんだろ!?
 ボクたちともやって欲しいのに、2回目のおねだりなんてズルイぞ!」

 きゃんきゃんと抗議の声をあげる女性たちに、腕を抱え込んでいたリリィとメルフィナがひっぺがされて連れて行かれる。アジムはそれを呆然と見送った。

「いやー、なんか予想通りの展開になったなぁ」

 アジムと一緒に女性たちを見送って、一人残っていたクラウスが笑っている。

「あれ、どういうことなんです?」
「うん? リリィさんからもメルフィナさんからも聞いてません?」
「何をです?」
「ギルドの女性たちは、みんなリリィさんやメルフィナさんとおんなじなんですよ!」

 意味がわからず首を傾げてから、会話の流れを思い起こしてみてぎょっとする。

「そう! みんなアジムさんと全力で戦ってぶちのめされて、
 ぼろぼろになるまで陵辱されたがってるんですよ!」

 クラウスはいい笑顔だ。
 ぐっと手を突き出してきたので、親指を立てているのかと思ったら、人差し指と中指の間に親指を入れていた。このクソガキが、と思わず口にでそうになったが、ため息をつくだけで我慢した。
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