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5.重力の恩寵
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コケコッコはごく普通の阿呆な女の子だったが、神憑り的に優れた神童の兄クックドゥードゥルとの比較に晒され、周囲からはビリッケツのコケコッコーなどと馬鹿にされた。
さて、一族は広大な庭に犬、猫、ロバを飼っていた。
コケコッコは犬のギルガメッシュの世話をしていたが、ギルガメッシュは一族に貰われてきて以来、餌や水を全て拒否する断食老犬だった。それに深い感銘を受けたコケコッコは自分も飲食を拒否し、成長が止まった。そのためいつまでたっても短足チビッ子だった。そのせいでさらに馬鹿にされた。
ある日、コケコッコは、自分は能無しで用無し、何のバリューもない、無価値な存在であり、生まれてこなければよかったと思い、土下座して地面に額をこすり付け、全世界に謝罪した。
「生まれてきてごめんなさい」
ところで全ての存在は重力という力を備えている。だから重力はまたの名を万有引力という。重力とは重たい力であり、普通の人間は一律の重力という力を行使することでお盆のような大地にへばりついている。お盆は定期的に回転し、表裏入れ替わるが重力によって全ての存在は大地のお盆から落ちることがない。
全く無力の阿呆コケコッコにも重力くらいは備わっていた。しかし自分はノンバリューの阿呆だから一切の力がないと信じたコケコッコは重力の行使を辞めた。これは前人未到の境地だった。重力から逃れることはいかなる存在にもできないからだ。しかしその結果、コケコッコは悲劇に見舞われた。
大地のお盆がいつものように回転した時、コケコッコは重力を行使しなかった。その結果、雲一つない、抜けるように青い蒼天玻璃の碧空に向かって一直線に、昇天するように落下した。昇天するように落下しながらコケコッコは、このまま天に落ち、迷った人の道標となるお星さまになりたいと願った。
その時、一直線に昇天するように空に落下するコケコッコに向かって、一族の家に長らく居候していた老猫が飛びつき、猫パンチではたいた。老猫の力ではいくらチビッ子とはいえ、コケコッコの頭をはたくのが限界であった。達磨崩しの積み木のようにコケコッコの頭が地面に転がり、コケコッコの体は空に落ちて消えて無くなった。
老猫はボールを転がすようにコケコッコの頭を転がしながら家路についた。老猫はコケコッコの頭を庭に鎖でつながれ、骨と皮だけでガリガリに痩せながら一切の餌を拒絶する断食老犬ギルガメッシュのところまで転がした。
「お嬢ちゃん、どうした?」と断食老犬が問う。コケコッコは「何でもない」と答える。「ありがとう」とコケコッコは老猫に礼を言う。老猫は笑って去っていく。
去りゆく老猫の後に血の痕が残った。コケコッコは「お前、怪我をしたのじゃないの?」と叫んだが老猫は振り返ることなくヨロヨロとそのまま夕日を背に風と共に去った。
「カムバーック!」とコケコッコは叫んだが老猫は二度と戻ってこなかった。「お嬢ちゃん、あれが(猫の)男の死に様だ」と断食老犬が言った。コケコッコは生涯、老猫の笑った顔を忘れることはなかった。
さて、一族は広大な庭に犬、猫、ロバを飼っていた。
コケコッコは犬のギルガメッシュの世話をしていたが、ギルガメッシュは一族に貰われてきて以来、餌や水を全て拒否する断食老犬だった。それに深い感銘を受けたコケコッコは自分も飲食を拒否し、成長が止まった。そのためいつまでたっても短足チビッ子だった。そのせいでさらに馬鹿にされた。
ある日、コケコッコは、自分は能無しで用無し、何のバリューもない、無価値な存在であり、生まれてこなければよかったと思い、土下座して地面に額をこすり付け、全世界に謝罪した。
「生まれてきてごめんなさい」
ところで全ての存在は重力という力を備えている。だから重力はまたの名を万有引力という。重力とは重たい力であり、普通の人間は一律の重力という力を行使することでお盆のような大地にへばりついている。お盆は定期的に回転し、表裏入れ替わるが重力によって全ての存在は大地のお盆から落ちることがない。
全く無力の阿呆コケコッコにも重力くらいは備わっていた。しかし自分はノンバリューの阿呆だから一切の力がないと信じたコケコッコは重力の行使を辞めた。これは前人未到の境地だった。重力から逃れることはいかなる存在にもできないからだ。しかしその結果、コケコッコは悲劇に見舞われた。
大地のお盆がいつものように回転した時、コケコッコは重力を行使しなかった。その結果、雲一つない、抜けるように青い蒼天玻璃の碧空に向かって一直線に、昇天するように落下した。昇天するように落下しながらコケコッコは、このまま天に落ち、迷った人の道標となるお星さまになりたいと願った。
その時、一直線に昇天するように空に落下するコケコッコに向かって、一族の家に長らく居候していた老猫が飛びつき、猫パンチではたいた。老猫の力ではいくらチビッ子とはいえ、コケコッコの頭をはたくのが限界であった。達磨崩しの積み木のようにコケコッコの頭が地面に転がり、コケコッコの体は空に落ちて消えて無くなった。
老猫はボールを転がすようにコケコッコの頭を転がしながら家路についた。老猫はコケコッコの頭を庭に鎖でつながれ、骨と皮だけでガリガリに痩せながら一切の餌を拒絶する断食老犬ギルガメッシュのところまで転がした。
「お嬢ちゃん、どうした?」と断食老犬が問う。コケコッコは「何でもない」と答える。「ありがとう」とコケコッコは老猫に礼を言う。老猫は笑って去っていく。
去りゆく老猫の後に血の痕が残った。コケコッコは「お前、怪我をしたのじゃないの?」と叫んだが老猫は振り返ることなくヨロヨロとそのまま夕日を背に風と共に去った。
「カムバーック!」とコケコッコは叫んだが老猫は二度と戻ってこなかった。「お嬢ちゃん、あれが(猫の)男の死に様だ」と断食老犬が言った。コケコッコは生涯、老猫の笑った顔を忘れることはなかった。
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