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処刑までの執行猶予がついた
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親友との映画鑑賞。
少年には「出かけてくる」といった。
帰ってきた返事は「はい、ご主人様」
俺のことはご主人様呼びらしい。
映画の内容は去年のアクション映画の続編。ドキドキハラハラの二時間。内容も濃く、昨日公開ということもあり、鑑賞者は多かった。終わった後、親友は非常に楽しめたと満足げだったが、俺はそんな余裕を作れるほどにまだ冷静ではなかった。
少年は本当に脱走していないだろうか。
部屋の固定電話から警察に通報されて映画館から出たら即逮捕、ということにならないかなど内心びくびくしながら鑑賞していた。
つまり、罪悪感があった。何かとんでもないことをしているのではないか。
知らなくてもいいことは実に多い。
「昼飯、どうする?」
映画が終わり、お手洗いから出たとき、親友は笑って言った。
俺は少年のことが気が気ではなくて、すぐにでも帰りたかったが、映画館を出るのも怖くて内心最強に動揺していた。
そのことを親友は優に悟っていたのだろう。
いきなり、俺のポケットを探りスマホを取ると、指認証をさせられ「SHO」のアプリを開いた。
「そんなに心配なら、確認すればいいじゃん。」
そういって渡されたスマホにはマップが映っており、俺の家の場所に赤いピンが立っていた。
「ほら、逃げてないよ。首輪外そうとしたらちゃんと通知くるし、それでも心配なら電話してみればいいじゃん。」
「いや、でも寝てるかもよ。」
「うわ! いい子ぶっちゃって。大丈夫だよ。あっちは電話取る取らないっていう選択肢はないから。電話するとね、奴隷の首輪が収縮して首が締まるの。声出さないと声出さない分だけ首締まって寝てても跳ね起きるから大丈夫。」
その説明を聞いて感嘆している間に親友は電話マークのところを押した。
するとすぐに返答があった。
「は、はい…ご主人様。なんのごようでしょうか……い、いえ、すみません、愚劣なわたくしめになんでもご命令ください。」
少年の怯えた声が聞こえた。
本当に逃げないようだ。
「なんでもな……「お前のご主人様、お優しいから、お前が逃げていないか心配だったんだって。逃げないってちゃんと誓ってやれよ。」
「おい、ちょっと。」
制し空しく、親友は電話に乗り込んできた。その時、電話に耳を近づいていた俺には一瞬、少年が委縮した声が聞こえた。しかしそれも一瞬のこと。
「は、はい……わたしはご主人様に忠誠を誓っております。絶対にご主人様の前から無断で消えるようなことはしません。ど、どうぞわたくしのことなどご心配せずにお楽しみしてください。」
前に古いSMものの漫画をコンビニのバイトの暇なときに読んでしまったとき、今みたいな口上をM女が言っていたのをふいに思い出した。
忠誠を誓っております、とかまだ初対面から二時間くらいしかたってないのに何に「忠誠を誓う」のだろうか。それに機械的な文言。到底信じられるようなものではなかったが、今は出先。
このどうしようもなく薄っぺらい文言を信じるほかなかった。
「だってさ」
親友はヘラヘラ笑っている。大概、こいつの趣味もいかれている。
まあ、知ってたけど。
「ああ、わかった。信じてやる。」
とだけ言い残し、電話を切った。
「じゃあ、不安も解消されたところで何食べる? 」
「つーか、お前、俺の心境分かってて映画楽しんでただろ。」
「えー。だって、その方が楽しいじゃん。金払ったの俺だし、映画いくの誘ったのお前だし、見てて楽しかったよ。いけないことした小学生感。」
ストレスたまった。今すぐこいつの顔を殴りたい気持ちになった。
「銀座の高級パスタ、おごれ。」
そう、にらみを利かすとただ親友はへらへら笑って、生返事をした。
―――
新しい部屋だった。
昨日、ご主人様に言われた。
「お前、死にたい?」
直球な質問だった。でもどう答えればいいのかわからない。
僕は、ご主人様に「死ね」といわれたら死ななきゃいけないから何が正解なのかわからなかった。
「い、い……あ、ごしゅじんさま……」
「聞いてるんだけど、殴るよ。」
睨まれて、凄んで、痛いのは嫌だから震えた声を振り絞った。
「い、い……いや、です……」
「こんなにひどいことされてても死ぬのやだの?」
答えを間違ったのか。携帯を操作しているご主人様は再度僕に尋ねてきた。
確かに、ひどいこと。躾もお仕置きも怖くてつらい。殴られるのも、性器を踏みつぶされたり、熱湯を頭からかけられた時の痛さは嫌だ。
でもご主人様が「自分の手で首絞めて死んでよ」と命令されたとき、僕は泣きたくなるほどに辛かった。僕の価値は本当に無価値であることを痛感させられた。目の前が真っ暗になって、死への恐怖で脳内が支配された。
でもやるしか、道はない。何とかご主人様の気が変わってその時は死ななくて済んだけど、死への恐怖はしっかりと植え付けられてしまった。
「おい、答えろ。待たせるんじゃないよ。」
「ひっ……し、しにたくない、です……ごめんなさい。」
ソファーでくつろぐご主人様の足元で土下座をして、謝った。答えが違かったら折檻を受ける。だからせめてもの罪滅ぼし。
でもご主人様の返答は咎めるわけでもなく、認めるわけでもなかった。
「あっそ。」
そして、今日。
朝早くに起きてご主人様が起きるのを静かに待つ。
「ん、もう朝?」
「お、おはようございます…ごしゅじ……ぐっ…」
特に何もなく、ベットから起きたご主人様は床で土下座をしていた僕の頭を踏みつけて部屋を出ていってしまった。
この頃はいつもこんな感じ。僕はこの部屋の埃と同じ感じで、性処理の時だけモノのように扱われていた。
完全に飽きられている、そう思うほかなかった。
涙がこぼれる。昨日の会話。「死」というワード。
僕はもう売れない。このままSHOに返されても廃棄処分。または特別嗜好をもつ人間の腹の中だ。
「しにたくないよお」
無意識に呻いた。こんなのご主人様に見られたら拷問される。
いなくてよかった。ほんとに不敬なことを思って罪悪感が生まれた。
でも次にご主人様が部屋に入ったときに、服を投げ渡された。
「これ着て。出かけるから」
この広い家から外に出るのはどのくらいぶりだろう。
野外でお仕置き名目でお尻にバイブを入れられて、尿道カテーテルとで前立腺を刺激されながら全裸で夜、盛り場として有名な公園を全裸で一周させられた時以来だと思う。
僕はこの外出を本気で覚悟した。
僕は殺処分されるのだと。
奴隷に拒否権はない。
だから少し蒸し暑くなってきた中、長そで長ズボン、マスクに深めの帽子という恰好で外に出ても暑いとは決して言えずに、ご主人様に連れられて明らかにSHOではないドアの前に到着した。
゛ピンポーン〝
どこか懐かしさを感じさせるようなインターホン。
そして少し経って、ドアから出てきたのはご主人様と同い年、もしくは少し年下に見える男性だった。
身長はご主人様より少し高め。だけれども、変な威圧感はなく何より優しそうだった。ご主人様と普通に話しているから、多分同級生。それも親友という位置づけだろうか。
何にせよ、僕は強制的にその家に入れられ、正座した。
ご主人様は部屋に入るなり、ソファーにだらんと座り、男性にお茶を催促した。
この様子を見る限り、ご主人様のほうがえらいのかと思ってたが話を聞いているうちに対等、どちらかというとご主人様のほうが下なのではないかと考えていた。
どちらにせよ、僕は奴隷なので最低身分。勝手に発言することは許されなかった。
そして話題転換。ご主人様はどうやらこの男性を僕の次期ご主人様にしたいらしかった。
「ここでオナニーしろ。ちゃんとお客様―いや、次期飼い主に向かって誠意を持ってだ。勝手にイッたらお仕置きだからな。」
命令だった。話の流れ的に次期ご主人様はSHOの存在を知らなかったようだ。
だから、僕は「何でも聞く奴隷」であることの証明をさせられることになった。
僕は急いで服を脱ぎ、次期ご主人様のほうを向いた。小さな椅子に座る次期ご主人様はその行動に驚いたように見入っていた。
僕には羞恥心はない。そんなものは最初のうちに捨てさせられた。
久しぶりの自慰かもしれない。この頃はご主人様の奉仕も口だけになっていたし、そもそもご主人様は僕に射精の機会を与えなかった。ご主人様に飼われてから二週間。一度も出していないそこは、すぐに勃起してすぐに射精してしまいそうだ。
『誠意をもって』ということは最初から本気でやらなければいけない。
それに、僕はここで断られたら多分、殺処分される。悪寒が走った。
粗相も、手抜きも許されない。見世物として本気でやるしか道はない。
でもすぐに果ててしまいそうだった。
我慢させられてきた二週間の重みは想像以上に辛い。
快感に支配され、僕は自らとんでもないことを無意識の間に喋っていた。
「...うっ、くぅ……すみません…ごしゅじんさま、あ……も、もう、い、い……」
限界。早漏だと罵られても仕方ないほどの時間だった。
早漏はSHOでは減点対象。ご主人様を楽しませられずに果ててしまう性処理奴隷に生きている価値はない。
「……あっ、くぅー……も、もう、むりぃ……」
扱きの速さは止められない。かといって、これ以上の刺激は粗相をしてしまう。
涙とよだれが顔を伝っていく。無意識のような意識的のような言葉だ。
その時だった。ご主人様は後ろから突然、髪をつかんで引っ張った。
その影響で片田が倒れてしまったその時に、手が止まったのを僕はバカなほど意識できてなかった。
そのうえの失態。
僕は射精したいと懇願してしまった。
自慰を止め、命令無視したと取れる状況で僕は懇願した。
ご主人様の顔が鬼の形相になって、冷や汗が止まらなかった。
自慰の手を再び動かしてももう遅い。謝るしかない。深く、深く。
「おい。」
そのご主人様の声。それで覚醒した。
まずいまずいまずいまずい!!
「ひっ……いや、あっ…やだっ、ごめんなさい、ごめんなさい! ゆるして……やっ!」
そしてすぐに制裁が加わった。
乾いた音。鋭い頬への痛み。
一瞬で悟った。
「射精したいとか言って手動かしてないし、なに奴隷の分際で勝手に喋ってんの? 殺されたいの?」
ご主人様の声はひどく怒気にあふれていた。とにかく謝るしかない。そう思った。
「もうしわけございません! いやっ、あっ……ごめんなさいっ、こ、この…どうしようも──」
「そうゆうのいいから、はやく続けて。SHOからはお前もう売れないから処分していいって言われてんの。」
「……い、いやっ、しょぶん……ひっ、やだ……っっ」
そしてまたしても地雷を踏んだ。
2回目の痛み。
「うるさい! 黙れ!」
その怒号を浴びせられた。
これでまた喋ったら今度こそ折檻される。
涙があふれた。でも自慰するしか道はない。
だから必死に自慰を再開した。一回萎えたけど、それでも2週間の重みは違う。
直ぐに固くなって。あえぐこともしゃべることも許されないまま、僕は我慢していた。
ご主人様に謝らせ、ご主人様が僕に飽きた理由までを克明に話されて、僕の心はズタズタになった。
罪悪感とどうしようもないほど惨めな気持ちになった。
そして前のご主人様の時のあの凄惨な記憶。
「処分」という単語。
もう限界を迎えそうな体。
すべてが僕を苛む。そんな僕を次期ご主人様は見て哀れんだような目で見つめた。
「わかった、わかった。みなまで言うな、親友。俺が最後の砦ってことな」
「そうそう、物分かりがよくて助かるわ」
そしてご主人様からの自慰を中止を促す命令。
僕は射精しなかったことにひどく安心してしまった。
このとき、次期ご主人様がみていたのも知らずに。
それから僕は静かにするように努めた。何にもしていないときは動くな、これは鉄則だった。
話を聞いていると、次期ご主人様がご主人様になったことがわかった。
でもその理由はよくわからなかった。それなのに僕はいじらしく安堵してしまった。
「まだ死ななくていい」
死刑に執行猶予が付いただけの状態だというのに、ひどく安心した。
新しいご主人様は、コードを読み取り、契約を済ませた。
首輪をつけていただき、そのまま何もされることなく、ご主人様はそのまま出かけてしまった。
少年には「出かけてくる」といった。
帰ってきた返事は「はい、ご主人様」
俺のことはご主人様呼びらしい。
映画の内容は去年のアクション映画の続編。ドキドキハラハラの二時間。内容も濃く、昨日公開ということもあり、鑑賞者は多かった。終わった後、親友は非常に楽しめたと満足げだったが、俺はそんな余裕を作れるほどにまだ冷静ではなかった。
少年は本当に脱走していないだろうか。
部屋の固定電話から警察に通報されて映画館から出たら即逮捕、ということにならないかなど内心びくびくしながら鑑賞していた。
つまり、罪悪感があった。何かとんでもないことをしているのではないか。
知らなくてもいいことは実に多い。
「昼飯、どうする?」
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俺は少年のことが気が気ではなくて、すぐにでも帰りたかったが、映画館を出るのも怖くて内心最強に動揺していた。
そのことを親友は優に悟っていたのだろう。
いきなり、俺のポケットを探りスマホを取ると、指認証をさせられ「SHO」のアプリを開いた。
「そんなに心配なら、確認すればいいじゃん。」
そういって渡されたスマホにはマップが映っており、俺の家の場所に赤いピンが立っていた。
「ほら、逃げてないよ。首輪外そうとしたらちゃんと通知くるし、それでも心配なら電話してみればいいじゃん。」
「いや、でも寝てるかもよ。」
「うわ! いい子ぶっちゃって。大丈夫だよ。あっちは電話取る取らないっていう選択肢はないから。電話するとね、奴隷の首輪が収縮して首が締まるの。声出さないと声出さない分だけ首締まって寝てても跳ね起きるから大丈夫。」
その説明を聞いて感嘆している間に親友は電話マークのところを押した。
するとすぐに返答があった。
「は、はい…ご主人様。なんのごようでしょうか……い、いえ、すみません、愚劣なわたくしめになんでもご命令ください。」
少年の怯えた声が聞こえた。
本当に逃げないようだ。
「なんでもな……「お前のご主人様、お優しいから、お前が逃げていないか心配だったんだって。逃げないってちゃんと誓ってやれよ。」
「おい、ちょっと。」
制し空しく、親友は電話に乗り込んできた。その時、電話に耳を近づいていた俺には一瞬、少年が委縮した声が聞こえた。しかしそれも一瞬のこと。
「は、はい……わたしはご主人様に忠誠を誓っております。絶対にご主人様の前から無断で消えるようなことはしません。ど、どうぞわたくしのことなどご心配せずにお楽しみしてください。」
前に古いSMものの漫画をコンビニのバイトの暇なときに読んでしまったとき、今みたいな口上をM女が言っていたのをふいに思い出した。
忠誠を誓っております、とかまだ初対面から二時間くらいしかたってないのに何に「忠誠を誓う」のだろうか。それに機械的な文言。到底信じられるようなものではなかったが、今は出先。
このどうしようもなく薄っぺらい文言を信じるほかなかった。
「だってさ」
親友はヘラヘラ笑っている。大概、こいつの趣味もいかれている。
まあ、知ってたけど。
「ああ、わかった。信じてやる。」
とだけ言い残し、電話を切った。
「じゃあ、不安も解消されたところで何食べる? 」
「つーか、お前、俺の心境分かってて映画楽しんでただろ。」
「えー。だって、その方が楽しいじゃん。金払ったの俺だし、映画いくの誘ったのお前だし、見てて楽しかったよ。いけないことした小学生感。」
ストレスたまった。今すぐこいつの顔を殴りたい気持ちになった。
「銀座の高級パスタ、おごれ。」
そう、にらみを利かすとただ親友はへらへら笑って、生返事をした。
―――
新しい部屋だった。
昨日、ご主人様に言われた。
「お前、死にたい?」
直球な質問だった。でもどう答えればいいのかわからない。
僕は、ご主人様に「死ね」といわれたら死ななきゃいけないから何が正解なのかわからなかった。
「い、い……あ、ごしゅじんさま……」
「聞いてるんだけど、殴るよ。」
睨まれて、凄んで、痛いのは嫌だから震えた声を振り絞った。
「い、い……いや、です……」
「こんなにひどいことされてても死ぬのやだの?」
答えを間違ったのか。携帯を操作しているご主人様は再度僕に尋ねてきた。
確かに、ひどいこと。躾もお仕置きも怖くてつらい。殴られるのも、性器を踏みつぶされたり、熱湯を頭からかけられた時の痛さは嫌だ。
でもご主人様が「自分の手で首絞めて死んでよ」と命令されたとき、僕は泣きたくなるほどに辛かった。僕の価値は本当に無価値であることを痛感させられた。目の前が真っ暗になって、死への恐怖で脳内が支配された。
でもやるしか、道はない。何とかご主人様の気が変わってその時は死ななくて済んだけど、死への恐怖はしっかりと植え付けられてしまった。
「おい、答えろ。待たせるんじゃないよ。」
「ひっ……し、しにたくない、です……ごめんなさい。」
ソファーでくつろぐご主人様の足元で土下座をして、謝った。答えが違かったら折檻を受ける。だからせめてもの罪滅ぼし。
でもご主人様の返答は咎めるわけでもなく、認めるわけでもなかった。
「あっそ。」
そして、今日。
朝早くに起きてご主人様が起きるのを静かに待つ。
「ん、もう朝?」
「お、おはようございます…ごしゅじ……ぐっ…」
特に何もなく、ベットから起きたご主人様は床で土下座をしていた僕の頭を踏みつけて部屋を出ていってしまった。
この頃はいつもこんな感じ。僕はこの部屋の埃と同じ感じで、性処理の時だけモノのように扱われていた。
完全に飽きられている、そう思うほかなかった。
涙がこぼれる。昨日の会話。「死」というワード。
僕はもう売れない。このままSHOに返されても廃棄処分。または特別嗜好をもつ人間の腹の中だ。
「しにたくないよお」
無意識に呻いた。こんなのご主人様に見られたら拷問される。
いなくてよかった。ほんとに不敬なことを思って罪悪感が生まれた。
でも次にご主人様が部屋に入ったときに、服を投げ渡された。
「これ着て。出かけるから」
この広い家から外に出るのはどのくらいぶりだろう。
野外でお仕置き名目でお尻にバイブを入れられて、尿道カテーテルとで前立腺を刺激されながら全裸で夜、盛り場として有名な公園を全裸で一周させられた時以来だと思う。
僕はこの外出を本気で覚悟した。
僕は殺処分されるのだと。
奴隷に拒否権はない。
だから少し蒸し暑くなってきた中、長そで長ズボン、マスクに深めの帽子という恰好で外に出ても暑いとは決して言えずに、ご主人様に連れられて明らかにSHOではないドアの前に到着した。
゛ピンポーン〝
どこか懐かしさを感じさせるようなインターホン。
そして少し経って、ドアから出てきたのはご主人様と同い年、もしくは少し年下に見える男性だった。
身長はご主人様より少し高め。だけれども、変な威圧感はなく何より優しそうだった。ご主人様と普通に話しているから、多分同級生。それも親友という位置づけだろうか。
何にせよ、僕は強制的にその家に入れられ、正座した。
ご主人様は部屋に入るなり、ソファーにだらんと座り、男性にお茶を催促した。
この様子を見る限り、ご主人様のほうがえらいのかと思ってたが話を聞いているうちに対等、どちらかというとご主人様のほうが下なのではないかと考えていた。
どちらにせよ、僕は奴隷なので最低身分。勝手に発言することは許されなかった。
そして話題転換。ご主人様はどうやらこの男性を僕の次期ご主人様にしたいらしかった。
「ここでオナニーしろ。ちゃんとお客様―いや、次期飼い主に向かって誠意を持ってだ。勝手にイッたらお仕置きだからな。」
命令だった。話の流れ的に次期ご主人様はSHOの存在を知らなかったようだ。
だから、僕は「何でも聞く奴隷」であることの証明をさせられることになった。
僕は急いで服を脱ぎ、次期ご主人様のほうを向いた。小さな椅子に座る次期ご主人様はその行動に驚いたように見入っていた。
僕には羞恥心はない。そんなものは最初のうちに捨てさせられた。
久しぶりの自慰かもしれない。この頃はご主人様の奉仕も口だけになっていたし、そもそもご主人様は僕に射精の機会を与えなかった。ご主人様に飼われてから二週間。一度も出していないそこは、すぐに勃起してすぐに射精してしまいそうだ。
『誠意をもって』ということは最初から本気でやらなければいけない。
それに、僕はここで断られたら多分、殺処分される。悪寒が走った。
粗相も、手抜きも許されない。見世物として本気でやるしか道はない。
でもすぐに果ててしまいそうだった。
我慢させられてきた二週間の重みは想像以上に辛い。
快感に支配され、僕は自らとんでもないことを無意識の間に喋っていた。
「...うっ、くぅ……すみません…ごしゅじんさま、あ……も、もう、い、い……」
限界。早漏だと罵られても仕方ないほどの時間だった。
早漏はSHOでは減点対象。ご主人様を楽しませられずに果ててしまう性処理奴隷に生きている価値はない。
「……あっ、くぅー……も、もう、むりぃ……」
扱きの速さは止められない。かといって、これ以上の刺激は粗相をしてしまう。
涙とよだれが顔を伝っていく。無意識のような意識的のような言葉だ。
その時だった。ご主人様は後ろから突然、髪をつかんで引っ張った。
その影響で片田が倒れてしまったその時に、手が止まったのを僕はバカなほど意識できてなかった。
そのうえの失態。
僕は射精したいと懇願してしまった。
自慰を止め、命令無視したと取れる状況で僕は懇願した。
ご主人様の顔が鬼の形相になって、冷や汗が止まらなかった。
自慰の手を再び動かしてももう遅い。謝るしかない。深く、深く。
「おい。」
そのご主人様の声。それで覚醒した。
まずいまずいまずいまずい!!
「ひっ……いや、あっ…やだっ、ごめんなさい、ごめんなさい! ゆるして……やっ!」
そしてすぐに制裁が加わった。
乾いた音。鋭い頬への痛み。
一瞬で悟った。
「射精したいとか言って手動かしてないし、なに奴隷の分際で勝手に喋ってんの? 殺されたいの?」
ご主人様の声はひどく怒気にあふれていた。とにかく謝るしかない。そう思った。
「もうしわけございません! いやっ、あっ……ごめんなさいっ、こ、この…どうしようも──」
「そうゆうのいいから、はやく続けて。SHOからはお前もう売れないから処分していいって言われてんの。」
「……い、いやっ、しょぶん……ひっ、やだ……っっ」
そしてまたしても地雷を踏んだ。
2回目の痛み。
「うるさい! 黙れ!」
その怒号を浴びせられた。
これでまた喋ったら今度こそ折檻される。
涙があふれた。でも自慰するしか道はない。
だから必死に自慰を再開した。一回萎えたけど、それでも2週間の重みは違う。
直ぐに固くなって。あえぐこともしゃべることも許されないまま、僕は我慢していた。
ご主人様に謝らせ、ご主人様が僕に飽きた理由までを克明に話されて、僕の心はズタズタになった。
罪悪感とどうしようもないほど惨めな気持ちになった。
そして前のご主人様の時のあの凄惨な記憶。
「処分」という単語。
もう限界を迎えそうな体。
すべてが僕を苛む。そんな僕を次期ご主人様は見て哀れんだような目で見つめた。
「わかった、わかった。みなまで言うな、親友。俺が最後の砦ってことな」
「そうそう、物分かりがよくて助かるわ」
そしてご主人様からの自慰を中止を促す命令。
僕は射精しなかったことにひどく安心してしまった。
このとき、次期ご主人様がみていたのも知らずに。
それから僕は静かにするように努めた。何にもしていないときは動くな、これは鉄則だった。
話を聞いていると、次期ご主人様がご主人様になったことがわかった。
でもその理由はよくわからなかった。それなのに僕はいじらしく安堵してしまった。
「まだ死ななくていい」
死刑に執行猶予が付いただけの状態だというのに、ひどく安心した。
新しいご主人様は、コードを読み取り、契約を済ませた。
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