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奴隷をもらってしまった。
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"ピンポーン"
家賃6万の1LDKに響いたインターホン。
今日は大学休みだぞ? などと思いながらドアを開けると、眩い朝日と主に高校時代からの友人が顔を覗かせた。
大学も同じ学部学科になった俺の親友の横には、もう一人男が立っていた。
「おはっ! 今日お前休みだろ?」
「あぁ。そうだ。だから昨日は朝までアニメ見てこう堕落した最高の休日を過ごそうと思ってたのに。なんだよ?」
と不機嫌そうに言ってみたが、親友は全く無責任な顔で軽く笑った。
「あぁ、それはわりぃ、わりぃ。」
「で? なんの御用でしょうか? 変態。」
と笑ってみせると俺の家だと言うのに、俺を押しのけて親友と親友に手を握られた男は無遠慮に入ってきた。
「おじゃましまーす!」
「はぁ。」
大きなため息の後、ドアを閉め鍵をかけた。
「おちゃー」
着くなり、ソファーに寝転がり注文してくる親友。いつもの事だからいいけど、それよりもそのソファの下で身を固く正座している男が目に付く。
冷蔵庫から適当にペットボトルのお茶を取りだし、寝転がっている親友に投げた。
「サンキュー!」
「次、○○行ったら定食200円引きクーボン渡せ。」
「えぇー! だってこのお茶100円より安いじゃん。」
「いや、ひとんち土産もなしに勝手にくるやつにはこの位もらわないと。」
親友は少し不貞腐れた顔をしたが、承諾した。
「で? ドイツ語演習サボりのおにいさん。その人はだれですかね? もしかしてそれが昨日、【お前に渡したいものがある】のそれとか言わないだろうなぁ?」
ここで肯定されたら追い出してやる。そう思ったと同時に間抜けな声を受け取った。インターホンの機械的な音とかけはなれた頭のおかしいやつのこえだった。
「ピンポーン!」
「いや、やだぞ、俺は。なんなのか分からない人を家に入れておくの。」
「いやいや、人じゃないんで大丈夫。ペットだよ。」
さも当然のように吐き捨てた親友の言に鈍器で殴られたような衝撃を受ける。
「はぁ? いやいや……お前、そういう趣味……いや、元々頭おかしいやつだと思ってたけどさ。」
「いやいやそれがどうして。本当なんだぜ。お前もこの名前知ってるだろ? 【SHO】って。俺もこいつ飼い始めてから知ったんだけどさ、本当に実在するんだってさ。」
その名前に絶句した。
【SHO】は、ハードAV界隈では非常に有名な、ビデオ名だった。【slave human organization】の頭文字をとって付けられた、まぁよくあるものだが、空前の大ヒット作品である。
それが本当にあると親友はキッパリ言い切った。
それにド肝抜かれた。
「は? お前なんかの詐欺にでも会ったんじゃねぇ?」
と冗談ではなく本気で言ったつもりだったのに、親友は首を振った。
「じゃあ、見てろよ。」
そう言って徐にソファーから起き座り直した親友は下に正座して微かに震えている男に向かって言葉を発した。
「ここでオナニーしろ。ちゃんとお客様──いや、次期飼い主に向かって誠意を持ってだ。勝手にイッたらお仕置だからな。」
顔に紙マスクをして深い帽子をかぶる男の顔は全く見えず不審者に相応しい。服は一般的な普通の服を着ていたが、親友にそう言われた途端、服をなんの躊躇いなく脱ぎ始め、すぐに俺の方を向いて自慰を開始した。
マスクと帽子も取ったその顔はまだ幼さを酔わせる中坊、いって高校進級したばかりのような顔立ちだ。
綺麗な顔をしているのだが、顔以外には数多の痣とよく分からない傷が付けられていた。
そして首に掘られたQRコードのような紋。
いやはや、人間として見るのは少し抵抗があるような粗末な格好だった。
「……くっ、あっ…」
自慰中に声が漏れ出ているが、男──いや、少年は必死に擦っていた。
と、俺がその様子を見入っていたところに親友の声が聞こえた。
「なっ? やべぇだろ? こいつまじでなんでも言うこと聞くんだぜ。一週間排便許可出さなくても、耐えるし。どんなに殴って蹴っても感謝の文言言ってくるし。バイトやらせたんだけど、働いた分全部奪っても全く動じないし。
餌代もそこまでかからなければ、メンテナンスもいらないし家事も全部してくれるし、マジ万能。それに性処理もうまいときた。飼い主の命令なんでも聞くし、死ねって冗談で言ったら、手で本気で首絞めだすし。」
笑いながら親友が言ってることは正気の沙汰ではない。
でもこの話をしてる時も誠意を持って自慰している少年を見ると信憑性は増すばかり。
俺の中でどす黒いものがせりあがってくる。
普段温厚、親友にも信頼される男の本性は残虐性に溢れていた。
それを親友は知っていた。熟知していた。
だから俺にこれを見せつけた。売りつけたのだろう。
「…うっ、くぅ……すみません…あ、ご、ごしゅじんさま、あ……も、もう、い、い……」
突然、少年は全身を硬直させ擦りながら喋った。
もう限界らしい。そんなに必死に扱いているから…と思ったが「誠意を持って」と言われてたからかと、納得してしまった。
「でさ、本題なんだけど!」
しかし親友はそんな少年の声を無視し、次の話題に移ろうとした。
「いや、待てよ。なんか喋ってたよそいつ。」
「ん? いつ?」
「え? 今。」
親友はさも聞こえていなかったように言葉を返してきた。
絶対聞こえてただろうに。
少年を見ればもう限界そうだった。右手で全力の扱き、左手で亀頭を押さえつけて決して射精しないようにしている。目から涙が流れ出し、涎も出てる。
「……あっ、くぅー……も、もう、むりぃ……」
ギンギンに張りつめた陰茎を右手が震えるほど強い力で握って扱く。
「気持ちいい」より、「痛い」だろ、それ。
「あぁ、ごめんごめん。虫の声で全然気づかなかったわ。で、なに?」
親友は少年の短髪の髪を掴んで無理矢理ベッド側に引き寄せた。その時に自慰してた手が止まったがあんなに乱雑に扱われたら仕方ないと思った。
「……も、もうしわけ、ございません……しゃ、しゃせい、あっ、やっ……」
親友の顔は怒っているようだった。そしてそれがなぜだか気づいたのか再び扱き出したが、遅かった。
「おい。」
「ひっ……いや、あっ…やだっ、ごめんなさい、ごめんなさい! ゆるして……やっ!」
今までに聞いた事のないような黒い低い声だった。少年は全身を震わせて謝罪している。また手が止まった。
暫時、"バシーン"。強烈な打撃音が部屋に響いた。
「射精したいとか言って手動かしてないし、なに奴隷の分際で勝手に喋ってんの? 殺されたいの?」
「もうしわけございません! いやっ、あっ……ごめんなさいっ、こ、この…どうしようも──」
「そうゆうのいいから、はやく続けて。SHOからはお前もう売れないから処分していいって言われてんの。」
「……い、いやっ、しょぶん……ひっ、やだ……っっ」
"バシーン"2回目の打撃音。頬を叩かれる。
「うるさい! 黙れ!」
親友の怒号が響き、こちらまで圧倒される迫力。
それを諸に受けた少年は小さく呻き声を出したうえ、涙をぽたぽた流しながら再び自慰をする。
一旦怒られて萎えたとはいえ、すぐに固くなったそれは多分限界だろう。
「…ごめんごめん。」
「あー、別にいいけど。」
いいわけなかったが、このままだと少年がまた殴られる未来が見えるので話を進めることにした。
「どこまで話したっけ。」
「本題なんだけど、って言いかけで終わった。」
「ああ、そうだ、それだ! ほんとにわりぃ。みっともない姿見せたぜ。」
さっきの親友はなんだったのだろうか、と言えるくらい平穏に戻った。
「でもだいたい事情わかったわ。お前、こういうやつ好みじゃなさそうだもんな。……その、……ペット?」
人をペットと呼ぶのにつっかえた。
「よく分かってるじゃん、親友。さすが、俺の性癖分かってるだけあるわ! 俺さ、こいつ2週間前くらいに前の飼い主からもらってさ。でもすぐ泣くし、命令逆らうしペットなのにそういう奴無理でさ。」
そんな親友の話を聞きながらもうかなり危ない状況に陥っている少年はまた泣き始めた。
さっき怒鳴られたから、声を押し殺しているがその方が更に惨めに思えてきた。
「前の飼い主に聞いたら、っていうか前の飼い主って俺の兄ちゃんなんだけど。こいつこんな性格だから売れ残り商品になってたんだって。
で、もう奴隷最安値で売られちゃってさ。あと一日で殺処分だったんだって。兄ちゃんは若いやつならなんでもいいからさ、これ買ってきたんだよ。それで結構ズタズタにしたらしくて、もう売り物にはなれないって言われたんだってさ。
勝手に処分してもいいし、適当に知り合いに渡してもいいってSHOに言われたらしくって。」
「つまりそれ価値ないってこと?」
「そうそう。兄ちゃんは最後の慈悲で新しい飼い主探してせめて壊れてから処分したいんだって。」
「へぇー。」
といってみたが、ただ親友の兄は自分の手で処分したくないだけでは無いかと思ってしまった。
価値のない少年。もう死ぬしか残されてない少年。
なんだか悲しくなって少年を見れば、もう本当に限界なのだろう。涙をぽたぽた流して歯を食いしばっていた。
あーこれは、もうダメだ。
「わかった、わかった。皆まで言うな。親友。俺が最後の砦ってことな?」
「そうそう、物分りが良くて助かるわ。──おい、自慰するのやめろ。」
やっと終わりの許可が出た。
少年は安堵の表情を浮かべた。
「とはいえ、俺も一人暮らしで金はない。仕送りも少ないからな。生活費の2割お前に請求するぞ?」
「あーおっけー。金はうち、あるからな。兄貴にも言っとくぜ。」
「ありがと。」
って、やっぱそうじゃんか。
お前ら、大企業のご子息様だから自分の手を患って殺したくないだけ──。
まぁいいや。2割とは言ったが少し盛って請求してやろ。
「まぁ、お前が大学行ってる間、そいつ働かせればいいだけじゃん。」
「え? でも中坊が昼働いてるのってどうなの?」
「いや、いや。その辺は大丈夫。SHOを認めてる会社って結構多いらしいぜ。だから表の仕事はさせないんだって。例えばスーパーとかだったらレジじゃなくて店裏での肉体労働とか。飲食店だったら注文じゃなくて、皿洗いとか厨房の掃除とか。
あと、ストレス発散道具として使う店もあるんだとさ。だから大丈夫。」
「へぇー。できることなら一生知りたくなかったわ。」
ほんと、冗談抜きで。
「そういえば、お前が働いてるコンビニもSHO認めてるらしいぞ。」
「うわっ、まじか! あの温厚な店長がこんな外道のような道を噛んでるなんて!」
そうだ。俺のバイト先の店長はそれはそれは物腰の柔らかい人で、尊敬できる。だからこそ売上も他店に比べ相当良くて、都心の中で長く続けてられてるっていうのに。
そんな人もこんな残虐なことを──。
「いや、こいつみたいなやつは少数だよ。大体は労働奴隷で、一般的にはSHOは派遣みたいな認識なんだって。」
「へぇー。」
それなら納得だ。
この少年が受けている苦痛を享受する会社がひしめいている世の中なんて、怖くて仕方ない。
「まぁ、どんなに物腰が柔らかくても裏では狂気を纏わせてる野郎なんてゴミのようにいるだろう? 例外なくお前もだけど。」
いや、それはお前もだろう。
と突っ込みたい。まぁ、でも今はいいだろう。
「お前、今日もう学校いかないのかよ。」
「あ? うん。どうして?」
「だったら映画行きたい。新作の見たいって言ってたやつ。」
咄嗟に口に出していた。
なんだかあまり今の状況が飲み込めず、口に出てしまったのだろう。
あとから考えて、今映画見に行ったらこいつどうするんだと思った。
「まさか、お前、初日から放置プレイかよ。クハハ! さすがだな!」
「いやいや、そういうつもりじゃなかったけど。」
「俺は別にいいよ。こいつはもうお前のもんだし、放置しても逃げないし。」
「そうなの?」
「ああ。元々、こいつ帰る場所ないし。脱走したら捜索されて見つかったら飼い主次第だけど大体殺処分だから。」
へぇー。
おぞましい話をしてるのだけは伝わった。
「首輪渡しとくわ。あと今日の夜、宅配で荷物届くからそれも使って。」
ていうか、こいつ、俺が引き取る前提で話してたのか。
恐ろしい親友だ。まぁいいけど。
「首輪? でもこいつ、首のところにバーコードあるけど?」
「ああ、これ? 首輪は携帯と連動させることでロックの解除は飼い主が自由にできるの。あとGPSもついてるしマイク代わりにもなるから居場所すぐ分かるしいつでも話できるぜ。首輪、勝手に奴隷が外そうとするとすぐ通知行くし、すごいうるさいブザーなるから。
バーコードは認証システム…あっ、やべ。一番重要なことしてなかったわ。今、LINEで招待送るから許可して。」
「ん? わかった。」
俺はベッドの中に投げ飛ばされたスマホをとって、LINEで親友で見つける。
「お前、相変わらず遅いな、機械音痴。」
「うっせ。」
"ピロン"
親友から送られてきた招待を見ると【SHO】と書かれたページが出て、アプリダウンロードページに飛んだ。
あとから知ったが、このアプリはSHOに加入してる人から招待されなければ、ダウンロードできないらしい。
「インスト終わった。」
「いや、はや! さすが機械上手。」
「普通だろ。」
そこで早速でてきた会員登録の要項を書き、免責事項をかなり慎重に読み、同意した。
「一通り終わった。」
「あ、うん。チョット待て。」
となにやら親友は焦っている。
そんな親友を横目に俺は少年を見ていた。
涙はもう止まったらしく、若干俯きながら正座している。
肌の色が白い分、痣はよく目立つ。
青くなった痣、カッターか何かで付けられた線、いくつかの焦げたあと。特に胸のふたつの突起は腫れに腫れて痛々しい。
「なんでなんだ!」
その声に現実に引き戻された。
少し、少年は震えた。
「どうしたんだよ。」
「パスワード忘れた。」
「はぁ?」
そんな馬鹿なことを言ってる親友のスマホを取り上げて、パスワードの変更手続きを操作してやった。
「それでパスワード設定もう一回したら、どっかメモにでも買いとけよ。──これだから機械音痴は。いや、いい所のお坊ちゃまは。」
俺の呆れた声など無視して、感嘆の声をあげた。
その間も少年は僅かな震えはあったものの静かに正座していた。
もうここまで来ると物のようだ。
奴隷だったら=物の考えは比較的間違ってないか。
「できたできた! あざーす!」
「映画代奢れ。」
「いいよ。」
いや、そこは無理だと言えよ。
これだから坊っちゃまは。
つうか、パスワード少年は覚えてたりして。まぁいっか。
「で? これで何するの?」
「飼い主登録。奴隷のQRコード読み取ってSHOのシステムに保存するの。」
「いや、それ一番最初にやんなきゃいけないやつじゃん。」
「そうだな。ははは。」
反省してなさそうなので、前言撤回。
絶対映画代奢ってもらおう。
「QRコード認定」ページまでいき、俺は初めて少年にその時触った。
暖かかった。まぁそれは生き物だから当たり前だけど、なんだかより少年が惨めに思えた。
触ったら少し震えられたけど、あまり気にしない。
「QRコード見せて。」
「は、はい……ご主人様。」
喋ると手に振動がつたわる。
やっぱり物じゃなく生き物だ。
少年は俺にQRコードをよく見えるようにした。
刺繍だろう。二度と消えないだろうな、これ。
そのコードにスマホを近づけて撮る。
すると認証完了と出た。
下に「無価値、譲渡 ご利用ありがとうございます」の文字を添えて。
「これでそいつはお前のものだよ。」
人のやりとりと思えないほどの簡単さだった。
「じゃあ、映画行くか。」
「あ? うん。首輪つけたら。」
やっぱり少年は親友にとってはものなのだろう。
無価値のもの。
俺はそう確信して、無意識的に首輪を少年につけた。
家賃6万の1LDKに響いたインターホン。
今日は大学休みだぞ? などと思いながらドアを開けると、眩い朝日と主に高校時代からの友人が顔を覗かせた。
大学も同じ学部学科になった俺の親友の横には、もう一人男が立っていた。
「おはっ! 今日お前休みだろ?」
「あぁ。そうだ。だから昨日は朝までアニメ見てこう堕落した最高の休日を過ごそうと思ってたのに。なんだよ?」
と不機嫌そうに言ってみたが、親友は全く無責任な顔で軽く笑った。
「あぁ、それはわりぃ、わりぃ。」
「で? なんの御用でしょうか? 変態。」
と笑ってみせると俺の家だと言うのに、俺を押しのけて親友と親友に手を握られた男は無遠慮に入ってきた。
「おじゃましまーす!」
「はぁ。」
大きなため息の後、ドアを閉め鍵をかけた。
「おちゃー」
着くなり、ソファーに寝転がり注文してくる親友。いつもの事だからいいけど、それよりもそのソファの下で身を固く正座している男が目に付く。
冷蔵庫から適当にペットボトルのお茶を取りだし、寝転がっている親友に投げた。
「サンキュー!」
「次、○○行ったら定食200円引きクーボン渡せ。」
「えぇー! だってこのお茶100円より安いじゃん。」
「いや、ひとんち土産もなしに勝手にくるやつにはこの位もらわないと。」
親友は少し不貞腐れた顔をしたが、承諾した。
「で? ドイツ語演習サボりのおにいさん。その人はだれですかね? もしかしてそれが昨日、【お前に渡したいものがある】のそれとか言わないだろうなぁ?」
ここで肯定されたら追い出してやる。そう思ったと同時に間抜けな声を受け取った。インターホンの機械的な音とかけはなれた頭のおかしいやつのこえだった。
「ピンポーン!」
「いや、やだぞ、俺は。なんなのか分からない人を家に入れておくの。」
「いやいや、人じゃないんで大丈夫。ペットだよ。」
さも当然のように吐き捨てた親友の言に鈍器で殴られたような衝撃を受ける。
「はぁ? いやいや……お前、そういう趣味……いや、元々頭おかしいやつだと思ってたけどさ。」
「いやいやそれがどうして。本当なんだぜ。お前もこの名前知ってるだろ? 【SHO】って。俺もこいつ飼い始めてから知ったんだけどさ、本当に実在するんだってさ。」
その名前に絶句した。
【SHO】は、ハードAV界隈では非常に有名な、ビデオ名だった。【slave human organization】の頭文字をとって付けられた、まぁよくあるものだが、空前の大ヒット作品である。
それが本当にあると親友はキッパリ言い切った。
それにド肝抜かれた。
「は? お前なんかの詐欺にでも会ったんじゃねぇ?」
と冗談ではなく本気で言ったつもりだったのに、親友は首を振った。
「じゃあ、見てろよ。」
そう言って徐にソファーから起き座り直した親友は下に正座して微かに震えている男に向かって言葉を発した。
「ここでオナニーしろ。ちゃんとお客様──いや、次期飼い主に向かって誠意を持ってだ。勝手にイッたらお仕置だからな。」
顔に紙マスクをして深い帽子をかぶる男の顔は全く見えず不審者に相応しい。服は一般的な普通の服を着ていたが、親友にそう言われた途端、服をなんの躊躇いなく脱ぎ始め、すぐに俺の方を向いて自慰を開始した。
マスクと帽子も取ったその顔はまだ幼さを酔わせる中坊、いって高校進級したばかりのような顔立ちだ。
綺麗な顔をしているのだが、顔以外には数多の痣とよく分からない傷が付けられていた。
そして首に掘られたQRコードのような紋。
いやはや、人間として見るのは少し抵抗があるような粗末な格好だった。
「……くっ、あっ…」
自慰中に声が漏れ出ているが、男──いや、少年は必死に擦っていた。
と、俺がその様子を見入っていたところに親友の声が聞こえた。
「なっ? やべぇだろ? こいつまじでなんでも言うこと聞くんだぜ。一週間排便許可出さなくても、耐えるし。どんなに殴って蹴っても感謝の文言言ってくるし。バイトやらせたんだけど、働いた分全部奪っても全く動じないし。
餌代もそこまでかからなければ、メンテナンスもいらないし家事も全部してくれるし、マジ万能。それに性処理もうまいときた。飼い主の命令なんでも聞くし、死ねって冗談で言ったら、手で本気で首絞めだすし。」
笑いながら親友が言ってることは正気の沙汰ではない。
でもこの話をしてる時も誠意を持って自慰している少年を見ると信憑性は増すばかり。
俺の中でどす黒いものがせりあがってくる。
普段温厚、親友にも信頼される男の本性は残虐性に溢れていた。
それを親友は知っていた。熟知していた。
だから俺にこれを見せつけた。売りつけたのだろう。
「…うっ、くぅ……すみません…あ、ご、ごしゅじんさま、あ……も、もう、い、い……」
突然、少年は全身を硬直させ擦りながら喋った。
もう限界らしい。そんなに必死に扱いているから…と思ったが「誠意を持って」と言われてたからかと、納得してしまった。
「でさ、本題なんだけど!」
しかし親友はそんな少年の声を無視し、次の話題に移ろうとした。
「いや、待てよ。なんか喋ってたよそいつ。」
「ん? いつ?」
「え? 今。」
親友はさも聞こえていなかったように言葉を返してきた。
絶対聞こえてただろうに。
少年を見ればもう限界そうだった。右手で全力の扱き、左手で亀頭を押さえつけて決して射精しないようにしている。目から涙が流れ出し、涎も出てる。
「……あっ、くぅー……も、もう、むりぃ……」
ギンギンに張りつめた陰茎を右手が震えるほど強い力で握って扱く。
「気持ちいい」より、「痛い」だろ、それ。
「あぁ、ごめんごめん。虫の声で全然気づかなかったわ。で、なに?」
親友は少年の短髪の髪を掴んで無理矢理ベッド側に引き寄せた。その時に自慰してた手が止まったがあんなに乱雑に扱われたら仕方ないと思った。
「……も、もうしわけ、ございません……しゃ、しゃせい、あっ、やっ……」
親友の顔は怒っているようだった。そしてそれがなぜだか気づいたのか再び扱き出したが、遅かった。
「おい。」
「ひっ……いや、あっ…やだっ、ごめんなさい、ごめんなさい! ゆるして……やっ!」
今までに聞いた事のないような黒い低い声だった。少年は全身を震わせて謝罪している。また手が止まった。
暫時、"バシーン"。強烈な打撃音が部屋に響いた。
「射精したいとか言って手動かしてないし、なに奴隷の分際で勝手に喋ってんの? 殺されたいの?」
「もうしわけございません! いやっ、あっ……ごめんなさいっ、こ、この…どうしようも──」
「そうゆうのいいから、はやく続けて。SHOからはお前もう売れないから処分していいって言われてんの。」
「……い、いやっ、しょぶん……ひっ、やだ……っっ」
"バシーン"2回目の打撃音。頬を叩かれる。
「うるさい! 黙れ!」
親友の怒号が響き、こちらまで圧倒される迫力。
それを諸に受けた少年は小さく呻き声を出したうえ、涙をぽたぽた流しながら再び自慰をする。
一旦怒られて萎えたとはいえ、すぐに固くなったそれは多分限界だろう。
「…ごめんごめん。」
「あー、別にいいけど。」
いいわけなかったが、このままだと少年がまた殴られる未来が見えるので話を進めることにした。
「どこまで話したっけ。」
「本題なんだけど、って言いかけで終わった。」
「ああ、そうだ、それだ! ほんとにわりぃ。みっともない姿見せたぜ。」
さっきの親友はなんだったのだろうか、と言えるくらい平穏に戻った。
「でもだいたい事情わかったわ。お前、こういうやつ好みじゃなさそうだもんな。……その、……ペット?」
人をペットと呼ぶのにつっかえた。
「よく分かってるじゃん、親友。さすが、俺の性癖分かってるだけあるわ! 俺さ、こいつ2週間前くらいに前の飼い主からもらってさ。でもすぐ泣くし、命令逆らうしペットなのにそういう奴無理でさ。」
そんな親友の話を聞きながらもうかなり危ない状況に陥っている少年はまた泣き始めた。
さっき怒鳴られたから、声を押し殺しているがその方が更に惨めに思えてきた。
「前の飼い主に聞いたら、っていうか前の飼い主って俺の兄ちゃんなんだけど。こいつこんな性格だから売れ残り商品になってたんだって。
で、もう奴隷最安値で売られちゃってさ。あと一日で殺処分だったんだって。兄ちゃんは若いやつならなんでもいいからさ、これ買ってきたんだよ。それで結構ズタズタにしたらしくて、もう売り物にはなれないって言われたんだってさ。
勝手に処分してもいいし、適当に知り合いに渡してもいいってSHOに言われたらしくって。」
「つまりそれ価値ないってこと?」
「そうそう。兄ちゃんは最後の慈悲で新しい飼い主探してせめて壊れてから処分したいんだって。」
「へぇー。」
といってみたが、ただ親友の兄は自分の手で処分したくないだけでは無いかと思ってしまった。
価値のない少年。もう死ぬしか残されてない少年。
なんだか悲しくなって少年を見れば、もう本当に限界なのだろう。涙をぽたぽた流して歯を食いしばっていた。
あーこれは、もうダメだ。
「わかった、わかった。皆まで言うな。親友。俺が最後の砦ってことな?」
「そうそう、物分りが良くて助かるわ。──おい、自慰するのやめろ。」
やっと終わりの許可が出た。
少年は安堵の表情を浮かべた。
「とはいえ、俺も一人暮らしで金はない。仕送りも少ないからな。生活費の2割お前に請求するぞ?」
「あーおっけー。金はうち、あるからな。兄貴にも言っとくぜ。」
「ありがと。」
って、やっぱそうじゃんか。
お前ら、大企業のご子息様だから自分の手を患って殺したくないだけ──。
まぁいいや。2割とは言ったが少し盛って請求してやろ。
「まぁ、お前が大学行ってる間、そいつ働かせればいいだけじゃん。」
「え? でも中坊が昼働いてるのってどうなの?」
「いや、いや。その辺は大丈夫。SHOを認めてる会社って結構多いらしいぜ。だから表の仕事はさせないんだって。例えばスーパーとかだったらレジじゃなくて店裏での肉体労働とか。飲食店だったら注文じゃなくて、皿洗いとか厨房の掃除とか。
あと、ストレス発散道具として使う店もあるんだとさ。だから大丈夫。」
「へぇー。できることなら一生知りたくなかったわ。」
ほんと、冗談抜きで。
「そういえば、お前が働いてるコンビニもSHO認めてるらしいぞ。」
「うわっ、まじか! あの温厚な店長がこんな外道のような道を噛んでるなんて!」
そうだ。俺のバイト先の店長はそれはそれは物腰の柔らかい人で、尊敬できる。だからこそ売上も他店に比べ相当良くて、都心の中で長く続けてられてるっていうのに。
そんな人もこんな残虐なことを──。
「いや、こいつみたいなやつは少数だよ。大体は労働奴隷で、一般的にはSHOは派遣みたいな認識なんだって。」
「へぇー。」
それなら納得だ。
この少年が受けている苦痛を享受する会社がひしめいている世の中なんて、怖くて仕方ない。
「まぁ、どんなに物腰が柔らかくても裏では狂気を纏わせてる野郎なんてゴミのようにいるだろう? 例外なくお前もだけど。」
いや、それはお前もだろう。
と突っ込みたい。まぁ、でも今はいいだろう。
「お前、今日もう学校いかないのかよ。」
「あ? うん。どうして?」
「だったら映画行きたい。新作の見たいって言ってたやつ。」
咄嗟に口に出していた。
なんだかあまり今の状況が飲み込めず、口に出てしまったのだろう。
あとから考えて、今映画見に行ったらこいつどうするんだと思った。
「まさか、お前、初日から放置プレイかよ。クハハ! さすがだな!」
「いやいや、そういうつもりじゃなかったけど。」
「俺は別にいいよ。こいつはもうお前のもんだし、放置しても逃げないし。」
「そうなの?」
「ああ。元々、こいつ帰る場所ないし。脱走したら捜索されて見つかったら飼い主次第だけど大体殺処分だから。」
へぇー。
おぞましい話をしてるのだけは伝わった。
「首輪渡しとくわ。あと今日の夜、宅配で荷物届くからそれも使って。」
ていうか、こいつ、俺が引き取る前提で話してたのか。
恐ろしい親友だ。まぁいいけど。
「首輪? でもこいつ、首のところにバーコードあるけど?」
「ああ、これ? 首輪は携帯と連動させることでロックの解除は飼い主が自由にできるの。あとGPSもついてるしマイク代わりにもなるから居場所すぐ分かるしいつでも話できるぜ。首輪、勝手に奴隷が外そうとするとすぐ通知行くし、すごいうるさいブザーなるから。
バーコードは認証システム…あっ、やべ。一番重要なことしてなかったわ。今、LINEで招待送るから許可して。」
「ん? わかった。」
俺はベッドの中に投げ飛ばされたスマホをとって、LINEで親友で見つける。
「お前、相変わらず遅いな、機械音痴。」
「うっせ。」
"ピロン"
親友から送られてきた招待を見ると【SHO】と書かれたページが出て、アプリダウンロードページに飛んだ。
あとから知ったが、このアプリはSHOに加入してる人から招待されなければ、ダウンロードできないらしい。
「インスト終わった。」
「いや、はや! さすが機械上手。」
「普通だろ。」
そこで早速でてきた会員登録の要項を書き、免責事項をかなり慎重に読み、同意した。
「一通り終わった。」
「あ、うん。チョット待て。」
となにやら親友は焦っている。
そんな親友を横目に俺は少年を見ていた。
涙はもう止まったらしく、若干俯きながら正座している。
肌の色が白い分、痣はよく目立つ。
青くなった痣、カッターか何かで付けられた線、いくつかの焦げたあと。特に胸のふたつの突起は腫れに腫れて痛々しい。
「なんでなんだ!」
その声に現実に引き戻された。
少し、少年は震えた。
「どうしたんだよ。」
「パスワード忘れた。」
「はぁ?」
そんな馬鹿なことを言ってる親友のスマホを取り上げて、パスワードの変更手続きを操作してやった。
「それでパスワード設定もう一回したら、どっかメモにでも買いとけよ。──これだから機械音痴は。いや、いい所のお坊ちゃまは。」
俺の呆れた声など無視して、感嘆の声をあげた。
その間も少年は僅かな震えはあったものの静かに正座していた。
もうここまで来ると物のようだ。
奴隷だったら=物の考えは比較的間違ってないか。
「できたできた! あざーす!」
「映画代奢れ。」
「いいよ。」
いや、そこは無理だと言えよ。
これだから坊っちゃまは。
つうか、パスワード少年は覚えてたりして。まぁいっか。
「で? これで何するの?」
「飼い主登録。奴隷のQRコード読み取ってSHOのシステムに保存するの。」
「いや、それ一番最初にやんなきゃいけないやつじゃん。」
「そうだな。ははは。」
反省してなさそうなので、前言撤回。
絶対映画代奢ってもらおう。
「QRコード認定」ページまでいき、俺は初めて少年にその時触った。
暖かかった。まぁそれは生き物だから当たり前だけど、なんだかより少年が惨めに思えた。
触ったら少し震えられたけど、あまり気にしない。
「QRコード見せて。」
「は、はい……ご主人様。」
喋ると手に振動がつたわる。
やっぱり物じゃなく生き物だ。
少年は俺にQRコードをよく見えるようにした。
刺繍だろう。二度と消えないだろうな、これ。
そのコードにスマホを近づけて撮る。
すると認証完了と出た。
下に「無価値、譲渡 ご利用ありがとうございます」の文字を添えて。
「これでそいつはお前のものだよ。」
人のやりとりと思えないほどの簡単さだった。
「じゃあ、映画行くか。」
「あ? うん。首輪つけたら。」
やっぱり少年は親友にとってはものなのだろう。
無価値のもの。
俺はそう確信して、無意識的に首輪を少年につけた。
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