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後味は苦さが際立つ
しおりを挟むグレープフルーツがすきだった。
爽やかな香り、甘酸っぱい味。
特にピンク色のグレープフルーツが。
なんとなく、ホワイトより甘く感じるから。
ピンクグレープフルーツジュースが好きだった。
果汁100%のピンクグレープフルーツのジュース。
爽やかな香り、甘酸っぱい味。それから続く苦味。
でも、今は苦手だ。大好きだったあいつがよく飲んでいた280mlのそれを思い出して、そして、あの時の恋を思い出して。なんだかとても苦く感じるから。
襟足が刈り上げられて少し汗でおでこに張り付いてるセンターパートの黒髪、全てを吸い込んでしまうような真っ黒な瞳と真面目に部活をしていたことが分かる焼けた肌。180cmほどある身長と、よく付いた筋肉。節くれだった大きな手足と大きめな口、笑うと目元の笑いジワと左の笑窪が印象的な幼なじみ。
幼い頃から大好きで、何時しか恋に変わっていた。
俺、小林蓮斗の幼なじみであり想い人の副島愁の隣には、肩くらいまでの身長に高めのポニーテール、日が煌めいたような茶髪と長いまつ毛、手入れされた爪と薄化粧。俺とは違い愁に見合った女の子が立っていた。
確かあの子は愁が所属する陸上部のマネージャーで、1年生だったはず。
ぐっ、と愁が屈んでマネージャーと愁の顔と顔が近づいた。
ガコンッ
自販機の取り出し口に落ちた、俺と愁が大好きな100%のピンクグレープフルーツジュース。
17歳、夏。
長かった恋が、ジュースと共に落下した。
◇
あ~~~クソ、思い出してしまった。
悪夢だ悪夢。
21歳、春。俺は地元から離れて一人暮らしをしている。大学に入っていたけど中退して、今は大学生の頃アルバイトをしていたカフェで正社員として働いていた。
昨日は大学の同期たちと3ヶ月ぶりに集まって飲み会をして、酔いにくく二日酔いもないいわゆる『ザル』な俺は調子にのって浴びるほど酒を飲んだ。
そうして現在、絶賛グロッキーの初二日酔いである。鬱。
ちなみにカフェの従業員には2ヶ月の新人アルバイトくんと俺、店長。店長はもうすぐ赤ちゃんが生まれるし、ほぼ動けるのは俺しかいない。早く人を雇ってくれ。でも教えるのは俺だし、忙しさはどうにもならない。休みどこ?って昨日だわ。休んだ気がしない。
「…蓮さん大丈夫ですか?」
「……んー、平気」
そうだ、そろそろデザートの作り方を教えないと。
モーニングが終わって、ランチまでまだ時間がある。この客が少し少ない時に教えておこうか。
「玲」
「っはい!」
「デザートの作り方教えとくわ。少しずつでいいから、まずは簡単なのからやってこうか」
「はい!」
「じゃあ厨房に移動して…」
カランカラン
今か、と思いながらベルがなった入口をみる。客と目と目があって、いらっしゃいませ、は言葉にならずに中に溶けた。
大きく目を見開いたその人は、まるで昨日の夢そのままのようだった。ただ、あの時よりも色気が出たというか、大人の男になった。
──幼なじみであり想い人だった愁が立っていた。
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