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三話 エサやりタイム

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「三人目って募集してるの?」
茶髪メガネの特製もも肉を魚たちに振る舞っていた僕は、ふとした疑問を尋ねる。
「うーん…。近いうちに女の人が来るかもしれないです。」
「そうなんだ。」
ポチャンと音を立てて肉は沈んでいく。
「女の人って初だよね?」
「はい。」
魚たちは勢いよく食らいつく。
早食い競争とかのバラエティ番組を思い出すなあ。
基本テレビは嫌いだからあんまり見ないし、いつの記憶だろう。
水槽の魚たちは金魚でもメダカでもベタでもない。
僕が見たことのない魚だ。
外来種とかなのかなあと思ったり。
「もう八時だけど、学校行かないの?」
僕の携帯のホーム画面には今、8:00と表示されている。
平日の朝八時。
良い子は学校に行く時間だ。
最近は悪い子も行くのかもしれない。
じゃあ僕はどんな子なんだ。
「学校?行かないですよ。」
当たり前のようにさらっと言ってやがる山田くん。
「ちなみに最後に行ったのはいつ?」
しばらく考えて、その後苦笑いを見せた。
「えっと…一ヶ月くらい前?」
僕と同種だった。
「あ、あの肉は魚が全部食べましたけど、骨はどうしましょうか?」
無理矢理、話題変えたな…。
「何かに包んでゴミ箱に捨てればいいんじゃない?」
ゴミ箱は見当たらないけど。
「そうですね。ゴミ袋あったかなあ…。」
山田くんが呟きながらキッチンに向かって、しばらくすると、冷凍庫から霜がたくさんついた冷たいゴミ袋を持ってきた。
「三枚もありました。」
「お、おう…。」
どことなくうれしそうな山田くんを見て、やっぱり何もつっこめなかった。

それから昼も朝の野菜ご飯を食べて、茶髪メガネの骨たちはゴミ袋に入れた。
僕たちの努力で腐った匂いの減ったこの家は、日が沈むにつれて最初に来たときのように、暗くて不気味な家に成り下がった。
お化け屋敷を目指しているなら成り上がったのかもしれない。
「そろそろお風呂入りますか?」
ソファーの上でうたた寝をしていると、山田くんが声をかけてきた。
「入ろうかな。」
まだもう少しの間かもしれないけど、生きていくなら。
「こっちです。」
山田くんは間接照明の一つ目と二つ目の電源スイッチを入れると、風呂場兼洗面所を案内してくれた。
殺人部屋の手前。
お湯はすでに沸いているらしく、入浴剤の良い香りが漂っている。
久しぶりに嗅ぐ匂い。
それにいつもシャワーだけで済ませているから、浴槽に入るのも半年振りくらいじゃないか?
僕は少しウキウキしながら、パーカーを脱ぎ始めた。
だけど、案内役の山田くんは風呂場から出て行こうとしない。
すると、山田くんまで血塗れのTシャツを脱ぎ始めた。
後で入るのかと思いきや、一緒に入るらしい。
家の主人には逆らえないし、僕は何も言わないけど。
服を脱ぐたびにだんだんと山田くんの白くてきれいな肌が露わになっていく。
なんかエロいなあ。
引きこもりはやっぱり白いし。
僕は山田くんよりは外に出たり、学校に行っているつもりだから、少しは日に焼けてるはず。何の戦いだ。
僕たちはすっぽんぽんになると、風呂場に直行した。
普通のマンションにしては広くて、この子の両親はかなりのお金持ちなんだなあと改めて思う。
「スズキくん、俺が洗いますよ。」
「え?」
泡タイプのボディソープを手に取った山田くんが恐る恐る僕の胸部をなぞった。
肩、腕、腹と続いていく。
僕、そんな趣味ないし、そもそも男同士ってこんなことするっけ?
ダメだ、友達いないからよく分からない。
「わ、下半身はいいよ…!背中だけやってくれる?」
「そうですか?分かりました。」
後ろを向くと、柔らかい手つきで背中を洗ってくれた。
僕はなぜか急に恥ずかしくなって俯いたけど、その後は自分で下半身を洗って、山田くんの体も洗ってあげる。
髪の毛は各自済まして、最後にあったかい風呂に入る。
男二人で入ってもまだ少しスペースに余裕がある。
「…。」
「…。」
だけど、終始無言。
何、この変な時間。
僕たちの関係は一体何なんだろう。

風呂を出て、お腹は空いていなかったから夜ご飯は食べなかった。
「あ。」
山田くんが携帯を見ながら声を上げた。
ソファーの背もたれに手をついて、後ろから画面を覗き込んでみる。
黒背景の怪しげなサイト。
「さっき言ってた女の人、一週間後に来るらしいです。」
「へえ。」
何だ、一週間後って。早く殺されに来ればいいのに。
僕のときもこんな感じだったんだろうか。
おそらく茶髪メガネのときも。
山田くんは殺してほしいという人を募るサイトを作った管理人だ。
ネット上で死にたいと呟く人に定期的にアプローチしているらしい。
だけど、死にたい→殺しましょうか?→お願いしますなんて普通はなるわけない。
僕たちが頭おかしいのだ。
かなりのアカウントにアプローチしてるみたいだけど、どうしてそんなことをやっているんだろう。
もう一度画面を覗き込むと、さっきの女の人とまだメッセージを送り合っていた。
大事な客を逃すまいとしているのか。
引きこもりで人恋しいのか。
もしかして快楽殺人者とか?
でもどれも違う気がした。
じゃあ何で…。
「寝ますか?」
「あ、ああ、うん。」
考えをぐるぐると巡らせていたら、山田くんが僕の顔をじっと見ていた。近い。
のけぞって、少しばかりよろめいた。
最近、体がフラフラするのは気のせいか?
「こっちです。」
そう言って山田くんはまた殺人部屋のほうに歩いていった。
まさかあの部屋で寝るとか言い出さないよね?
ああ、そっちか。
僕がまだ一度も入ってない左側の部屋に案内された。
そこには大きいベッドと間接照明三つ目があって、完全に寝るためだけに作られたかのようだった。
山田くんはこんな主張の強いベッドで毎日一人で寝ていたのか。
まだ中学生でこんなに広い豪華な家に一人きりで。
本当に家族はいるんだろうか。
まあ僕もクズみたいな両親はかなり前に死んだし、兄弟はいないから僕たちはやっぱり似た者同士なのかもしれない。
山田くんがベッドに上がる。
僕は反対側を使わせてもらうことにした。
ベッドは見た目通り、体重をかけるとすぐに体が沈んで、とにかくふかふかだった。
布団を引っ張って睨み合いながら、「僕の~!!」「俺の~!!!」とやることはなく、譲り合って使う。
譲り合いの精神、大事。
「スズキくん、おやすみなさい…。」
とろんとした目で山田くんが言った。
「…おやすみ。」
僕も眠ることにする。
この家には時計がないんだなあとか、押し入れにも水槽があってびっくりしたなあとか、寝る前って余計なことを考えてしまう。
もう寝ないと……。
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