それは、恋でした。

むう

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夏合宿

2-12

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***



次の日の朝、あたしはいつもとは早い時間に目が覚めた。


あたしの隣で気持ちよく寝ている渡邊先輩を起こさないように着替えて部屋から出る。




まだ起床時間じゃないし、起こすのも悪いよね…



1人静かな廊下を歩いて洗面所に行く。



昨日の夕飯ではトマトは皆食べてくれたし…


とにかく朝は、トマトは出す事にしよう。





「…よし!!」




パンパンと顔を軽く叩いて、気合いを入れる。


好きなものと一緒に出すって言うのもありかもだけど、野菜が入ってるって事がばれない方が皆食べてくれるよね?



暑い中頑張って練習してるんだから、あたしも頑張ろう!




「あれ、沙奈ちゃん?」



後ろを振り返ってみると、そこには悼矢さんが立っていた。



「悼、矢さん…!?」



「何か目ぇ覚めちゃってさ…沙奈ちゃんも?」

「まぁ、はい」



こんな朝早く、しかも一番初めに会ったのが悼矢さんだなんて…



あたしの心臓はトクンと高鳴る。




「これから朝飯の支度?」


「えっと、もう少ししたら、です。まだ起床時間ではないので」

「そっか。でも、起床時間まで結構時間あるな。笑」



起床時間は5時30分。



あたしと渡邊先輩は朝ごはんの支度、悼矢さんたちは朝練が6時から始まる。


時計の針を見るとまだ5時5分前を指していた。



あたし達は顔を見合わせて笑う。





「どうせだから起床時間まで一緒に話そうぜ?早起きして暇だし」

「え?」

「この時間帯だと外は涼しいし、外のベンチ行こ」



悼矢さんはあたしに笑いかけて洗面所から出ていく。


あたしはそれにつられて、悼矢さんの後を追う。


合宿所から出ると、夏の暑さを全く感じさせない位涼しかった。



「あの!悼矢さんは何でこんな時間に目が覚めたんですか?」

「俺?俺ねー、裕大の寝像の悪さで起きちまったの。あと周りの奴の鼾とか、」



肩を竦めてあたしにそう話す。


「沙奈ちゃんは?」

「あたしですか?」

「沙奈ちゃんは、何で早く起きちゃったの?」

「今日のご飯はどうしようかなとか、今日は昨日以上に頑張らないとなとか考えてたら、何か目が覚めちゃって…」

「ご飯は、そんなに気にする事ないよ。上手いもんなら何でも食うし。マネジの仕事もいつも通りやればいいって。」



悼矢さんは笑って言う。




その笑顔にあたしは惹き込まれてしまった。




こんな顔もするんだ…




「それより」

「へ?」

「頑張りすぎて、倒れないようにな?沙奈ちゃんの事だからありそうで、俺、怖ぇよ」



悼矢さんは、あたしの方を向き近づいてくる。


そしてあたしの髪を優しく撫でて来た。



「悼矢さ、」


「悩みとかあったらいつでも言ってきて。出来る限りの事なら俺、助けるし。1人で抱え込まないでな?」

「は、い…」



悼矢さんの顔を見ていられなくて、下を向いてしまう。



今顔をあげたら顔を赤くしてるのがばれちゃう…!


こんな言葉を、異性の人から言われたのはお兄ちゃん以外で初めてだった。


そして、頭の中がこんなに異性の人、悼矢さんの事しか考えられなくなるのは初めて。





緊張しすぎて、

胸が苦しくて、

破裂しそうで。





「そろそろ、あいつら起こさねぇとだな」


「です、ね」



離れた手が、こんなにも愛おしく思うなんてー


お兄ちゃんみたいだって、そう思っているはずなのに…






あたし、どうかしてる。



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