それは、恋でした。

むう

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臨時マネージャー?

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side沙奈



「このくらいでいいか、な??」



綺麗にしよう、綺麗にしようと思っているうちにもう外は暗くなっていて。


これじゃお兄ちゃんに怒られちゃうけどあともう少しだし…




バケツに雑巾を入れて絞っている時、暗い廊下から足音が聞こえた。





な、何・・・??




あたしは、お化けとか怖いものが嫌いで、暗い中1人でいるのも駄目だ。



今は、部屋の電気が付いているからいいものの、こうして暗い廊下から聴こえてくる足音を聞くと、思考が停止してしまう。







何、泥棒!?



それとも本当にお化け!?



頭の中は恐怖に包まれていた。




だんだん近づいてくる足音。






「沙奈ちゃん?」



「わぁ!!」





いきなり声を掛けられてあたしは尻もちを付いてしまう。


「ごめんなさい!本当に!!ただ掃除をしていただけです!!」





絞ったばかりの雑巾で顔を隠す。


すると、クスクスと笑い声が聞こえた。






へ・・・??





「俺だよ、俺。」



ゆっくり雑巾を下ろすとそこには、悼矢さんがいた。



「と、悼矢さん!?」


「話しかけた瞬間、謝ってくるから何だと思っちゃったよ」


「何で、こんな所に・・・?」



半ベソをかきながら、悼矢さんに言う。

普通に考えてもここに来るはずもないと思われる人がいる。




「手伝いに来たんだけど、なんか終わってるみたいだね」

「手伝い?あたし、渡邊先輩には…」

「知ってる。けど1人じゃ大変だと思ったからさ。しかもこんな広い部屋。」




あたしがさっきまで掃除していた部屋を見回す。




確かに大変だったけどー


でも、これはマネージャーの仕事。



だからそんなに気を遣わなくていいのに。




良い人すぎるな、悼矢さんって…





「あ、の…もう、バケツの水を捨てるだけなので…気持ちだけで、十分です!」


あたしはバケツを持って水道場に行く。


その時、悼矢さんはあたしが持っているバケツをヒョイっと持ち上げる。



「重いだろ?俺が持つ。このくらいさせて?」



悼矢さんは、優しい人だから、あたしじゃなく、他の人でも絶対同じ事をするだろう。


悼矢さんにとってこんな事は当たり前の行動で。

だからあたしにも同じ扱いをしてくれる。



そう分かっているのに。


あたしは悼矢さんの背中を見つめる。


最近のあたしはどうもおかしい。


胸がキュゥってなったり、ドキドキしたり。





「沙奈ちゃん?」



悼矢さんがあたしの名前を呼ぶたびに、


凄く嬉しくて、


幸せで。




「早く裕大とこ行かねぇと。あいつかなりの心配性だから」


「は、はい」


あたしは胸の辺りを強く抑えながら小走りで悼矢さんのもとへ行く。




「そーいやさ、さっき裕大が渡邊に怒っちゃってさ笑」

「え!?滅多に怒らないのに・・・」




バケツの中の水を捨てて、近くの掃除ロッカーに入れる悼矢さん。


あたしの気持ちも次第に落ちついてきた。



「もう怒ってないけど、多分内心怒ってるだろうから癒してやってよ」



そんな話をしながら部室まで歩いて行くと、お兄ちゃんの姿が見えてきて。

その時にはまたいつもの自分に戻っていた。

お兄ちゃんはあたしを見てダッシュで駆け寄ってきて抱きついてくる。



「ばっか!こんな時間まで掃除しなくたって明日やりゃぁ良かったじゃん!」


「ご、ごめんね?」



周りの皆は呆れた顔でお兄ちゃんを見ていた。



「さっきとは全然違うなぁ」


あたしに笑いながら話しかけて来たのは、お兄ちゃんのお友達の准くんだった。



「あ、准くん。」


「めっちゃ怒ってたんだぜ?それなのに沙奈ちゃんが来た瞬間これだよ」


「准!うっせぇぞ!!沙奈、早く着替えて来い!風邪ひいちまう」


「うん・・・そうだ、悼矢さん」

「ん?」

「わざわざ、あたしの所まで来てくれてありがとうございました!!」

「いーよ。つか、さっき感謝されたばっかだし。あんま気にしなくていいよ」



あたしはそんな悼矢さんにもう一度ペコリとお辞儀をして着替えに行った。



悼矢さんの笑顔は、お兄ちゃんみたく安心するものだった。


お兄ちゃん。


―そっか、あたし悼矢さんのことお兄ちゃんみたいって思っているのかも。



そう思ったら、さっきよりも心が楽に感じた。




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