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第28話 ディッキーの後悔
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みんなでザックを見送り、骨だけになった彼をそれぞれに持ち寄った小さな入れ物に分け入れた。でも服に忍ばせておくのにちょうど良い大きさのものを見つけるのは難しく、少年たちのほとんどがトミーの愛用している調味料を詰めた小瓶をこっそり持ち出して来ていた。もちろん中身は捨てて。まだトミーは気づいていない。
デレクはザックの骨を入れた小袋の口を締め、ズボンのポケットにしまう。けれどポケットは重さで下に引っ張られることも、形を変えることもない。骨を入れる前と全く同じで、それが少し胸に来た。ほんの少しの骨のかけらなのだから、当たり前のことなのだけど。
彼はポケットに手を入れて、袋の中の骨の形を確かめながら廊下を進んだ。しばらく行くと、前方に三人の仲間を見つける。ディッキーとサミー、それにビリーだ。ディッキーは相変わらずグズグズと泣いており、それをサミーとビリーの二人が慰めているようだった。
デレクは深く息をつき、小さな決意を固めた。足を速めて三人に歩み寄る。
「ディッキー」
顔を上げたディッキーは、腫れぼったい瞼を大きく開いていたけれど、デレクと目が合うとすぐに苦し気に顔を歪めた。彼は顔を背けながら「なんだよ」と言った。
「さっき言ったこと、悪かった。本気じゃないんだ」
ディッキーはデレクの表情を確かめるように、そっと視線を上げる。デレクはなるべく優しい顔をしようと、少し無理をして口角を上げて見せた。安心したのか、ディッキーの目元も緩まる。彼はどことなく力ない感じの面持ちで、
「これで生きてんのは、オレだけだ」
掠れ声で出てきた唐突な言葉。デレクは目を丸くするしかできなかった。
「ディッキー」
サミーがたしなめるように言う。でもディッキーは続けた。
「ランディたちに買われた奴は、みんな死んだ。オレ意外、みんな。オレだけ生き残っちゃったんだよ。さっき、あいつのこと見てたら、なんだか、それが悪いことみたいに――」
「そんなことない」
思いがけず強い口調になってしまい、デレクはしまったと思った。けれど、これだけは言ってやらなくては。デレクはまっすぐにディッキーの顔を見た。
「お前だけでも助かって、良かったんだ。悪いなんて思う必要、一つもない。お前はランディたちに酷いことされても、へこたれないで頑張ってたんだろ。二か月、自分で生き延びたんだろ」
「助かって、良かった」。その言葉にディッキーの目がはっと見開かれた。それから、デレクが言葉を続けるうちに彼の整った顔はくしゃくしゃくしゃっと崩れていく。
「……でも、あいつ、オレよりずっと、いい奴だったかもしれないんだよ。これからたくさん、いろんなこと、できたはずなんだよ。オレは、オレは、きっとこれからもバカみたいなことばっかして、一人だけ助かって良かったって、言えるようなこと、きっと、全然、できないよ……。オレより、オレなんかより、助かった方が良かった奴、きっと……いっぱい、いるんだよ……」
「そんなことない。絶対に、ない」
デレクがきっぱりと言うと、ディッキーは紙くずみたいにくしゃくしゃになった顔をうつむけた。涙がまつ毛の先で丸い雫になり、ぽろぽろと落ちていく。
「……ごめん、デレク。オレ、オレ、ほんとにあんなことする気、なかったんだよ。とんでもないことしちゃったって、分かってるんだ。ごめん……」
デレクはディッキーの肩に手を置いた。
「大丈夫だ。お前が平気であんなことできるなんて、思ってない。ちゃんと分かってるから、心配しなくていい」
ディッキーはしゃくりあげそうになるのを抑えるためだろうか、ぐっと息をのみ込んだ。そうして何とか声を絞り出す。
「ダンにも、あ、謝んなきゃって、思って……でも、あいつ、目も合わせてくれない……」
デレクは胸がじくじくと痛んだ。ダンがどういうつもりかは分からなかったが、彼の態度がディッキーの傷をさらに抉っているのは確かだ。その痛みの何分の一かが、直接心に来たみたいだった。
でもそれ以上に、背筋がぞくりとするような懸念も生まれていた。ダンの奴、何かしでかす気かも知れない。
デレクはザックの骨を入れた小袋の口を締め、ズボンのポケットにしまう。けれどポケットは重さで下に引っ張られることも、形を変えることもない。骨を入れる前と全く同じで、それが少し胸に来た。ほんの少しの骨のかけらなのだから、当たり前のことなのだけど。
彼はポケットに手を入れて、袋の中の骨の形を確かめながら廊下を進んだ。しばらく行くと、前方に三人の仲間を見つける。ディッキーとサミー、それにビリーだ。ディッキーは相変わらずグズグズと泣いており、それをサミーとビリーの二人が慰めているようだった。
デレクは深く息をつき、小さな決意を固めた。足を速めて三人に歩み寄る。
「ディッキー」
顔を上げたディッキーは、腫れぼったい瞼を大きく開いていたけれど、デレクと目が合うとすぐに苦し気に顔を歪めた。彼は顔を背けながら「なんだよ」と言った。
「さっき言ったこと、悪かった。本気じゃないんだ」
ディッキーはデレクの表情を確かめるように、そっと視線を上げる。デレクはなるべく優しい顔をしようと、少し無理をして口角を上げて見せた。安心したのか、ディッキーの目元も緩まる。彼はどことなく力ない感じの面持ちで、
「これで生きてんのは、オレだけだ」
掠れ声で出てきた唐突な言葉。デレクは目を丸くするしかできなかった。
「ディッキー」
サミーがたしなめるように言う。でもディッキーは続けた。
「ランディたちに買われた奴は、みんな死んだ。オレ意外、みんな。オレだけ生き残っちゃったんだよ。さっき、あいつのこと見てたら、なんだか、それが悪いことみたいに――」
「そんなことない」
思いがけず強い口調になってしまい、デレクはしまったと思った。けれど、これだけは言ってやらなくては。デレクはまっすぐにディッキーの顔を見た。
「お前だけでも助かって、良かったんだ。悪いなんて思う必要、一つもない。お前はランディたちに酷いことされても、へこたれないで頑張ってたんだろ。二か月、自分で生き延びたんだろ」
「助かって、良かった」。その言葉にディッキーの目がはっと見開かれた。それから、デレクが言葉を続けるうちに彼の整った顔はくしゃくしゃくしゃっと崩れていく。
「……でも、あいつ、オレよりずっと、いい奴だったかもしれないんだよ。これからたくさん、いろんなこと、できたはずなんだよ。オレは、オレは、きっとこれからもバカみたいなことばっかして、一人だけ助かって良かったって、言えるようなこと、きっと、全然、できないよ……。オレより、オレなんかより、助かった方が良かった奴、きっと……いっぱい、いるんだよ……」
「そんなことない。絶対に、ない」
デレクがきっぱりと言うと、ディッキーは紙くずみたいにくしゃくしゃになった顔をうつむけた。涙がまつ毛の先で丸い雫になり、ぽろぽろと落ちていく。
「……ごめん、デレク。オレ、オレ、ほんとにあんなことする気、なかったんだよ。とんでもないことしちゃったって、分かってるんだ。ごめん……」
デレクはディッキーの肩に手を置いた。
「大丈夫だ。お前が平気であんなことできるなんて、思ってない。ちゃんと分かってるから、心配しなくていい」
ディッキーはしゃくりあげそうになるのを抑えるためだろうか、ぐっと息をのみ込んだ。そうして何とか声を絞り出す。
「ダンにも、あ、謝んなきゃって、思って……でも、あいつ、目も合わせてくれない……」
デレクは胸がじくじくと痛んだ。ダンがどういうつもりかは分からなかったが、彼の態度がディッキーの傷をさらに抉っているのは確かだ。その痛みの何分の一かが、直接心に来たみたいだった。
でもそれ以上に、背筋がぞくりとするような懸念も生まれていた。ダンの奴、何かしでかす気かも知れない。
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