上 下
19 / 40

19 これで勝負を決めてこい!

しおりを挟む
 目の前の眩しさに、つい瞼へ力が入る。手で庇作って目ぇかばい、クソ晴れてんじゃねぇって悪態ついた。
「天気にキレてもしょうがないだろ」
 後ろからの声に、ああ? つって振り返れば、斗歩がいた。殺人的な日差しも意に介さず、平然としてやがる。
「てめぇは体感温度バグり過ぎなんだよ」
 寒くても窓際のベッドで平気な面して寝るし、あちぃ日でも涼しい顔してる。どう考えで鈍い。
「バグってないよ。オレだって暑いけど、春過ぎたら暑くなってくんのは当たり前だ」
「たかが天気で達観ぶってんじゃねぇ」
 オレが文句つけっと、斗歩は、いいから行くぞと先へ進む。
「前歩いてんじゃねぇ」
「お、並ぶか?」
「並ぶんじゃねぇ」
「どうすりゃいいんだよ?」
「後ろ歩け」
「オレ、お前の付き人か……?」
 ああだこうだ言いつつ、オレらは一緒に歩いた。日差しは強ぇがまだ風は軽く、草の匂いが流れてくる。ムカつく天気だと思ってたが、そう悪くはないかもしれねぇ。
「澤上くん! 高橋くん!」
 背後からバカでけぇ声が飛んできた。斗歩と揃って振り返る。メガネ――田井が駆け寄ってきてた。
「登校中に会えるなんて、珍しいね。一緒に行こう」
「ああ」
 斗歩が返事し、成り行きでオレまで一緒に歩く羽目になった。なんでオレ、こいつらとオトモダチみてぇになってんだよ? ふと思ったそれは、けど、二人の柔らかな表情見ると、消えてった。
「そう言えば、高橋くんは北島さんと仲がいいんだな」
 田井が意味ありげに低めた声で言った。
「あ? 誰だ? 北島って」
 オレが反射的に声尖らせると、メガネの奥の目がギョッと見開かれた。
「え? 北島さんだよ。君、よく話してるだろ」
 ああ、ジャージ女のことか。オレの理解が追いついた時、田井はなぜか肩落とした。
「そっか。君は北島さんに特別な感情はないんだね」
「当たり前だ。あの女、イカれてンぞ」
「でも、お前に気はありそうだよな」
 斗歩の口ぶりは事務的っつーか、ひんやり冷めた感じだった。急に変わった様子にオレが目ぇ向ければ、また真っ白い紙みてぇに感情読めない顔してた。
「しょっちゅう話しかけてるし」
「そうだよな。まぁ、僕と高橋くんだったら、高橋くんを好きになるよな……」
「え?」
 思いがけず、斗歩と声揃えて田井をガン見しちまった。
「お前、北島さんのこと――」
「ああ、いや、その、なんて言うか、ああいう人素敵だなと、ちょっと思ったりはしていて」
「どこが??」
 またしてもシンクロした。二人で、めいっぱい声に力込めて。そんな力いっぱい訊かなくたって、って田井は言った。
「なんて言うか……あの人は、自分に正直な人だなって、思うんだ。周りを気にして縮こまったりしないで、好きな物を好きって言えて、趣味に没頭できて。『誰が何と言おうと良いと思うものは良い』って感じだろ? そういうところ、僕にはすごいなと思えて」
 田井が言葉止めると、斗歩はため息つく。お前には、そんなに良く見えてんのか。オレにはただの変な人にしか見えないけど。
「てめぇ、サラッとひでぇこと言うな」
 オレも斗歩に全く同感ではあったが、あんまり簡単に田井の好意を否定してて、びっくりした。斗歩の眉間が少し寄った。
「そうか? 変な人じゃないか?」
「そりゃ、どう考えてもイカレ女だけどよ」
「君たちどっちも、人が好きだって言ってる女子に対してひどいぞ」
 田井はそう言って、また声落とした。
「けど、いくら僕が好きでも、北島さんは、やっぱり高橋くんのことが好きみたいだよな」
「違ぇ!」
 めちゃくちゃ強い口調ンなった。全ッ然違ぇ。むしろ、あの女はオレと斗歩をくっつけようと必死だ。オレの方だって、と思って斗歩へ視線やる。やっぱり白紙みてぇなその面が目に入ると、より強い気持ちが湧いてきた。こいつに妙な勘違いされてたまるか。 
「あの女、別にオレのことなんざ、好きでもなんでもねぇんだよ。オレは――あいつのおかしな趣味に巻き込まれてるだけだ。てめぇが誰をどんな理由で好きンなろうが勝手だが、オレのことでおかしな勘違いすんじゃねぇ」
 ひと息に言っちまうと、オレはすぐさま前向いた。
「くっだらねぇ。いいから行くぞ」

 教室入り、机に鞄を乱暴に置いて座ろうとすっと、甲高い声が飛んできた。妙に弾んでる上に変な節までついてやがった。
「タ、カ、ハ、シィッッ!」
「死ね!」
「ネ、ズ、ミィッッ!」
「しりとりじゃねぇ!」
 オレの暴言も荒らげた声も全く堪えねぇ様子のジャージ女は、机の横まで来てヘラヘラ笑った。
「昨日、澤上大丈夫そうだった? また二人で帰ったんでしょ? 看病してあげた? 手ぇ握ってあげた? 寝顔が綺麗でチューしたくなったり――」
「マジで殺すぞ、てめぇ」
 怒りの滲んだ低い声が出た。顔伏せたまま、目だけ動かして睨めつける。
「オレに気安く話しかけんじゃねぇ」
 そのせいで、斗歩に勘違いされちまってるだろ。心ン中で呟いた。
「何よー。せっかくデートのチャンス、あげようと思ったのに」
「あ?」
 思わず顔上げてみれば、目の前のイカレ女はかかったとばかりに笑い、二枚の紙切れ突き出してきた。
「『ズーイーの森らんど』のナイト入園チケット。うちのお父さんが会社の人に貰ったの。家族で行く予定だったけど、急に用事ができちゃったからってさ。でもあたしだって、家族でテーマパークって歳でもないしさぁ。今年はイルミネーション、ちょっと早めに六月からスタートしてるらしいし、家族よりデートじゃん?」
 澤上誘って行ってきなよ。ぐっとチケットこっちへ押し付けて言う顔見てたら、閃いた。
「おい、てめぇ、これもう二枚、持ってっか?」
 家族で、ってことなら、元々子連れの予定だった可能性が高ぇ。もし子どもが二人以上なら、四枚はあるはずだ。
 ジャージ女は、きょとんとして頷いた。
「あるっちゃあるけど、二回行く気? 一回で決める覚悟で行きな――」
「違ぇ。てめぇと田井の分だ」
 見開かれてた目が、さらに丸くなった。
「なんであたしと田井?」
「いいんだよ。とにかく四人だ。じゃなきゃ、オレは行かねぇ」
 オレはじっとジャージ女を見た。パチクリするばっかだった目の色が変わる。にっと口元が歪んだ。
「分かった。あんたと澤上、あたしと田井でタブルデート。日にち決まってるからね。今週末」
 決めてこいよ、と妙に念押して、ジャージ女は離れてった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

孤独な蝶は仮面を被る

緋影 ナヅキ
BL
   とある街の山の中に建っている、小中高一貫である全寮制男子校、華織学園(かしきのがくえん)─通称:“王道学園”。  全学園生徒の憧れの的である生徒会役員は、全員容姿や頭脳が飛び抜けて良く、運動力や芸術力等の他の能力にも優れていた。また、とても個性豊かであったが、役員仲は比較的良好だった。  さて、そんな生徒会役員のうちの1人である、会計の水無月真琴。  彼は己の本質を隠しながらも、他のメンバーと各々仕事をこなし、極々平穏に、楽しく日々を過ごしていた。  あの日、例の不思議な転入生が来るまでは… ーーーーーーーーー  作者は執筆初心者なので、おかしくなったりするかもしれませんが、温かく見守って(?)くれると嬉しいです。  学生のため、ストック残量状況によっては土曜更新が出来ないことがあるかもしれません。ご了承下さい。  所々シリアス&コメディ(?)風味有り *表紙は、我が妹である あくす(Twitter名) に描いてもらった真琴です。かわいい *多少内容を修正しました。2023/07/05 *お気に入り数200突破!!有難う御座います!2023/08/25 *エブリスタでも投稿し始めました。アルファポリス先行です。2023/03/20

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版)

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

病んでる僕は、

蒼紫
BL
『特に理由もなく、 この世界が嫌になった。 愛されたい でも、縛られたくない 寂しいのも めんどくさいのも 全部嫌なんだ。』 特に取り柄もなく、短気で、我儘で、それでいて臆病で繊細。 そんな少年が王道学園に転校してきた5月7日。 彼が転校してきて何もかもが、少しずつ変わっていく。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 最初のみ三人称 その後は基本一人称です。 お知らせをお読みください。 エブリスタでも投稿してましたがこちらをメインで活動しようと思います。 (エブリスタには改訂前のものしか載せてません)

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

処理中です...